またこの季節がやってきた。上田ユキエと水上真里、プロスノーボーダーの女ふたり旅の季節だ。昨年大好評だった本連載企画は、彼女たちが日本のしっぽり渋い雪山を探し求め、食や温泉を重視した大人の旅である。
アメリカのマンモスマウンテンへ移住した上田ユキエは、海外で日本のことを説明するときに必ず「2月がベストシーズンだよ!」と伝えているらしい。彼女にとって晴天率などは二の次で、とにかくこの日本の素晴らしい雪質とハイシーズンの雪深い雰囲気を満喫できるのがこの時期だからだ。そのベストシーズンである2月中旬、上田ユキエは日本へ帰国し、水上真里と合流した。今年彼女たちが選んだ旅先は、近年密かに注目を集めている東北だった。
Text: Yukie Ueda
Special Thanks: 箕輪スキー場、ホテルプリミエール箕輪、K2 SNOWBOARDING、Gnu snowboarding
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スノーボード1本持って旅に出よう!
アメリカに嫁いだ私と、いよいよ年貢を納めた真里(笑)。女の人生あれこれも道中のトークへ満載に詰め込んだスノーボードトリップ。大人になった今の私たちだからこそ見せることのできる世界をお届けしたい。
世間ではアラフォーと言うのだろうか。独身だろうと子持ちだろうと、幾つになっても私たちがスノーボーダーであることには変わりない。日本にはこんなに素晴らしい景色があり、雪がある。スノーボード一本持って旅に出よう!そこには人生を彩ってくれる刺激と感動が待ち受けているから。
旅のスタートは東京である。私の実家へ迎えに来た島根ナンバーのパーティーバニー号。昨年同様に女の車とは思えぬ走行距離を誇る、気合の入った真里の車だ。
再会と旅の実現を祝いハグして車に乗り込むと、さっそく私たちの爆弾トークが始まった。
真里と私はかれこれ24年来の付き合いになる。初めて日本で篭ったスキー場で一緒だった当時10代の真里と21歳の私。あの頃は若くて真里からの敵対心をビシビシ感じていたが(笑)。いつしかかけがえのないスノーボード仲間となっていった。結局スノーボードが大好きな同士なのだ。育った環境も年齢も違えど、その共通点は私たちの距離を縮めて「仲間」と呼べる関係にしてくれた。
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途中高速のパーキングに立ち寄りご当地グルメをつまみながら走るのも旅の醍醐味だ。1週間の旅で3キロくらい太ることは想定内だ。旅に出て美味しいものを我慢するのはパウダーを目の前にして迂回路を滑るようなものだ。楽しんだ分あとから取り返せばいい、と前向きにご当地グルメを食す。
東京から東北道に乗り、北上。約3時間半走ると最初の行き先となる福島県二本松へ到着した。
この地のローカル案内人はこの人しかいない!と平 学(たいら まなぶ)さんを捕まえた。福島でプロモーターとして活動する平さんは、ライダーとして活躍しながらショップ経営やゲレンデプロデュース、イベント企画運営など何でもこなしてきたスノーボード界の異端児だ。人並み外れたタフさと行動力、打たれ強い前向きな姿勢は私の人生のお手本のひとりでもある。
そしてもうひとり、この地でスノーモービルのプロとして活動している鷲倉温泉の若旦那、後藤淳志(ごとうあつし)くん。福島の熱い部分を熟知するこのおふたりが、私たちを案内してくれることになった。
お昼に東京を出て明るい時間に到着。まずは観光しようということで霞ヶ城(二本松城)、智恵子抄の跡地などを歩き、この地にまつわる歴史を拝見した。旅とは不思議なものである。今まで知らなかった土地なのに、知ることでこの土地への愛着が湧く。夕食は平さん絶賛の、福島で有名な若武者ラーメン。お店のボスが休日なのに出てきてくれて、壁いっぱいに貼ってある有名人の色紙と一緒に私たちのサインを飾ってくれた。こういうのが嬉しいのだ。地元の方たちとの触れ合いが、旅の印象を濃くしてくれる。益々この地へ親近感を抱いた私たちは、帰りに酒屋で「福島産」という表示のあるワインを買った。日が暮れて深々と雪が降り始める中、私たちは旅の始まりに乾杯をしてぐっすりと寝床に着いた。
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ホストからのプレゼント
1日目は箕輪スキー場へ。このゲレンデのツリーランは秘密にしておきたいくらい最高の穴場である。朝から真っ青な空が広がり、昨夜降り積もった雪は想像以上に軽かった。
フカフカの真っ白な雪と青空に向かっていくリフトに乗った私たちは、テンション絶好調だった。パノラマに広がる絶景を見下ろしながら気持ち良く滑る。雪質は飛び上がるほど最高だ。
1本目からさっそく箕輪の誇るツリーランを堪能しながら足慣らし。これが足慣らしだなんて勿体ない!と思うほどのツリーラインを滑る。リフト一本分のコースが長くて大満足できた。
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2本目は少しトラバースしようということになり、私たちは平さんのラッセルの後を付いていった。雪は深く、一歩一歩足元は深く沈む。キツいがこの雪の感覚が嬉しくてたまらない。ふと平さんが立ち止まった先で振り向いて、一言。
「はい、プレゼント。」
覗き込むとそこには最高な斜度のオープンバーンが広がっていた。福島訛りのそのセリフが憎すぎて、その瞬間から彼らは私たちの「ガイド」から「ホスト」へと改名されたのだった(笑)。
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極上の雪面。ノートラックのオープンバーンに踏み込んでいく瞬間は快感だ。箕輪に降り積もった雪はシャンパンのように軽いのに、踏み込むと弾力を持っていた。私はこのパーフェクトな雪面へ、本能の赴くまま滑り込んでいった。こんな瞬間、自分の中に潜む動物的な感覚が暴れだす。雪面を、木の中を、感覚を研ぎ澄ませながら走り抜けていく。真っ白な大自然のキャンバスに私のラインを描いた。
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真里はその小さな体からは想像できないパワーを出していく。彼女の背後に巻き上がる雪煙はその体の何倍にもなり、本当にこの体が巻き上げたものなのかと疑いたくなるほどだ。前夜に降りつもった雪で真っ白に化粧した山に包まれながら、「この景色を見てここに居られるだけで、私はラッキーな人生なんだって思い出したよ」と、真里は言った。
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福島のホスト達はガイドだけでなくその高い滑走技術でパウダーの追い撮りなど、素晴らしいおもてなしをしてくれた。彼らの滑りは大迫力だった。相変わらず平さんの滑りは上手い、と惚れ惚れする。一緒に滑ると本質が見えるような気がする。平さんのように情熱を持って大好きなものを仕事にし続けている人はそう多くはない。大人になっても大切なものは離さず持ち続けていくべきだと彼から学んでいるのは私だけではないだろう。
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スノーモービルでプロ活動をするあつしくんは、とにかく力強い。まるでエンジンが付いた乗り物のようにスノーボードを操り、雪の中を加速させて物凄いパウダーを上げてくるのだ。彼がモービルを乗り回す姿を彷彿させるのである。
時間が経ち太陽が移動するにつれ雪質は変化する。ホスト達はそれに合わせてベストな斜面を次々と案内してくれた。私たちはお腹がいっぱいになるまで箕輪のパウダーを満喫した。
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女を揺さぶるロマンチックでメルヘンチックな経験
初日から極上のパウダーですっかり体も心もいっぱいになり、ホテルのお部屋に入った。
ホテルプリミエール箕輪は、ゲレンデからそのまま入れる直結型ホテルだ。荷物を抱え、疲れ果てた足を引きずるようにチェックイン。しかしお部屋に入った途端私たちのテンションは再度上昇!外観からイメージしていた洋風なイメージを大幅に上回るメルヘンチックな内装にキャーキャーはしゃぐ。女のふたり旅はこんな要素でグンと楽しさを増すものだ。
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窓の外にはライトアップされたゲレンデが広がっている。これは滑りに行かない手はない。さっきまで「もう歩けない~」と引きずっていた足の疲れなど忘れ、私たちは顔を見合わせ「軽く、行ってみる?」と微笑みあった。
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夜のゲレンデはどうしてこんなにロマンチックなのだろう。真っ白な雪がライトアップされて幻想的な雰囲気を醸し出す。まるで貸切のような広いバーンにゆっくりとそれぞれのラインを刻んだ。ナイター前に一度圧雪しなおした斜面はとても滑りやすい。調子に乗ってオフピステに入ったら冷えて硬くてビックリしたが、それすらも私たちを少女のようにキャーキャー笑わせる出来事だった。私たちは何もかも楽しめる女子高生に戻ったかのように始終はしゃいだ。
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思ったより楽しくて夕食の時間ギリギリに部屋に戻った私たちは、ファーストレイヤーを脱ぎ捨て持ってきた精一杯のアイテムで着飾りレストランへ向かう。ここでは美味しい和食コースもあったが、今夜は洋食をチョイスした。お洒落なお料理に合う赤ワインを選んだ私と、瓶ビールの真里。「量的に…」だそうだ(笑)。私たちは、「雪最高だったね~」「美味しい~」と、何度も笑い合いながら美味しいディナーをいただいた。
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直結ホテルのいいところは、スキーインスキーアウト。これは凄く贅沢だと思う。疲れたら部屋に戻り、気分が乗ったらブーツに履き替え表に出ればいいのだ。部屋の窓から相棒を眺めることだってできる。もちろん雪を望む露天風呂だってある。こういう贅沢な楽しみ方もアリだなと、大人の女たちはしみじみ感じる滞在となった。
東北・女ふたり旅 〜福島・箕輪編〜 MOVIE
東北 女ふたり旅 〜箕輪ホテルナイター編~ MOVIE
箕輪セッションを終えたふたりの旅は次なる目的地「鷲倉温泉」へ。 はたして、次のポイントではどんなフィールドと出来事が待っているのだろうか?
続く。
次回は1週間後に「〜福島・鷲倉温泉編〜」をUPします。 お楽しみに!
上田ユキエと水上真里の女ふたり旅、昨年の北海道編はこちら
★PROFILE
上田ユキエ(左)
1973年1月22日生まれ。カナダウィスラーでスノーボードを始め23年、ハーフパイプやビッグエアーなどの競技を経てバックカントリーの魅力にはまる。現在はアメリカに移住し5歳の息子を育てながら自らのプロ活動を続ける傍ら、キッズと母親のプロジェクト(LILKIDS&MAMA)や日本の若手をアメリカで経験させるキャンプ(CALI LIFE CAMP)などを運営している。
SPONSOR: K2 SNOWBOARDING, Billabong, MORISPO SPAZIO, NEFF, RONIN, ZOOT, CORAZON SHIBUYA, LALALATV
水上真里(右)
1976年7月17日生まれ。高校の交換留学生として行ったNEW ZEALANDでスノーボードと出会う。パイプ、ストリートレール、スロープスタイルを経て、現在はバックカントリーを中心に滑る。怪我で数年間滑れなくなったことをきっかけに都内や雪山でスノーボーダー達が楽しめるパーティー(PARTY BUNNYS)やイベント(SHREDDING GIRLS)を開催している。
SPONSOR: GNU, NORTHWAVE, DRAKE, WESTBEACH, SPY, BLACKDIAMOND, SBN FREERUN, SHREDDING GIRLS, PARTY BUNNYSイベント, 赤羽ファースト歯科