大塚 健と岡本 航の10代の戦士たち。Yukie HouseのSnowboarder’s Diary Vol.5

1月、マンモスマウンテンに16歳のタケル(大塚 健)と18歳のワタル(岡本 航)のふたりがやって来た。健はスロープスタイル、航はハーフパイプ、いずれも日本を代表する選手である。今回彼らがやってきたのは、USグランプリ出場のためだ。航は早い時期からこの大会に狙いを定め、出場認可が下りる前に渡米を決めていた。健に関しては間際になって急遽出場が決定し、ふたりはマンモスにある我が家(Yukie House)に来ることになった。彼らはそれぞれにこの大会出場への熱い想いを抱えていた。
Text: Yukie Ueda

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大会前の二人。既に大会慣れしている彼らは特に緊張せず常に自分のペースを保っていた
USグランプリでのそれぞれの戦い

種目の違うふたりだが、今回のUSグランプリに出場する唯一の日本人ライダーだ。そんな彼らは、大会前後の緊張した時間を我が家の同じ部屋で過ごしてもらうことになるため、それぞれに一応確認をした。

「岡本 航くん知ってる?」「大塚 健くん知ってる?」と。

すると、それぞれの答えはこうだった。

「幼なじみみたいなもんです!」「メチャ仲いいです!」。

そんな偶然もあるのだ。彼らも驚いていた。ふたりは小さな頃から最寄りの室内施設で共に滑り、いつしか別々の競技にのめり込み、今回この場で再会し、それぞれの戦いに挑むこととなったのだから。
わずか15歳でバートンが世界中から厳選した若手チームKilroyに抜擢された健。14歳でハーフパイプを始め15歳の頃には日本の代表選手の位置に登りつめていた航。まだ若いふたりは既に輝かしいトップの地位を味わってきた一方で、今回のオリンピックの選考から外れてもいた。この年齢で味わう栄光と挫折は一体彼らにどんな影響を与えてきたのだろう。彼らの今回の大会に賭ける想いは想像以上に強く、自分の力をもっと試したい、証明したいという想いが込められていた。

なぜこの大会に出たかったのかと聞くと、ふたりは声をそろえて言った。

「出れる大会がほとんどないんです」。

世界トップレベルの大会で、ということだ。彼らはそこで戦うことしか考えていないのだった。

「世界の場で自分の実力を試したい、でも試せる場が少ないんです」。

その言葉からは、「挑戦したい」というより「証明したい」というニュアンスの方が強く受け取れた。日本を代表するチームに入っていなければ、まだ若い彼らにはチャンスが少ない。海外の大きな大会で成績を出し、認められていけば大きな大会に招待され出場できる可能性も出てくる。だからこそ、彼らは自分たちの手でそのチャンスを探し、そこに可能性があれば自分ひとりでも挑戦しに行くのだった。

 

お互いをサポートし合うふたり

16歳の頃、18歳の頃、自分は何をしていただろう。どんなことを考えていただろう。若い彼らを見ていると、大人たちからそんな言葉が漏れる。事実、彼らは自分のことはすべて自分で行った。朝からベーコンを焼き、夕ご飯はふたりで餃子を包んだりしていた。時間が空いた隙に洗濯物をして現地のマネージャーや友達とやり取りして情報を得ていた。本来はもっと頼ってくると思っていた通訳もほとんど必要とせず、時に「これってどういう意味でしょうか?」と聞いて来るものの、ほとんど自分たちでやり取りしていた。

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18歳の航(左)と16歳の健(右)。アメリカのスーパーでも自ら材料を選び自分たちで日本食を作る
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この日は餃子定食。丸い餃子の皮は売ってなく、四角い皮で苦戦し爆笑しながら包んでいる。双方手つきは手馴れたもの

その姿は大会の場でも見て取れた。他のライダーたちと声を掛け合い、笑いあう姿があった。まだ言葉数は少ないかもしれない。でもそこには日本人として劣等感や疎外感を持った若者ではなく、彼らと同等に同じ舞台に堂々と立つライダーの姿だった。それが何だかとても誇らしかった。

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コーチやチーム員に囲まれる他国の選手の中、それぞれの競技でたった一人ずつの日本人選手となった
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オリンピック出場をかけたアメリカ勢トップ選手がズラリと並ぶ

そしてお互いがお互いの競技本番をサポートし合う姿にはジーンと込み上げるものがあった。公開練習はそれぞれを追い撮りし合い、リフトの上で映像を確認しながらもっとこうするべきだと話し合っていた。スタート位置には必ず相棒の姿があり、精神的にもサポートし合っていた。周りから見るとそれぞれがコーチに見えるところが面白くて笑えたりもした。

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スロープスタイルのスタートでは常に健をサポートする航の姿があった
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シビアにライディングの良し悪しをわかっているからこそ、お互いに信頼しあったアドバイスができる
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先ほど決勝を終えた16歳選手の健がどう見てもコーチに見えるところが面白い
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スロープスタイルのコースをハイスピードで追い撮りする滑走技術もまた、選手同士ならでは

健と航だからこそ分かり合える何かがあると思えた。競技が違うというのも今回の彼らにとってのメリットだったはずだ。健もハーフパイプ競技をやっていたからよく分かっているし、航もスロープスタイル競技に対して技術も知識も持っていたから、技に関しても熟知し合っていた。

 

行動するものにチャンスは訪れる

チームメイトも居ず、コーチもトレーナーも居ない10代のふたり。彼らはお互いをサポートし合い、健と航はそれぞれ見事決勝の舞台へと勝ち上がった。USグランプリはアメリカのオリンピック代表を選考する大会でもあり、アメリカのトップ選手がすべて集まっていた。その中で決勝へと進出する日本人の彼らを私は誇らしい気持ちで見ていた。

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スタートにコーチが居なくても、ジャッジの特性や他の選手の情報が得られなくても、彼らは動じずに落ち着いて自分のライディングを魅せつけてくれた
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巨大キッカーに全く物怖じせず即座に自分のものにする健、決勝2本目でフロントトリプルコーク1440を決めた
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群を抜いたスタイルで人目を引く、航のバックサイドトゥウィーク
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航のこの笑顔を見たら、彼らがこの場で滑れることの喜びが伝わるだろう

結果はスロープスタイルで健は4位。表彰台に手が届く実力だったことは見ていた周りの誰もが感じただろう。実際その場で健は数日後に行われる最高峰の大会、X GAMESの参加に声がかかり、ウェイティングリストのナンバーワンとして大会後にアスペンへと旅立った。

航はハーフパイプで8位。決勝は土曜日の夜にナイターで行われた。その夜マンモスのゲレンデは最高潮に盛り上がっていた。大勢の観衆が集まる舞台にたったひとりの日本人選手が堂々とアメリカ人たちを湧かせていた。スクリーンに映るトップスターのような航の姿。私の周りで観戦していた女性陣に「彼最高にキュートね!」と羨ましがられたくらいだ(笑)。

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観客スペースはもの凄い人混みで身動きできない程。大勢の観客が見つめるスクリーンには航が映し出されていた
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高さとスタイルのある、フロントサイド1260で観客を魅了する航 Photo: minaretphoto
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この大舞台でも堂々と自分の滑りを魅せた航。滑っている本人が一番楽しそうだった

「こんなに楽しい大会は初めてです!」滑り終えた航は最高な笑顔でこう言った。決勝で残したリザルトはもちろんの事、彼らのスノーボード人生にとって大きな経験となったであろう。彼らの自信と感動に満ち溢れた笑顔を見て、この若者たちはまたひとつ大きく成長したんだと感じた。それは、彼ら自身の闘志と行動力があったからこそだ。

オリンピックに向け盛り上がる日本代表選手の裏に、こんな形で闘志を燃やし、海外で実力を見せ付け認められている若き戦士たちもいる。彼らが目指すのは、世界の舞台。それがオリンピックだろうとそうでなかろうと、彼らは全力で自分の力を出して戦うのだ。日本の10代の若き選手たちが、自分の足でここまでやって来て、自分の手で掴んだ栄光。こんなに盛り上がる大会と、そこで光を浴びる選手たちがいることを、もっともっと日本のスノーボーダーたちに伝えたい。

IMG_2431★プロフィール
右)大塚 健
2001年4月2日生まれ。スノーボード歴9年。
Sponsor: Burton, Quest, Murasaki Sports, MK
主なリザルト: FIS 全日本選手権BA優勝、World Rookie Tour優勝、Euro Cup SS優勝、Euro Cup BA2位、US grand prix4位

左)岡本 航
1999年3月10日生まれ。スノーボード歴10年。
Sponsor: SALOMON, 686, SMITH, FOOTLAB, SOCIETY01,  FLYHILL, ISLET, 緑園都市整骨院, KT TAPE
主なリザルト: 14-15 FIS 全日本選手権 HP3位、15-18 Rev Tour Copper mountain優勝、15-16 US open出場、US grand prix8位

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★この記事のライター

上田ユキエ
1973122日生まれ。東京出身。カナダウィスラーでスノーボードを始め24年、ハーフパイプやビッグエアーなどの競技を経て、ガーズルムービープロダクション “LIL” を立ち上げ日本のガールズシーンを牽引。結婚を機にアメリカへ移住し6歳の息子(トラノスケ)を育てながらプロ活動を続け、現在はバックカントリーの魅力にはまり国内外の様々なフィールドを開拓中。20174月マンモスマウンテンに拠点を移し、よりナチュラルに山の近くで家族と新たな生活をスタートさせている。
Sponsor: K2 SNOWBOARDING, Billabong, MORISPO SPAZIO, NEFF, RONIN, ZOOT, CORAZON SHIBUYA, LALALATV

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