ニュージーランドで魅了されたスノーフィールドカルチャー【その1】

DSCF3137 日本では100%有り得ない山や雪、人々が築き上げてきたスノーカルチャーの存在。それは、旅を嗜む僕らスノートラベラーにとっては一度は見て感じたい場所だ。僕のスノーボードスタイルの根元にあるものは様々な場所を滑り学ぶ事にある。ニュージーランドに存在するクラブフィールドには自然がありのままに残されたフィールドと、そこで継承されるコミュニティ、それらが僕のニュージーランド熱を再発させてくれた。旅の記録をここに記す事でその魅力を伝え、誰かの旅立ちを後押し出来ればと思う。
text: 藤田一茂

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ニュージーランドに再び恋をした

僕がニュージーランドにハマったのは今回が2度目だ。1度目はハマったというよりは練習というか大会というか、ニュージーランド南島の西側にあるワナカやクィーンズタウンという街でパークに熱中しコンテストにも身を投じていた頃だった。多くの同世代や同じ思考のスノーボーダーが世界中から集まるその場所には素晴らしいパークや沢山の誘惑があった。仲間とパークを滑り、遊び、それはそれで忘れられない日々を過ごした。

それから時が経ち趣味嗜好も変化し、今、2度目にハマるきっかけとなった場所は南島のほぼ中心に位置するクライストチャーチから北西に約70km。クレイギーバーン・フォレスト・パーク周辺に位置するクラブフィールドと呼ばれる場所達だ。日本人やチャラい奴、女子とはほぼ無縁である事と引き換えに、本当に長年雪山を愛するナイスガイ達と自然のままの美しい山々、滑るには欠かせないハイキングと山での1杯、ありのままの雪山を楽しむ事が出来る環境がここにはあった。クラブ員で運営されるそのフィールドは完全に上級者専用で、リフトではなくロープトゥが架けられた非圧雪の山々がドッシリと僕らを迎えてくれる。昨年の旅で完全に僕のハートを鷲掴みしたそのフィールドに僕は再び恋をした。

クライストチャーチでレンタカーをピックし走らせる事、約1時間。エアビーアンドビーで借りた家はザ・ニュージーランドな家で、馬を3頭と犬2匹、鶏多数、競走馬を飼育している家の離れだった。東側には広い牧草地、地平線から昇る朝日に照らされる素敵な立地、夜に現れる満天の星空もニュージーランドならではだ。朝6時に起きてまず布団から出る前にする事といえば ”Snowhq” というニュージーランドのゲレンデ情報サイトをチェックする事。ほぼ全てのゲレンデが6時前後には情報を更新し、降雪や天気、道路のコンディションやライブカメラ、知りたい情報を全て知る事が出来るチョー便利サイト。日本ではあまり道路情報は気にしないが、ニュージーランドのスノーフィールドへのアクセスは容易でない為に道路情報のチェックはマストだ。スタッドレスタイヤも無ければ、道路も舗装されていない。ガードレールのない崖のオフロードを数キロ~十数キロ走るところだってある。これは普通のゲレンデであってもクラブフィールドであっても同じで、雪が降った日のチェーンはマスト。日本ではほぼ見ることのない鉄の鎖全開の重たいチェーンを泥でドロドロになりながら装備して、いざゲレンデまでの最後の道を登って行く。

クレイギーバーン・フォレスト・パークの山々や景色は、僕が旅した中ではカナダの北部やアラスカに似ているが、山の雰囲気だけで言うと北海道の十勝岳や富山の立山だろうか。しかし、真冬でも緑色の広い草原と白い山が眺められるのはニュージーランド独特な風景なのかもしれない。南島中央の南に位置するカンタベリー地方では街に雪が降ることはほとんど無く、広い平野の北に並ぶ山脈の中腹から上部にのみ雪が積もる。冬の日中の気温の例を上げると、クライストチャーチは標高数十mで15℃、僕が暮らしたダーフィールドも12℃辺りで、冬といえども日中の街中はTシャツで過ごせるほどだ。そこから1~2時間車を走らせた標高1500~1800mのゲレンデでは-3℃と標高による温度差が大きい。ちなみに、ニュージランド全体の人口は487万人で、面積は268,021km²で日本の約4分3の大きさ。南島で最大の街、国内3番目に大きいクライストチャーチの人口は約39万人。北島にあるニュージーランド最大の都市オークランドには約150万人。北海道の人口が約530万人なので、のどかなイメージのある北海道と比べても遥かにのどかな場所だと言える。羊、牛、草原、想像を膨らませて欲しい。一度街を出れば先が見えない真っ直ぐな道が数十キロは続く、目に映るのはひたすら牧場。そしてまたポツンと小さな街にたどり着く。まるでドラクエのような世界観だ。

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クラブフィールドとその場所を愛する人々

ニュージーランドには2種類のスノーフィールドが存在する。1つは日本にも多くある営利を目的としたフィールド ”コマーシャルフィールド” 、そしてもうひとつがクラブ員の年会費やボランティア、寄付によって運営される ”クラブフィールド” だ。両者の間に位置するようなフィールドが存在する事も確かだが、その場所も元々はクラブフィールドだったと聞いている。数名の常駐のスタッフを除き、ほとんどがクラブ員のボランティアで運営されるそのフィールドの設備は、自然がありのままに残されたフィールドを楽しむ事が出来る最低限の設備だ。ハット(レストハウス)がひとつ、圧雪車もあったり無かったり、リフト係りは基本的には居ないし(たまにボランティアか親切心でやっている人がいる)、ランチも朝に予約し昼に提供されるが、その時間もフィールドサイドの都合で日々変わるのも当たり前。ランチを作っているメインシェフ以外はその時泊まりにきているメンバーがボランティアで働いている場合が多く、そういった貢献を初め、掃除の時間や週末の人が多い時の様々な手伝いなど、その場所にいる多くの人々が何らかの形でそのフィールドの維持に貢献している。クラブ年会費の仕組みの例をあげればイメージが膨らむだろうか。マウント・オリンパスの場合、年会費が200ドル+1~5日のワークパーティ(ボランテイア)に参加する必要があり、もし1日もワークパーティに参加出来なければ+400ドル。1日のみ参加した場合は+200ドル、2~4日の場合は0ドル。夏に2日+冬に3日以上ワークパーティに参加できればシーズンパスを貰えるようにもなったりもする。そうやって1年を通してクラブ会員のメンバーが貢献する仕組みがある事がこのフィールドを維持する力になっている。また、1日券の値段もメンバーは30ドルだがノンメンバーは75ドルと差別化され、ハットに泊まる値段も倍以上違っている。考え方に寄れば単にシーズン券を買ったり1日券を買って滑る方が ”楽でお得” だったりするかもしれないが、このフィールドが健全に保たれている理由はクラブメンバーの ”この場所を残したい” という熱い想いや所属意識、代々受け継いできた ”責任感” があるのかもしれない。そして、このクラブフィールドには ”お客様へのサービス” という考えは存在しない。気の知れた友人の家に遊びに来たかのような居心地の良さを感じるのは ”みんなで作り上げている場所” だからなのだろう。

運営方法に大きな特徴があるクラブフィールドだが、実際に滑る場所や斜面へのアプローチ方法も大きく異なる。天然の山のままに残されたフィールド(ほとんどのゲレンデは整地されている)、そしてそこに架けられたロープトゥとナッツクラッカーという日本では馴染みのない存在が最も違うところだろう。もし初めての人だけで行った場合、現地でその方法を教えてくれる人と出会えなかったら中腹にあるハットまで辿り着く事すら困難な代物。そんな特殊なリフトを攻略する鍵は、経験者と行くか現地で親切な人と出会うか。稀に教えてくれる人がいる日もあるが、それはラッキーな場合だと思っていた方がいい。去年、僕は密かにYoutubeで勉強してから行ったが、実際に目の前を走るロープトゥの速さに驚きビビっていた。教えてくれる人がいた為に何度かやれば慣れてきたが、日本にある速めのチェアリフト並みの速さでロープは回っているし、乗ったら乗ったで次から次へとくるプーリーは手元から15cm先を通過する。初めは指やウェアを挟まないかとヒヤヒヤが止まらなかった。そしてナッツクラッカーを抑える手はかなり疲れる。握力の弱い小柄な女性や子供はなおさらだろう。始めのうちは滑る事よりロープトゥ、ナッツクラッカー。滑る頃にはバテている人が大半だ。過去の事故で全てTバーに置き換わったフィールドもあるようだが、もちろん現在も50年以上変わらず子供からおじいさんまでナッツクラッカーを愛用している場所も多くある。日本ではほぼ認められないであろうそれは、流石のニュージーランドでも新設は認められていないのだという。「もしかしたら5年後には今のままじゃ営業出来なくなるかもな」、なんて言う声も聞いたくらいだ。でも僕はなんとなく大丈夫だと思っている。クラブフィールドは今も昔もこの状態で運営され、ここには今も多くの笑顔が溢れている。雪山と人、フィールドが作るコミュニティの価値は昔から何も変わっていない。そして、この場所で育ちこの地を愛する人々が築いた歴史がこの場所の必要性を物語っているからだ。

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ボロボロのソールと引き換えに得られる経験

降雪の少ない今年は滑れない場所も多く、岩を沢山踏み付ける事もあったが、それでもクラブフィールドには変わらぬ魅力が沢山あった。1ヶ月の滞在でまともな降雪は1回。20~30cm程度。でも、木が無い山々の雪は風が吹くと移動し、山のどこかには常にフレッシュトラックが存在していた。「この風が吹けばここに雪が溜まる。今日はあそこが良いだろう。今日は絶対どこも硬いから行きたくない」。僕らは少しでも柔らかい場所を求め沢山歩いた。借りた家からアクセス出来る7つの山の様々な場所を日々選び、そのフィールドの隅々まで巡った。雪を知り雪を楽しむ。自然がありのままのフィールドを遊ぶのは簡単ではないが、そこがスノーボードの面白さでもある。予測を楽しみ、あらゆる雪を楽しむ。自然を遊ぶとはそういう事だ。歩く時間が増えると必然的に滑る量は少なくなるが、その分得られる事も大きかったように思う。山の稜線付近まで掛かっているロープトゥを乗り継ぎ、トラバースとハイクアップを繰り返す。クラブフィールドを滑るには欠かせないハイクアップは、1日にトータルで2~3時間。最初のロープトゥまで1時間歩くフィールドだって存在する。時間をかけ雪を求めるからこそ、1本の滑りを噛み締める。柔らかい雪と硬い雪、そして岩。しっかりと雪をみて状態を即座に判断しボードを雪に沈める。ソールから伝わる雪の感覚に自ずと敏感になるものだ。それにロープトゥでは両足のビンディングを着けてロープに引っ張られ滑りながら登るので、登りも滑っている状態だ。ビンディングを外すのはハイクアップかハットで休む時だけ。日本では決して味わう事の出来ないスノーボードの環境があり、それを経験することがここに来た意味でもある。

ニュージーランドの友人もここの雪は本当に分からないと言っていた。過去には10月に3m降った事だってあるらしいし、それは突然やって来たり来なかったりと気まぐれのようだ。実際に僕らも天気予報にはかなり悩まされた。20cmの降雪予報が出ても実際の降雪は3cm。そんな事が何度あった事か。それでもニュージーランドでは、Fresh Snow!と張り切ったキャッチコピーがリフト券にプリントされていたり、SnowHQには ”今日はとても柔らかいコンディションです!最高な週末を!” なんて書かれていたり。それがニュージーランドスノーカルチャーなのだ。

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初めて訪れる者達

今回の旅ではクラブフィールドに訪れた事のないプロライダーやゲストを連れて滑っていた。それは僕が好きな場所を見て欲しいという想いの他に、ここでのスノーボーディングは、必ず彼らに良い影響を与えられると考えているからだった。そしてこの旅で彼らは口を揃えて、「すごい」「ワイルド」「優しい」「マジっすか?」「疲れた」「来て良かった」と言っていた。彼らの声は次回にお届けするとして、ここはそういう場所なのだ。ゲレンデとバックカントリーの中間に位置するフィールド、そこにあるコミュニティ。スノーボーディングは単に滑って「イェー!」だけでは無く、もっと沢山の世界を繋げてくれる道具であり、人生を豊かにしてくれるものだと思う。

場所ごとにある魅力を楽しむ事がスノーボードを更に魅力的にする。僕がスノーボードを好きになり続けている理由はそこにある。新しい世界を求めてスノーボードを持ち旅をする。それは国外や国内であろうが、日帰りや何ヶ月であっても同じ事だ。そんなスノーボードをしている自分を想像してみて欲しい。きっと忘れられない冬になるんじゃないかな。

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41171188_258370375013484_9051480483526868992_n 藤田一茂(forestlog)
旅を好むスノーボーダー。様々な場所を訪れスノーボードと旅の魅力を体現している。 Forestogを主謀し映像制作やデザイン、物書きなども行う。趣味は写真と家庭菜園。日々の暮らしはInstagram(@forestlogd)にて配信中。
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