『The Nines』次世代パークで魅せる日本人ライダー(後編)

「The Nines」。毎回そのクリエイティブなアイテムが、ライダー、フォトグラファー、フィルマーら参加者のイマジネーションを刺激し、素晴らしい技と画を残している。日本勢の活躍が目立った今年のThe Ninesの舞台裏を藤森由香がレポートする。後編では、岩渕麗楽、荻原大翔ら若手の活躍をレポート。

Photo: The Nines
Text: 藤森由香



女子では前人未到の大技に成功した岩渕麗楽

麗楽のフロントサイドトリプルアンダーフリップ1260

「普段はジャッジされる大会に出ることが多いので、撮影をメインにした大会は9s(The Nines)しかなかったから、いつもと違うスノーボードをするっていうので楽しみにしているイベントです。普段と違うコースは難しいけど、やったことないことにチャレンジできるし、色んなジャンルの人がいて、特にスキーヤーは遊び方やラインを見つけるのが早くて参考になりました。

個人的にはすごくクリエイティブな滑りをするMarcus Kleveland(マーカス・クリーブランド、今回初出場)がどんな滑りをするのかが楽しみでした。あと、大ファンで大好きなヘイリーと滑れたのがすごく嬉しい!(笑)。

自分の滑りのタイプ的に元々決まった形があるとルーティーンや技を組みやすいから、どっちかというといつものコンテストのようなコースの方が技をするのが楽だなと思いますが、楽しく滑れるのは今回みたいなコース。でも今回は楽しむことよりも、9sでやりたい技が決まっていたので、それにめっちゃ集中してました」

女子では誰もトライしたことのないトリプルアンダーフリップ1260をかけにいったことは、今回の北京五輪でのハイライトのひとつになったのは言うまでもない。

「オリンピックで初めてトライして立てなかったので、今シーズンが終わるまでにもう一度トライして絶対決めたかった。でもシーズンも終盤で、可能性があるのが9sだろうなと思ってめちゃ考えてました。

天気も悪くなるって聞いてたから最初の2日間はトリプルのためにジャンプを飛んで調子をあげていきました。『絶対トリプルやんなきゃ』っていうよりかは、『みんながいたからやってみたい』っていう軽い気持ちになれたのは良かったです。周りのライダーも上手かったし、いい空気感だったので自然とやる気が湧いてきました」

撮影3日目に麗楽とLaurie Blouin(ローリー・ブロアン)はお互いを高め合うかのように「今日チャレンジする!」と話していた。

麗楽とlaurie

Laurieの目標トリックは Cabトリプルコークアンダーフリップ1260。この技はAnna gasserに続き二人目の挑戦となる。まずトリプルへと先陣を切ったのがLaurie。一回目のトライは惜しくも回転が足りずメイクとはならなかった。

続いて麗楽がかけに行く。全員が見守るなか、麗楽は女子では世界初のフロントサイドトリプルアンダーフリップ1260を一発メイク。この技で女子のワールドレコードを作った。Laurieは二本目に大きくクラッシュしたが、三本目に見事メイク。

LaurieのCabトリプルコークアンダーフリップ1260
麗楽のバックサイドダブルコーク1260

16歳の荻原大翔の挑戦

「自分がスノーボードをしている人生の中では6回転(2160)が最高回転数だと思っているんですが、自分の限界を超えられそうなら6回転に今回挑戦しようと思っています」

大翔は会場のあるスイスに向かう車の中で初めにそう語ってくれた。

「今回初めて挑んだ9sのことは昔、稲村慶太くんをみて知りました。X-gamesみたいな夢の舞台で、この舞台に俺が立てると思わなかった。最初にコースの実物をみたときは人が作ったものとは思えないほどの美しさに言葉が出なかったほどです。実際に滑ってみて、ジャンプは滞空時間が自分が今まで飛んだ中で1番長かったけど、完璧に計算されているし着地も距離がしっかりあって安全でした」

世界初の回転数2160に成功

ー撮影3日目ー

現地の天候は良く、程よく冷えていて雪のコンディションは割と安定していた。麗楽とLaurieがトリプルを成功させ、会場が盛り上がっていた矢先のこと。大翔が2160(6回転)にトライし始め、5本目に見事成功。ワールドレコードを破り、彼もまた歴史を塗り替えた。

「そう簡単にできるとは思ってなかったし、イメージも完璧にはできていなかったけど、2160をやるためにまず1800(5回転)をやったら着地までにかなり余ったので意外といけるかもしれないと思えました。これならトライしても危ない感じにはならないだろうなという心の余裕と自信が生まれて。ワールドレコードを16歳で作れて、自分でもすごく驚いています」

そもそも、このような大技に5本連続で挑むメンタルとモチベーションの高さも凄まじい。

大翔のバックサイドクイントコーク2160
大翔のバックサイドミラーフリップ
Over virt wallでのFridtjof(フリッジ=フリチョフ・ティッシェンドルフ、NOR)
オリジナリティ溢れる滑りで魅せたLuke Winkelmann(ルーク・ウィンケルマン、USA)
Valentino Guseli(ヴァレンティノ・グセリ、AUS)
著者 藤森由香も数年ぶりのビッグジャンプに挑む Photo: Lee Ponzio
15才のMia Brookes(ミア・ブルックス、GRB)は彼女自身初のCab1260ステイルフィッシュグラブを成功させた

さらに面白いモーメントがひとつ。2022年のスキービッグエアーの金メダリストBirk Ruud(バーク・ルード、NOR)がスノーボードでbackside triple corkをメイクしたことだ。

これらのハイライト映像はこちらから

最後に、The Nines代表のNicoに今回を含め今までで一番印象に残っているThe Ninesでのシーンを聞いた

「印象的な場面はたくさんあって今までの一番をピックするのは難しいけど、あえて一つ挙げるなら2016年のヒップジャンプでワールドレコードを出したChristian Haller(クリスチャン・ハーラー、SWI)の11.3mとDavid Wise(デービッド・ワイズ、USA、Ski)だね。

今年はチームジャパンのワールドレコードがすごく印象的だった!レイラと大翔は本当にすごかったね!何よりみんなが一緒に滑って楽しんでいることは僕にとっての一番のビッグモーメントだよ」

来年のイベントに対しての意気込み

「来年はまたオーストリアのソルデンで開催することが決まっている。Obergurgl(オーバーガーグル)でのジャンプ覚えてる?あのジャンプをもう一度作りたいと思ってるんだ。

コースのデザインに関しては正直まだ何も決めていない。少し時間をかけて考えていくよ。ただ今年のコンセプトである ”球” はクリエイティブなライディングへの可能性をたくさん秘めていると感じるから、その要素を取り入れていきたいと思ってるよ」

前編>> 代表Nico Zacekのインタビューと浜田海人のクリエイティブな滑り

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