日本の若手スノーボーダーたちの台頭が目覚しい近年。彼らは若くして世界で活躍するほどのスキルをどのように身につけているのか。次世代の、特にFISへの競技登録ができる年齢(13歳)までの子供たちに焦点を当て、彼らの育成環境を探る連載企画。自身もプロとしての一時代を過ごし、現在は息子の活動を積極的にサポートする上田ユキエが、実際に目にした日米のスノーボード環境の特徴から見える共通点や相違点をもとに考察する。前章で日本のパーク環境に触れたが、この章ではアメリカのパーク環境を軸に、アメリカのキッズたちがどんなふうにシーズンを過ごしているのかを紹介する。
Photo&Text: Yukie Ueda
アメリカのパーク環境 – マンモスローカルの子供たち-
マンモスマウンテンは標高3,369m、アメリカ・カリフォルニア州で一番標高の高いスキーリゾートで、11月初旬から7月4日の独立記念日までオープンしている。
世界トップレベルのクオリティを誇るパークは、長年にわたるUSグランプリ開催と多くのビデオ映像により世界に名を広めてきた。現在も世界のトップ選手が集まるスキーリゾートとしての地位を確立し、春のパークには世界各国から多くの選手たちが練習にやってくる。日本の若きアスリートたちにとっても登竜門的な場所だ。
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この山を拠点に育つ子供たち、マンモスローカルキッズ。ローカルと言ってもロサンゼルス、サンフランシスコ、サンディエゴなどの都会からの移住者が多く、余裕のある家庭は地元とマンモスの2拠点で生活を送っている。雪のあるタホやコロラドから移住して来る子供もいるし、近年では中国や韓国などアジア圏からの移住者や、シーズンのみチームに参加するオーストラリアの子供も増えている。これは、国内だけでなく世界からもマンモススノーボードチームの体制や、数多くのトップアスリートを生み出す練習環境が注目されているということだろう。
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この連載でも何度か触れてきたように、環境は子供の教育に大きく影響するが、本人の意思を強くするのは周りの仲間たちの影響が大きいと感じる。そう感じた理由の一人がTJ(Tanoa TJ Weygand)だ。我が家がLAからマンモスへ移住を決断したタイミングに出会った仲間で、彼の存在はその後のトラのスノーボード人生に大きく影響することになる。
初対面はマンモスの伝統的なイベント『JLA』のレース。こんなに板に乗れている子供がいるのかと衝撃を受けた。あれから6年、常に一歩先を行くTJとその背中を追うトラは良きライバルとなり、最高の仲間となっている。
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トラが日本流の練習方法で腕を磨いている夏の間、TJはマンモスでサッカーやスケートに明け暮れている。だがシーズンが始まってみるとTJはグンと実力を伸ばして来るのだ。「エアバッグで練習していないのに、どうしてどんどん新しい技が出来るんだろう?」と不思議がるトラ。そしてTJもまた、日本から戻るとメキメキと上達しているトラに驚き、負けじと走り続けている。
反復練習により難易度や完成度を上げることができる日本流。山全体を使ってスノーボードの技術を高め、どんな種目にも臨機応変に対応できるようになるアメリカ流。この二人の間には、まさに日米それぞれの環境に秘められたスノーボード上達のヒントがあった。
11月からパークの滑れるリゾート
マンモスにはオープニングの日からパークが設置されている。トレードカラーのピンクのジブアイテムが並び、キッカーも準備されている。この時期にはまだ大きなアイテムはないが、山を滑りながらパークの練習をすることはできる。シーズン始めから広大な急斜面でスピード感を養い、雪が降れば自然の地形を楽しむことができるという贅沢な環境だ。
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この山ではUSASA(アメリカ合衆国スノーボード協会)のシリーズ戦が全種目おこなわれる。種目は、スロープスタイル、ハーフパイプ、スノーボードクロス、スラローム、ジャイアントスラローム、レールジャムの7種目。シーズン初めに開催されるレールジャムは子供たちのやる気に火をつけ、続いておこなわれる6種目の競技も全てこの山で練習することができるのだ。
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パークのクオリティに定評のあるマンモスだが、シーズンを通して大きな山の起伏に富んだ地形でフリーライドの技術を磨くこともできる。こういった環境が、子供たちにスノーボードの幅広い楽しみを教えてくれているのだ。
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ハイシーズンの過ごし方
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マンモスには代表的な3つのパークがある。20メートル級キッカーが連なるプロレベルのメインパーク、上級者向けのサウスパーク、中級者用のフォレストパーク。その他にディスコ、ワンダーランド、プレイグラウンドという、ボックスやミニジャンプが並ぶ初級者パークが3つある。レベルに応じてパークの場所が分かれているので滑走レベルも各パークごとに異なるため、パーク内での滑走スピードの違いによる無謀な事故も回避されているようだ。
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中でも一番の練習道場となるサウスパークは、入り口から分岐する3つのラインに進むことができる。ジブやキッカーが続くメインのライン、蛇のように木の中を縫って作られているバンクドコースにジャンプも混ざったスネークラン、トランジションパークというサーフスケートスタイルのライン。どこを滑っても最後はジブ&モアというジブ道場のようなエリアに合流する作りになっており、流れの中で次々と現れるアイテムは想像力を掻き立て、リズムよくヒットするためのスピード感も養われる。
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USグランプリの開催に合わせ、年が明ける頃にはメインパークに巨大なキッカーが出現する。このコースは通称『グランプリレーン』と呼ばれ、ほぼシーズンを通してワールドカップサイズの本格的なパーク練習ができるようになる。
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晴天率の高いカリフォルニアは青空が広がる日が多いのも特徴だ。
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1月から3月は積雪量も増え、フリーライディングが更に面白くなる時期だ。山の半分から上はバックカントリーのような地形でクリフや雪庇、シュートなど、自然の地形がそのまま開放されている。日本のゲレンデでは経験できないような急斜面や長距離滑走ができるのだ。
本当に危険な場所以外にはロープは張られておらず、自己責任でどんな地形も自由に滑ることができるのもアメリカのゲレンデの特徴だ。挑戦するかどうかは本人次第。
子供たちにも地形を見る目が備わり、段階を踏みながらチャレンジをする。ツリーホールや雪崩の危険性、自然の地形についても、シーズンを通して山を滑りながら学んでいく。
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新たなレイアウトへと変わる春のパーク
ハイシーズンが終わり4月になると、気温の上昇と共に雪が柔らかくなり、新しいことに挑戦できる季節がやってくる。
このパークに訪れるプロの撮影クルーや各国のアスリートたちの刺激を受けながら、ローカルキッズも大きなパークアイテムに挑戦する時期だ。
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通常のシーズン営業は8ヶ月。降雪量が多いシーズンは10ヶ月近くになることもある。パークは時期によって雪質が変わり、レイアウトが変化していくので全く飽きることがない。春の降雪も珍しくなく、シーズンを通して地形遊びも楽しめる。
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互いに高め合える仲間たちの存在
シーズンが長い分、緊張感が途切れないように集中力も必要だ。集中力を維持するためにも仲間の存在は大きな助けになっている。
新しいアイテムに挑戦するときは仲間の滑りをお手本にして、大きなキッカーを飛ぶときは仲間の後ろについてスピードチェックをする。お互いの信頼関係がなければできないことだ。
自信や勇気がない時に冷静な判断で導いてくれるのも、普段一緒に滑っている仲間だ。お互いの技術を知っているからこそ、「できること」「無謀なこと」が分かり合えるのだろう。
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この山で長いシーズンを共に過ごす仲間たちは刺激し合い、勇気と自信を与えてくれる。たとえどんなに素晴らしいパークがあっても、仲間がいなければここまで成長していないだろう。マンモスマウンテンでのスノーボードライフは、アスリートを育てるだけでなく仲間と切磋琢磨しながら自然の中で成長できることに大きな価値があるのだ。
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次回、最終章「日米トップアスリートへの道」は、トップライダーたちのインタビューを」5月下旬〜6月上旬頃にお届けします。
13歳までどのような過ごし方をしてきたのか、日米の環境の違いにフォーカスします。お楽しみに!
『We Are The Future.』~日本とアメリカをつなぐ子供たち~連載企画
第1章 From Japan. 日本の選手が強くなったワケと子供たちの練習環境
第2章 From Mammoth. マンモススノーボードチームの実態
第3章 From Japan. 日本の雪山、ニセコ
第4章 From Japan. 日本のパーク環境、白馬47