先日、INK MOVIEのマンモスエディットとともに、その撮影に挑んだ4人のストーリーを<前編> <後編>と、2回に渡り掲載してきた。今回のストーリーでフォーカスするライダーは、オリンピックを始め、大舞台のコンペティションシーンで活躍する片山来夢。これからのシーンを担う24歳の彼は、去シーズン世界中の大会を回りながらも國母和宏がハンドリングするINKプロジェクトに参加した。幼い頃からムービーシーンに強い憧れを抱いていた来夢が初めて挑戦したムービー撮影。バックカントリーでの初シューティングもメイクし、新たな価値が生まれたという。彼が目指すべきスノーボーダーとはどんな姿なのだろうか?
Text: Yukie Ueda
異端児の行動
「俺、カズくんに連絡してみたんですよ。一緒に滑ってもらえるチャンスがあったらお願いしますって。そしたら、じゃあ今INKの撮影してるから来なよって。5秒で決まりました!本当、連絡してみて良かったなって」
嬉しそうに撮影に参加したキッカケを思い出し、目を輝かせながら来夢は話し始めた。
今シーズン若手ライダーを連れ、自分のやってきた世界トップレベルの撮影スタイルを教え込んでいたカズに、「もし、僕もやりたいです!って立候補してくる若いライダーがいたらどうする?」と聞いたことがあった。その質問に対しカズはこう答えた。
「俺は本気で連れまわすよ。俺に自分から言える若手はそういないと思うから」
スノーボーダーに限らず、海外で活躍し認められてきたカズの存在は日本人の憧れであり、特に同性である男子からは絶大な憧れと支持がある。世界中のメディアから注目を集めるカズ・ワールドに一緒に入るということは、日本の若手ライダーのみならずスノーボーダーにとってどれほど価値のあるものだろうか。
来夢は自分から食いついて行ったひとりだった。いや、今回唯一とも言えるのかもしれない。彼はオリンピックを始め世界の大舞台で活躍する現役ライダーのひとりである。一昨年、彼が想い抱いている野望を聞いたことがある。それはカズがこのプロジェクトを始める前のことだった。
「俺、この先もっと英語のスキルを身につけて、フリーライディングをもっと滑り込んでいかないとって思ってるんです。今はコンペだけど、この先目指すのは世界で撮影できるライダーになることだから」
平昌オリンピックで7位という成績を残した直後の来夢はその夢に近づくべく、LAで英語学校へ通った。ハーフパイプキャンプの合間にはスロープのコースを堂々と流し、地形に合わせたフリーライディングをしまくっていた。来夢が目指している先は、次のオリンピックだけではないということを私にも手に取るように分かった。
来夢はINK MOVIEの若手ライダーのひとりとして選抜され、撮影に参加することになった。それは彼にとって、思い描いている夢への新たな第一歩となる。同時に、現役のナショナルチームのメンバーとして、今シーズンもUSオープンで2位という快挙を始め、シーズンを通して大会を中心に活動をしてきた。ワールドカップに全戦出場するとなれば、それだけでも1シーズンをフルに使うため多忙なはずだ。その合間にどうINKの撮影に参加してきたのだろうか。
カズの足跡
ふと國母和宏のやってきたことを思い出した。彼は15歳の頃から当時海外のトップメディアであるstandard filmと撮影しながら、US Openで日本人初優勝、そして連覇という大会の場でも華々しく表彰台に上り続けて来た。そのとんでもない快挙のコンビネーションは未だに誰も破ることは出来ない。
「あの時代だから出来たことだ」と、カズは言うが。全くお手本もなければ付添人もいない。身一つでそれを成し遂げてきたカズの功績は、時代を問わずそのパワーが現代のスノーボーダーにも伝わっている。
来夢はコンペシーンとムービーシーンの両方でヤバイ滑りを残し、人を惹きつけるカズのことを一番憧れていると話した。続けてINKの撮影に参加した自分の気持ちをこう伝える。
「俺バックカントリーは知らないし、教えて欲しいなと思ってカズくんに話してみたら『撮影してるから来なよ』って言ってもらえて。自分は全然経験もないし大変なのはわかっていたけどチャンスだなと思いました。このチャンスを見逃すくらいなら、撮影経験のない今はダサくても未来につながればいいんだと。この撮影を経験することで、今の自分より絶対上手くなるはずだから」
「大会で回して勝つのも大事だけど、俺はかっこいいスノーボードに憧れてきた」
アスリートとして今シーズンも好成績を残しながらも撮影に挑むのは並大抵のことではない。シーズン真っ只中には大会の予定を優先し、予定していた撮影に行けないこともあった。大会の遠征から戻って来ると、撮影に没頭していた仲間の寛介や郁海のスキルも上がっていて焦りもあったという。
その反面、撮影に参加し新たなスノーボードの境地に飛び込んで行くことで、スノーボードに対してもっと向き合えるようになり、それは来夢のコンペシーンの滑りにも影響を与えた。
「やっぱ撮影ってすごくカッケーって思うことが沢山あって。これがスノーボードのリアルな部分なんだと感じることが多くて。大会で回して勝つのも大事だけど、俺はカッコいいスノーボードにずっと憧れてきたから、できるだけ自分が納得できることをやっていこうと思えたんです」
その結果、大会でも今まで以上に楽しく滑れるようになったと来夢は話す。自分が表現したいことを意識して滑る。気づけば大会でもリアルなカッコいいものをより表現するライダーを目指すようになっていった。
「ジャッジには評価されないかもしれないけど、点数に気を使うよりも他のライダーから『あいつの滑りヤバイじゃん』って思われるスノーボーダーになりたいんです。リザルトだけを重要視している人たちからしたら、もっと回したらいいんじゃないかって思われてるけど、ムービーのカッコ良さを見て育った人たちは自分をすごく評価してくれていると思うんです」
若手ライダーの熱い思いがまたひとつ形になった瞬間
マンモスでハーフパイプキャンプを終えた来夢は緊張感が途切れずにいた。なぜならINK MOVIEの撮影をするためにひとりで残ったからだ。そして来夢もまた、コンディションと晴れを狙った1日に撮影を絞った。
「追い込まれて、めちゃくちゃ緊張しました!」
海外のフィルマーとのマンツーマン撮影は初めてで、これもまた彼が憧れてきた経験だった。英語で自分の意思を伝えられるようになった来夢は、フィルマーとの意思疎通はもちろん、コミュニケーションをしっかり取りながら撮影を進めていった。
キャンプが終了する時間となり、ディガーたちは片付けをしながら時間の許す限り何かを残そうとする来夢を見守っていた。あの4人のライダーたちと同じ光景を目にした私は、再び心を打たれた。
「マンモス、めっちゃ楽しかったです!」
無邪気に笑うその裏には、この撮影にかけた熱い思いが詰まっていた。
「今後も大会と撮影の両方をやっていきたい?」と尋ねると、来夢は自信を持って言葉を発した。
「もちろん今後もこのスタイルでやっていくつもり。簡単ではないというのはわかったけど、それが俺のやりたいことだったし、若い世代の日本のアスリートにも伝えていけたら嬉しいです」
一昨年、夢と理想を思い描きながら種を蒔いてきた彼は、今その場所に一歩足を踏み入れたのだろう。この秋リリースされるINK MOVIEで、今まで以上に自分のスタイルを追求する来夢の滑りに期待したい。
▼このムービーが、マンモストリップの模様をGOPROを使って自分たちで撮りあったINK MOVIEの特別クリップ!
▼この秋ドロップする「INK MOVIE」のティーザーがこちら
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★この記事のライター
上田ユキエ
1973年1月22日生まれ。東京出身。カナダウィスラーでスノーボードを始め26年、ハーフパイプやビッグエアーなどの競技を経て、ガーズルムービープロダクション “LIL” を立ち上げ日本のガールズシーンを牽引。結婚を機にアメリカへ移住し8歳の息子(トラノスケ)を育てながらプロ活動を続け、現在はバックカントリーの魅力にはまり国内外の様々なフィールドを開拓中。2017年4月マンモスマウンテンに拠点を移し、よりナチュラルに山の近くで家族と新たな生活をスタートさせている。
Sponsor: K2 SNOWBOARDING, Billabong, UNfudge, Ronin Eyewear, NEFF, HAYASHI WAX, MORISPO SPAZIO
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