日本の若手スノーボーダーたちの台頭が目覚しい近年。彼らは若くして世界で活躍するほどのスキルをどのように身につけているのか。次世代の、特にFISへの競技登録ができる年齢(13歳)までの子供たちに焦点を当て、彼らの育成環境を探る連載企画。自身もプロとしての一時代を過ごし、現在は息子の活動を積極的にサポートする上田ユキエが、実際に目にした日米のスノーボード環境の特徴から見える共通点や相違点をもとに考察する。第三章は、日本のニセコを舞台に、4人の子供たちがセッションした記録を前・後編に分けて紹介する。北海道ローカルのふたりとアメリカ、長野からそれぞれやって来たふたり。育った環境も、スノーボード環境も異なる彼ら4人は、どんなふうにお互いを刺激しあったのだろうか。
協力:ニセコ東急 グラン・ヒラフ、ニセコHANAZONO、ニセコユナイテッド、ココパーム
Photo: Yukie Ueda、Takahiro Nakanishi、武田軍曹
Text: Yukie Ueda
小学生スノーボーダー、ニセコに行く
アメリカからスノーボードを持って日本の雪山を滑りに来たトラ11歳。日本の雪山へ滑りに行くことは、アメリカ人スノーボーダーにとって最高のステータスである。それがアメリカのシーズン真っ只中であっても、飛行機に乗り、海を渡って訪れるに値する価値が日本の雪にはある。
既にその素晴らしさを知っている彼が今回期待に胸を膨らませていたのは、雪質だけでなく日本の仲間たちとのセッションだった。
『ニセコに行こう!』本州と北海道の仲間たちと、ニセコでいい雪を滑りまくる旅に出ることになった。今回の主役は全員、小学生スノーボーダーだ。
まず羽田空港で合流したのは、長野・諏訪のスノーボードショップ、ココパームの息子、武田理暉(たけだりき)8歳。オフシーズンにエアバッグ施設や室内ハーフパイプで一緒に練習をしていた仲間のひとりだ。日本人でも北海道に行ったことのないスノーボーダーは沢山いる。リキもそのひとり。
「日本人ならニセコを滑らないともったいないよ!」そんな会話から、この旅は計画された。
世界に誇るニセコのベストシーズンである1月、ワクワクする気持ちを抱えながら、小学生ふたりは北の大地に着陸した。
現地で合流したのは、北海道ローカルの今井優雅(いまいゆうが)と大雅(たいが)兄弟。長野オリンピック代表のハーフパイプ選手、今井考雅の長男と次男である。2年前にトラがニセコに滑りに来た時にセッションした仲間たちだ。彼らがパウダーの滑り方や地形の遊び方が上手なことは知っている。互いに刺激を与え合うことは間違いない。こうして8歳と11歳の同世代コンビが出来上がった。
パウダーで自己アピール
再会と初めましてで少々ぎこちない子供たちだったが、ゴンドラに降りスノーボードを装着すると、たちまち水を得た魚たちはピチピチとパウダーの世界へと飛び込んでいった。恥ずかしがっていた姿はどこへやら。パウダーをあげまくる姿は、まるで子犬が自分の存在をアピールし合っているようだ。スノーボードは彼らにとって自己表現の手段である。1本滑り終わる頃にはお互いを認め合い、意気投合していた。
「マッシュ飛ぼうぜ、ここ飛べるよ!」
「オレここ飛ぶ!」
「着地どんな感じ? イケるよここ!」
「おーい、こっちにいいログ見つけたよ!」
そんな言葉が飛び交う。
この旅では、11歳のトラとユウガがリーダーだ。トラは地形の遊び方に慣れており、ユウガは地形をよく知っている。トラが先陣を切って飛ぶと、8歳のリキとタイガが果敢に同じところを飛び、ユウガは最後にデカいジャンプを決めてくる。
「いつもなら躊躇して飛べないところもみんなと一緒なら挑戦できる」
「パウダーのかっこいい上げ方は、仲間の滑りを見て真似てみる」
「みんなの前で張り切って自分の滑りを見せたい」
「怖くても痛くても、みんながいるから泣かずに我慢できる」
それぞれのいろんな思いが伝わってきた。
マッシュのあとはパーク
4人の子供たちは、それぞれハーフパイプやスロープスタイル、フリーライドなどの競技もおこなっている。彼らがオフトレ施設で懸命に練習に励む姿を知っているが、こうして自然の地形で仲間同士遊びながら滑る姿を改めて見ると、なんだか嬉しくなる。自然の中でのスノーボードは想像力が掻き立てられるし、毎回同じではない着地の難しさも感じるだろう。自然が作り出すコンディションに対応することで応用力も身につくはずだ。これがスノーボード本来の楽しさであり、それを知っている彼らの滑りは、きっと競技にも生かされるだろう。
小学生スノーボーダーはやっぱりパークが大好きだ。
ニセコの広いゲレンデは、パウダーやツリーランだけでなくパークも滑れるところが人気である。朝イチはビレッジやアンヌプリでロングランのパウダーを楽しみ、ヒラフの地形で飛びまくった後にHANAZONOのパークへ移動することもできる。それぞれのエリアに特徴と魅力があるので飽きずに滑れるし、斜面の向きや標高によって雪の溜まり方が変わってくるのも面白い。
気温の低いニセコだが、ゴンドラやフード付きのリフトが多いので快適に山の上へ移動できる。HANAZONOの新しい6人乗りリフトとゴンドラは本革レザーシートに生まれ変わっており、高級車のシートに座っているような快適さだ。パークが回せるリフトのシートはヒーティングされており、乗るたびに体を温めてくれるものだから、結局パークがクローズするまで子供たちは元気に滑り続けることになるのだった。
プロカメラマンとの時間
この年齢の子供たちがプロのカメラマンにライディングを撮影してもらう機会はそうないだろう。今回撮影に協力してくれたカメラマンの存在は、子供たちに良い緊張感を与え、やる気を引き出してくれた。子供でも、彼らは立派なスノーボーダーだ。納得のいく滑りを残すために真剣に挑み、失敗したらもう一度挑戦したがる。そんな子供たちの意思を尊重し、好きなように滑らせ、その瞬間を切り取ってくれた中西カメラマンに感謝である。
そして、裏方のお父さんたちの存在も大きかった。ユウガとタイガの父である今井孝雅は、北海道でキッズスノーボーダーの育成をおこなっており、基礎からフリーライドまでオールラウンドに教えるコーチでもある。リキの父である武田軍曹は長野でスノーボードショップを経営する傍ら、大会やイベントを通じて子供たちに横乗りの環境を与える活動をおこなっている。彼らは子供たちとの接し方に慣れているだけでなく、スノーボードの撮影に対してもプロフェッショナルだった。タカマサは子供たちに地形を教え、お手本を見せ、武田さんは子供たちを励ましながら撮影もしてくれた。そんな父親の姿を見て、いつもなら全力で甘えている子供たちも緊張感を持って頑張れたのではないだろうか。
『We Are The Future.』~日本とアメリカをつなぐ子供たち~連載企画
第1章 From Japan. 日本の選手が強くなったワケと子供たちの練習環境 はこちらへ。
第2章 From Mammoth. マンモススノーボードチームの実態
第4章 From Japan. 日本のパーク環境、白馬47
第5章 From Mammoth. 世界トップレベルのパーク、マンモスマウンテン