TARO TAMAI SNOW SURFER × BOA® FIT SYSTEM

TARO TAMAI SNOWSURFERでは、これまでの固定概念を覆すほどの柔らかさを求めた。ソフトなタッチと確実な操作を両立させる。そのために欠かせないシステムのひとつがBOA だったのだ。@ニセコモイワ

Photo: Kage(riding)、Takuro Hayashi
Text: Takuro Hayashi

「BOA でこんなに良くなるなら
理想のブーツは実現できると思った」

ターンはもちろん、雪質や地形の変化にダイナミックに対応する。K2のTARO TAMAI SNOWSURFERは、玉井太朗らが好んで続けてきた、スノーサーフと呼ばれるライディングにフィットすることを目指して生み出された。その最大の特徴は、上級者が履き込んでも不満のない上質な柔らかさを備えていることだ。大きな可動域を確保しながら、快適な履き心地とサポート性を発揮する。徹底して滑りに沿うことを目指した、パフォーマンス重視の設計。玉井はそこに、BOAを採り入れた。


BOAの可能性を引き出す
滑り手としてのアイデア

「たぶん2010年をちょっと過ぎた頃だったと思うけど。今のK2の前に、サポートを受けていたメーカーからオリジナルでブーツを作ってみないかっていう話があってね」

玉井太朗さんがデザインしたK2 のスノーボードブーツ、TARO TAMAI SNOWSURFERが誕生したいきさつを伺っているときの話だ。

「ブーツって身体に直に触れるものだから、滑り手としては当たり前に興味を持ってて。中でもBOA FIT SYSTEMのことは、おもしろいものがあるなぁとは思ってたんだよ。けど、その頃のBOAは簡単に締め上げできるとか、脱ぎ履きが楽っていう部分にフォーカスしてて、レンタル用や初心者向けのブーツでの採用が主流だったんじゃないかな。僕としてはもう少し締め方を工夫すれば、つまりワイヤーのレースが通っているガイドの位置や、ガイドとガイドを結ぶレースがどういった角度でブーツに当たっていくか、みたいな部分を細かく煮詰めていけば、もっといいものになるだろうなっていう可能性は感じてたんだよ」

しかし、玉井さんはこうも考えていた。

「とはいえ、これはブーツづくりを見据えながら夢を描いている滑り手の視点で。きっとBOAにはBOAなりの理由や考えがあって、ああいう作りになってるんだろうなって思ってた」

そうしたある日、BOAの創業者であるゲイリー・ハンマースラグと出会う機会に恵まれたのだ。

「ちょうどBOAの日本代理店が立ち上がったこともあって、ゲイリーが来日してたみたいで。まぁゲイリーもスノーボーダーだからってことでニセコに滑りに来てたんだよね。もう僕としてはラッキー、ぜひ聞いてみたいことがあったんだ、って。BOAのガイドの位置はなにか製造上の規制があるのか、あそこじゃないきゃいけないって決まりがあるのかって聞いたわけ。そしたらゲイリーは、安全面や耐久性のための規定はあるけど、あとは何もないよ、各メーカーがデザインしたものを形にしてるよって」

ということは、と思って玉井さんは問い重ねた。

「じゃあ、ガイド位置やレースのレイアウトっていうのはデザインする側が決めてるのか?って聞いたら、そうだって。しかも、そのへん興味があるんだったら、ブーツ送ってくれたら開発室でテストブーツ作ってあげるよって。ラッキー、こんないい話はないと思って、是非ってお願いしたんだよね。そしたらゲイリーが申し訳無さそうに、素材がヘタってたりすると加工ができないから、ブーツは新品じゃないとだめなんだけど、って。それを聞いて、ますます、ツイてるって思ったわけ」

当時、玉井さんが使っていたブーツはフィット感がよく、玉井さんとしても過去最高レベルに気に入っていたのだ。柔らかく、履きやすく、それでいながらコントロールしやすい。コンベンショナルなヒモを使ったそのブーツは生産数も少ない貴重なものだったが、たまたま同じブーツを二足提供されており、一足は新品のままで保管されていた。

「だからすぐに、その新品を送って。その時、精密な設計図ではないけど、だいたいこんな感じで、ここはこうしてほしい、重要なのはこの部分だっていう絵を描いてメモを添えておいたわけ。そしたらしばらくして、ホントにそのとおりのブーツが届いたんだよね」

このとき、重要だとしてこだわった点はいくつかある。

「まず、BOAは上下セパレートで別々に締め分けができること。それからダイヤルを回したときに締め上げられていく順番、ワイヤーがどんな角度で次のガイドを締め寄せていくか、そして当然だけどガイドの位置だね」

こうした細かな点、特にガイド位置などは数ミリの微妙な位置指定が必要に思える。求めている位置をきちんと指示しなければ、テストブーツと言えども形にはならないのではないか。しかし、玉井さんは言う。

「そこは大丈夫。向こうはブーツづくりのプロだから、ホントに大事なことだけ伝えてればいい。具体的なパーツの位置みたいなことは、技術者たちが技術の面からベストを割り出してくれるんだよ。こっちは滑りのプロとして、どんなフィーリングやどんなフィットが必要なのかっていう、核心部分だけを伝えればいい。しっかり時間をかけて製品のことを考えてる技術者なら、こちらが望んでいることはちゃんと分かってくれると思うしね」

そして事実、そのとおりになったのだ。

心地よい締めつけ感も、脱ぎ履きの楽さも大事にしてる。
けれど最大の目的は、滑りのパフォーマンスを上げること。

ヒモとBOAの純粋比較
そこから導き出された回答

ベースになったブーツはフィット抜群。テストブーツの違いはBOAかヒモか、だけだ。

「それでいて滑ってるのはホームグラウンドのニセコでしょ。BOAとヒモの違いっていう一点だけに絞って、こんなに精密なテストができることなんてないと思う。で、結果は言うまでもないけど、テストブーツが最高に良かった。とにかく調子いい。こんなに良くなるんだって驚いた。
もちろん同時に、ここはもっとこうしたほうがいいな、っていう改良点もたくさん見つかったしね。
あとは板はもちろん、雪質や地形による感触の違いも確かめることができた。こうした実践的なテストで、BOAの感触を確認できたことは大きかったと思うな。あれを経験したからこそ、自分がブーツを作るとしたらBOAでやりたいと思えたしね。
もちろんヒモでは実現できないタイトな締め上げも可能になったし、微妙な締め加減を細かく調節することもできる。こういうパフォーマンスを支える部分もだけど、スッと履いてパッと脱いでっていうフットワークの軽さを見直せたことも収穫だったと思う。レンタルや初心者用でうたっていた機能がそのまま僕らにも当てはまって、滑る前や滑った後のブーツの脱ぎ履きのストレスを大幅に軽減してくれる。そのことがよく分かった」

残念ながらこの時に挙がっていたオリジナルブーツのプロジェクトは実現に至らなかった。しかしプロジェクト中断の決定から半年もしないうちに、日本のK2から “新しく日本のスノーボードカルチャーを世界にアピールするようなブーツを作りたい” というオファーが寄せられたのだ。

「それなら、自分たちが好んでやっている、深いターンや自然の地形に柔軟に対応する滑り方、いわゆるスノーサーフっていわれてるような動きに適したブーツを作りたい。具体的には上級者向きの柔らかいものにトライしたいっていうお話をさせてもらったんですよ。それが2013 年かな」

こうしてTARO TAMAI SNOWSURFERの開発が始まることになる。

「とにかく今までのスノーボードブーツとは、バックグラウンドがまったく違うからね。求められるものも違ってくるわけで。そこを理解しないと、K2 が持っている製品開発の技術をうまく使いこなすことができない。だからコンセプトを理解してもらうために何度も何度もミーティングを重ねて、何度も一緒に滑ったよ」

そうしたカルチャーの共有の中にあっても、スペックとして求められるものは揺るがなかった。上級者向きの柔らかさ、へたらない素材、快適なフィット。そしてBOAだ。

「このブーツがどう変わっていくかは分からない。いろんな可能性があると思う。けど、少なくともこのブーツの開発が始まったとき、僕の頭の中にあったのはこの形だった」

玉井さんは続ける。

「それは同じブーツでヒモとBOAっていう、普通なら実現できないようなテストを通じてシステムのポテンシャルを確かめることができたし、それを叶えてくれたゲイリーとの出会いが大きかった。あのときゲイリーに会ってなかったら、TARO TAMAI SNOWSURFERはこの形になってなかったかもしれないね」

最新モデルを抱える玉井太朗さん。2016-2017シーズンのデビュー以来、製品は細かなアップデートを重ねてきた。いよいよ来季からは待望のレザー仕様(左)も登場

BOA Fit Systemに関する詳細は 公式サイト