笑顔と涙が入り混じったキッズ大会「天下一飛武道会2022」

スノーボードの楽しさは、必ずしも笑顔だけで表現されるわけではない。目標に向かう真剣な眼差しも、ときに悔しさをにじませる表情も、緊張に耐え挑む姿も。すべてにいつか訪れる “楽しい” 瞬間が内包されている。それを子供の頃から肌で感じることが大事である、と企画されたキッズのための大会。当日現場にはどんな感情が溢れ、子供はなにを感じたのだろうか。自身の息子、トラも出場していた上田ユキエのレポートで、当日の空気をお伝えする。

Photo&Text: Yukie Ueda


冷たい空気に季節の移り変わりを感じる10月。秋晴れの空の下、長野県小布施に数多くの子供たちが集まった。この日小布施クエストで開催されたのは、天下一飛武道会。長野・諏訪にある横乗り系プロショップ「ココパーム」が長年開催してきた伝説の大会イベントだ。地元のスノーボードシーンの活性化に尽力しながらキッズシーンも盛り立ててきたココパームが、大人のための天下一飛武道会を、キッズのための大会として復活させたのだ。

天下一飛武道会は16年間も続けられていた伝説のワンメイク大会。キッズ限定で開かれたのは今大会が初めて
大会を主催したココパームのボス・武田軍曹(右)と、S.U.R三松社長(左)
この大会を盛り上げるべく駆けつけた、スノーボードメーカーの面々

会場には朝から多くの人が集まっていた。ブースを準備するスノーボードメーカーの人たち、ライダーたち。そして出場する子供の親御さんたちが運営スタッフとして活動する姿があった。『参加者運営型イベント』と称する今大会は、子供たちに “大会” というものを肌で感じさせることを目的としている。子供の心が揺さぶられる感動体験をさせ、将来彼らが大人になったときに同じようにキッズの育成をしたり、大会やイベントが出来るようになるまでをストーリーとして思い描いているのだ。

親御さんを含む受付ガールズ
年齢層の幅広いココパームライダーたち
ココパームのボス、武田軍曹からの始まりの挨拶。子供たちも緊張の面持ちで耳を傾ける
恒例のラジオ体操でみんなの表情が少し和んだようだ

参加者は、普段小布施クエストに通っているローカルキッズがほとんど。しかし、子供たちの表情はいつもとなにか違って見える。今回の出場者は、「これはいつも練習しているみんなの発表会でもあるんだよ」というボスの言葉で出場を決めた、大会初出場という子も多い。”いつも感じている楽しさ” だけでない別の感情をそれぞれが感じているのだろう。

女の子たちもこんなにリラックスした表情を見せてくれていたが
出番直前はスタートを待ち切れない様子で、やる気がみなぎっている
クエストアカデミーでコーチをする面々が予選ジャッジを務める

ビギナークラスに挑戦する選手は幼稚園児から小学生低学年がメイン。小さな体と緊張感溢れる瞳がたまらなく可愛かった。

こんなに小さなキッズもスタート台に立てば立派な選手だ
これから繰り出す技をイメージしているのか、緊張と戦っているのか。進む先を見据えるキッズ
パパたちもボランティアで選手をサポート

大会はビギナー、オープン、スペシャルの3クラスに分かれ、着々と予選がおこなわれていく。上手く着地して勝ち上がった選手はファイナルへと駒を進める。その先に待っているのは、今大会の一番の見所となるトーナメント方式での決勝戦だ。

この夏初めて小布施クエストに通い始めたこうちゃんもビギナークラス初出場
決勝進出者を決めることになるジャッジ陣。真剣に話しあいながら点数をつけていく

ここで今回のゲストライダー、17歳の渡部陸斗が登場した。2020年のジュニア世界選手権で世界を制したスロープスタイルライダーのリクトは、みんなの想像を超える高難度のトリックを華麗に決めまくる。呆気にとられる子供、歓声をあげる子供。ファイナルステージを前に、リクトは子供たちに強烈な刺激を与えてくれた。

リクトの繰り出すトリックに、キッズたちは釘付けに
目を輝かせる子供たちに向かってコブシをつきあげる

決勝のジャッジを務めたのは協力メーカーの皆さん。その中にプロライダーの小西隆文も混ざるという豪華っぷり。選手たちがすがるように見つめるなかで勝敗の旗揚げをするのは相当なプレッシャーだっただろう。

プレッシャーに包まれながらも公正なジャッジに徹するメーカーの皆さん&コニタン

普段は立てるのに緊張で失敗してしまう子。練習してきたことを全力で出せた子。対戦相手の気迫に押されてしまう子、逆に相手を自分の空気に巻き込む子。

自分をキープして力を出し切れた子が勝利の2文字を勝ち取ったのだ。

優勝者、キオ
ガールズライダー、じゅり
トラもしっかり見せつける

興奮に包まれた現場には涙と歓声が入り混じっていた。大喜びする姿、悔しくて泣き崩れる姿。そこにはドラマがあった。子供たちは思い切り感情を出しまくり、それをお互いが感じとっていたようだった。

悔し涙を流す子に声をかけ、同じ出場者でもある子供同士でたたえあう
互いに肩を組んで自分の勝利を祈りながらジャッジを待つ
勝敗が決まった瞬間、大きな歓声が湧き上がった
オープンクラスの優勝者が決まった直後、グータッチで健闘をたたえあう
スペシャルクラスの優勝を勝ち取ったリント、渾身のガッツポーズ

表彰式には大会に出場した子供たちだけでなく、この日併催されていた「滑ろ~会」に参加した人や親御さんも集まった。そして、ここでスケートボーダーの永原悠路がゲストとして登場。今年4月に日本で初開催されたX-GAMESでの快挙はみんなの記憶に新しいだろう。

カテゴリーは違えど同じ横乗り。『辛い時もあるけれど、それを乗り越えれば楽しいことがいっぱい待っているので、負けずに頑張ってください』マイクを握ったユーロから、子供たちへの応援メッセージが響いた。

ユーロからの熱いメッセージに真剣に耳を傾ける子供たち
子供たちに夢と希望を与えてくれたユーロ(左)とリクト(右)

表彰された子供たちにはスクレイパーで作られた特製のトロフィーと賞金が授与された。勝った子は本当に嬉しそうに顔を綻ばせ、それを見つめる子供たちの表情にもまた、いろいろな思いが滲んでいるのが感じ取れた。

<ビギナークラス> 優勝: 佐藤 湊(8歳、小3) 2位: 両角虹青(9歳、小3) 3位: 山田 琉唯(6才、年長)
<オープンクラス> 優勝: 木本輝生(11歳、小5) 2位: トリステム(12歳、小6) 3位: 荒川仁那(11歳、小5)
<スペシャルクラス> 優勝:三國琳大(14歳、中2) 2位:横沢豪大(14歳、中2) 3位:関根慧和(11歳、小6)
各クラスの優勝者に賞金も授与。後ろには嬉しそうな笑顔を浮かべるボス

「子供たちに感動体験を与え、子供たち自身がどう感じるかが重要だ。結果がどうあれ、壁を乗り越えて目標にたどり着きたいと思う気持ちを引き出したい」そう話していたココパームのボスが最後に子供たちに送ったメッセージは、この日この場にいた多くの人の心に響いただろう。

ボスからの締めのメッセージ。子供たちだけでなく、会場にいた全ての人に届いたはずだ

『今日は勝った人も負けた人もいます。負けた人は悔しい思いをしたと思います。でもこの悔しさが一番のバネになって強くなれるんです。この先、大人になってからも色々な体験をすると思いますが、今日感じた気持ちを思い出して、今日の結果を次に繋げてください。勝った人も負けた人も、全員が今日の優勝者だと思っています』(武田軍曹)

子供も大人もコーチも、小布施クエストのローカルがひとつになってたたえあった。みんなが率先して協力した大会運営のことだけではなく、転んで肩を落とす仲間に声をかけたり、喜びを分かちあったり。一体感がこの場で伝染していたように思う。

アスリートを目指す子供たちの成長が著しい近年、親御さんも含め、競い合う現場にはどこかピリピリしたものが漂っていると感じる。他人と比較して自分の位置を確認することが優先されているような。それよりもお互いをたたえあい、認めあいながら戦うことで、もっと大きな自信とやる気が湧いてくるのではないだろうか。正々堂々と戦って心から涙したり、喜びを溢れさせたこの日の子供たちが、近い将来どんな世界を作っていくのかが楽しみだ。

悔しさに泣いていた子たちも、最後はみんな笑顔に。地域の絆、ローカルの絆を目の当たりにした素晴らしい大会だった。

当日の様子はこちらの動画からチェックできます!