K2 Snowboardingから継続リリースされるLandscape Collection。今季も特徴の異なる全6モデルをラインナップしている。今年1月、ニセコ・モイワで開催されたK2試乗会にアメリカ本国から来日したグローバルマーケティングマネージャーのトムとシニアデザインエンジニアのジャスティンに、それぞれのモデルの特徴と遊び方を聞いた。そして、実際にボードを使用しているK2ライダーの声もお届けする。
Photo: Jun Watanabe
K2 Snowboardingを最前線でドライブする2人
今回、話を聞くことができたのはK2 Snowboardingでシニアデザインエンジニアを担当する、J.Stoneとして知られるジャスティン・クラーク、そしてグローバルマーケティングダイレクターのトーマス・ジョンソン(通称トム)のふたりだ。ジャスティンはソルトレイクシティ出身で、地元でも有名なスノーボードショップのマイロスポーツで働いていた経歴を持つ。エンジニアリングスクールへ行き、2013年、Stoney Surfersというサーフィンの原点から生まれた先進的なシェイプや機能を融合させた完全カスタムのパウサーフブランドを誕生させた。2019年にK2 Snowboardingに入社している。一方のトムはボストンから50kmほど離れた町で育った。彼もジャスティンと同じように地元のスケートとスノーボードショップのイースタンボーダーで働いていた経験を持つ。その後、マウントフッドのハイカスケードキャンプでマーケティングディレクターとして2年間働いたあと、2017年にK2へ入社している。
まずLandscape Collectionの名前の由来をトムが教えてくれた。
「目の前に広がるランドスケープ(景色)はそれを見るスノーボーダーによってもちろん違うし、その人のスキルや想像力によって同じ斜面も違ったように見えるもの。しかも山が違えば地形も斜度も違う。ニセコにはニセコに合った板があり、ウィスラーにはウィスラーに合った板があるようにね」
さらにジャスティンがこう付け加える。
「フリーライドってスノーボードの根源だと思うんだ。誰もがスノーボードを始めた頃に感じた楽しさや面白さそのものだってね。だから僕らが目指しているのはフリースタイルなライダーでも、パウダーでハードなチャージをしているライダーでも、そのどちらも満足できる板を作ること。それこそ僕らが求める究極で高品質なフリーライドボードだと思ったんだ」
滑りのスタイルや地形に合わせてデザインされた6つのLandscape Collection
今シーズンリリースするLandscape Collectionの中でも最初に作られフラッグシップモデルとして位置づけられているのがALCHEMIST。
「実現可能な最高のフリーライドボードを作ろうと始まったのがこのモデル。僕はとにかくスピードを出した攻めの滑りで、パウダーではデカいスプレーを上げるのが理想なんだ。そういう滑りがしたかったらこのボードがいちばんだね」。
そう語るジャスティンは、K2に入社して1年目で理想とする板を完成させていた。ALCHEMISTとは錬金術師という意味があり、卑金属から貴金属を錬成するようにスノーボードでも様々なパーツや技術を組み合わせることで金(ゴールド)のように最も高価なものとなるという意味が込められている。
次にジャスティンが紹介してくれたのはALCHEMISTのテクノロジーを注ぎ込んでオールマウンテンで遊べるフリースタイルボード、ANTIDOTE。ノーズとテールが共に3D形状になっていてスイングウェイトを減らしながらも板自体の強さはアップしている。
「ノーズから伝わってくる振動はバインディングに届く前に消える。そのおかげでターンもスムーズになりエッジコントロールもしやすくなる。この板を作っていたちょうどその年がK2ライダーのセージ・コッツェンバーグがトラビス・ライスのナチュラルセレクションに出る年だった。自然地形をヒットできるジャクソンホールのコースは、パウダーを滑ってスピードも出せてフリースタイルなトリックも繰り出せる。ANTIDOTEはまさにそのスタイルにフォーカスを当てていたから、ナチュラルセレクションの存在とセージの協力はこのボードの進化にとても大きな影響があったんだ。あとこのANTIDOTE(解毒剤)というモデル名だけど、パウダーでツインチップはテーパードボードに比べて浮かないというのがこれまでの常識だった。でもノーズとテールを3Dにすることでテーパードにも劣らない浮力を持たせている。つまりツインはこの場合『毒』だけど、このボードはそれを解毒してさらに性能を引き出すという意味があるんだ」
そしてジャスティンがお気に入りの1本として挙げたのがPASSPORTというモデルだった。
「僕のホームマウンテン、ブライトンの地形はフリーライドとフリースタイルが混在している。そういう地形は世界中の色々な場所にある。僕が作りたかったボードはフリーライドとフリースタイルが共存しているような山で何でもできるボードだったんだ。パウダーの日もフリースタイルに滑れるような板で、形状はツインだけどパウダーボードの構造もミックスしてあるといった感じにね。このボードはテーパードと革新的なサイドカットで、ノーズはテールに比べてほんの少し短い程度。だからスイッチもやりやすい。イメージしたのはフリースタイルパウダーだよ。本当にお気に入りでシーズン中はPASSPORTに乗っている時間がいちばん長いんだ」
続けて、PASSPORTのモデル名の由来についてはトムが教えてくれた。
「パスポートがあれば世界中どこにでも行けるだろ。スノーボードを持って行けば雪のあるところならどこへでも行って滑れるし、新しいカルチャーに触れることもできる。とにかくこのボードはバックカントリーへアクセスするためのパスポートみたいな意味合いもある。グラフィックにテントを使っているのは、テントさえあればどこでも家にすることができる。世界中どこを滑っても、まるでホームマウンテンを滑っているような気持ちになれる。そんな板だよ」
ジャスティンとトムが一緒に作った最初のボードとして挙げたのがINSTRUMENTだった。
「僕らとしてはスノーボードマーケットに何か革新的なインパクトを与えるようなボードが作りたかった。昔からのスノーボーダーは昔ながらの板が好みだとは思うけど、それをより現代的に洗練してアレンジしたかった。テールが切り落とされたようなシェイプにしたのはオーリーでのスナップを簡単にするし、サイドヒットを当て込むため。若いライダーが求めるようなフリースタイルなフレーバーを追加している。モデル名をINSTRUMENT(楽器)にしたのは雪山で流れに任せながらまるでジャズをプレイするようなイメージ。楽器はジャズをプレイするには欠かせないからね」
と、トムはピアノを弾くような仕草を見せて笑った。さらにジャスティンが乗り味について教えてくれた。
「フリーライドでハードチャージするALCHEMISTに比べてINSTRUMENTはメロー。少しワイドなセッティングでクルージングのイメージだね。フリーライディングにフォーカスしたい人なら誰でも乗れるようにかなり広いレベルレンジを想定している。カーヴィング、パウダー、他にもサイドヒットをやりたいすべての人が乗りやすい板だと思うよ」
ジャスティンはここ数年、幅広い年齢層でカーヴィングを楽しむスノーボーダーが国内外問わず増えてきていると話す。そんな人たちのために作られたのがEXCAVATORだという。
「身体を倒し込んだハードなカーヴィングからトリックを織り交ぜたフリースタイルなカーヴィングまで、ターン自体を楽しんでいる人は圧倒的に増えたと思うんだ。様々なブランドからもカーヴィングに特化したモデルが次々に出てるけど、一般的なスノーボーダーが日常使いするにしてはどれも非常に硬い印象だった。僕らがイメージしたのはグルーミングを気持ち良く滑り、パウダーも滑りたい人。そこまでワイドじゃないけど、足の間に強いトーションを持たせて操作性を高めている。しっかりとしたエッジホールドができる板はカーヴィングには不可欠だからね」
EXCAVATOR(掘削機)という不思議な名前の理由をトムが話し続ける。
「巨大な岩も砕く掘削機ってかなり大きな機械なんだけど、あれは地球をものすごいパワーで掘るんだ。この板もそんなイメージで圧雪バーンに深いターンの溝を掘り、パウダーでは強い力で雪を飛ばす。そんなイメージでEXCAVATORと名付けたんだ」
Landscape Collectionの中でも最もフリースタイルよりのフリーライドモデルがMANIFESTだ。このボードの特徴をジャスティンが説明してくれた。
「どんなこともやりたいライダーのためのボード。サイドヒットを当て込んで、バックカントリーでジャンプをする。ナチュラルジャンプからスイッチランディングでパウダーをキャッチしたりね。構造的にはノーズとテールも少し長めになっていて、セットバックも少しだけ入れているんだ」
そしてトムがこのボードがなぜMANIFEST(一目瞭然の、白日の)という名前を持つのか、そのストーリーを聞かせてくれた。
「K2ライダーだったアーロン・ロビンソンが2009年、雪崩の事故で亡くなってしまった。ちょうどその時にあったモデルをリニューアルする時に、彼の最後の映像作品の名前を取ってMANIFESTにしたんだ。このボードは彼が元々乗っていたモデルがベースになっているし、彼のことを忘れないために名付けた」
滑り手がどんな地形を滑るか、板選びはそこから始まる
ここまで、全6モデルという個性の異なるボードについて話してくれた2人。そして最後に、自分に合った板選びについてジャスティン聞いてみた。
「最終的に板を選ぶ時にどんな地形が滑りたいとか、スノーボードでどんな経験がしたいかを考えることがとても重要だと思う。ボードの種類によって地形での滑りが変わるのは間違いないからね」
そしてトムからは。
「必要なボードというのは滑り手がどんな地形を滑るかということなんだ。斜度のあるところを滑るならある程度硬いボードが必要だし、緩やかな地形なら柔らかい板が良いからね」
彼らの言葉を通してLandscape Collectionが僕らに語りかけてくるのは、『キミはどう滑りたいの?』という問いかけだった。パーク、ジャンプ、パウダー、ターン、なんでも出来るオールラウンドモデルから少しステップアップして、よりあなたが本当にやりたいスノーボーディングと向き合える板選びを始めてみてはどうだろうか。
下の映像は、昨シーズンアメリカ・ユタで撮影されたK2 Snowboardingの最新作Landscape Collectionショートムービー「SWEEP」。記録的な降雪の続いたユタで、日本からは佐藤亜耶と伊藤藍冬がこのシューティング参加している。
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