ABOMはNASAの関連会社でロケット開発などにも携わってきたジャック・コーネリアスを開発者に迎え生み出された次世代のゴーグルだ。温熱伝導フィルムをレンズに内蔵し、曇りを一気に解消する能力を持つゴーグルは、世界中で様々な賞を受賞してきた。ゴーグルが曇るという事は、スノーボーダーであれば誰もが一度は通る道。もしかすると全てのスノーボーダーがその悩みから解放される日も近いのかもしれない。アメリカ・オレゴン州のポートランドから車で20分ほどのタイガードという街にあるABOMのオフィスには、開発に纏わるストーリーや未来が垣間見れた。
Photo&Text: Kazushige Fujita
全てのライダーに曇りのない快適な視界を提供
「ある日、友達が僕に相談してきたんだ」優しい顔で開発者のジャック・コーネリアスは、私に開発の経緯を説明してくれた。
「スキーヤーの友人がゲレンデに滑りに行ったのだけど、その日、彼のゴーグルは曇ってばかりで全くスキーが楽しくなかったみたいで、すぐに帰ってしまった。車に戻ると窓ガラスも曇ってしまったが、エアコンをつけ、程なくすると窓ガラスの曇りは綺麗になくなり帰路に着く事が出来た。そして彼は私に相談してきたんだよ。『曇らないゴーグルは作れないか?』ってね。彼は
ゴーグルにも車のような機能があれば、快適に滑りが楽しめるはずだって考えたんだよ」。
ABOMが生まれたキッカケは純粋に滑りに集中したいという単純な動機だ。ゲレンデが決して近い訳でもなく、リフト券が安い訳でもない。せっかく訪れた先で快適な視界を得たいという想いが生まれるのは当然の事。そして、その悩みを抱えるのは彼だけではなく、多くのスノーボーダーや、スキーヤーに当てはまるものだった。ジャックは様々な電化製品や技術からヒントを得ながら、研究と開発を重ね現在の形に至った。その一番の特徴はゴーグルのレンズにある。通常のゴーグルのレンズでは曇り止めのコーティングにより曇りへの対応をしているが、濡れた布でレンズを拭くなどの摩擦により、そのコーティングは劣化してしまう。ABOMのゴーグルレンズには曇り止めのコーティングがされていない。レンズ内に熱伝導フィルムを内蔵する事によりレンズを温め、曇りや濡れへの対応をおこなっているのだ。また最小限のサイズに抑えられたバッテリーは綺麗にゴーグルのフレームサイドに収まり、見た目だけではその革新的なテクノロジーを感じる事が困難なほどだ。現在では39の世界特許、様々な賞を獲得している事が、このABOMのプロダクトが唯一無二の存在である事を証明している。
テクノロジーが可能にした
いつでもどこでも曇りのない視界
雪山には様々なシチュエーションが存在する。晴れの日もあれば雪の日も雨の日も。また寒い日もあれば暑い日もあるが、ABOMにはどんなシチュエーションでも快適な視界を提供してくれる機能がある。例えば湿った雪が降り続けるような日は湿度も高くゴーグルが曇り易い。特に風を受けないゴンドラの乗車中は曇り易く、滑り出す前にゴーグルを拭かなければならない事もしばしば。そんな時にもABOMはゴーグルサイドにあるボタンを押せば数秒から数十秒で曇りが取れる。今シーズン新しく発売された ”HEAT” にはゴーグル内の湿度や温度を測り、自動でヒーターのオンオフを調整する機能が備えられ、それは完全に曇らないレンズという事を意味するのかもしれない。また、パウダーの日には転倒しゴーグル内に雪が入ってしまう事が多いが、そんな時にもABOMのテクノロジーは活躍する。コーティングのされていないレンズに付いた雪を遠慮する事なく取り払い、再びレンズを温めると残りの水滴や湿りを完全に取る事が出来る。心配されるバッテリーだが連続稼働時間を6時間備えており、1度の曇りの回復に対し数秒から数十秒の稼働時間と考えると数日間の使用に耐えうる設計になっている。Mirco USBでの充電が可能で移動中の車での充電やモバイルバッテリーからの充電も可能だ。そして、家に帰れば携帯と同じように充電をおこなう。今までに無かった新しいゴーグルの使い方だ。
テクノロジーの進歩により世界は凄まじいスピードで変化している。ライダーの技術や映像技術も今もなお変化し続けている。テクノロジーとスノーボードの融合、ABOMはスノーボードギアの進歩を高める1つのキッカケになり得るのではないだろうか。次世代のゴーグルと呼ばれるABOMが見据える先に、スノーゴーグルの新たな可能性が見える。