世界で活躍する日本人コンペティター2人によるクロストーク。鬼塚 雅 × 飛田流輝 vol.1 <前編>

X GAMESやUS OPEN、ワールドカップなどで数々の成績を残してきた日本が世界に誇る若手コンペティター、鬼塚 雅と飛田流輝。そんな2人にコンテストをテーマに対談してもらった。トップコンペティターが感じているコンテストシーンの現在とは?
Photo: Yoshifumi Shimizu


コンテストでの互いの滑りについて

FREERUN編集部(以下、F): 最近、ワールドクラスの大会で活躍している2人に「大会」というテーマでいろいろ話を聞きたいんだけど、そもそも2人はいつ出会ったの?
鬼塚 雅(以下、M): 婚約会見みたいな質問ですね(爆笑)。
飛田流輝(以下、R): 確かに(笑)。でも、いつだろう……小学低学年のときに出場した、(アメリカ)マンモスマウンテンのVOLCOM PEANUTS AND BUTTER JAMかな?
M: あのマンモスマウンテンへのトリップで仲良くなった気がする。当時、私は完全にジブがメインだったな。ルキはパイプもやってたよね?
R: パイプをやりながらジブもやるって感じだった。
M: だよね。ジブのイメージも強かったもん。

F: そんな2人の最近の活動は?
M: 私はビッグエアとスロープスタルの2種目でワールドカップなどのFIS(国際スキー連盟)関連の大会を回ることが多く、X GAMESのような招待制の大会には呼ばれたら出るって感じですね。オリンピックは4年に1回なんで、それだけは逃さないようにSAJ(日本スキー連盟)の基準をクリアしようと頑張ってるところです。
R: 僕は昨シーズンからワールドカップを回れるようになって、これまでカナダとイタリアのスロープスタイルで表彰台に上がれました。あと、昨年に続いて今年もUS OPENにも出場したんですけど予選でコケちゃって。調子は悪くなかったんで完全に実力不足ですね。
M: しかも得意のジブでね。

▼FISワールドカップ・カナダ スロープスタイルでの飛田流輝1本目のラン。この大会で2位のリザルトを残す。

F: US OPENのお互いの滑りを見て、何か感じたことはある?
M: 7位だった去年の段階でルキは表彰台を狙えるような滑りをしていて、すごいなとは思ってました。徐々に経験値も増えて自信もついてきたのか、実力プラス覇気みたいなのを纏っていたから。他の選手にないモノを持ってるし、ジャンプかジブかのどちらかに偏ることなく両方とも突出した技を持っているのが強いなって思います。

R: だいぶ褒めるね(笑)。オレは自分のやりたい技を出せれば、予選は普通に通過できると思えるようになってきました。今回のUS OPENは、自分の後ろに(マーク)マクモリスがいてめちゃめちゃ緊張してしまって(苦笑)。
M: 彼の覇気にヤラれたんだ(笑)。

F: ミヤビはUS OPENのスロープスタイルで2年連続3位だよね?
M: そうです。
R: 今回は予選も決勝もルーティンをどうするかで悩んでたよね。でも、最終的にルーティンを決めて、全部キレイに決まれば優勝できるんじゃないかと思ってたよ。そんな話をコーチともしてたから。

F: 勝つ自信はあった?
M: うーん……今回のコースや新しいアイテムは見ました?

F: 総合力を試される複合的なアイテムがいくつかあったね。
M: どんな技をやれば点数が出るかもわからなくて。スピンの回転数が多いほど得点が高いってわけじゃない。たとえ低回転スピンでもアイテムを上手く使えば点数が高かったり……。どう得点に繋がるのか全然わからなかったから自信はあまりありませんでした。

F: でも、新アイテムを見据えて(福島)猫魔で練習したんだよね?
M: ある程度は前から情報解禁というかコースレビューがホームページに載っていたので、星野リゾートさんに相談したんです。私はパイプをやってきてないから恐怖しかなくて……。そしたらUS OPENと同じアイテムを猫魔に作ってもらえることになって。それでRのスペシャリストもある戸塚優斗くんを連れて行って、そこで教えてもらいました。おかげで何とか対応できるようになったと思います。あれがなかったら無理でしたね。何事も絶対に慣れって必要だと思いますし!

福島・アルツ磐梯スキー場や猫魔スキー場で技を磨く雅。 Photo: 星野リゾート アルツ磐梯

▼BURTON US OPEN 2020 スロープスタイル決勝での鬼塚 雅のライディング。この1本で、2年連続3位という快挙を果たす。


コンテストが行われるバトルフィールドの現在

F: 最近はスロープスタイルだけじゃなくて、ハーフパイプも含めてコンテストで争われるフィールドがネクストステージに入ったという感じがするんだけど。
M: そうですね。でも、また元に戻るって話も出ているんですよね。スロープスタイルでパイプみたいなアイテムが出すぎていて、それじゃスロープスタイルじゃないっていう意見もあるらしく……通常のジャンプを増やすといった話もあるとかないとか。

F: 見ているほうは新しさがあって楽しいけど、出場する選手からすると実際はどうなの?
R: めっちゃ考えることが多くなりましたね(苦笑)。今回のUS OPENにかぎれば、通常のトランジションとはテイクオフとランディングの向きが違ってて、ボウルのような形状で見た目よりもかなり難しかったです。
M: 私は怖かった。大会に設置されているアイテムに入るのが怖いってなかなかないんですけどね(苦笑)。でも、新鮮な感じもしましたね。ただ、個人的には以前のような一般的なザ・スロープスタイルのコースに戻ってほしいです(笑)。
R: あと、最近の大会って昔に比べるとキッカーはそんなに大きくなくなったよね? 特にワールドカップのは……。
M: そうかも。でも、飛び出し口やランディングバーンの角度も、大きさも決まってるらしいからね。
R: 今だと大きいキッカーってX GAMESくらいじゃない?
M: 確かに。ワールドカップだとビッグエアで使用されるアイテムのほうが小さい気がする。市街地に特設会場を作ることも多いから、そんなに大きいのは作れないんじゃないかな。

F: 2人ともキッカーのサイズは大きければ大きいほどいいって考え?
M: 私は小さくていい。だって、大きいと怖いから(笑)。
R: オレもそんなに大きくなくていいですね。
M: 実は2人とも本当はビビリなんですよ。2人して「怖い、怖い」ってよく言ってるから(笑)。

F: でも、サイズが大きいほど回転数を上げられるのでは?
R: それはありますね。余裕を持って回せるんで。
M: でも、そのぶん恐怖心が出てくるし、ヤラれたときの衝撃がめちゃくちゃ大きくなっちゃう。

雅が海外コンテストのビッグキッカーでも自分の滑りを魅せられるのは、普段の練習が意味あるものになっているからだ。Photo: 星野リゾート アルツ磐梯

F: そういったときの恐怖心のコントロール方法は?
M: 覚悟を決めて、やるしかないですね(苦笑)。
R: それで集中力を極限まで高めて……。
M: ルキは集中力がヤバイってよく言われてるんですよ。人が変わるっていうか、顔つきがまったく変わるから。
R: 緊張で顔つきがヤバくなってるだけじゃないの?(笑)

F: そんな恐怖心から解放されるために何かしていることは? 例えば音楽を聴くとか……。
R: オレは音楽を聴きながら滑らない派です。
M: 私も聴かないです。なんかルキとは似てるんですよね(笑)。すぐにビビるところも、公開練習ではあまり回さないところも。
R: そうかもね。いつも公開練習はのんびりやって、本番が近づいてきたら、めちゃくちゃ集中するっていうスタンスだもんね。

FISワールドカップ・カナダ大会での1枚。この大会で流輝は2位に輝く。また今シーズンは、FISワールドカップ・スロープスタイル種目の年間王者という快挙も成し遂げた。

F: ミヤビはX GAMESアスペンで金メダル、先日のノルウェーで銀メダルと、ビッグエアの種目で2大会連続表彰台という活躍っぷりを見せてくれたね。US OPENとX GAMESって雰囲気は違うの?
M: US OPENは大々的な大会って感じですかね。賞金も一番高いし、ザ・大会みたいな雰囲気があります。X GAMESは観客も楽しめるお祭りみたいな感じ。そこは、めっちゃいいなって思いますね。

F: ルキはX GAMESに出場したことは?
R: まだありません。でも、出たいですね。
M: X GAMESはインビでしか出られないけど、そろそろルキも呼ばれてもいいレベルだと思うんですけどね。いや、もはや呼んだほうがいいのにって思うくらいです。
R: 出てみたい! ホントに楽しそうですねよ。お客さんも多いし、他の大会じゃ味わえないような雰囲気のイメージがあるから。
M: ジャムセッションが大会に組み込まれているから、どこか他の大会とは雰囲気が異なるのかもしれない。それにナックルハックとか大会にしないですもんね、普通だと。

F: X GAMESのほうが出てて楽しかったりするの?
M: いや、やることは変わらないんで、私は変わらないです(笑)。

後編へ続く。


★PROFILE

鬼塚 雅
Miyabi Onitsuka
1998年10月12日生まれ。熊本県出身。5歳のときに福岡の室内ゲレンデでスノーボードを始め、小学生の頃からジブの大会で好成績を残してきた。その後はジャンプのスキルアップに取り組み、これまでに全日本大会、ワールドカップなどのスロープスタイルで優勝してきた。平昌五輪にも日本代表として参加。

飛田流輝
Ruki Tobita
1999年5月7日生まれ。埼玉県出身。幼少の頃からスノーボードをはじめ、パイプ、ジブ、ジャンプとジャンルを問わずに高いスキルを持っている。2018-19シーズンよりワールドカップを転戦。2019年のUS OPENのスロープスタイルでは7位。先日開催された国内トップコンペティターが集ったSCLOVER CUPでは見事優勝を果たした。