SNOWBANK RAIL JAM 2018 2名のアップカマーライダーに注目!

Photo: Photography 樹
Photo: Photography 樹

先月、11月10日~11日の2日間に亘り東京・代々木公園で開催された「東京雪祭SNOWBANK PAY IT FORWARD2018」。今年で8度目の開催となったこのイベントは、100万人に1人の難病を克服したスノーボーダー、荒井 “DAZE” 善正の経験と想いから実現した。「骨髄バンク」の啓蒙をスノーボード・スケートボード・アート・音楽・ダンスの楽しさを通じて伝えるとともに、特に数の少ない若年層の骨髄ドナー登録者数を増やすことを目的とした参加型のチャリティーイベントなのだ。今年の来場者数は、2日間で60,000人以上(代々木公園調べ)となり大盛況。献血実施数は238名、骨髄ドナー登録数117名にのぼった。
 このイベントの中で開催される、毎年恒例のジブコンテストには全国各地から腕自慢のジバーが集まっている。今年も大勢のオーディエンスが見守る中、2日間の白熱したバトルが繰り広げられた。

オリンピアンや日本のジブシーンを牽引するトップライダーたちが集まる中、彼らを抑えメンズクラスで見事優勝したのは、一般予選から勝ち上がった玉村 隆。ウイメンズクラスでは山口 “34” 美瑛が勝利を飾った。
 この記事では、このジブコンテストに出場したライダーの中でも、一般の部で印象的だったアップカマーの2人にスポットを当ててみたいと思う。完全優勝を果たした玉村 隆と、女子一般の部で2連覇を果たした石原晴菜。これからのジブシーンを担うであろう2人がどんなライダーなのかを伝えたいと思う。

まずは、一般予選から勝ち上がり名だたるライダーを抑え見事優勝した次世代ルーキーを紹介。

Photo: Atwosee
Photo: Atwosee

ジブがいちばん自分を表現できる
玉村 隆(Takashi Tamamura)

自分が想い描くスノーボードと真摯に向き合ってみたい。そう思った隆は迷うことなくプロ資格を協会に返上した。彼を知る多くの人は、この決断に最初は驚いたと言う。それまではJSBAやPSA主催のスロープスタイル部門の大会に出場し、好成績を収めることもあったからだ。小学生で始めたスノーボード。中学生からの数年間は競技志向の生活を送る日々。夢と我慢が混在するなかで、いつしか大好きだったスノーボードに対し無気力になっている自分がそこにいた。それはまだ隆が18歳、今から3年前の出来事だ。
「一度原点に戻って、自分の滑りと向きあってみたかったんです。そのためには自分の中で何か改革が必要だと思ったんですよね。まずは住み慣れた大阪の地を離れて、神奈川の平塚に移住しました。シーズンオフは湘南ブラッシュのスタッフとして働き、冬は高井富士に篭りディガーとしてパーク整備を担当しています。この3年は何の縛りもない中でいろいろなスノーボードを楽しむことができました。そして、ジブが自分を一番表現できるスノーボーディングだとあらためて気付いたんです」
 スロープスタイルで培った板捌きを武器にジブシーンで頂点を目指すと決めた隆。幸先良く今シーズン最初の大会である、SNOWBANK RAIL JAM(一般の部)でまずは優勝を勝ち取ることができた。
「B360in180out、これが今回の勝負技で何度かメイクすることができてジャッジに評価されたと思います。優勝はうれしいけど自分では完璧にハマった感じはなかったので素直に喜びに浸ることはできなかったですね。予選では緊張したけど、決勝ではプレッシャーを感じることなく積極的に仕掛けていけたのも良かったです」

Photo: Photography 樹
Photo: Photography 樹

 その翌日には、一般の部の優勝者としてトップライダーたちと争う本戦に出場した隆。名の知れたトップライダーたちと本気セッションを終え、ファイナル進出を決めた時点の率直な気持ちを聞いてみた。
「技術のレベルやメイク率など、完成度の高さは一般の部とは違いましたけど、自分が持っている技とそれほど大きな差を感じなかったのが正直な気持ちです。何よりも自分の滑りをしようと、その一心で臨みました。その中で、ここまでは通用するけど、ここはまだまだだなとか、今後の課題が分ったのが一番の収穫です」
取材を終えた隆は、見事本戦のファイナルへと勝ち進み、なんと優勝まで成し遂げた。予選から出場し本戦で勝ち取った完全優勝という快挙だ。代々木公園に集まったオーディエンスの誰もが彼のライディングに熱い刺激を受けたに違いない。

Photo: Photography 樹
Photo: Photography 樹

この冬は高井富士に再び篭りディガーをやりながら、さらなる技術の向上を目指すと話していた。そして、今シーズンは本格的にストリートにもフィールドを拡大する。撮影や映像にも引き続き力を入れ、自分らしいスノーボードをとことん極めたいと語った隆は今、どんな着地点を考えているのだろうか。
「ジブシーンでの活躍。それに尽きますね。それとスポンサーを受けているブランドのインターナショナルのライダーになること。世界で注目されるライダーになりたいですね」
 ジブシーンで頂点を極めるのも、ワールドワイドで活躍するインターナショナルライダーにもなるのも不可能な話ではない。恐れを知らない21歳の若武者。パワーもスピードもメンタルの強さもある。そして、隆のポテンシャルを考えればその進化の可能性は無限だ。

Photo: Ken-10
Photo: Ken-10
Photo: Atwosee
Photo: Atwosee

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続いて、一般女子の部で見事優勝した石原晴菜を紹介する。彼女は昨年もこの部門で優勝し2連覇を成し遂げている強者ジバーだ。

Photo: Atwosee
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まずは1本、確実に自信のある技で
フルメイクすることを心がけた
石原晴菜(
Haruna Ishihara)

一昔前では考えられなかった、女子によるダブルダウンでのトランスファー180out。この技をトップライダーではない、一般女子の部に参加した選手が大勢の観客の前で臆することなくフルメイクして優勝する時代だ。今日、日本人女子の板捌きは確実に向上している。
 昨年も同大会の一般女子の部で優勝し、2連覇を達成した石原晴菜。愛くるしい笑顔とアグレッシブなライディングが魅力の滋賀県出身の26歳。彼女はスノーボードを本格的にはじめてまだ4年。それまでは学生、社会人としてごく普通の生活をおくっていた。
「大学に入学して1年ほど海外留学して、23歳で社会人になりました。仕事はそれなりに楽しかったのですが、何かもの足りなくて。それなら興味があったスノーボードで頑張ってみようと思い、1年後に退社しました。初年度は地元のびわ湖バレイのシーズンパスを購入して来る日も来る日も1日中滑っていました。2年目は白馬を中心に仲間と滑る日々を過ごし、パウダー、パーク、ジブ、フリーランと滑っていく中で自分にはジブ、レイルがやっぱり面白い、得意かもって。それなら擦りで真剣に勝負しようと思って大会に参戦するようになったんです。そして昨年、シーズンを通して妙高杉の原に初篭りしました。ストリートにも初トライして、今は何もかもが新鮮で充実しています」
 一念発起してスノーボーディングの道に進むことにした晴菜。今期初戦で幸先の良いスタートを切れた勝因について聞いてみた。
「制限時間を考えると1人3本~4本での勝負になると思ってたのでまずは1本、確実に自信のある技でフルメイクすることを心がけました。最初に1本メイクできるとその後は気持ちものってくるので余裕をもって出来たのが勝因だと思います。でも、技術的に圧倒的な強さで優勝したわけではないと思ってます。攻めたいという気持ちと、抑えて点数を取りにいっている自分の姿もあって、心は複雑、反省点だらけです。一般の部で優勝して翌日の本戦に出場する権利を得ることが出来たのですが、そこでも反省点だらけで納得のいく滑りは出来ませんでした」

Photo: Photography 樹
Photo: Photography 樹

 そう答えた後、一瞬間を取り、さらに言葉に力を込めて続けた。
「でも、たくさんの観客の前でトップライダーと真剣勝負をしながら滑れたので、今の自分の立ち位置がわかったのは大きな収穫でした。自分はまだまだ成長できると信じているし、このレベルで終わりたくないと強く思いました」
 前向きな気持ち、負けん気の強さは晴菜の最大のセールスポイント。この冬は、シーズン初頭は妙高杉の原に篭り、2月にはキャンプのコーチを予定。春先には湯沢に移動し、いろいろなライダーとセッションを重ねながら写真や映像撮影にも力を入れ、大会にも積極的に参戦するとのことだ。この冬もスノーボード三昧を送る晴菜への興味は尽きない。

Photo: Photography 樹
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