先だっておこなわれた北京オリンピックには、戸塚優斗、平野流佳、冨田せな、るきの4名のライダーをハーフパイプ競技に送り出したYONEX。全員が決勝に進出し、女子では冨田せなが日本女子ハーフパイプ史上で初の銅メダル獲得という結果を残した。
スノーボードの製造を開始と共にYONEXでは積極的に選手育成に力を注ぎ、中島志保、青野令といった選手もオリンピックの舞台へ送り出してきた。同時にYONEXでは「RIDE ON! YONEX CUP」を石打丸山スキー場で20年以上も継続して実施し続けている。各ゲレンデのあちこちにハーフパイプが造成された全盛期という時代を経て、現在は減少傾向にある中でも、石打丸山にはガンホー・モンスターパイプが存在し、ハーフパイプを極めたいというスノーボーダーの貴重な練習場所となっている。そういった部分でもYONEXがおこなってきた「RIDE ON YONEX CUP」は確実に大きな影響力を与えてきたと言えるだろう。
実際に戸塚優斗や平野流佳も「RIDE ON!」の参加経験があり、現在の彼らもこのイベント起点として成長してきたことは間違いない。
今回「北京2022冬季オリンピック出場選手デモンストレーション」は、「RIDE ON YONEX CUP」がおこなわれる前日、3月5日(土)に南魚沼市の主催で開催。石打丸山に総工費約1億8千万円をかけて、完成した高さ6.7m、全長160m、ナイター照明完備という国内最高峰のハーフパイプを使ってのデモンストレーションも合わせて、日本のスノーボードシーンに大きな影響力を与えてくれたライダーたち(戸塚優斗、平野流佳、冨田せな:冨田るきは参加できず)を集め、凱旋報告がおこなわれた。
INTERVIEW
戸塚優斗(YUTO TOTSUKA)
ここ数年数々の大会で優勝を重ね、北京でも大いにメダルを期待されていた戸塚。本人も金メダルを目標に実力を上げ、実績を重ねてきた。しかしながら、北京では決勝の舞台で実力を出し切れずに悔しさを残した結果に終わった。1ヒットのFSダブルコーク1440からCABダブルコーク1260、スイッチBSダブルコーク1080と繋ぐ、最高難度のルーティーンを持ちながらもクリーンにメイクすることが出来ず。その胸の内は?そして彼はここからどう動くのだろうか?
>北京オリンピックを終えて、今は気持ちは?
「もちろん悔しい気持ちはいっぱいです。でも、競技は楽しめたという実感はあります。そして、オリンピックの舞台ではいろいろな経験ができたと思いますし、それは自分の成長に繋げられると思っています」
>初めてのオリンピックだった平昌のときと比べての自分は?
「平昌のときは緊張し過ぎて、何をやっているのかも見失うほどでした。でも、今回は冷静にいることが出来て。ちょっと緊張感が高めのワールドカップみたいな感じで臨めたという感じです」
>今年の戸塚くん自身の調子はどうでしたか?DEW TOUR優勝の後は、表彰台という結果を出せていないようですが
「今年は自分がやったことがないルーティーンにトライしたり、もっと難易度を上げることに挑んでいた感じです(スイッチBSダブルコーク1260から入って、CABダブルコーク1440に繋ぐとか)。それが上手く決められずに結果は残せていないんです。でも、挑戦した結果なので、それは何もマイナスには感じていないです」
>DEW TOURで戸塚くんは優勝決めたわけですが、一方で平野歩夢選手はトリプルコークを見せた。その時の印象は?
「トリプルをやるとは思っていなかった。だから、遂にやるのか。。その時代が始まったんだという感じでした。正直怖くなりました。そこのリスクを冒してこれからは進まなくてはならないんだなっていう」
>そこからオリンピックまではどんな風に進めたのですか?
「もちろんトリプルの精度も含め、ひとつひとつの技の精度を上げる練習に打ち込みました」
>ファーストヒットのFSダブコーク1440の完成度は極まっていますね
「あれは楽勝です。打ち過ぎってくらいやっているので、ミスすることはないですね」
>でもオリンピック決勝では、そこから繋いだCABダブルコーク1260がクリーンにメイクといかなかったようですが
「気持ちパイプは開いていました。朝、公開練習で滑ったときに気が付いていました。「違うな」と思いながらも、そこを合わせていけなかった」
>実際にトリプルを入れたルーティーンは考えていたのですか?
「最後のFSダブルコーク1260のところにトリプルを入れようと思っていました。最後の方が難しいから。スピードもキープして自分で流れを上手くつくっていかないと最後にトリプルを打つことは難しい。だからこそジャッジにアピールできるかなという考えがありました。自分のルーティーンでは途中はスイッチで繋ぐので、最初か最後という選択なんですが、あえて最後に打つと決めて準備はしてきていました」
>これまで以上に難易度の高いものに挑まないとオリンピックでは結果が出せないと考えていたのですか?
「周囲のレベルもどんどん上がってきて、もっと上げなきゃ、それをやらないと勝てないというのはわかっていましたから」
>どんどん高回転や難易度に向かっていくと、スタイルという部分への注目が薄れていくように思われます。それは以前「スタイルも磨いて、カッコいい滑りをみせたい」という思いからは離れていきますよね。そこについてはどう思いますか?
「そうですね。回転すればするほどカッコ良くはなくなるかなと思います。でも、それを低回転にしたら勝てないというのが現状なんです。USオープンのように最初がモディファイドのようにスタイルを見せられるセクションがあればいいのですが、普通のパイプは5発、だからどうしても高回転、高難易度でいかなければ勝てないからやります。僕自身はそういうスタイルを入れたライディングもやりたいという気持ちは強いのですが。だから、ルーティーンでもCABダブルコーク1260とかを入れて、自分らしさを出したいと思ってやっています」
>さらに高難易度の時代に突入して、そこに向かっていく中でどんな思いを抱えていますか?
「恐怖しかないですね。でもやらないと勝てないので、やるしかないですね」
>新しいボード「REV」の調子は?
「もともと調子が良かったので、新しくなったのも大きく変わったという感じではなく、今までのいいところにさらに良さがあるという感じです。硬くないとヘタってしまうし、自分が高さを出すには反発力がかなり大事だと思っているので、そういう部分がさらに良くなっています」
>ボードのアートワークも手がけたという話ですが。
「真ん中の部分は僕が描いて、周りをアーチストの人に仕上げてもらいました。僕自身ラク書き的なに絵を描くのが好きなんです。服とかに描いたり。今回はとにかくカッコ良いデザインにしたいと思い、ボードの中心には狼をと山を描きました」
>最後に今後の目標は?
「トリプルを試合で決めていないので、決めたい。スイッチで繋ぐルーティーンの精度も磨きたいし、今年トライしていたルーティーンも完成させたい。あと、自分の技の中でもCABダブルコーク1260は難しい技なので大事にしていきたい。CAB1440よりも難しいんです。いろいろ挑戦しく中でも自分らしさを出して、さらに上を目指していきたいと思います」
INTERVIEW
冨田せな(SENA TOMITA)
USAカッパーMt.2位、マンモスMt.WC3位、スイスLAAX WC4位の後、X-GAMEの優勝、さらに北京オリンピック銅メダルと好調ぶりを続けている冨田せな。ルーティーンの高さとラストヒットで見せたFS1080は、世界のトップとしての実力をしっかりと示している。
>今シーズン、いい結果が出せていると思いますが、以前の自分と比べていちばん変わったなと思うところはありますか?
「今までいろんな人に「自分の滑りに自信を持て」ということを言われてきていたんですが、今シーズン徐々にいい結果も出せて、気持ちの面でも安定して、落ち着いて、いい雰囲気で毎回試合に臨むことができているところだと思います」
>すごくエアーの高さも出ているように思いますが
「はい、出るようになりました。平昌オリンピックが終わった後の4年間、ウェイトトレーニングはしっかりやってきました。フィジカル面はだいぶ向上させることが出来ました。そこを上手く高さに結びつけることができるようになっていると思います」
>振り返るとX-GAMEの決勝1本目では最後で転倒して、だいぶダメージがあったのでは?
「あの瞬間、息が止まっちゃって、だいぶ苦しかったんです。痛くて、体もバキバキになってて結構ダメージもあったんですが、最後まで滑りきりたいという思いでやりました」
>その2本目では、その痛みの中でしっかりと攻めましたね。
「やりたいことをまだやれてないという思いがあって、怖かったけど、攻めていきました。最後はFS1080まで入れたいと思っていました。実はLAAXのWCで、そこまでやって点数が伸びないという悔しい気持ちがあって、だからもう一度やってリベンジしたいという気持ちでした」
>そのX-GAMEで結果を出せたことが、北京オリンピックに向けての力になったと思いますか?
「そうですね。技の部分も自信を持てましたし、気持ちも安定してきました。そんな好調が少し怖い部分もあって、どこかできっとバチ当たるんじゃないかな(笑)と思ったりもしましたけど。でも、そのままの感じでここまでこれました。まだバチは当たってません(笑)」
>北京オリンピックはやはり平昌のときとは気分は違いましたか?
「そうですね、今回のオリンピックに関しては、前のときほどは緊張していなかったと思います」
>X-GAMESとオリンピックだと、やはり気分、緊張の具合は違ったのですか?
「気持ち的には同じだったと思います。ただ、今回の北京の会場で以前怪我した経験があったので、そこからくる恐怖心が強かったです」
>北京での決勝は1本目から、X-GAMESの優勝ルーティーンで攻めていきましたね
「決勝、あと3本、滑ったら終わりと思っていたので、攻めていきました」
>妹(るき)も同じ決勝の舞台にいたこともプラスになっていましたか?
「そうですね。気持ち的にも少し和らぎました。「ずっと一緒に出たいね」と言っていた大会に出れたという嬉しさもありました」
>1本目からメイクできて、それでいけるかなという雰囲気はありましたか?
「いえいえ、全然です。2本目ではみんな難易度を上げてくるだろうと思いましたし、自分も自分の滑りの高さと完成度を上げるという思いを持って滑りました」
>それだけの高さを自分で出せるようにするために、特にトレーニングしたところとかありますか?
「特にということはなくて全部なんです。上半身、下半身、すべてをバランス良く。私自身怪我も続いていたので、例えば肩を脱臼したら、肩のリハビリもしつつトレーニングしましたし、トレーニングによって怪我も減らすことができていると思います」
>ボード(YONEX「SLEEK」)も新しい形になり、調子はどうですか?
「もともとすごく乗りやすく感じていましたが、私の感覚で新しいボードは軽く感じていて、さらに調子がいいです。私自身昔からハーフパイプだけでなく、パークやジブもやっているんですが、全てSLEEK1本。なんでも出来るボードで調子がいいです。
>女子でもさらに難易度が上がってきていますよね。そういう時代で大会に出ていて、技に挑戦することに対して怖いという気持ちはあるのでしょうか?
「今でも怖い気持ちはいっぱいです。だからこそ基礎をしっかりやって、少しずつ技に慣れていく。トライするときは自分の気持ちとも相談しながら、コンディションの良い時にやります。今まで怪我をたくさんしてきたので、もうしたくないという気持ちも大きいので無理はせず、慎重にやっています」
>ハーフパイプ自体が好きという気持ちについてはどうですか?
「パイプだけということではないですが、大会も楽しいと思います。それ以上に滑るのが好きなんです。練習がない日でも滑りに行きますし。「スノーボードが好き」という気持ちでここまでやってきているので、その気持ちはいつまでも大事にしたいと思っています」
>冨田さんが目指すスノーボードのスタイルとは?
「私はずっと男っぽいカッコ良い滑りが好きなんです。そういうのを目指してやってきたつもりなので、力強く。さらにルーティーンで全部違うグラブをするようにとかグラブとかにも拘りをもって、スタイルも見せていきたいと思っています」
>クロエ・キム選手は1260を回してきましたが、冨田さんもそこを目指そうと思いますか?
「今のところは1080でいっぱいいっぱいですね(笑)。でも彼女は怪我していて1年間も滑れなかった時期がある中でオリンピックに合わせてきて、誰もやらない1260をやってきた。凄い。リスペクトします」
>今、世界にもさらに名前が知られるようになって、これからどんなスノーボーダーを目指しますか?
「スノーボードをやってもらえる人がもっと増えるといいなと思っています。いろいろなかたちでスノーボードの魅力をたくさんの人に伝えたいです」
>ここまでくる上で、一番の支えとなったのは?
「家族、トレーナーやコーチ、サポートしてもらっているメーカーの方などたくさんの方に支えられてきました。とにかく私自身、JWSC(全日本ウインタースポーツ専門学校でスノーボードを学んで、そこで沢山の人と出会いが繋がって、卒業してもトレーニング見てもらいながらやってきました。ひとりではここまで来れなかった。周りからの支えには本当に感謝しています」
RIDE ON! YONEX CUP ハーフパイプ大会
このイベントの翌日に行われた「RIDE ON! YONEX CUP ハーフパイプ大会」をMCを務めたプロスノーボーダー・藤沼 到がレポート
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こんにちは、プロスノーボーダーの藤沼到です
2022/03/06 石打丸山スキー場で行われた「RIDE ON! YONEX CUP ハーフパイプ大会」にMCとして参加しました。
このイベントは21回目の開催を迎える非常に歴史のあるイベントで、先に開催されたRIDE ONワンメイク大会、RIDE ONテクニカル大会に続くシリーズ戦の最終戦となるハーフパイプ大会。
今シーズンは北京五輪で世界中を感動の渦に巻き込んだ事も記憶に新しい、YONEXチームの看板ライダーたちも一堂に会するビッグイベントで、平野流佳、戸塚優斗、冨田せな、さらにジャパンチームの快進撃を陰で支えた青野令日本代表コーチの姿もあり、日本を代表するライダー達が集結しました。
オリンピアン以外にも先日のプロ戦高鷲スーパーパイプクラシック優勝の口寸保 頼央、ハーフパイプコンペで培った経験を活かして様々な現場で活躍する山形泰聡、板だけでなく圧雪車も自由自在に乗りこなし様々なゲレンデに人気パークを生み出してきた大竹延王、参加ライダーで唯一RIDE ON!第1回大会を知るYONEX Snowboardsの生き字引テリーコブラこと安藤輝彦といった豪華ライダー陣がこのイベントを成功させるべく石打丸山に集結していました。
YONEXとFLUXの来期モデルが試乗できる試乗会も併催され、ゲストライダーたちにも賞金が出るライダーズバトルなる企画も開催。イベントとしての見所が盛り沢山なRIDE ON! YONEX CUPになりそうという期待感いっぱいの中…当日は朝から突風が吹き荒れる強風&強い降雪。
公開練習が開始される頃にはジャッジテントが吹き飛びそうになり、急遽ハーフパイプに向かって二台の圧雪車を駐車させ、ジャッジを行う山形プロ、青野プロ、口寸保プロ、ヘッドジャッジ大竹プロの4人は圧雪車の運転席からジャッジを行うことになりました。
風は強いがどうにか競技はできそう!という判断で、この日MCを務める私藤沼到&安藤テルさんは圧雪車の隣で野ざらしMCを敢行!雪により準備していた資料を広げられないため、
到の横では常にYONEXスノーボード営業部西村次長がサポート。スタートリストを確認し、どの選手がスタートしてくるのか、また選手が書いてくれた情報を伝えてくれました。
新雪が常にボトム内にたまるので選手達の板はスピードが乗らず、多くの選手がエアーを繰り出すのが困難な状況になりましたが、選手全員が1本目の試技を終え、イベントはいよいよライダーズバトル一回戦に突入。
ライダーズバトルはYONEXライダーが1対1で対決、先攻後攻に別れたライダーが1本ずつ滑り、オーディエンスの中から急遽指名されたジャッジがその場で勝者を決めるノックダウン方式で行われました。
>冨田プロVS青野プロ
多彩なリップトリックやTOフェイキーなどで燻し銀のスタイルを見せた青野プロに対しクリーンなグラブやエアーで魅せた冨田プロが勝利。
>戸塚プロVS山形プロ
スタイリッシュなグラブトリックからフロントtoフロントとなるお洒落な動きを魅せた山形プロに対し、お洒落トリックを被せるように魅せる戸塚プロ。しかし強風&猛烈に降りしきる強い雪にボトム内の視界はほぼ0に…そんな中にうっすらと消えていく戸塚プロが「でんぐり返りした!」とMCのテルさんは言っていました(笑)しかし!勝者は戸塚プロ!
>平野プロVS口寸保プロ
ボトム内にたまった深い雪のせいで板が全く走らない中、二人ともオーディエンスの声援に応えるべく流石の滑りを見せて、どちらが勝ってもおかしくない状況ながら勝ったのは高鷲プロ戦優勝の勢いにのるこちらも絶好調の口寸保プロ!
これで一般参加者&YONEXライダー陣、この日滑走予定の参加者全員が一本のランを終えて、2本目に突入!数名の選手が2本目の試技を行いましたが…いよいよボトム内がジャッジ席から完全に見えない状況が長く続くようになり大会は一時中断。およそ30分のウェイティングタイムが設けられましたが、状況の改善は見られず予定通りイベントを続行が困難とのこと。ここで第21回RIDE ON! YONEX CUPの競技は終了となりました。
表彰式にはYONEX株式会社米山会長の姿もあり、表彰式でプレゼンターを務めた3人のオリンピアン達から豪華な商品が入賞者に贈られました。
この日ゲストライダーたちは多くのキッズライダーに囲まれて、笑顔で写真撮影に応じている姿がとても印象的でした。
イベント終了時、白くバリバリに凍りついた到&安藤テルさんのビーニーがこの日の激しい天候を物語っていましたが、天候以外は全てが順調で素晴らしく平和で穏やかで参加者全員が笑顔になれるイベントとなりました。
きっとこの素晴らしいイベントはずっと続いて、現在光り輝くYONEXライダー達のような素晴らしいライダー達を生み出すイベントになるだろうなと感じました。