白馬が生んだ生粋のスノーボード野郎、小林優太インタビュー。大怪我を乗り越えた先に見えるこれからのスノーボードライフ。<後編>

白馬・八方尾根の裾野で実家が営む料理屋「こいや」で生まれ育った小林優太。裏庭とも言える八方の壮大な山並み囲まれ、スノーボーダーなら誰もが憧れる最高な環境で育った。そんな生粋のローカルは、白馬カルチャーに揉まれ数々の経験を重ねながら、昨シーズン大怪我を乗り越えカムバックを果たす。このインタビューでは、白馬が生んだアンダーグラウンド・ローカルヒーロー 小林優太がどんなやつかを伝えたい。
Edit: GAISU

インタビュー前編では、白馬で生まれ育った優太が今のスノーボードスタイルに行き着くまでの道のりや、彼にとって欠かせないHACHIクルー結成とその仲間とのストーリーを聞いた。後編は、ターニングポイントとなった自身の怪我、そして復活、現在のライフスタイルに迫っていく。

スノーボード人生を変化させた自身の大怪我

-HACHIに新たなメンバーも加わって。若手に色々なことを伝えながら自分もスキルアップしていった矢先、今度は優太がスノーボード人生を左右する大怪我。3シーズン前に…。
2月の終わりくらいだったかな。あの事故の理由のひとつには俺が前の日に遊んでたっていうのもあるんです。アメリカから来日した撮影クルーをアテンドするみたいな時で、次の日撮影なんだけど夜飲み歩いちゃって。あれは本当にダメでした。

-どこで怪我したの?膝だったよね?
白馬のバックカントリーで、怪我したのは左膝です。前十字、内側、後十字の靭帯が同時に全部切れちゃって。ヤバかったですよ、まだ後ろ足じゃなくてよかったけど…。アメリカから来てた撮影クルーのアーロンと、アルゼンチンのマヌーってヤツを連れて撮影ポイントに移動しようとして、俺も焦ってたっていうのもあるんですよ。クルーを連れてるし、雪が良いうちに早くスポットに連れてかなくちゃっていうのもあって。俺が先頭で超急斜面でタイトなツリーの沢を滑った時に自分が起こした雪崩に気付かなくて、後ろからボーンって足掬われました。そのまま雪崩に流されたところにちょうど木があって。木にぶつかったあとに上から重たい雪崩が来て、それで膝がブチブチブチって…。

-その日は雪のコンディションが怪しいなっていう感じはあった?
ありました。間違いなく午後は雪が重たくなってくるだろうなって感じだったんですよ。ただ、ラインじゃなくてクリフとかジャンプの撮影だったんで大丈夫かなって思って。そうしたら後ろから重たい雪崩が来ちゃって。川みたいに一気にぶわーっていう、あれ。それに後ろから来られて流されて。あの時ひとりだったら多分死んでましたね。仲間がいたからなんとかなったけど。

-色々なことへの焦りが悪い方向へいってしまったんだね。
1本滑った段階で1時とか結構いい時間になってて疲れも出て来てたんですけど、もう1本行こうかっていうことになって。それで早めにクルーを連れてかなくちゃって、ちょっと焦って冷静じゃなかったんでしょうね、その時は。完全に判断をミスった。

-怪我したあとその場所からどうやって下山したの?
もう滑って下に降りるのは無理だったんで、荷物を全部持ってもらって先に歩いてもらって自力でハイクバックしました。なんとかゲレンデまで戻って、そこから仲間におんぶしてもらって、ゴンドラまで行って。完全にやらかした感じです。さっきも言いましたけど、もうひとつの要因は、前の日に飲みすぎて少し二日酔いだったから…。二日酔いの時は絶対にバックカントリーには行っちゃダメ。若い子たちにも「それやめとけ」って言いたい。気づくの遅いけど、俺(苦笑)。

-そのシーズンは、そこで断念ってことでしょ?
長野に松代病院っていうのがあるんですけど、そこの医者がスポーツ専門で膝の名医らしくて、病院に行ったらすぐに手術しなくちゃダメみたいな感じでした。結局手術を2回してますからね。靭帯が3本切れてるんで、2本繋げて、その次の年にもう1本。まだボルトも入ってるんで、もう1回手術なんですよ。

-雪山で仲間の事故があって、自分も事故にあってしまって。その怪我で今後どうしようと思った?
言っちゃえば全部俺のミスなんですけど。どんな時も山へ入る時はコンディションを整えて焦らず冷静に行かなきゃダメですね。これが自分が怪我して学んだ教訓です。もちろん滑ることはできないし、歩けないし仕事もできないから本当に最悪だったんで。それもあって最近俺、夜はほとんど飲んでないんです。前まではパーティとかガンガン行きまくってたけど、でももういい歳こいてやめにしようって。37歳ですけど、気づくの遅せ~みたいな(苦笑)。

大怪我を乗り越え昨シーズン完璧に地元白馬の山へカムバックを果たした。 Photo: Tsutomu Endo

怪我からの復活で価値観が変わった今

-怪我を乗り越えて2シーズン前の春、久しぶりに滑れた時は何を感じた?
その日は八方のゴンドラは動いたんですけど兎平が開いてなかったんですよ。だからアルペンの下の兎平をハイクして登って1本面ツルを滑ったんです。「やっぱこれだな!」って、久しぶりのスノーボードは超最高でしたね。

-怪我した時は「もうスノーボードは無理かも」って頭をよぎったりした?
いや、それはなかったですね。絶対治して続けてくっていうつもりで色々病院探したし、手術もしようって思ったんで。滑れば滑るほど下手になることはないし、上手くなればなるほど楽しいんですよ、スノーボードって。まあ、なんでもそうだと思うんですけど。だから…もうやめられないですね、マジで。

-スノーボーダーとしての今の感覚というか。37歳にして今でも上手くなってる実感はある?
1発とかのジャンプはあんまりやらないですけど、滑りのラインの中でジャンプを入れていくとかだったら、まだまだ上手くなると思いますね。あとスプレーとか、当て込み系とかは絶対上手くなると思います。

F3のタックニーでスタイルを魅せる。37歳を迎えた今もまだ、今まで培ってきたスキルと経験が融合し進化し続けている。 Photo: Tsutomu Endo

-自分の中で「ここが一番得意」「こういう滑りは他には負けたくない」っていうこだわってるところは?
4、5年前からですけど、今の俺の中では白馬のアルパインエリアの自然地形で、滑りの中でジャンプを入れていくっていうが自分のスノーボードのコンセプトです。あとこれからは、アイゼンとか履いて4、5時間ハイクとか、なんならテン泊とかして、山で一泊して白馬の稜線沿いの超アルパインエリアのアタックとかもやりたいんですよ、俺は。ハイクもスノーボードの一部だと思ってるから、白馬のまだ滑ったことのない地形や斜面を追求したくて。まだやってない場所もめちゃめちゃあるんで、最近はそっち系に入っちゃってますね。

-その山滑りのコンセプトも、さっき言ってた流れの中でのジャンプ?
そうです、フリースタイル。まあ、その時の状況や荷物にもよりますけどね。疲れてたら当て込み系だけで降りてくるかもしれないですけど。

-そういう風に最近はやりたいスノーボーディングが変わりつつあるんだね。
デカイ山で、普段行かないような場所。好きな所がそういう場所になって来てますね、俺は。八方のバックカントリーエリアはみんな行ってるから、もっと… ラインは自分次第で無限だと思うんで、今は誰も行ってないところに行きたい。初めて行く場所で見る景色って「すげー」「なんじゃここ!」ってやっぱ感動するじゃないですか。ただそういった場所を登る技術は必要になってくるんで、そこも経験が大事なんです。あとは雪崩や山の知識とか。これからもっと勉強しなきゃなって思ってます。

HACHIクルーとファーストアタックした白馬連邦のアルパインエリア。13時にピークにたどり着き14時にドロップすると、15センチほどのスラフに見舞われ完璧ではないコンディションだったという。次はベストなタイミングを狙おうと仲間と誓った。 Photo: Alastair Piggs

-その感覚がさらに加速したのって怪我の後?
前々からいつも見てきた山だから、いつかは行くだろうと思ってました。それが怪我の後の昨シーズンぐらいからですかね。色々な繋がりやタイミングもあって、自分の中で盛り上がってきてるのは。

-じゃあ、今は結構なターニングポイントかもね。
そうかもしれないですね。結局はヤバイ景色を見てヤバイ斜面を滑ってアドレナリン出して興奮したいんじゃないですかね。仕事をしながらスノーボードでそういう場所に行けたら最高だと思う。でも怪我はしないように、事故は絶対起こさないように。だけど攻めるときは攻めたい。万全な体調で…。なんて言ったらいいんだろうな…、行ったことのない場所は感動する、やっぱりそこに尽きるのかもしれないですね。

-昨年の12月に優太が主催したHACHIの雪崩ミーティングがあったよね。それはなんでやろうと思ったの?
今までもシーズン始めにビーコン探しとかは絶対にやってたんですけど、それを普段一緒に山に上る仲間を呼んでやろうと思ったんです。今回はガイドさんに来てもらって、ちゃんとしっかりしたのをやろうよって。大体じゃなくて、探し方とかきっちりしたやつを。うちらがそういうのをやらなくちゃいけない世代じゃないですか。意識は変わってますね、だいぶ。より後輩たちを育てたいっていう気になってるってことなんだと思います。

今シーズンは海外からの来日がほとんどなく、特別なシーズンを迎えている白馬。

ローカルが見据える白馬の今。そして新たなライフスタイルの確立

-白馬エリアは年々変わって来てるじゃない。ローカルの優太としては外人が増えることに対してどういう考えなの?
難しいところですね。バランスが取れてたら良いんですけど、今の白馬って急激に人が増えた感じなんですよ…。多分このバブルは抑えられなくて、うまく付き合っていくしかないと思います。でも白馬ではそれで食ってる人もいるし、自分もその1人だし。実際外人さんの恩恵を受けてるから。今年はゲレンデには人が少ないしパウダーも余ってる。スノーボーダーとしては超最高だけど、これから生活していく中で、稼ぎがあった方がいいのはもちろんだから難しいところですね。はっきり言って、白馬で商売していない人からしたら超うざいと思うんですよ…。だからうまく付き合いたいですけど、外人さんがどこでも入っちゃうのはちょっとイラつきます。うちらも我慢してるのに、立ち入り禁止区域とか、装備を持ってないやつもバックカントリーエリアにバンバン入っちゃうのは。それに、下にいるのにいきなり上から雪崩を起こされても困るから。そういうのを分かってるやつじゃないと、バックカントリーには来て欲しくないですね…。でもうまく付き合って行くしかないです。

スピードにのった優太は絶妙なテレインを見つけてリップに当て込んだ。 Photo: Tsutomu Endo

-最近は実家が営む「こいや」でよりがっつり働くようになってるようだけど、仕事とスノーボードのバランスは自分の中でどう捉えているの?
7年くらい前から今のスタンスで実家の店を手伝いながらスノーボードをやらせてもらってるんですけど、来てくれるお客さんからうちの店のうなぎが美味いって言ってもらえたりするんですよ。うなぎの修行もしてるし、やってく以上ちゃんと腰据えてやりたいと思ってます。それに、商売をここでやっていったらこれからもっとチャンスはあると思うんです。来年は外人さんも帰ってくると思うんで。だから俺の中のイメージでは、お店をやりながらスノーボードをライフスタイルとして続けていきたいと思ってますね。ライダーとしても両立できたら最高です。少しずつですけど、この先の将来のことも見えてきてるんじゃないかなって。

地元白馬で仕事とスノーボーディングをうまく両立させながら、新たなライフスタイルを構築していく。

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Profile
小林優太(こばやし ゆうた)
1983年5月18日生まれの37歳。長野県白馬村生まれ在住。
SPONSOR: SLASH SNOWBOARD, KM4K, DEELUXE BOOTS,  UNION BINDINGS, SHRED OPTICS, ONEBALLJAY WAX, S.U.R