『We Are The Future.』~日本とアメリカをつなぐ子供たち~ 第3章 From Japan. 日本の雪山、ニセコ(後編)

左から、ユウガ、トラ、リキ、タイガ(Photo: Takahiro Nakanishi)

日本の若手スノーボーダーたちの台頭が目覚しい近年。彼らは若くして世界で活躍するほどのスキルをどのように身につけているのか。次世代の、特にFISへの競技登録ができる年齢(13歳)までの子供たちに焦点を当て、彼らの育成環境を探る連載企画。自身もプロとしての一時代を過ごし、現在は息子の活動を積極的にサポートする上田ユキエが、実際に目にした日米のスノーボード環境の特徴から見える共通点や相違点をもとに考察する。第三章は、日本のニセコを舞台に、4人の子供たちがセッションした記録を前・後編に分けて紹介する。いつもとは違う場所で、いつもとは違う仲間と滑るという体験が滑りに与える影響とは。

協力:ニセコ東急 グラン・ヒラフニセコユナイテッドココパーム

Photo: Yukie Ueda、Takahiro Nakanishi、武田軍曹
Text: Yukie Ueda


羊蹄山と小学生スノーボーダー

小学生スノーボーダーたちのニセコでの撮影中、1月には頻繁に拝むことのできない羊蹄山が、綺麗に顔を出してくれた。青空と辺り一面に広がる真っ白なパウダーに子供たちのテンションも上がる。頂上へ向かってかかるキングリフトに乗り込む彼らの顔には、緊張と期待が混ざり合っていた。冷えた空気中のダイヤモンドダストがキラキラと輝いていた。

小さな彼らを見守るかのように綺麗に顔を出してくれた羊蹄山

パウダー撮影をしようと準備を始めると、「もっと上からスタートした方がスピードがつく」と言って、ユウガがひとり斜面を登り始めた。それにつられて、ほかの子も登り始める。みんなが疲れてきた頃、年下の甘えん坊タイガが先陣を切って、再び勢いよくつぼ足で登り始めた。それを見てみんなも後に続く。小さな体の一体どこからそのパワーが出てくるのだろう。

仲間がいるから頑張って登れる

羊蹄山に見守られながら、彼らは自分の体の何倍ものパウダースプレーをあげ、着地の見えない大きなクリフを飛んだ。

クリフから綺麗なスタイルで勢いよく飛び出すトラ
羊蹄山に向かって飛んでいくユウガ

いつもより頑張れたのは、自分にもできると思わせてくれた仲間たちと柔らかいニセコの雪のおかげだった。

今までで一番大きなジャンプをしたというリキ(Photo: 武田軍曹)
クリフからバックフリップを決めるユウガ(Photo: 武田軍曹)
小さな体全体を使いスプレーをあげるタイガ(Photo: 武田軍曹)
何でもできると思わせてくれた楽しい仲間と素晴らしい雪質(Photo: 武田軍曹)
小さく勇敢なスノーボーダーたち

まだ体の小さな彼らが深い雪に埋まってしまわないように、私たちは常に十分な配慮をしながら滑っていた。子供たちの後ろには必ず大人が付いて滑り、ときに雪に突っ込んでハマっている小さな体を引っ張り出す。

しかし、小さなスノーボーダーたちは恐れず果敢にパウダーへ突っ込み、木の中をスイスイと駆け抜けていった。誰かが飛んだラインには続いて飛んでいく。「あいつができるなら俺にもできる」そんな空気が漂っていた。

「あのこたち、すごいよ」
ゲレンデのあちこちから、そんな言葉が日本語でも英語でも聞こえてきた。
真っ白な山の中を爆走するカラフルな4人の小さな暴走族は、間違いなく目立っていた。

ゲレンデの小さな暴走族(Photo: Takahiro Nakanishi)
トレインで続け!(Photo: Takahiro Nakanishi)
誰かが飛んだラインはみんな飛んでゆく(Photo: Takahiro Nakanishi)
雪の中でも構わず滑り続ける小学生ライダー(Photo: Takahiro Nakanishi)
雪に埋もれながら休憩中(Photo: Takahiro Nakanishi)
ニセコのナイター

ニセコといえば、ヒラフのナイター。これは夢に出てくるほどの気持ち良さだ。一度味わったら、またここへ戻って来たくなるだろう。昨シーズンから花園エリアのゴンドラもナイター営業が始まり、放課後に子供たちが滑りに来れる環境になっている。

凍えるリフトの上も仲間と一緒なら大丈夫(Photo: Takahiro Nakanishi)

本州に比べると北海道の気温の低さは未知の世界だ。日中でもマイナス15度近くになるニセコは、ナイターになると更に冷たい空気に包まれた。だから雪が良いのだ。子供たちは温度計の指す表示にキャーキャー騒ぎながら滑りまくった。

ナイター照明の幻想的な世界へ飛び込む(Photo: Takahiro Nakanishi)
雪が降りしきるなかのナイターは最高(Photo: Takahiro Nakanishi)
そりゃ寒いわけだ…
小さなスノーボーダーの絆

違う土地で生まれ育ち、それぞれにスノーボードをしてきた彼らは、この数日間で一気に距離を縮め、同志となった。そしてまた、それぞれの地に戻る時がきた。出会いと再会は照れ臭く、別れはちょっぴり寂しい。

頑張ったな!とお互いをたたえ合う
また一緒に滑ろうぜ

スノーボードを続けていたら、必ずまた会える。
親の私たちが、今は子供たちのサポートをしながら一緒に滑っているように。

この出会いは、きっとこれからのそれぞれの糧になる

世界は広い。君たちがいつも見ていた景色、仲間たちとは違っただろう。
そう、日本にもこんな世界があるし、違う土地にも面白いやつらが沢山いるんだ。
そして海の向こうには更にもっと広い世界が広がっているんだよ。
スノーボードというツールがあれば、世界中に友達を作ることはとても簡単だ。
それを知ることで、君たちの視野は広がり可能性が無限にあることを知るだろう。

数日間、共に過ごした仲間たち
沢山笑って距離が縮まったね
お父さんたちもお疲れ様!ありがとう羊蹄山

自分の目指す場所へ進むために、今は子供の頃から練習や大会で多くの時間を使うけれど、スノーボードってそれだけじゃない。違う世界を見たら、今いる場所がもっと好きになるかもしれない。頑張れるかもしれない。そしてまたいつだって、違う世界に飛び出すこともできるんだよ、勇気があれば。

今回のこの経験が、それぞれのこれから始まる舞台で生かされるであろうと確信する。

またいつかセッションしよう!(Photo: Takahiro Nakanishi)

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『We Are The Future.』~日本とアメリカをつなぐ子供たち~連載企画

第1章 From Japan. 日本の選手が強くなったワケと子供たちの練習環境
第2章 From Mammoth. マンモススノーボードチームの実態
第4章 From Japan. 日本のパーク環境、白馬47
第5章 From Mammoth. 世界トップレベルのパーク、マンモスマウンテン