40センチパウダーに恵まれた奇跡の立山

寒さで日の出前に目覚めテントの外へ出ると、昨晩から40センチほどの積雪があり、昨日とは見える世界が一変していた。雲ひとつなく新雪に覆われた立山は、今まで見たことがないほどの瑠璃色の世界に包まれている。
昨日のミーティングでは、前日と同じく真砂岳の並びや雄山、大日岳の上部を目指しビッグラインの撮影を視野に入れていたが、強風を伴った積雪があった場合、降りたての24時間以内は特に雪崩の危険性があるというライダーたちの判断から周辺の地形を狙うプランに変更した。
案の定、テント場周辺にある緩斜面のウインドリップを狙った哲の1発目で吹き溜まった雪が崩れた。これが斜度のあるバーンだったらと思うとぞっとしたが、ここは滑り手も撮り手もコンディションをしっかり理解している。今までの経験からリスクのない安全なバーンを探し、しかも雪が吹き溜まっているスポットを的確に選んでいる。俊啓も別のラインで極上のパウダーラインを落とすと、勇童は室堂方面へハイクし遊べそうな地形を探す。日が辺りを照らす前からセッションとも呼べる本格的な撮影が始まると、ライダーたちからは「雪が軽い!」と満面の笑みが溢れる。それもそのはず初滑りでこのコンディションにはなかなか遭遇しない。しかもゲレンデではなくリアルな雪山で自分たちで寝床をD.I.Yし、翌朝にパウダーを滑れるなんて特別すぎる非日常体験だからなおさらだ。自然の恩恵をライディングで味わいながら僕自身もシーズンスタートの喜びを噛み締めた。

Satoshi Saito
早朝に撮影した哲のライディングによるスプレーからは雪の軽さが伝わってくる。雪が吹き溜まる極上地形の嗅覚にも優れていた
最終日の朝は奇跡のパウダーに恵まれた。日本での初パウダーを踏みしめる慎。奥には富山側の雲海が広がっている
Toshitaka Nakamura
シーズンを通して立山に密着する俊啓。この山を知り尽くす彼だからこそ、雪が吹き溜まったポイントに狙いを定めパウダーラインを落とす

その後も室堂周辺のバンクやウインドリップを探しながらセッションを続けていった。その中で滑りながら感じたことは、地形の面によって雪のコンディションが全く違う点だった。40センチ程度のパウダーで気持ちよく滑れる斜面もあれば、昨日のようにアイシーな斜面もある。つまり昨晩の強風で雪が飛ばされてしまい、地形の向きによってコンディションが異なるのだ。その見極めが非常に難しかったことに加え、場所によってはパウダーの下に通称チョコチップと呼ばれる岩が隠れている。
「昔、シーズン初めの立山で僕の友達が隠れた岩にボードのノーズが刺さって吹っ飛んで、その先にあった岩に直撃して骨盤を骨折しました。だから隠れた岩に注意してくださいね」と哲が話すように、確かに今は目の前にパウダーが広がる立山だが、昨日はガッツリと岩肌が見えていて、今日も所々に岩の先が出ている箇所がある。シーズン初めの雪山には見えない危険がたくさんあることを知った僕は、慎重に彼らの後を追った。
立山にリフトはないため滑ってはハイクを繰り返すのだが、ライダーたちとの体力の違いを痛感していく。言っても彼らも同じシーズン初めであり、そこに関しては僕もライダーも同じ条件にも関わらず、ハイクでは遅れをとった。ましてや慎に関しては、みんながボードをバックパックに着けて登るところを、ボードを肩に担いで登る場面も。これは完全に山の経験値が違う…。それをわからされながらも、今回最後に狙う斜面となった国見岳を目指した。

最終日の立山は前日とは全く別世界の銀世界が広がっていた。哲の後ろに見えるのが雷鳥沢
室堂周辺の地形を探す勇童。どの地形に遊べるヒットポイントが隠れているか山の嗅覚を活かしてハント
今シーズン1発目のパウダーを滑る喜びを体全体で表現する豪。このコンディションはなかなか味わえない

雪山という自然と調和する大切さ

昼が近くなるにつれ斜面に太陽の光が入リ出す国見岳。室堂山の山頂方面を目指し、そこからトラバースして約1時間半程度のハイクで国見岳の狙うスポットにたどり着く計算だったが、稜線付近は風が強く雪も飛ばされていて岩だらけの状況。しかも滑落すれば命の危険もある斜面。途中まで彼らと同行したが、国見岳への最後のハイクは体力的にもコンディション的にも危険だと判断し、その対面から撮影を見守ることにした。雪の状況と帰りの時間を踏まえライダーたちは国見岳の中上部斜面に狙いを定めると、それぞれラインを変えながらドロップ。勇童はフロントトゥバックサイドターンと巧みにボードを操りリラックスした独特のスタイルで滑り降り、抜群のスキルと安定したラインで流石のライディングを見せる慎。続いて哲は雪の吹き溜まりをしっかり見定めながら豪快なスプレーを飛ばし、ラストは豪がスピードに乗りつつ際どいラインを攻めながらも光の差し込むオープンバーンでクリーンなターンを魅せ、無事全員がトップトゥボトムのラインをメイクした。

Yudo Yoshida
雪の下に隠れる岩をギリギリでかわしながらスピードに乗ったターンを魅せる勇童。この滑りにも彼らしいスタイルが凝縮されている
Go Biyajima
国見岳でこのシューティングのベストラインを刻んだ豪。この光が差す中での1ショットからもスピード感が伝わりライディングスキルがわかる

ボトムで合流したライダーたちの顔からは、シーズンインを良い形で滑りきった清々しさが伝わってくる。太陽の暖かい日差しが降り注ぐテントに戻ると、昨日と違い今度は適度に冷えたビールをみんなで乾杯した。疲労と無事に戻ってきた安堵感の中で飲むビールのうまさは格別だった。
こうして編集者として、また、いちスノーボーダーとして本格的なシーズンインを経験した今回の初立山。ここで得た知識と経験はとても大きい。中でも極寒地での初テント泊は印象深く、そこで心得たことはシンプルイズベストに尽きるということ。極限の地で人間にとって一番重要なことは、どう快適に過ごすかということ。それには無駄のない機能性に優れたアイテムがとても重要なのだとあらためて気づいた。今回の自分のケースで言えば、軽くより暖かいダウンジャケットとダウンのテントシューズが欲しかった。無駄に重ね着をして動きづらくなるよりも、高品質なダウンジャケットさえ1つあればどれだけ快適だったことか。よく山のキャンプではミニマムさを求めると言うがまさにその通りで、それは今回のような厳冬期の立山ではとても重要なこと。4つの乗り物を乗り継ぐ道中ではなるべく荷物を減らした方がより楽になるし、しっかりとした装備を準備しテントで快適に寝るということは次の日の体力に直結する。これらの知識やアイテムを揃えていくプロセスは、実際に経験しないと分からないということを知った。さらにシーズンインは何事にも入念な準備をして無理をしないことが大切だということもあらためて感じた。とくにこういった雪山ではその準備や気持ちの甘さが大きな事故に繋がってしまう。それはゲレンデでも同じで、スタッドレスの準備や使うギアのメンテナンスなど、半年間眠らせていたアイテムの事前確認はとても重要なこと。気持ちの面でもいきなりトップギアを入れて怪我をしてしまっては意味もない。
最後に彼らとのセッションを通じて、近年雪不足に悩まされる中でもこうして狙うことを諦めず、準備を整えて臨めばいい雪は滑れるということを教えてもらった。正直ここまでのコンディションになるとは夢にも思っていなかったからだ。僕たちが遊ぶフィールドは自然の山であり、雪がないことには始まらない。今年も暖冬というネガティブなニュースが流れているが、自然とうまく調和し、タイミングさえあわせることができればいい雪を滑ることができる。それはスノーボーディングをする以前に “雪山という自然を楽しむ” というピュアなマインドさえあれば、その “いいタイミング” は必ずやってくるもの。それがスノーボーダーズ・ライフスタイルなのかなと。そんな多くの大切なことをこの241ファミリーというリアルなスノーボーダーたちからここ立山で学んだ素晴らしいシーズンインだった。

山のスペシャリストであり、自然と調和するリアルなライフスタイルを送るスノーボーダーが集結した241ファミリーで集合ショット

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