日本でのハイシーズンを終え、自身のさらなる進化を目指しカナダトリップに出かけた加藤 彩也香。前編ではウィスラー・ブラッコムのゲレンデを滑り、続いてはウィスラーで初めてのバックカントリーへ。見たことのない景色を見たときに感動が湧き上がってくるという彼女が雪山を滑り、自然から感じることはどんなことなのかを自身の言葉で綴ってもらった。後編はバックカントリー&春ウィスラー編をお届けします。
Text: Sayaka Kato
氷河の上の新たな世界へ
アバランチコントロールのダイナマイト音で目が覚める。昨日は数日ぶりにしっかりと降雪があった。天気は晴れ。気温は低め。数日前から楽しみにしていたこの日がついにやってきた。スノーボードの時だけはどんなに朝が早くともすんなり起きれる。朝ごはんのゆで卵と茹でたジャガイモ、バナナとチョコレートを持って出発だ。早く着きすぎてしまったため、ウィスラービレッジの中のグロッサリーストアでコーヒーを買う。1ドルのチープなコーヒーの香りが結構好き。
朝イチのゴンドラで長年ウィスラーに住むGREEN LAB.のイチロー(中山一郎)さんと合流。ゴンドラには早くも長蛇の列ができていた。パウダーを愛するスノーボーダーの情熱は世界共通だ。
天気や色んなもののタイミングがバッチリじゃないと行けないバックカントリー。何度か来ているウィスラーだけど、今日は記念すべきウィスラーでの初めてのバックカントリーの日。向かうは氷河の上のウィルダネス。Tバーから降りてさらに上へ、奥へと進む。
パックされて締まった雪を風ニモマケズ歩き続けると、ついにたどり着いた稜線から広がる “こっち側” の景色。広大なカナダの山々や氷河がはるか遠くまで見えて、次はあそこに行ってみたい、あっちはどうだろう?と、また次の楽しみも広がっていく。
初めて見る景色と出逢う瞬間はいつも言葉にならないほどのうれしさや感動がある。知らない世界を自分の目で見て、胸の奥で感じて、芽生える何かやこれからの糧となる何かがあるならば、ここへ来て良かったと心から思える。ウィスラーのゲレンデを滑っているときは「山を滑る」感覚だったけれど、さらにその先へ進むと「地球を滑ってる」ように感じた。
まずはカリカリの雪面と小さな岩が点在する斜面を降りる。雪もゲレンデとは別物だ。そこから先は硬い雪の上をトラバース、トラバース。雪の上ではスノーボードを履いて多くの時間を過ごしてきたから、板を脱いで斜面を歩くときはとても緊張感がある。岩の熱で溶けた水分が固まって急激なアイスバーンになっているところがあったり、日本とはまるで違う山の地形や雪質。まだまだ知らないことばっかりだ。
一歩づつ踏みしめながら滑落注意の斜面をハイク。師匠イチローさんからは歩き方も教えてもらった。無事に着いた先に広がっていたのはボウル地形の大きな斜面。雪庇からドロップインすると、この場所にたどり着くまで滑ってきた硬い雪とは一変、柔らかい良い雪のあの感覚が体を包む。柔らかい雪に柔らかい滑り。開放の瞬間。最高に気持ちいい数十秒がもっともっと長く感じられた。
滑り降りてきたみんなとハイタッチ。こういうセッションを通してお互いにプッシュし合ったり最高の時間を共有できるのもスノーボードのたまらなく幸せな瞬間。こうして笑顔で無事帰還。真冬の空気の氷河の上から下界へ降りると春の陽気に満ちていた。
冬から春へ。まだまだ滑れる大好きな春ウィスラー
カナダで一番長い期間営業しているウィスラーは春も楽しみが沢山ある。夏のマウンテンバイクのコースの上に雪が積もり、みんなが滑ったラインでさらに良いコースに育った森の中のバンクドツリーランはまるでジェットコースター。ウィスラーのゲレンデの森の中にはこんなふうにして出来たコースがいくつもあって、それを見つけたり、また新たにコースを作っていくのも楽しい。
こっちの山で出会うスノーボーダーたちに教えてもらったことのひとつは「遊び心」。自分では想像もつかなかったような自由な滑りや遊び方に「これもスノーボードだ!」っていうフリースタイル・スノーボーディングの無限の可能性と楽しさを感じさせられた。
山に向かって今日もありがとうございました、と挨拶して下りる。今日も良い一日だったなぁ。
アフタースノーも広がる輪
スノーボードトリップがより濃くて面白い旅になる要素としてとても大切なことは “人との出逢い” でもあるように思う。英語はまだまだ勉強中だが下手だからこそ、穏やかにしっかり目を見て話すように、目が合えば笑顔で挨拶するようにしている。同じようにスノーボードを楽しんでいると、言葉の壁を乗り越えて仲良くなれるのも不思議なチカラだ。今回のスノーボードトリップでは沢山の友達が出来た。かけがえのない宝物。
ちなみに、ウィスラーでは定期的に音楽を愛する人たちのパーティーが開催されている。こういう交流の場があったのも、みんなで滑った後も楽しむ時間を共有できる友達が増えていった理由のひとつ。憧れのムービースターもみんな笑顔で自然と輪が広がる。
ゴンドラ乗り場の建物にあるGLCで開催されているOld school hiphop nightでは、長年ウィスラーでDJをしていた大好きなDJ Mat the alienもプレイしていて、最高にカッコいい音楽にもしびれまくりだった。せっかく異国の地に来ているなら、その土地の文化や風土、ローカリズムを感じるのも旅の醍醐味だ。
旅のつづき
今回の旅のファーストスポットであるウィスラー。何度来ても新しい景色を魅せてくれる。スノーボードの持つ可能性はきっと自分次第でどんどん広がっていくのだろう。
この旅はカナダBC州内陸をぐるっと回った旅路へと続く。毎日の風を肌で感じながらワイルドな旅を続けてきた。旅の続き “クートニー編” は、今冬発刊のフリーダムマガジン “HAND” で綴らせてもらってます。ぜひ手に取ってもらえたらうれしいです。
スノーボードと、かけがえのない瞬間との出逢いを求めて
スノーボードだから刻めるライン、スノーボードだから行ける場所、魅せられる滑りや背中。まだ見ぬ景色と未知のスノーボーディングを探し当てるという冒険はどこまでも続く。こんなにも熱くストークできる瞬間。スノーボードと共に見える世界、滑り続ければ滑り続けるほど広がる楽しみがある。今年の冬はどんなシーズンになるんだろう。自分のワクワクセンサーを頼りに雪の流れに身を任せてどんどん行ってみようと思う。旅のつづきの始まりである。
加藤 彩也香(かとう さやか)
1992年10月11日生まれ佐賀県出身、長野県大町市在住。
10代のころから単身北海道に渡りハーフパイプ・スロープスタイル競技を経て、現在は北アルプスの麓を拠点に自然の雪山へとフィールドを広げ、作品づくりやフリーライド国際大会への参戦、自身でのイベントの企画や運営、誌面での執筆など精力的に活動中。スノーボードと自然との関りを活かし笑顔の輪を繋げていくことをミッションとし、枠に囚われないスノーボードの追求を続けている。
Sponsor: RIDE SNOWBOARDS/ OAKLEY/ VOLCOM/ AIRBLASTER(Ninja suit)/ BCA/ 装具屋ミツナガ/ 田島興産/ おおくま産婦人科/ 三根コンタクトレンズセンター/ エリカ健康道場・優光泉/ 嬉乃すし/ HAKUBA VALLEY/ Acharm