昨シーズンの春、白馬を拠点にフリーライドシーンで活躍する加藤 彩也香と、笠原綾乃の2人がカナダを旅した。前半は北米イチのスノーリゾート、ウィスラー・ブラッコムへ。そして後半の目的地は、ウィスラーから約800キロ離れた場所にあるウエストクートニー・ネルソン。ここは、バックカントリースノーボーディングの文化が古くから根付く場所でもあるようだ。この地で彼女たちはどんな体験をし、何を感じたのだろうか? Text: Sayaka Kato 4月中旬まで連日パウダー続きのウィスラー。 思う存分目の前の良い雪を滑り倒した。 旅のバディ、アヤノちゃんもケガから復活しこのスペシャルな瞬間を取り戻すように春のウィスラーパウダーを思いっきり楽しむことができた。
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ウィスラー・ブッラコムと二つの山が連なりコースがあるウィスラー。 それぞれ個性のある二つの山は、どうやら大昔からネイティブに大切にされてきた聖なる山なんだそう。 どうりで、ここを滑ると癒されたり優しいエネルギー、熱い気持ちが湧き上がってくる。 焦らず急がず、目の前の雪とウィスラー・ブラッコムの広大な山々を思う存分楽しみ尽くし、次なる旅へ出ることにした。 ウィスラーから約800キロ。 目指すはウエストクートニー・ネルソン。 かつてはヒッピーの町として知る人ぞ知る町。 アートにオーガニック、自然を愛する温かな人たちが暮らす。
クートニーの優しくも雄大な山々、澄んだ空気になぜだかずっと心惹かれていた。 コロナ禍以前からずっと目指してきた、ここは私・サヤカにとってのパワースポットでもあり聖地のような場所。 日本にいる時から積雪推移をチェックしたり、現地の人と連絡を取り合ったりと繋がり続けていた。 ネルソンはカナダ旅の中でも一番大切にしてきた場所でもある。 旅の目的地についてアヤノちゃんに話すと、喜んで二つ返事で着いて来てくれた。
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800キロの道のり。景色の見れるロードトリップは道中も楽しい。 途中小さな町に一泊し、クートニーに入る。
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海外での慣れない運転に緊張感もあったものの、ひたすら続く広大な広い道にリラックス。始まったばかりの旅に胸の奥がキュッと熱くなった。
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ひとり旅も良いけれど仲間がいると安心感が違う。 助け合い、支え合い、楽しみや喜びを分かち合う。
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ウィスラーでも多くの挑戦や冒険をしてきたから、何かあってもきっと大丈夫。そう信じている自分たちがいた。 旅では予期せぬことや大変なこと、何が起こるか分からない。 それでも乗り越えて進んでいこうと約束を交わした。 ボトムの標高も高く、川に沿って雄大な山々が連なるこのあたり一帯はパウダーロードと呼ばれる。 まだまだ冬の空気。
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少し前に暖かくなって雨が降ったものの、フレッシュな雪が積もっていた。 4月も中旬に差し掛かっているのにまだまだ冬の空気。 クートニーの山々たち。待っててくれて、ありがとう。 ネルソンは小さな町だけど必要なものは十分揃っていて、スーパーに並ぶ食材の多くはオーガニックだったり、売っているもののほとんどが心を込めて作られた物たち。自然とともに、大切なものを大事にしながら暮らす。そんな暮らしが根付いている場所でもある。
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そして、クートニーはバックカントリースノーボーディングの文化が古くから根付く場所でもある。 さぁ、いけるとこまで行ってみよう。 山滑りにおいては全く未知のネルソン・ウエストクートニー。 名だたるスノーボーダーたちから聞いていたスペシャルな場所の名前だけはよく覚えていた。 耳に入ってきた場所、なんだか気になる場所、そこへの情報。それはきっとガイダンスだったりもする。 やっと、ここに着くことができた。 嬉しさと温かな気持ちで胸がいっぱいになる。 そこにいるだけで大きなエナジーが湧いてきて、土地の力っていうのはどうやら本当にあるみたい。好きな場所、心惹かれる場所っていうのは自分にとってのパワースポット。 なんだか心惹かれるものがあるならば、いつだって直感を信じてワクワクに従って道を進むんだ。 ロコたちの合流スポットでもある大きな岩の前の道端で、ネルソンでも数少ない日本人スノーボーダーでありGreen clothingのライダーのタクミさんと、写真家でスノーボーダーのローレンと合流した。 温かなハグは一瞬で心が通う。 まだまだ英語も拙い私達だったけど、すぐに同士なんだと暖かい気持ちになった。 ネルソンは、本当に温かい。 だからここが好きなのだ。
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車で20分。 ネルソンの人達にとってのホームマウンテン、White waterへ向かうことになった。 スキー場は閉まっていたものの雪はまだまだ豊富。 ハイクしてホワイトウォーターのゲレンデを経てBCエリアへと足を伸ばすことにした。
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ゆっくりとした穏やかな空気感。 ただ、穏やかな空気とは打って変わり、ホワイトウォーターの山々は名前の通り激流だ。 急斜面だらけの地形と起伏に富んだピローライン、メロウなコースもあればいかついシュートも無数にある。想像以上にエキサイティングな地形に心が躍る。
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見渡す限り広く、勇大。大きく、広く、深い森に山なのになぜだか優しい空気が流れる。 これがクートニーだ。 ハイクをしながら、旅の仲間たちと色んな話をすることができた。
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「この空気の中に、自分が感じることを尊重しなければだめだ。静かにしている意味で、そうしていると聞こえてくるものがある。聞こえてくるものがあれば、知ることができる。聞かなければ、知ることはできない。だからそれが大事なんだよ」。 以前読んだボブ・マーリーのインタビューで読んだ言葉をふと思い出した。 そんなものを感じるために、知るためにここへやってきたのだ。 不思議とそんなことを再確認させられたのはきっとここがネルソンだからなんだと思う。
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ネルソンを一言で表すならば、『愛』だ。 スノーボードコミュニティは近くて濃い。出逢う人出逢う人、みんなが友達でタクミさんは全員に紹介してくれたのだった。そして全員が、優しい笑顔で歓迎してくれた。スノーボードを愛するローカルのスノーボーダー達にとってのホームマウンテン。自然体で山と仲間と向き合い、日々挑戦と学びを続け、楽しみ、生きる。 難しい雪の日も、決して悪い日ではなく「スパイシー」と呼び、今この雪や状況を受け入れご機嫌で滑る。そんなスノーボードとライフスタイルに大切な大切な心根の部分を幾度となく教えてもらった。 私たちが日本のホームマウンテン・白馬の山々を愛しているのと同じように、みんなもこの山々を愛している。
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だからこそいつだって山の声に耳を傾け、自然のリズムを尊重する。仲間や自分自身の心の声にも耳を傾ける。それがあってこそ安全に、楽しい時間と冒険を皆で分かち合うことができるんだ。 ガイドカンパニーに務め、バックカントリーに日々挑戦しながら様々な人のスノーボードライフを広げるミッションやそんなスノーボーディングをしてきたアヤノと、作品を作ることに力を注ぎ野生的な滑りを追求してきた私にはライディングスタイルに違いがあった。 それでもお互いに今まで歩んできた時間を振り返ると、大変ながらも誇りに思えるようなスノーボードだったから自然と信頼しあうことができた。 仲間がいなければここには立てない。 仲間や友、雪や山、みんなが居てくれて今この瞬間がある。
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タクミさん曰く 「こっちではドロップする前に必ずみんなの心の状態がどうなのか確認するんだよね。恐怖心が大きすぎたりしていないか、みんながOKなのか素直に確認しあうんだ」。 お互いの呼吸を確認しつつ見守り合う。 バックカントリーにおいて『見守り合う』ことの大切さ。 言葉にならないほどの大きなパワーがあることをいつも感じている。 ハイクしながら目指す斜面、そこへ至る道のりを確認し合った。 「仲間と共通認識があり、お互いに意識を共有しながら判断できることはすごく大事。それと、何より大切にしたいのは自然への敬意。自然を軽んじて判断を誤り、大切な人を亡くしたり悲しませたりするのは絶対にしたくない。学びをやめることなく畏れとリスペクトを忘れず、感謝して山に入ることは一つの軸として持ち続けたい」― 笠原綾乃 一歩ずつそう確認しながら、最高に気持ちの良い時間の中ここへ居れることへの感謝が何度も胸を熱くさせたのだった。
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スノーボードってとびきりスペシャルな瞬間だ。 穏やかな空気感さながら、最初に挑戦するのは急斜ドロップ。 エキサイティングな斜面の数々は私達をさらに熱くさせた。ここは本気で挑む場所。 スノーボードという本気の遊びから得られるモノはものすごく大きい。 少しだけこの土地を知り、胸の奥からの喜びと燃えるような楽しさを噛み締める。ストークし、良く笑った一日だった。 穏やかな空気とちょっと厳つい地形は日本のホームマウンテンとどこか似ていて、ホワイトウォーターがネルソンローカルにとっても大切な愛すべきホームマウンテンなんだと、通ずるものを感じ嬉しくなった。 旅に出て、未知の場所へ飛び込んだり、挑戦するのは本当に勇気がいる。 けれど、それを上回る喜びと出逢い。一生の心の糧となるような何かが必ずある。 暮らすように旅をして、この土地をめいっぱい感じよう。 その後いくつか行く予定だった他のスノーエリアへ行くのはやめて、ネルソンにもうしばらく滞在することにした。 初めてのクートニーパス。 見たこともないような立派な表面霜と出会った。 美しい雪との出逢いに感動。 純粋な喜びを感じる。喜びと出逢うことはこんなにも幸せなのか。 少し難しい雪のハイクアップではずり落ちないように用心しながら進む。 難しい箇所も、それぞれのラインを見守りあった。 焦らず急がず諦めず。一歩ずつ、世界を広げていければそれで良い。
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美しい瞬間、胸があったかくなる瞬間を経て日本と地球を思い、祈りを捧げた。 カナダの旅では、スノーボードのスキルアップと合わせて心の部分でも大きな収穫があって毎日自然と祈るようになった。オフの日にコカニークリークで出逢ったあの女性のように、自らに愛を注ぎ、愛を放つような人でありたい。
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挑戦しながら、時に悔しい思いもしながらもすべてを糧にし乗り越えて、また笑い合う。 多少の風が吹こうとも、難しい雪だろうとも、笑って楽しめる自分達は好きだ。 「『柔よく剛を制す』この言葉が旅の中で胸に刺さりました。山や人を制することができるとは思わないけど、柔軟さは時に大きな強みになることを知りました。自分が柔軟な考えを持ち、滑りも柔軟さを持っていればハードなアイスバーンやハイスピードで滑っていてもすぐさま反応できる。カナダへ行く直前にケガをして固くなっていた身体はしばらく動きが悪かったけど、リラックスできるようになった時、のびのびと滑ることができました。スノーボードの新しい愉しみを見つけたとき、喜びとこれからへのワクワクが湧いた。いつだって気付きをくれて成長させてくれるのは周りの素敵な人たち。無条件に応援してくれる気持ちだったり、心遣いや愛情ってものすごいパワーになる。知らず知らずのうちに人に元気をもらったり、与えたりしているんだと思ったらこの感謝の気持ちを循環させたいと思った。思いを巡らせて、また次の挑戦に進んで行きたいな』ー 笠原綾乃 そうして、またお互いに意思を確認し合った。 私自身もアヤノちゃんから教えてもらったこと、それは認め、受け入れる心。 自分や皆、それぞれが魅力を持っている。誇っていいし、良いところは吸収する。 受け入れることも愛である。なんだかそれも、カナダらしい。
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女子旅の良さは、誰かになにかを言われることもなく、自分たちで私たちの持つ無限の可能性を広げていけるところにある。 行きたいところへ行ってやりたいことをやる。 失敗しても良いからチャレンジする。 そこで得たものはこれから先の人生においても大きな糧となり、思い返せばいつだって自分達に背中を押してもらうことができる。 私達は愛を持って、すべてに向き合うことができる優しさと柔軟さ、強さもクールさも持ち合わせているんだ。
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ひょんなことからカナダ行きの予定を話したときに、誘われたと盛大な勘違いをしてアヤノちゃんも一緒に行くことになった。 結果、このふたりだったから最高の旅になったんだなと思う。 本当に旅は何が起こるか分からないから面白い。 ネルソンの旅の後、ウィスラーへ戻り「シーズン通してがんばったから、少しゆっくりめにスノーボードを楽しもう」。そう話していたのに、結局春は春で毎日全開で滑っていた。 全力で滑るって、最高に楽しいじゃないか。
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毎日山を登って、アツく滑って、挑戦して。 自分と向き合い、カナダの山や人からたくさんの愛を教えてもらった。 旅が終わる頃には少し成長した自分たち。乗り越え、挑戦してきた日々を思い返すと感動で静かに号泣した。 こんな旅があるかい。 こんな愛すべき旅があるかい。
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風のように、自分のやりたいことは自分で決めることができるし、きっとどこへだって行ける。 いつだって自由だ。 さあ、羽ばたけ。まちがいなく未来は明るい。 今年はどんな旅に出ようか。 Everything’s gonna be alright. END.
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