北東北の岩手県に位置する夏油は、日本でトップの降雪量を誇るゲレンデである。数年前にこの場所で最高の青空とパウダーを当てた私は、その時の写真をポスターやパンフレットに起用していただいた。アメリカへ持ち帰ったその写真を見た夫と息子は『滑りに行きたい』と言った。その願いが実現したこの冬。あの時と同じ、最高の青空とパウダーが私たちを待っていた。
Text: Yukie Ueda
Special Thanks: 夏油高原スキー場
※本企画は、上田ユキエの息子・虎之介(トラ)が、日本各地を訪れ、滑りながらそのエリアやリゾート施設の魅力を英語で海外の人へ伝えるとういうエンターテイメントコンテンツをYouTubeチャンネル『TORA BURGER』で配信。SBN FREERUNの連載記事では、その動画とコラボして上田ユキエ目線で各地の旅の記録を残していく。
これが夏油の雪だ
今シーズンも夏油は凄い。1月上旬すでに4メートルを超える積雪があり、雪の壁が麓の道路や建物を包むように覆っていた。視界が開けると澄み切った空に真っ白な雪山がどーんと現れた。私たちは高揚した気分で山へ挑んだ。
ゲレンデにはここ数日降り続いた雪が積もっていた。屋根に積もる雪や除雪した壁の高さからその雪量が私たちの想像以上だと思い知る。到着するなり「夏油、深すぎ注意」との連絡が入った。ちょうど同じタイミングに夏油を訪れていた中西カメラマンからのアドバイスだった。ポスターとなった写真を撮影してくれた彼は夏油をよく知るひとりだ。
下手にパウダーへ踏み入れてしまうと身長120センチの息子には深すぎて大変な思いをするだろうと少々身構えた。深ければ良いというものではない、斜度や湿度により雪の楽しみ方は変わる。小さな子供を連れていたら尚更慎重に状況を見極めなくてはならない。
ゴンドラに乗り、ゲレンデ山頂に着くと見渡す限りの絶景。私が家族に見せたかった景色だ。まずはゲレンデを流しながら注意深く脇のパウダーに当て込んでみると、その雪の深さに心から驚いた。「ワオ~!深っ!」前を滑る夫と息子からも奇声が聞こえる。私にとってもゲレンデ脇で太ももまで埋まるほどの深さはなかなか経験がないほどだ。
とんでもなく深いが柔らかい雪はちゃんと私たちを滑り抜けさせてくれた。圧雪バーンからスピードを保ちフカフカの新雪の中へ飛び込んでいくのはまるで空から雲の上に飛び乗ったような感覚だ。私の心配をよそに息子も気持ちよさそうに自分の腰の高さまである雪の中をスイスイと泳いでいた。私たちはスピードをつけながら異常なほどに深いパウダーへとバフバフ当て込んで行った。
体験したことのないほどの深さ。「これが、夏油の雪だ!」
雪山好きの贅沢の極み
夏油の好きなところに、ゲレンデ直結で気楽に泊まれる施設がある。施設内の天然温泉は滑り疲れた体をすぐに回復させてくれる。露天風呂からは北上市内が一望でき、夕焼けでオレンジに染まる空は薄暗くなると共に夜景がキラキラと輝きだし、早朝は朝焼けが空一面をピンク色に染めるのだ。心をリラックスさせ、体を芯から温めてくれる。
目覚めれば目の前に雪山があるって、滑ることが好きな人にはたまらない環境だ。天井の高いガラス張りの食堂からは温泉上がりにビールを飲みながら暮れてゆくゲレンデを目の前に眺めることができ、暖かい夕食をいただいたら癒された体をそのまま横たえることもできる。月明かりに照らされる雪山と星空や、眩しい朝日を浴びる雪山を眺めながらの食事はとても贅沢な気持ちにさせてくれる。
今回は『プレミアムステイ豪』というラグジュアリーなホテルルームに宿泊し、家族でのんびり優雅にリゾート気分を味わった。窓の外には真っ白なゲレンデが広がり、ゆったりした広い室内には子供が思い切り遊び回れるスペースやワークスペースもある。大人も子供もそれぞれリラックスできるのだ。海外リゾートにはこのようなリゾート直結ホテルが多いが、桁が違うほど値段が高かったりする。スキーやスノーボードに来ているのに食事する際にドレスアップするような豪華なレストランがあるのもいいが、家族で楽しむには山の格好のままビール片手に温かい定食を頬張れるこの環境が最高だ。
食堂のカウンターで作りたてのおかずを出してもらい、ご飯とお味噌汁は自分が食べたい分だけよそう。「ごちそうさまでしたー」とお皿を下げ、今日は良い日でしたねと言葉を交わす。学生の頃の合宿のようなアットホームな気分もまた良い。
贅沢な旅気分というのは、お部屋の素晴らしさだけでなく窓の外に広がる景色や人の温かみが大きな要素だ。いろんな意味で温かい夏油の『箱』は、いつでも雪の上に飛び出すことのできる魔法のような環境。これこそが、雪山好きの贅沢の極みではないだろうか。
夏油の本気
翌日、これまで雪が降りすぎていた為 まだ開放していなかったツリーランエリアがオープンした。
夏油のツリーランはレベルに応じて楽しむことができるようにいくつものコースがある。子供が楽しめる優しいレベルから上級者が満足する斜度と起伏のある『Shooter』と呼ばれるコースまである。これほどツリーや起伏ある自然の地形を開放しているゲレンデは日本では珍しいのではないか。しかしコースを知らないと不安もある。そんな中、ツリーランガイドを行なっているマウンテンガイドのおふたりが案内してくれることになった。おかげでトラも2日目にこのShooterへ挑戦することができたのだった。
夏油がなぜこんなに開放的なのか。それは社長をはじめとする経営陣やスタッフにあった。スキーヤーやスノーボーダーが多いというに留まらず、とにかく深雪を滑るのが好きな人たちが多い。その中でも代表的なのがボス、夏油の社長だ。元モーグルの選手ということもあり、滑りの技術はもちろんのこと、魅力的なコースを次々と開拓し自身が地形を知り尽くしている。社長がゲレンデの『プロフェッショナル』であることは凄いことだ。前回訪れた時は社長にツリーランの追い撮りまでしてもらったのだが、今回はラッキーにもトラとのセッションが実現した。
そこには中西カメラマンや夏油スタッフの存在があり、夏油を愛する滑り手たちが役職の垣根を超えて和気藹々と楽しむ姿があった。
日本人シェフの作るゲレンデ
遊び心満載のリゾートには、フードコートにはトランポリンやキッズスペースなど子供心をくすぐるアイテムも設けられていた。その中でもトラが特別釘付けになったのが、スノーモービルツアーだ。小型モービルでウェーブやカーブの続くサーキットコースを走らせてもらったが、これは男の子にはたまらない魅力だろう。北米などではスキーやスノーボード以外で雪山を楽しむ選択肢がリゾートには沢山ある。ジャグジーやマッサージスパ、スノーモービルを始めとしたアクティビティ。滑ること以外を楽しむ人もスノーリゾートに多く訪れている。
夏油はゆったり温泉に浸かり大きな窓から滑る仲間や家族を眺めるもよし。バックカントリーまで行かずともツリーランコースを冒険してみるもよし。不安であればツリーランガイドをつけることもできるし、ローカルガイドはその日ゲレンデでどのラインがいいのかを一番よく知っているから間違いないと思う。
日本にももっと自由に冒険できる選択肢があってもいいのではないかと思っていたことを、ここは実現しているように思えた。
海外にいたことで、日本にはない自由さや開放感ばかりに気を取られ良さを感じてきたけれど。日本人がそのいい部分を取り入れながら日本流にすると、それは海外には敵わない『日本人好み』になると思う。
料理の世界でも本格的な異国の料理には感動するけれど、それを日本人の舌に合うように調理されたものの方がしっくり味わえるということもある。
夏油は日本人シェフが作る欧米料理のような、日本人スキーヤー・スノーボーダーが作る『日本人心をくすぐるゲレンデ』なのかもしれない。
TORA BURGER#13 KING OF SNOW!GETO KOGEN RESORT@Iwate 夏油高原スキー場
CALI TO JAPAN TRIP」過去の記事
EPISODE 1 – 北海道旭川の旅。はこちら
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★PROFILE
上田ユキエ
プロスノーボーダー歴27年。ハーフパイプとビッグエアーの選手としてプロ戦やワールドカップを転戦し、ムービー制作やスノーボードブランド立ち上げなど日本のガールズシーンを盛り上げたのち、結婚を機にアメリカカリフォルニア州へ移住。マンモスマウンテンに拠点を移し日本とアメリカでスノーボード活動を続けて来たが、今回家族ごと1年間の日本移住を果たす。
SPONSOR: K2 SNOWBOARDING, BILLABONG, UN, RONIN EYEWEAR, HAYASHI WAX
ORION 虎之介
2011年4月5日生まれ9歳。カリフォルニア生まれの日系アメリカ人3世バイリンガル。スノーボードとスケートボードが大好き。USASA全米スノーボード選手権2019 7Under部門総合3位。
SPONSOR: K2 SNOWBOARDING, BILLABONG, VONZIPPER, UN. RONIN EYEWEAR, ETNIES, HAYASHI WAX, MAMMOTH TRAMPOLINE CLUB