日本の若手スノーボーダーたちの台頭が目覚しい近年。彼らは若くして世界で活躍するほどのスキルをどのように身につけているのか。次世代の、特にFISへの競技登録ができる年齢(13歳)までの子供たちに焦点を当て、彼らの育成環境を探る連載企画。自身もプロとしての一時代を過ごし、現在は息子の活動を積極的にサポートする上田ユキエが、実際に目にした日米のスノーボード環境の特徴から見える共通点や相違点をもとに考察する。第四章は、日本のパーク環境にフォーカス。渡米する日本人ライダーたちからも評価の高いHakuba47 Winter Sports Park(以下47)のパークでおこなわれた、ローカルたちとのセッション。夏の間、オフトレ施設などで共に練習した仲間たちとの再会で得られたものとは。
協力:Hakuba47 Winter Sports Park、ココパーム
Photo&Text: Yukie Ueda
日本のパーク環境
日本からアメリカにやって来るパークライダーたちから『47PARKS(47のパークの名称)』の名をよく耳にしていた。マンモスのパークはアイテムの完成度だけでなくパークリフトでの回転率が良いことも好評なのだが、47PARKSも同じようにアイテムが流しやすいという。加えて、パークが山の北側に位置しており雪が溶けにくいため、GW頃まで長く楽しめることも人気のようだった。春になると出現する、国内では大きめなキッカーもSNSでよく目にしたことがある。
実際の日本のパークはどんな様子で、日本人スノーボーダーはどんな風に楽しんでいるのだろうか。アメリカから訪れた11歳のトラは、日本滞在中にどうしても仲間とパークを滑りたいと願った。
せっかくパークを滑るなら、ライダーたちが絶賛していたパークへということで、この旅で47にも立ち寄ることに。初めて訪れた47PARKSは遊び心があり、想像力が掻き立てられるエリアだった。キッカーのサイズはまだ小さかったが、ジブアイテムが間隔よく並び、リフト乗り場までの流れがとてもスムーズだ。また、レベルに応じてレーンが分かれていて、初級者から上級者までが楽しめる作りになっている。
スキー場のベースからパークの入口付近までゴンドラ1本で移動ができ、パーク横の短めのリフトで流せるという便利さ。パークを挟む形でゴンドラとリフトがかかっているので、多くの人がパークを眺めてくれるという、最高にアガルロケーション。
この47PARKSをプロデュースしているのが岡本圭司くんだ。プロスノーボーダーとしてのキャリアもあり、長年パーク制作にも携わっている彼の手がけるパークはクオリティが高く評判が良い。現在もパラリンピックの選手としても第一線で活躍するケイジくんは、地形の遊び方にも長けている。だからこそ、滑り手の立場になって流れの良いパークを作ることができるのだろう。
リフトに乗りながらパークの全貌が見渡せるので上手いライダーの滑りが見れるし、一目でどこを滑っているか見つけられるので親御さんが安心して子供を滑らせることができる最高の環境だ。
白馬ローカルキッズとセッション
47で合流したのは、白馬のローカルキッズをはじめフリーライドの大会やオフトレ施設で一緒だった仲間たちだ。雪の上でスノーボードを履いて再会したことに熱い想いが込み上げた。
子供たちのセッションが始まった。
夏目睦穂(なつめむつほ)くんは小柄ながらもボードにしっかり乗れている小学6年生。以前フリーライドの大会ではツリーラン、そして今回はパークでセッションを楽しんだ。
オフトレ施設で一緒に練習していた三國琳大(みくにりんと)くんは、ジャンプもジブも上手で一目置かれる存在だ。エアバッグジャンプやブラシでジブアイテムを一緒に練習してきたが、今回は雪の上のパークだ。スノーボード本来の上手さが問われる現場である。そんななか、リントのボード裁きは雪の上でも一際輝いていた。
彼らが技を決めるたびにフトの上から歓声が上がっていた。そこもまた、この47PARKSの雰囲気の素敵なところだろう。
美しい白馬連邦
白馬の魅力は壮大な景色にあると言っても過言ではない。晴れた日の47からの眺めは息をのむ美しさだ。青空に白馬連邦がどーんと現れた。真っ白に雪化粧した山並みを背景に勢いよくジャンプする姿は、まるで壮大な景色の中に飛び込んで行くようだった。
パーク整備の間、子供たちはボトムまでフリーライドを楽しんだ。トレインになって壁を見つけては当て込み、迂回通路から飛び降り、脇のパウダーに順に当て込む。地形遊びは想像力を掻き立てる。仲間と一緒だと更に面白くなるのはスノーボーダー万国共通だ。
オフトレ施設で練習する期間の方が長いと言われる日本の子供たちだが、施設で培った技術を発揮し彼らは雪の上でスノーボード本来の楽しさを存分に味わっていた。エアーバッグやブラシでのスノーボード練習は、こうしてリアルな雪の上での滑りに確実に活かされているのだ。
日米の絆、スノーボーダーとスケーターの絆
白馬には通称TP(True Players)という室内スケートパークがあり、子供たちのスケートボードのレベルが高い。
今回集まってくれたローカルスケーターキッズ、永原依弦(ながはらいづる)、和泉蓮佑(いずみれんすけ)、中島湊仁(なかしまみなと)は地元のショップALUTのライダーであり、国内トップレベルのスケーターだ。白馬の麓で育つ彼らはスケートだけでなくスノーボードも上手い。
スケートーパークでは彼らにプッシュされているトラだが、雪の上では立場逆転といったところか?この日彼らはトラの後をついて、初めて上級のジャンプに挑戦しようとしていた。
「行けると思う?」
「行けるよ!ボクのあとをついてスピードチェックしてごらん」
トラがアドバイスをしながらお手本を見せ、その後ろについて、彼らは次々と初めての上級ジャンプに挑戦していった。
数日後、イヅとトラふたりでリフトに乗る姿があった。「もう一度47で滑りたい」とアメリカに帰る前にふたりのラストセッションが繰り広げられた。
ゆっくりとお手本になるように360を回すトラ。そのスピードを確認しながらイヅが初めて360を回し見事な着地をした。いつかの夏、トラが初めてスケートパークの大きなバーチカルにドロップインする時にイヅが何度もお手本を見せてくれたことを思い出した。
互いにプッシュし励まし合い挑戦する姿。それはスケートもスノーボードも、そしてアメリカも日本も同じなのだ。
アメリカから来たトラが日本でパークを滑りたかった理由。その意味がわかった。
コンパクトな地形の中で作られる日本のパークはアメリカより規模が小さいけれど、そこで滑る仲間たちはそこのローカルだから。彼らと滑ることが何よりも楽しいのだ。ゲレンデの遊び方、レストハウスの美味しいものまでローカルは知っている。自分たちで滑るより何倍も楽しくなるのはローカルの力なのだ。
だから日本からアメリカへ滑りに来る仲間には、マンモスのローカルと一緒に滑らせたい。現地の仲間たちとセッションすることが、彼らのスノーボードの視野を広げることになるはずだから。
『We Are The Future.』~日本とアメリカをつなぐ子供たち~連載企画
第1章 From Japan. 日本の選手が強くなったワケと子供たちの練習環境
第2章 From Mammoth. マンモススノーボードチームの実態
第3章 From Japan. 日本の雪山、ニセコ
第5章 From Mammoth. 世界トップレベルのパーク、マンモスマウンテン