大会中に見せる本気の表情と素顔のギャップ、その二面性の魅力を放つ大江 光の魅力。

ダミー
アスリート大江 光は、クールなイメージを持たれている女の子

昨年2018年2月、平昌オリンピック・ハーフパイプ種目の出場が記憶に新しい大江 光。あれから1年が経ち、今年の3月、アメリカ・マンモスマウンテンで開催されたUSグランプリで、今もなお自分を成長させるために日々スノーボードと向き合う彼女の姿があった。現地で数日を共に過ごした上田ユキエが、オンとオフそれぞれ違った表情を見せる大江 光の魅力を伝える。
Text: Yukie Ueda

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22フィートのハーフパイプで魅せる、高さのあるバックサイドメソッド

秘めた思いを抱えマンモスへ渡ってきた

光を初めて見た時、独特でクールな雰囲気を持つ女の子だと感じた。同じ富山県出身の広野あさみから、「光のスタイル、めちゃくちゃカッコいいですよ!ハーフパイプで一番かっこいいと思う女の子です」。そう紹介された。
彼女の滑りはそのボーイッシュな雰囲気を表すかのように、スタイリッシュでカッコよかった。

16歳でユースオリンピックで優勝し、その後ワールドカップで何度か表彰台に上がり、日本代表として平昌オリンピックへ出場した。華々しいアスリート人生を送ってきたように見えるが、光は自分に厳しいのか目標意識が高いのか、今の自分に満足せず常に前へと突き進んでいるようにも見える。
オリンピックという大舞台を終え少しリラックスできるであろうこの時期に、彼女はまた新たな課題を自分へ課しているかのようだった。
それは見ていて決して苦しいものではなく、なぜこんなにもひたむきに突き進み続けられるのだろうかと、彼女の想いを覗いてみたくなる気がした。

今回チームから離れ個人で私のところに来たいと申し出てくれた光は、何か秘めた思いを抱えているかのようだった。慣れた海外遠征、けれど一戦一戦が本気勝負。

「こうしてチームを離れて個人で遠征するのは実は初めてなんです」と、まるで密かな冒険をするかのように嬉しそうに彼女は言った。

滞在中の光は大会に合わせて体調と精神を調整し、アスリートらしい時間を過ごしていた。隙を見て一緒に出かけるかと声をかけると、必ず誘いに乗ってくる。海外は遠征で慣れているものの自由に過ごす時間は少なかったはずで、アメリカに来た光はどうやら好奇心の塊のようだった。

「今回、大会が目的なんですけど、『ユキエさん家に来れるチャンスだ!』と思って、凄くワクワクしていたんです」。

2年前、マンモスマウンテンで行われたUSグランプリに出場する光に初めて会った。オリンピックを翌年に控えた選手たちは何かピリピリと張り詰めた雰囲気を放っていたが、その中で彼女はキラキラした目でこう言った。

「私、LAに滞在してみたいです。落ち着いたら絶対に行きたいです!」。

アメリカに来ていろんなことをしたいと光は希望に満ちた表情で語っていたのを覚えている。
今思えば、あの頃はオリンピックへのプレッシャーと緊張感で押しつぶされそうになっていたのだろう。今回はそれとは少し違ったタイミングで、ここに来ることを自ら選んでいたのだった。

私としては、むしろ大会中でなければもっと楽しませてあげられたのにという思いもあったが、光と練習の日もオフの日もあたりまえのように一緒に過ごした。ご飯を作りながら話し、片付けながら話し、移動中は春や夏のこの地の素晴らしさを聞かせ、おやすみと言ってドアを閉め、朝起きたら今日の予定を話し合った。
1つ屋根の下で一緒に暮らすというのは本当に不思議なことだと思う。これまで全く接点のなかった人が、家族みたいに近い存在になるのだから。

「やっぱり大会は緊張する?」今でも大会前の緊張感や高揚感を感じる私は、光に聞いてみた。

「私、大会前になると口数が少なくなるって周りに言われるんです。自分ではそんなつもりないんだけど、、、」。

我が家ではリラックスして過ごしているように見えたが、やはりスタートに立つ光は違って見えた。確かに声を掛けずらいほどのオーラを放ち、それは怖いというよりカッコよかった。1週間という大会期間中、私は充分に光との時間を楽しみ、彼女の思いを少し知ることができた。

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スタートに立つ光の姿。声をかけずらいと思うほどのオーラだ

今回の目的であるUSグランプリは、予選でヒート2位通過だったが決勝は転んでしまい、結界は8位。悔しかっただろうに、同じく失敗して涙する仲間の肩を抱き、笑顔で慰める光の姿があった。その姿に、熱いものが込み上げた。
大会を終えた光の目からは落ち込む暗い影などなく、何か次の目標へと向かう輝きを感じた。「今できることを精一杯やりたい」。そんな彼女の純粋な姿勢が見えていた。

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ハーフパイプは彼女のスノーボード人生の多くを費やしてきた場
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一本一本が本気勝負のランを何度滑っていることだろう
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マンモスマウンテンのメインロッジからも眺められる華々しい位置にあるハーフパイプ
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戦い続け、自分の中に戦い方を持っている。強さを感じる瞬間だ


アンバランスな魅力

アスリートとして見せる強気な姿勢とは打って変わって、普段の光は子供っぽい。その表情はスノーボードをしているときも時々垣間見せる。ハーフパイプではあんなに激しいライディングを見せるのに、普段リフトの乗り降りなんかで見せるあどけない仕草は、なんだか子供にしか見えなくて、その可愛らしさに思わず笑ってしまった。

どこにそのスイッチがあるのだろう。大会中に見せる光の姿と、普段の姿。それはおそらく本人にもわからないのかもしれない。
そんな風に私が娘のように光を見てしまうのは、私が光の母と同じ年だという事実からかもしれない。

光は初めて会った時、「私よりもお母さんの方がずっとユキエさんの事を知ってるんです。お母さんが私にスノーボードさせてくれたので」と、スノーボーダーである自分の母の話をしてくれた。

オリンピックという目標を掲げ、二人三脚で娘をプッシュしながらやって来た光の母。光にとって甘えてぶつかれる存在であり、母親はそれを受け止めながらも努力させるために厳しくも強くもあっただろうと思う。親としては我が子に悔いなく頑張って欲しいという思いと同時に、笑顔で楽しい日々を送って欲しいと願っているはずだ。
光はマンモス滞在中お母さんに、「毎日楽しい!」とラインを送っていたそうだ。

「思うように行かなかったり、迷いもたくさんある中で、あの子が毎日楽しいと思えたこの期間は親として本当に嬉しかったです」。そう言ってくれたお母さんの気持ちが痛いほど胸に響いた。

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素顔は母親想いの23歳の女の子
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チョコレートが死ぬほど好きらしい。世界を転戦する合間にショッピングが楽しみだという
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「コーチたちには本当に感謝しています。いつも寒い中ずっと立って見ていてくれて。コーチたちがいなかったら今の自分はいなかったです」。熱い信頼関係で結ばれる日本チームのコーチ陣と

オリンピックという舞台はとても大きく、多大な感動や影響力を与えるものだけれど、もしかしたら出場することよりもその大きな舞台を目指す過程がより大切な経験なのかもしれない。

私はオリンピックに手が届かなかった立場だから尚更、出場する人たちの努力はどの時代でも尊敬に値する。そして私自身は、あの頃の挫折があるからこそ満足せず走り続けてきたこの経験もまたラッキーだと思っている。スノーボードは人生を豊かにする1つのツールであり、そのツールを使って自分の道を創っていけばいいのだ。

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日本からの応援と自分の思いを込めて飛び続ける光

アスリート人生をどっぷり歩んできた光は今、新しい何かを見つけたのだろうか。彼女が一生懸命やって来た期間が、これからの人生に光を注いでくれるはずだ。

TJK01613Profile
大江 光(オオエ ヒカル)
1995年8月3日生まれ (満23歳)。スノーボード歴 17年。Sponsor: BURTON, OAKLEY, GIRO, GALLIUM, CALLA FACTORY, APA SPORTS CLUB, TOYAMA KINGS
主なリザルト: 2012 Youth Olympics 優勝、2018 平昌オリンピック17位、2018-19 revtour @copper 2位、1位、world cup @Secret Garden 4位、world cup @Laax 9位、world cup @mammoth 8位

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★この記事のライター
上田ユキエ
1973122日生まれ。東京出身。カナダウィスラーでスノーボードを始め25年、ハーフパイプやビッグエアーなどの競技を経て、ガーズルムービープロダクション “LIL” を立ち上げ日本のガールズシーンを牽引。結婚を機にアメリカへ移住し歳の息子(トラノスケ)を育てながらプロ活動を続ける。20174月マンモスマウンテンに拠点を移し、競技復帰を果たしながらよりナチュラルに山の近くで家族と新たな生活をスタートさせている。
Sponsor: K2 SNOWBOARDING, Billabong, MORISPO SPAZIO, NEFF, RONIN, UNCORAZON SHIBUYA, LALALAUSA
昨年のリザルト: 全米スノーボード選手権2018 Legend woman class Halfpipe 優勝 Boarder cross 優勝 JLA Banked slalom 2018 Mom class 優勝

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