加藤 彩也香 スノーボードを磨く、ウィスラーへの旅(前編)

日本でのハイシーズンを終え、自身のさらなる進化を目指しカナダトリップに出かけた加藤 彩也香。春めいた日本から、まだまだ真冬の表情を残すウィスラーに渡り、日本のゲレンデよりも自然の山に近い環境のゲレンデを滑ることでスキルを上げていく。彼女がどのようにウィスラーの山を滑り、何を感じたのかを本人の言葉で綴ってもらった。前編はゲレンデ編をお届けします。
Text: Sayaka Kato

巡る季節とスノーボード旅のはじまり

2019年3月。日本での濃いハイシーズンが終わり、また新たな旅が始まった。
ここ数年北アルプスの自然の雪山へとフィールドを広げ、スノーボードへ情熱を注いできた私にとって真冬はときに修行な日々でもある。最高!と心から思うこともあれば、まだまだだ…なんて思うことも山ほど。毎日鍛えてくれたホームマウンテンのネイティヴ・カモシカに挨拶し、今年もまだまだ敵わなかったな、また次の冬だ、と来シーズンに思いを馳せながら山を下りた。カンタンではないから良いのかもしれない。今シーズンもスノーボードの道は続く。

今回の旅の目的は、異国の大きな山でもっと自分のスノーボードを磨くこと。修行と経験を積み、挑戦し、を広げる旅にしよう。一路、向かうはカナダ。旅路ではいろんな出逢いがある。成田空港で会ったのは尊敬する先輩プロスノーボーダーのひとり、美谷島 慎さん。アラスカへ向かう慎さんと偶然にも同じ飛行機で、搭乗する直前まで日本食を食べ納めながら旅先の情報や山や雪のこと、現地のロコスノーボーダーのことを教えてもらった。旅の情報はインターネットやガイドブックだけではなく、実際に足を運んで肌で感じてきている人に教えてもらうのがイチバン。旅の最初に慎さんに会えたおかげで、「人に恵まれた旅になるんだろうなぁ」という予感はしていたけれど、本当にそんな旅になっていくのだった。

ウィスラーへ向かう道中、クライミングでも有名なスコーミッシュにある魔女岩。ホウキに乗った魔女がぶつかってできたと言い伝えられている

ファーストスポットはウィスラー・ブラッコム。シアトルで乗り換え、バンクーバー空港に到着。空港からウィスラーまでは直行のバスが出ていて、陽気な運転手さんとお客さん数名の和気あいあいとした雰囲気が漂う。ハイウェイ99(またの名をSea to Sky)を山に向けてどんどん登っていく。遠くに見える山々や氷河、景色を見ながらあっというまにウィスラーに到着した。早くも春の陽気だった日本から一変、雪に覆われたウィスラーはまだまだ真冬。キリっとした空気に気が引き締まる。

春シーズンになるとみんなの憩いの場となる湖もまだ冬の景色。氷の張るアルファレイク

“山を滑る” 壮大なゲレンデへ

北米最大のスノーリゾートであるウィスラーは200のコースを誇り、最長コースはなんと11キロ。まずはトレイルマップ(ゲレンデの地図)をゲットする。スキー場のトレイルマップを見ながら「ここはどんなところだろう?」とか「雪が降ったらここが楽しいんじゃないか」と想像を膨らませるのが好き。それと同時にコースを覚えたり、斜面の向きなんかもチェックし日射によって変わる雪質をイメージする。この工程をしっかり踏むと広大なゲレンデで迷子にならずに、より楽しい一本のランになる。


スキー場のトレイルマップ。改めて地図を見てイメージを膨らませる。新しいリフトも増えてたぞ
リフトのバーにもコースマップ

朝起きていよいよ山へ。ウィスラーには18歳のときに初めて来て以来春には何度も訪れているが、3月上旬に滑るのは初めて。まだまだ真冬の寒さが続く3月の山は、雪の量も違い、春とはまた少し違って見える。いよいよやってきた。ゴンドラとリフトを乗り継ぎピークを目指す。ここにしかない景色に胸が高鳴りっぱなし。わくわく。

コースの中には広大なバーンから急斜面、気持ちいいトレイル、ゴツゴツした岩のクリフやシュート、ツリーランも無数にあって、ゲレンデを滑るというより “山を滑る” 感覚。地元のキッズスキーヤーたちも岩を飛んだりシュートを攻め合ったり、まさにフリーライディングしながらプッシュし合っている。

ウィスラーのピークでの一枚。写真右側に見える星型の岩はブラックタスクと呼ばれるシンボル

朝イチはピークから南向きのコースへ降り、程よく締まったバーンを風を切りながらカービング。できる限りロングランで降りるのが最高に気持ちいい朝の一本。

広大なゲレンデでは柔らかく良い雪のところもあれば、スケートリンクのようなカチカチ、ボコボコのコースもある。荒れたバーンや綺麗なピステンバーン、硬い雪、柔らかい雪、いろんな場所をガンガン滑ると鍛えられて良い。一本の滑走距離が長いので、ボトムまで滑り降りるころには毎回足が燃えるようにパンパンに。でもその感覚すらもキライじゃないのは、もうすっかりスノーボードの虜だからなのかもしれない。

ウィスラー山とブラッコム山、二つの山からなるウィスラー・ブラッコム。ブラッコム山のグレイシャーリフトからいちばん端っこ、クリスタルエリアも密かに大好きなエリアだ。クリスタルは斜度もあり森の中やコースの凹凸、地形遊びが面白い。四人乗りのリフト、Crystal ridge expressを何度もおかわりしてしまうほど。

クリスタルの森の中へ冒険。カチカチで難しいけど楽しい

森の中へ入ると日本ではあまり見ない森の雰囲気。山火事によって立ち枯れした木とそれらを覆う苔、だんだんと再生してきている緑も。植生の違いを感じ取れるのもスノーボードトリップでの楽しみのひとつ。そんな森の中を冒険する。硬い雪のボコボコの森の中は中々ハードである。膝を柔らかく凹凸を吸収しながらショートターンで木をよけたりスピード調整して滑り降りる。あまり深く入りすぎて帰りが大変になってしまったり、迷ってしまうといけないので行き過ぎは要注意。

海外の山では “ここからバックカントリー(自然の雪山)” というロープや、崖やクリフなどの存在を知らせる “DANGER” という看板以外は比較的規制のロープが少なく、「自分で判断して滑ってね」というスタンスが基本であるように思える。整地されたバーンで滑る人、岩がゴリゴリ出た荒れた急斜面を滑る人、気持いいターンや縦横無尽に地形で遊びながら飛んだり跳ねたり当て込んだりする人。「最高~!」という場所もあれば「ここは注意だな」というようなかなりハードな修行な場所もいっぱい。安全に楽しく滑り続けるためには、どこが安全でどこが危険な場所なのかという判断も大切にしなければいけないな。

滑りながらも地形をよく観察。地形を活かしたジャンプポイントもたくさん

森から出ると壁のサイドヒットやジャンプが続く。遊び心があれば楽しさの可能性は無限大だ。沢山のスノーボードの楽しさがぎゅっと詰まった一本。こんなスノーボードがしたくてここにやってきた。日々変わる雪や状況に合わせて、目の前に広がる世界、今この瞬間の滑りを最高に楽しめる自分でいたい。いつでもどこでも楽しみを見出せるようになれば、スノーボードのスキルも自ずと磨かれていくのかも。初めて来たときよりも山が大きく広く見えるようになって、遠く離れた山や地形を見てさらにワクワクするようになってきた。これも、ウィスラー・ブラッコムに改めて戻ってきて感じた自分自身の変化だった。

後編は、初めて行けたカナダのウィルダネスと、ぽかぽか陽気になっていく春ウィスラーです。

加藤 彩也香(かとう さやか)
1992年10月11日生まれ佐賀県出身、長野県大町市在住。
10代のころから単身北海道に渡りハーフパイプ・スロープスタイル競技を経て、現在は北アルプスの麓を拠点に自然の雪山へとフィールドを広げ、作品づくりやフリーライド国際大会への参戦、自身でのイベントの企画や運営、誌面での執筆など精力的に活動中。スノーボードと自然との関りを活かし笑顔の輪を繋げていくことをミッションとし、枠に囚われないスノーボードの追求を続けている。
Sponsor: RIDE SNOWBOARDS/ OAKLEY/ VOLCOM/ AIRBLASTER(Ninja suit)/ BCA/ 装具屋ミツナガ/ 田島興産/ おおくま産婦人科/ 三根コンタクトレンズセンター/ エリカ健康道場・優光泉/ 嬉乃すし/ HAKUBA VALLEY/ Acharm