上田ユキエと水上真里の東北・女ふたり旅 VOL.3 ~宮城・松島編~

上田ユキエと水上真里、プロスノーボーダーの女ふたり旅。大好評の本連載企画は、彼女たちが日本のしっぽり渋い雪山を探し求め、食や温泉を重視した大人の旅である。
今年、彼女たちが選んだ旅先は、近年密かに注目を集めている東北エリア。旅の前半は福島県の箕輪スキー場や鷲倉温泉を訪れ、その土地のローカルと最高の時間を過ごし福島を後にした。さらに車で北上したふたりは、宮城県の松島へと向かった。この地は山岳地帯ではなく海岸エリア。311の東日本大震災で大きな被害を受けた場所である。日本人のスノーボーダーとして東北トリップで訪れる意味のある場所だと話していたふたり。
今回は特別編としてこの場所への想いをそれぞれに綴ってもらう。
Text: Yukie Ueda
Special Thanks: K2 SNOWBOARDING、Gnu snowboarding

7年後の東北へ

311の震災、原発、まだまだ記憶に新しいがあれからもう7年になる。
その直後に我が子が生まれ、ただニュースや噂で見聞きする被害に恐怖を感じていた。いつかきちんと自分の目で見てみたいと思い、足を運んだ一昨年。現実に目を背けるのではなく、この土地で自分で見て感じたことを伝えていきたいと思った。それが長年日本のスノーボーダーとして国内海外で活動してきた今の私たちに出来ることのひとつではないだろうかと。

福島県から北上する途中で、どこか海の方へ寄りたいと考えていた。今の東北の海辺の様子を見てみたかったから。代表的な被災地の名前も候補に挙がっていたが、結局私たちは特に決めず、旅の流れに身を任せることにした。行きたい場所に足を運び、見たいものを見て食べたいものを食べてこようと。そうして吸い込まれるように流されていった先は、宮城・松島だった。

ダミー
自然と流れてたどり着いたのは、いつか来たかったと心のどこかにあった場所、宮城松島

松島や、ああ松島や松島や

なんという美しい島々がここに存在していたんだろう。旅はすればするほど自分が知らなかった美しさがこの世に存在していることに気づき、もっと違う場所に行ってみたいという欲望が掻き立てられる。
松島は世界中飛び回ってきた私たちをそんな気持ちにさせてくれるのに充分な魅力を持った場所だった。

車を停め、はしゃぎながら歩く大人の女ふたり。よく年配の女性達が友達同士で旅をしている姿を見かけることがあるが、彼女達の気持ちがわかる。きっと友達同士の旅はいくつになっても気持ちが変わらないんだろうなと思う。10代20代だから楽しかった旅があるし、今だからこそ楽しめる旅もあるのだ。

「日本三景」と呼ばれる松島の景色に見入った。松島湾には島々や地形が入り組んでいて、不思議であり美しい情景が広がっていた。昔習ったリアス式海岸という言葉が久しぶりに頭をよぎる。そしてその美しさの中に、震災の際に津波の被害があったことも感じ取れた。

ダミー
思いがけず出会えた、松島の美しい景色

雨まじりで寒かったけれど、こんな時スノーボーダーの女達は強い。もしも街で綺麗な靴と洋服に見を包んでいたらすぐさま室内に駆け込むところだが、私たちは雪の上でも滑らない冬のブーツを履き、私はビーニーとフードジャケット、真里に関してはスノーボードウエアーのジャケットで颯爽と歩いている。言っておくが、れっきとした「街用」である。旅支度はスノーボードギア中心のため、その他は必要最低限な私たちの旅荷物はちょっとしたアイテムで「街でも使えるファッション」に見えるよう、長年工夫しているのだ。
デート中の女の子が乱れる髪型を気にし、高い靴で彼に隠れながら歩く隣を、私たちは何ならスキップでもしそうなくらい軽快な足取りで歩き回った。旅には靴が重要だということも、旅を続ける女の知恵である。

ダミー
旅慣れた女同士、どこに行くのも何をするのも身軽だね
ダミー
店頭でおばちゃんが焼いてくれる魚介類!歩いていると美味しい匂いが漂ってくる
ダミー
松島といえば、牡蠣なんですね〜。大きい!

あっちこっち歩き回ったらお腹が空いてきた。松島名物の魚介類の磯焼きなど美味しそうな候補に目移りしながら歩く。
牛タンと書かれた看板を見た途端、私たちの心は決まった。やはり肉食(笑)。入ったお店は居酒屋風で思わずビールを頼みたくなったが旅の途中なのでそこはぐっと我慢。肉厚でやわらかい牛タンを頬張り、テールスープに感動し、心もお腹もホカホカになった。そして時計を気にし、慌ててまた海辺へと向かった。

ダミー
分厚い牛タンに感動〜!テールスープも美味しかった。やっぱり肉食(笑)
ダミー
牛タンの塩漬けだったかな。これは完全に酒のつまみですね(笑)

旅に出る前に実家で、地図の中にある松島を見つけていた。何気なく隣にいた母に、「ねえ、松島って行ったことある?」と聞くと、若い頃に行ったことがあるという。船でたくさんの小さな島を見て回ったのだと話してくれた。
ふと現地の観光船の呼び込みのおじさんの声と母からの情報が一致した。「ねえ真里、船に乗ろうよ!」衝動的に誘ってみると、「いいね~」あっさりと乗ってくれた。

ダミー
まさかの観光船!「ユキエちゃんといるとまるで新婚旅行してるみたい(笑)」
ダミー
寒い甲板であちこち指差しながら、感動しっぱなし!
ダミー
有名な仁王岩。帽子をかぶってキセルを加えたような姿に見えるんです
ダミー
津波によって崩れた岩なども見えました。自然の威力と強さが心に響きます
ダミー
約1時間、ゆったり船に揺られました

牛タンも雨の散歩も良かったが、何よりこの遊覧船がこの地を知るための最適な手段だったと後で気づくことになる。この美しい島々を見なければ松島は語れなかった。
船からの景色は大して下調べをしていなかった私たちを驚かせた。次々と海の先に現れる島々。不思議な形をした岩。興奮してあちこち指差しながら、私たちは冷たい海風のあたる甲板にどれだけ出ていたことだろう。
そしてそこにもまた震災の爪痕があった。津波により崩れた岩。どれだけの破壊力を持っていたのかと身が凍りつく思いがした。そして、それでもこれだけ残っている美しい情景に、計り知れない強い力を感じたのだった。今もまだここに暮らす人々がいるということにも。

ダミー
船から見る松島湾は、私たちに深い感情を与えてくれました
ダミー
賑わう観光地松島に佇む、慰霊祈念碑。ここも震災による津波の被害のあった場所

 

スノーボーダーとして、日本人として

ダミー
オフの松島観光は、東北での貴重な1日となりました

「私たちは、スノーボーダーです。スノーボードを通じて知り合った仲間、滑った山、その歴史に東北なくしては成立しません。
今回こうしてまた東北に行ってみたいと思ったのは、そこに仲間と雪山があることが大きな要素でした。
東北の雪、東北訛りの仲間たち。ここには心から美しいと思える情景も、世界に誇る雪山もあるんです。ここでいろんなことを感じて生きてきた人たちの気持ちを同じように分かることはできないけれど、この地を踏みしめて感じる気持ちは確かなもので、他人事だとは済ませることのできない思いが込み上げてきます。
私たちに出来ることは何なのか。出来ることの大きさはわからないけれど、ここに足を運ぶことで、この目で感じた素晴らしさを伝えることは私にもできるから。
私たちは日本人。スノーボーダーである以前に、ひとりの人間。海の外の世界に飛び出しても、日本が故郷であることは変わることはありません。私たちの故郷を、仲間や家族のいる日本を、大切にしたい。自分で見て感じ、自分の声で少しでも多くの人へ伝えていきたいと思います」 上田ユキエ

ダミー Yukie Ueda Photo: Haruo Abe
力いっぱい踏み込んでも包み込んでくれる、東北の雪 Yukie Ueda Photo: abe haruo

 

ダミー
百聞は一見に如かず。だから私たちは旅を続ける

「私自身、初めて訪れる土地でした。大小260余りの諸島がある宮城県の松島は、日本三景の一つとなるほど美しい場所でした。東日本大震災で被害が軽傷だったのは、『リアス式海岸』が理由の一つだったそうです。百聞は一見にしかず。実際に見てなるほどなぁと思いました。島々が沢山散らばっていて津波の勢いを島々が防ぎ弱めたということ。
松島に寄ることが決まったのは、わずか数分前のことでした。
『ねぇ、せっかくだから降りてみない?』『うん、そうしたいね!』とすぐに車を停めて松島観光する事にして。
綺麗な景色や新しい景色をみたいし、その土地の文化も食も楽しみたい。もともと女ひとり旅が好きなうちらが一緒にふたり旅しているからこそ何事も即決で決めていける。積極的に行動して突き進めるのもユキエちゃんとの旅の醍醐味でもあります。
『真里とふたりならどんな国でも生き抜いていける気がする』と、ユキエちゃんが今回のトリップで言ってくれたけど、私もそう思う。ふたりともたまに女子じゃなくて男子なんじゃないかと思うような言動が出てくるけど、そこもうちらの笑いのツボだったりもするんです。
震災前の松島を見ていないので震災前後を語ることはできないけど、私の感覚では7年後の今の松島は賑わっていたし、良い空気とエネルギーが流れている場所だった。
これからもここの松島を訪れる人達に感慨深い印象を与えられる日本三景として発展して欲しいと強く思いました」 水上真里

ダミー Mari Mizukami Photo: Haruo Abe
柔らかく軽い雪はどこまでも巻き上がってゆく Mari Mizukami Photo: abe haruo

東北・女ふたり旅 〜宮城・松島編〜 MOVIE

松島観光を終えたふたりの旅は次なる目的地「夏油高原スキー場」へ。

続く。

次回は1週間後に「〜岩手・夏油編〜」をUPします。
お楽しみに!

「上田ユキエと水上真里の女ふたり旅」過去の記事
Vol.1の福島・箕輪編はこちら
Vol.2の福島・鷲倉温泉・モービル&スノーボード編はこちら

★PROFILE

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上田ユキエ(左)
1973年1月22日生まれ。カナダウィスラーでスノーボードを始め23年、ハーフパイプやビッグエアーなどの競技を経てバックカントリーの魅力にはまる。現在はアメリカに移住し5歳の息子を育てながら自らのプロ活動を続ける傍ら、キッズと母親のプロジェクト(LILKIDS&MAMA)や日本の若手をアメリカで経験させるキャンプ(CALI LIFE CAMP)などを運営している。
SPONSOR: K2 SNOWBOARDING, Billabong, MORISPO SPAZIO, NEFF, RONIN, ZOOT, CORAZON SHIBUYA, LALALATV

水上真里(右)
1976年7月17日生まれ。高校の交換留学生として行ったNEW ZEALANDでスノーボードと出会う。パイプ、ストリートレール、スロープスタイルを経て、現在はバックカントリーを中心に滑る。怪我で数年間滑れなくなったことをきっかけに都内や雪山でスノーボーダー達が楽しめるパーティー(PARTY BUNNYS)やイベント(SHREDDING GIRLS)を開催している。
SPONSOR: GNU, NORTHWAVE, DRAKE, WESTBEACH, SPY, BLACKDIAMOND, SBN FREERUN, SHREDDING GIRLS, PARTY BUNNYSイベント, 赤羽ファースト歯科