Go My Way. – 山根俊樹インタビュー <前編> -「オレらのライディングも自己主張も、すべて世界基準で表現していきたい」

Photo: kentaRAWmatsuda

雪とは縁の遠いように思える福岡に生まれ育ちながら、運命的な人との繋がり、類まれなる身体能力、そして室内ゲレンデやジャンプ練習施設といった上達に適した環境に恵まれた少年は、驚異的なスピードで日本のスノーボードシーンを一気に駆け上がってきた。2013年にはTOYOTA BIG AIR史上、日本人最高位となる準優勝を果たすも、その後はコンペティターとしての道を歩まずに、FIGHT FOR LIBERTYという信念を掲げて映像の世界で生きてきた。山根俊樹、26歳。その突き抜けたスタイルと、あまりにもアツすぎる情熱が、今後、より多くのスノーボーダーに影響を与えていくのは間違いないだろう。そんな彼に迫った。

Edit+Text: HaruAki

*こちらの記事は、「STAY HOME」スペシャルコンテンツとして、FREERUN本誌 2020年2月号(1月27発売)掲載インタビュー記事を特別公開しています。


IN THE MIDDLE OF CHAPTER 6

自由のために前に進み続ける意思を表現していく

-これまでのスノーボード人生で、自分の中でデカいと感じたターニングポイントを挙げてもらってもいい?
ゲームっぽく言うなら、今、オレは第6章にいるんですよね。だから、ターニングポイントも多くて(笑)。まず、ACHARMという九州で一番ハードコアなショップに繋げてもらい、(新原)雄蔵さんと知り合って、カッコよさ、スタイルを学んだ第1章。中井(孝治)くんと出会い、トップライダーってこんなに上手いんだ、ひとつ上のレベルでボードをとらえて滑ってるんだと気づいた第2章。一気に有名になるために大会で名を残す……具体的にはTOYOTA BIG AIRなんですけど、そこで活躍するためにトリックを覚え、世界との壁をブチ破ろうとした第3章。大会じゃなくて撮影で成り上がろうとする活動を快くサポートしてくれたSALOMONへの移籍が第4章。FIGHT FOR LIBERTYというメッセージを掲げ、(秋山)ヨウスケ、(渡辺)ダイスケ、カメラマンの(松田)ケンタロウくんと動き始めた第5章。そして、インターナショナルライダーとしてオレを受け入れてくれ、より自由な活動ができる環境を与えてくれたBATALEONへの移籍……という感じで今は第6章の途中にいて、これから第7章の扉を開けようとしているところなんです。振り返ってみると、オレにとってターニングポイントは常に新たなスタートでした。オレのスノーボードはどんどん新しいステージに突入しているんで。それに、そもそもスノーボードにゴールや終わりなんてないとも思ってますしね。

-昔から自分の成長をストーリー仕立てに考えていたの?
そうですね。でも、基本、過去は振り返らない人間だし、物忘れ、めっちゃしやすいし(苦笑)。以前はスゲェ意識してたけど、今は過去の自分なんてマジでどーでもいいと思うようになって。オレ、アニメが好きで……「HUNTER×HUNTER」って知ってます? そこに出てくるヒソカっていうキャラが主人公のゴンと地下闘技場で闘うときに、ナレーションで「ヒソカは過去を語らない。きっと明日になれば、今日闘った対戦相手の名前さえも忘れるだろう」っていうフレーズがあるんです。それを聞いて、「めっちゃカッケー」「こんなヤツになりてぇー」と思ったんですよね。過去の自分にしがみつくよりも、もっと前を向いて自由に生きようって。

-それってFIGHT FOR LIBERTYの精神でもあるのかな? 改めてなんだけど、FIGHT FOR LIBERTYについて教えて。
オレ、ずっとスノーボードが上手いだけでインターナショナルライダーになれると思ってたんですよね。でも、目の前に突きつけられる厳しい現実がオレをどんどん弱くしていって……。そうしたらブレブレのオレが出てきて(苦笑)、気づいたらスノーボードが楽しくねーなっていうダークサイドに陥ってました。でも、何か答えを見い出さないといけない。で、オレが持ってる武器って何だろうって考えたんです。それで出した答えが、オレはオレらしくっていう自己主張でした。山根俊樹ってこういう人間性で、スノーボードはこんな滑りをしていて、こんな考えを持ってるっていうのを、もっと認知してもらいたいなって。で、そのときに掲げたのが「FIGHT FOR LIBERTY」っていうメッセージだったんですよね。例えば、賛否両論っていう言葉があるじゃないですか。そんな賛否両論の世界だから、みんな、「どっちがいいんだ」「どっちが正しいんだ」って悩むと思うんです。それに対して多くのアーティストが音楽とかで伝えるのは、自分の好きなほうを選べばいいんだよってこと。で、それに対して胸を張れって。でも、オレは何か違うって感じたんです。それだと反対しているヤツらをガン無視してることになるから。「言わせておけばいいんだよ。アイツらなんか相手にならないから」っていうふうに聞こえたんですよね。そうじゃなくて賛否両論の両者の意見を救える言葉がほしかった。それがFIGHT FOR LIBERTYでした。これだったらオレは胸を張って言える。自分がどっちに行くのかと迷ったときも、自由だからこそ前向きに突き進めるなって。それって生きていくうえで重要なことだと思ったんです。だから、それを自分の芯に置いていこうって。

-強烈なメッセージだね。
プロスノーボーダーになって特別な世界で生きていくのがオレの夢で、その逆にあるのが一般的というか、ごく普通の世界なんです。別にライダーじゃなくてもいい、スノーボードをしながら生きられたらいいって感じの……。オレがダークサイドに陥ってたときに、「オマエはそこに戻るのか?」「いや、オレはもっと上に行きたいんだ」と自問自答して、前に進み続けるっていう意思は表現していかないといけないと思ったんです。だからこそ、FIGHT FOR LIBERTY。自由のために戦え。絶対に負けねーっていう精神でやっていれば、絶対に上り詰められるからって。そのとおり動き続けた結果、今、いい感じになってきたんじゃないかな、と。そして、その意思を忘れずに、上手くなりたいと本気でスノーボードと向き合うっていうのが、ここ数年間のオレの意識でありテーマだったんです。「常にネクストステージへ」っていうハングリー精神を持って、ずっとレベルアップしていこうって。

BATALEONの海外シューティングでも、誰にもかぶらないスタイルで自己主張しながら宙を舞った
Photo: Tom Gan-or

-もともと自由だったはずのスノーボードが、なぜか今はガチガチに凝り固まっていて、どこか動きづらいような気もするんだ。特にコンペシーンでは……。
大会って結局は点数を出して勝たないといけない。だから点数の出るトリックをやらないといけない……っていう時点で自由じゃなくなってるじゃないですか。でも、過去にX GAMESでダニー・キャスがめっちゃ伸身のバックサイド360をやってたんですよ。オレ、そこに自由を感じたんですよね。例えば、みんな点数の競争をしているなかで、ひとりだけダブルコークもできるのにやらないでバックサイド540をやる、とかでもいい。「それじゃ勝てないじゃん」って思うかもしれないけど、「いやいや、勝ちとか小さなことじゃねーし。だって、オレだけしかこのトリックやんないじゃん」ってなったら、それはもう勝ちじゃないですか。点数で順位をつけて優越感に浸っているヤツもいるけど、オレは別の部分で格差をつけてやるよって。むしろ、そこを知らしめてやろうって思うんです。そしたらスノーボードがもっとカッコよくなると思うから。スノーボードって、全員が全員、自己主張できるもの。そのなかで何がカッコいいのって問われるわけで……。ただ、バックサイド1080とバックサイド180を同じ目線で見るっていうのは難しいかもしれない。だけど、「なぜ多く回ったら点数が高いの? ゆっくり回るほうが実は難しくない? しかも、誰よりもグラブを長くつかんで、誰よりもカッコよく飛んでるのにさ。どうしてそれが評価されないの?」っていう想いがオレにはあって。中途半端なヤツがやっても「何だよコイツ」くらいにしか思われないけど、それをトップが表現するとなると話は違ってくる。それを表現するのも自由だし、自己主張になるわけなんですよね。

-今は撮影に軸足を置いているけど、大会と撮影の両立を考えたことは?
あるっす。むしろ、それは今でも思ってますよ。ただ、撮影が楽しすぎて(笑)。やっぱり心に余裕がないとできないっていうか。昨シーズンは撮影をガッツリとやって、めっちゃ身体を仕上げた状態でシーズン終盤にAIRMIXとSNOWBOARD MASTERSに出場したんです。そんな動きが今後もできれば理想だし、それが海外でってなったら、もっと面白くなるんじゃないかなって。贅沢を言うなら、海外の大会に出るにしても、その前後の10日間くらいは時間をとって現地で撮影をしたい。別に大会で結果を残せなくてもいいんです。リザルトよりも大会でフロントサイド180を放つとか、誰もできないことをやるのも新たな主張じゃないかなと思うから。

-面白いね。だけど、現在の大会で勝つための練習も同時にしてたりするの?
はい、してます……といっても、ファイナルで180のようなトリックをしたいがためにトリプルコークを練習していると言っても過言じゃないですけどね(笑)。

「ただアイテムを抜けばOK」なんて考えは持ち合わせていない 
Photo: Tom Gan-or


MY RIDING STYLE IS…

専門職のライダーを超えるオールラウンダーを目指して

-今、第6章にいると言っていたけど、BATALEONからシグネチャーボードも出しているよね。何かメッセージを込めたりしている?
1作目はオレの初期衝動って感じでした。情熱の赤、何色にも染まらない黒、そしてオレは中二病なところもあるから悪魔っぽい感じのグラフィック、フレックスも硬めで力強さを表現しました。でも、現行モデルの2作目はしなやかさがほしいと思ったんです。だから、カラーは女性っぽくてやわらかい感じがする、かつアブノーマルなピンクにして、フレックスもマイルドに。理由は単純に力がいらないと思ったから。例えば、オーリーも力がいらないんです。重心移動とタイミングさえ合えばボードの反発を使えて飛べるんで。何事もガムシャラにやるんじゃなくて理屈を知って動くっていうか……動きや流れに合わせて乗るべき位置にいれば、そんなに力はいらないんですよね。硬いと蹴ったときの反発スピードってめっちゃ速いけど、やわらかいと自分が踏んだっていうのを認識したあとにボードからの反発が返ってくるんですよ。これがボードを操ってる実感に変わると思ったんですよね。ハイスピードになるとボードは少し暴れるけど、それも自分の脚力で抑えられるし、むしろコントロールできないのは単に能力不足だなって。自分の能力以上のことを板に頼るのはやめようと思ったんですよね。

自身のシグネチャーボードを背負って冒険の旅へ
Photo: kentaRAWmatsuda

-ボードが変わって滑りに変化は?
前よりもボードの真ん中をずっととらえられるようになりました。板に頼っていると、どうしても重心が後ろにいっちゃうんです。でも上手い人って、重心はボードの真ん中にあるんだけど、足だけが動いている状態なんですよね。どうやらそれが自由に板を操るコツだってのがわかってきて。みんなにそれを気づいてもらうために板をやわらかくしたっていうのもあります。

-滑りが変わった今、表現したいスノーボードは?
オレの滑りを観てアツくなるっていうか……「ヤベェ、スノーボードがしてぇー」っていう情熱、もっと上手くなりたいっていう精神、カッコつけていたいっていう男気を感じてもらいたいですね。

-今、カッコいいってワードが出たけど、それを大きく左右するスタイルって滲み出るものだと思う? それとも自分から出すもの?
両方だと思うっす。オレは出すタイプなんですよね。ニコラス・ミューラーは出てるタイプだと思う。でも、マーク・フランク・モントーヤやアーロン・ビットナー、ジャスティン・ベニー、それこそTECHNINEの『ONE LOVE』に出演してたヤツらは自分から出してるタイプじゃないですかね。そして、オレもそっちがいいなと思ってるんです。以前は常にスタイルを意識して滑っていたけど、最近はそのオン・オフができるようになって。例えば、今日はスタイルはいったん無視して、重力を感じながら滑りたいようにやるって日もあります。別に滑ってるときに後ろ手が上がってもいいやって。昔はそれはダセェと思っていたのに、最近はちょっと上げたほうが地球の重力を感じられるな、とか思うし(笑)。でも、やっぱり閉じようってときもある。それを行き来してる感じなんですよね。両方の意見がわかるようになったからかな?

-そのスタイルを無視した滑りのときは、周りから何か言われる?
「いつもと違うよね」って。あえて自分で変えてるから嬉しいっす。日によって変わる部分もあれば、絶対に変わらないスタイルっていうのもある。最近は常にスタイルを出していくことによって、自然と滲み出るようになるのかもしれないって思うんですよね。ただ、シーズンイン直後に「みんなでスノーボードしよう」ってなったときは、オレが優先するのは楽しさ。カッコつけようってのは頭になくて、「みんなでマジでふざけよーぜ」「最高のスノーボードをやってやろうぜ」みたいな。そんなときはスタイルをまったく気にしなくなってますね。

ゲレンデでもカメラを向けると……いちいちカッコいい 
Photo: Tom Gan-or

-最近、フルパートの映像をウェブで公開したけど、あのなかで使われているカットは、すべて自分でスタイルを出してるの?
そうですね。オレは意識するスタイルから始まって、無意識のスタイルもあるってことに気づいた。今は意識と無意識を掛け合わせ、意識を無意識の領域まで持って行けたら完成形かなって思うんですよね。

-今、それに近づいているのでは?
そうなんですよ。ただ、それは滑り込んでできることなんですよね。だから、いっぱい滑りたいなって。

-今のスノーボーダーはパイプ、ジャンプ、ストリート……って専門職が多い気がするんだけど、それについて何か思うことはある?
オレのウリはオールラウンドなところ。オールラウンダーが専門職のヤツらに追いつくっていうのが、オレの一番求めている部分でもあって。またゲームに例えるんですけど、オールラウンダーってマリオみたいな感じで、だいたいステータスは平均なんですよね。その逆が特化キャラ、あと、たまに全能力の数値が高くてズルいチートみたいなヤツっているんですよ。オレは、そのレベルに行きたい。だから全部やりたいし、専門職のライバル視できる存在がいると逆にありがたいんです。だって、そのシーンの最先端で魅せているライダーを超えればいいから。

-専門職でも個性的なスタイルのライダーをターゲットにしてるんだよね?
そうっすね。トリックだけ先行してても簡単だし、面白くないじゃないですか。誰でもできるじゃんって思うから。ジャンプだと回りゃいいんでしょ……みたいな。極論すれば、グラブせずにフィギュアスケーターみたいに手がダサくても回ればOKとか。じゃなくて、人とは違う軸で、なおかつ個性的なグラブで回る。ひとつ難しいことをするってのはオレのなかで重要なことだし、こだわりでもあるんです。それに、それを意識しながらのほうが絶対に上手くなるって思うんですよね。

今シーズンは雪不足と言われているが探し出せばあるところにはある。北海道バックカントリーでの最新ショット
Photo: kentaRAWmatsuda

後編へ続く。

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今僕たちにできること。
次のシーズンに思いを馳せて「Reading for staying at home」。

山根俊樹より読者へメッセージ
「まず、今大事なのは自分の気持ち(マインド)だと思うんです。僕は、FIGHT FOR LIBERTY(FFL)を掲げた時に絶対に譲らない感情を持っていて、それが『生きる』ということです。どんなに苦しい状況でも這いつくばり、その巨大な壁を絶対に生きて超えてやるって。だからこそ、コロナによる今の困難な状況には、この気持ちがバッチリ合ってると思うんです。みんなも同じだろうけど、大切な人は絶対に失いたくない。そして自分も生きていなければ何も出来ないということを絶対に忘れちゃいけない。自ずと何をすべきか見えてきますよね。こんなタイミングだからこそ、大切な家族や仲間と向き合う大切な時間ではないかなと思ってます。コロナは人類に考える時間を与え、僕らはその中でかけがえのない物を考え探し、そのことに向き合う。
今は沢山の人が試行錯誤しながら応援メッセージを作ったり、ライブ配信をしていて、とても良いことだと思うんです。スノーボードは究極の遊びですから、この限られた状況で “遊び” を探すのは横乗りをしてる僕たちは得意だと思います。FFLでは、このタイミングで新しいロゴやアパレルをみんなで考えて、ムービーに入れる音も作り出したりしてます。僕自身は、ゲーム、漫画、アニメ、映画、動画編集、新たなプロジェクトの考案など、今は自分の内側に溜める時間だと捉え、今後自分は何をしたいのかをイメージして、コロナが収束したタイミングで直ぐに取り組める準備をしています。そのなかで、最近シャツを販売していました。でもそれはお金を稼ぐんじゃなくて、本当に生きてて欲しいっていう想いと情熱を届けることで動きました。この事態を生き抜いて、また笑顔で会ってハグやハイタッチをしたい。ビジネスなら余裕でマイナスだけど、それで良いと思ったんです。こんな僕の想いを理解してくれた沢山の人がDMをくれて、繋がり、僕は生きる意志を伝えることが出来たと実感してます。
今はなんとしても絶対生き抜いて、またみんなと再会することを心の中心に留めて、1日1日を噛み締めていく。出来ると思いますよ。何故なら僕らはスノーボーダーで反骨精神の塊であり、自由をこよなく愛する存在だから。-山根俊樹