村上大輔、國母和宏、佐藤秀平がコーチを務める、ハーフパイプキャンプ「ちゃん村キャンプ」に潜入取材!

主催は2度の五輪代表経験を活かし、現ナショナルチーム・ハーフパイプのコーチを務めるダイキ(村上大輔)。「ちゃん村キャンプ」というゆるいネーミングは、ダイキの愛称「村ちゃん」から来ている。ダイキとは子供の頃からのスノーボード仲間であり、彼をその愛称で呼び続けているカズ(國母和宏)と、秀平(佐藤秀平)の3人がコーチを担うハーフパイプキャンプがこの「ちゃん村キャンプ」だ。それぞれが幼少の頃からスノーボードシーンで活動し、現在も現役で活躍する周知のトッププロスノーボーダーであるのは承知だが、そんな彼らが開催する遊び心満載のキャンプには特別な魅力が詰まっているらしい。今回アメリカの夏休みを利用して日本へ連れてきた息子とこのキャンプに初参加し、潜入取材を決行した。
Text: Yukie Ueda
Special thanks: K2 snowboarding Japan


ネーミング共にゆるいキャンプに秘める彼らの想い

舞台となる室内ハーフパイプ「カムイ御坂室内ゲレンデ」は、私も1990年代に足繁く通った場所でもある。海外からも強く関心を持たれているこの施設の現在の様子と共に、幼少の頃からスノーボードで苦楽を共にしてきた彼ら3人だからこそ伝えられる “子供たちの楽しませ方” を探るべく、私と息子の虎之介(8歳)は山梨県笛吹市へと足を運んだ。

豪華コーチ陣に囲まれた息子のトラ。マンモスマウンテンでも会う彼らだからこそ尚更嬉しい

夏休みの真っ只中、真夏日にテレビニュースの気象コーナーでよく登場する山梨県の気温は連日37度。その暑いエリアにスノーボードを持ちウエアを着込んだ大勢のスノーボーダーが集まっていた。一見異様な光景だが、ある意味とても贅沢な環境だ。その理由は、室内スノーボード施設はまさに巨大冷蔵庫、いや雪のハーフパイプが維持されているのだから冷凍庫といってもいいくらい。おそらくこの暑さの中、日本で今一番涼しい場所なだけにある意味避暑地である。キャンプの参加者を見守る父兄やコーチたちは、ウエアや冬用のジャケットを着込んでいるほどだった。

パイプの下から子供達を見守るキャンプのコーチ陣とスタッフ

その巨大冷蔵庫の中には、全長100メートル、高さ4メートルのハーフパイプが存在している。世界規定より小さいとはいえ90年代の頃よりも壁が高くなった立派なハーフパイプだ。今や世界のトップレベルで戦う日本代表選手達もこの施設で合宿を行っている場所であり、コーチ陣のダイキ、カズ、秀平らもアスリート時代にここで練習を重ねてきた過去がある。

今の日本国内には、シーズン中ですら世界規定のハーフパイプを滑れる場所はほとんどない現状だ。ハーフパイプ選手の活躍や子供の増加と反比例し、国内のハーフパイプ施設は随分消滅してしまった。しかしなぜ日本人選手がこの種目でこれほど強くなったのだろう。海外に出て練習をしているだけではないということが、この施設から感じ取れた。

カムイ御坂は、オフシーズンも常に良いコンディションでハーフパイプが滑れる貴重な場所である。世界基準のパーフェクトなハーフパイプに比べたら物足りない部分はもちろんあるだろう。事実、カズ曰く「ここで練習していて、いきなりワールドクラスのパイプで滑るのはギャップがありとても難しかった」と話している。しかし、天気に左右されることなく常に良いコンディションを保つこの場所で出来る練習は間違いなくあり、それが世界で勝つ滑りにつながっていることも事実だった。

それを自ら経験してきた彼らコーチは、ここで滑ることの価値を知っていた。そして3人は口を揃えてこう言った。「ちゃん村キャンプのターゲットは、世界を目指すトップアスリートじゃなく、そのもっと手前。ハーフパイプを始めようとしている入り口にいる子達なんだ。俺らがスノーボードの楽しさを教えて、楽しむ人を増やしたいんだ」と。

子供達の目線になって教える秀平

彼らは滑り終えた子供たちの目線に合わせて屈みながら教えていた。ハーフパイプの下で、「あの子次はこうさせた方がいいね」「今のいいねあの子」など、滑る子供たちを眺めながら楽しそうに話し合い、子供たちに沢山の褒め言葉やアドバイスを伝えている。「いいじゃん、今めちゃ飛んでたじゃん」「次これやってみたらいいんじゃない?だったらこうしてみなよ」と、できることを伸ばし、できたことを褒めて楽しい思い出にして帰ってもらうようにしているそうだ。

他のコーチングに比べるとそこまでテクニカルではないし、ゆるいのだと思う。しかしこのキャンプの子供たちはのびのびと楽しみ、笑顔を見せながらふざけあったり、時に真剣な顔になりながら滑っていた。自分のライディングを沢山褒められ、ハーフパイプの下で笑顔が溢れるというのは、もしかしたら今どき珍しい光景なのかもしれないと思った。

「俺らも親とかに結構厳しく鍛えられてきたけど、スノーボードを辞めなかったのは仲間との楽しさがあったからなんだ」。

彼らのその経験に重要なヒントがあるのかもしれない。

優しく体の動きを覚えさせるダイキ

大輔の考案
地元北海道の子たちがこの時期滑れる場所がないため、自分も練習してきたカムイ御坂に連れてくるようになったのがこのキャンプの始まりだとダイキは言う。「夏休みは混むのが分かってるけど、なるべく学校を休ませないで連れてこれる時期を選んでます。俺らもまだ現役で忙しい時期もあるけど、今は夏と秋の2回をここ御坂で開催してるんです」。

今は本州からの参加者も増え、1週間泊まりがけの合宿として預かる子たちもいるらしい。また昨年からダイキの娘と息子も参加するようになったようだ。「去年はまだ下の子(当時7歳)は母親が迎えにきたら喜んで帰ったんだけど、姉ちゃん(当時10歳)はもっとこのキャンプに残りたいと泣いてました。それくらい仲間との時間が楽しかったんだと思います。このキャンプ、最後はみんな涙流して別れるんですよ」。

スノーボードだけではなく、寝食を共にしアクティビティを楽しみながら過ごす数日間。そこで培われる仲間との絆は大きな経験になるのだろう。

意外と真面目にコーチングしてくれるカズ

カズの想い
カズがスノーボードキャンプのコーチをするのは珍しい。ではなぜこのキャンプは彼を動かしたのかと問うと。「面白そうだったから」。そこにはカズ自身の仲間であるコーチ陣の存在があった。「俺、世界を目指す奴らのコーチはできないんだよね。そこまで責任持てないから。だから、このキャンプなんだ。これが一番ちょうどいい。とにかくスノーボードの楽しさを教えたいから」。

このキャンプは、世界トップスノーボーダーの地位を確立し、最前線を走り続けるカズがスノーボードをやるうえで “一番大切なこと” を子供たちへ伝えられる場所なのかもしれない。

滑り降りてくる子供たちは目を輝かせながらカズに走り寄っていく。カズ流の回し方、ラインどりを教えてもらえるなんてなんとも贅沢なチャンスだ。

レベルは関係ない。その子に合わせた教え方で上達に導いてくれる

秀平の言葉
「俺らも子供の頃から親とかにビシビシ厳しく教え込まれてきたなかで、せっかくハーフパイプを始めても嫌になって辞めちゃう子もいた。でも俺が辞めずにやってこれたのは仲間との楽しさがあったからなんだ。だから楽しさを教えながらそこを入り口に好きになってほしいと思って。仲間との楽しみを感じて、もっとやりたいと思う子たちを増やしたいんだよね」。
いつも笑顔で子供たちと接する秀平からは、長い選手生活の中で挫折を味わってきた過去の面影は全く感じられない。きっと苦しい時も仲間といる時間の大切さを感じてきたからこそ、その大切なことを伝えたいという思いがあるのだろう。コーチング技術はもちろんのこと、仲間と盛り上げ合いながら楽しそうに滑り続けている彼らの姿こそが、子供たちへの1番のお手本なのかもしれないなと思った。

最初はリップの半分も登れなかったトラ。1本滑るごとにコーチが見ていてくれる。だから自信を持ってステップアップしていった

 

滑り終えた後のサバイバルアクティビティ。ハーフパイプの練習とは違った時間がそこにはあった

スノーボードだけではない

このキャンプ、滑った後のアクティビティが最高に充実していた。しかも彼ららしいかなりワイルドな遊び方を教えてくれるのだ。川遊びに行けば、海パンとサンダルのまま岩山を登ったり、川に飛び込んだり。キックベース、ウェイクボード、花火大会など…。毎日盛りだくさんのアクティビティを通じて子供たちとの距離を一気に縮めるのだった。

「俺らも楽しみに来てるから」。

彼らのその言葉通り、コーチ陣たちが率先して遊び、楽しむ姿がそこにあった。

子供たち同様、コーチたちも始終笑顔があふれていた

スノーボードと同じくらい、いや時にそれ以上にハードなアクティビティで子供たちはヘトヘトになるまで丸1日を遊び、夜は騒ぐ気力も残らずぐっすり眠る日々。ゲームや携帯をいじる時間はほとんどない。山梨という土地柄を活かした夏のアクティビティには旅の要素も加わり、子供に付き添う親たちをも満足させてくれるものだった。

こんなキャンプ、日本に他にあるだろうか?子供を遊ばせるのではなく子供を引っ張って遊ぶコーチ陣
山梨ならではの、富士山を眺めながらのウェイクボード!
初めての挑戦だったトラも、みんながやっているからやれた!みんなからの声援は大きな後押しとなった
みんなで花火大会も見に行った。ここでもやっぱり楽しみ感動していたコーチ陣

 

我が子も大輔の息子もあっという間に距離を縮めた。コーチたちの子供の頃のように

日本とアメリカのスノーボード環境の違い

アメリカ・マンモスマウンテンのスノーボード環境にどっぷり浸かっている息子が経験した日本のスノーボードキャンプ。はたして、8歳の息子はどんな印象を受けたのだろう。

「こんなに友達と日本語ばっかりで沢山話せて、なんだかとっても懐かしくて嬉しかった!」

キャンプで一番楽しかったのは?と聞いた私の質問に「休憩時間!」と答えた息子。まさにこの時間だった
短い時間だが、みんなでお菓子を分け合ったりしながら温かい地べたに座り込む彼らの至福の時

参加した日程は夏休みのど真ん中で混雑していたにも関わらず、ハーフパイプ横のエスカレーターを登っている最中や長蛇の列に並んでいる時ですら楽しくて仕方なかったらしい。

「ハーフパイプはアメリカより小さかったけど、硬くてスピードが出るからトリックの練習ができるんだよ!」と、彼なりにこの施設のことを分析していた。

本場アメリカのハーフパイプとは違った練習が出来た
何よりも、この笑顔がこのキャンプの楽しさを語っている

ハーフパイプの技術を上達させるだけでなく、まず子供たちにその楽しさを教え、自ら好きになってのめり込んで欲しいという思いの詰まったキャンプ。野生的なアクティビティを含め、遊び心が溢れるところはアメリカのキャンプに似ているなと感じた。それは世界を見てきたコーチ陣がスノーボード本来の楽しさを知っているからに違いない。

日本特有の施設で練習し技術を上げるというだけの目的ではなく、日本で友達を作ったり文化を知るためにも素晴らしい経験となった。息子本人はもちろんのこと、また参加したいなと親の私も思うキャンプだった。

スノーボードの上達と同じくらい、仲間との楽しい時間を得たキャンプだった

次回、「ちゃん村キャンプ」の秋編は10月末に開催される予定。
ぜひこの記事を読んでいただいたスノーボーダーのみなさんも、機会があればこにキャンプに参加していただき、彼らコーチ陣たちが教える「スノーボーディング」本来の楽しさを経験していただけたらと思う。

10月末キャンプのお問い合わせや、参加希望者は、村上大輔のFacebookへ直接メッセージ、もしくは、d05182003@yahoo.co.jpまでご連絡ください。

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★この記事のライター
上田ユキエ
1973122日生まれ。東京出身。カナダウィスラーでスノーボードを始め26年、ハーフパイプやビッグエアーなどの競技を経て、ガーズルムービープロダクション “LIL” を立ち上げ日本のガールズシーンを牽引。結婚を機にアメリカへ移住し歳の息子(トラノスケ)を育てながらプロ活動を続け、現在はバックカントリーの魅力にはまり国内外の様々なフィールドを開拓中。20174月マンモスマウンテンに拠点を移し、よりナチュラルに山の近くで家族と新たな生活をスタートさせている。
Sponsor: K2 SNOWBOARDING, Billabong, UNfudge, Ronin Eyewear, NEFF, HAYASHI WAX,  MORISPO SPAZIO

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