昨シーズンから話題を集め、今年の秋にドロップするINK MOVIE(インク・ムービー)。このプロジェクトは日本が世界に誇るライダー國母和宏が、ムービーシーンにおける自身の経験や繋がりを日本の次世代を担う若手ライダー達へと繋げるために自ら動き出し、1シーズンをかけて若手とともに撮影に挑み続けた結晶だ。この作品は、ネクストジェネレーションのスノーボーダーたちへ捧げる新たな道しるべになるに違いない。ティーザーが発表される前になるが、さらなる期待を集めるために、第1弾としてアメリカ・マンモスマウンテンで撮影に挑んだ4人(今井郁海、大友寛介、大久 保勇利、宮澤 悠太朗)の若手ライダーたちのクリップが発表された。本記事では、それに連動して現地で数日間を共にした上田ユキエが、彼らの撮影舞台裏を伝える。
Text: Yukie Ueda
<前編>では、彼ら4人の個性や撮影序盤にまつわるストーリーを紹介してきた。そして、いよいよ旅はクライマックスとなる撮影最終日をむかえる。はたして彼らはこの地で何を得たのだろうか?また、INKのボスである國母和宏からのメッセージとは?
撮影最終日をむかえた4人
最終日は晴れ。またしてもパウダーデーだった。マンモスローカルのフィルマーであるウィーバーは、朝一の降り積もった雪を求め、彼らをまずフリーランへ連れて行った。その後パークへ移動した彼らに合流すると、緊張と高揚が入り混じったようないい表情で、「雪良かったです!いいところ滑って来ました!」と笑っていた。
そしてマンモスメインパークへ。
ジブを得意とする寛介は目まぐるしく配置されているレールアイテムを制覇してゆき、世界のあらゆるパーク地形を滑り込んでいる勇利と悠太朗はあちこちに散らばるアイテムの中を自由に飛び回った。ハーフパイプで育って来た郁海にとってはこの時期すでにパブリックのパイプがなくなっていて「俺どうすればいいんだー」と嘆いていたが、クオーターパイプやキッカーでそのスタイルを魅せつけていた。
若い4人の日本人ライダーの姿は、マンモスのパークで目立っていた。
ボスの想い
彼らが慕い、尊敬するボスであるカズに、若手ライダーの人選について聞いてみた。
「こいつのビデオパートを見たい、こいつの滑りが見たいと思うライダーじゃないとダメなんだ」
KAMIKAZU MOVIEのライダー人選と同じ理由を述べた。
「今回の若いやつらは大会の映像は見たことがあるけど、それ以外のロケーションでどんな滑りをするのか見てみたいと思ったんだ」
当初マンモス撮影に同行しようとしていたカズは今回来なかった。
「シーズン中はべったり付いて教えてきたから。今回はあいつらだけでどうにかなるって思うんだ」
そして若い彼らは海外撮影を自分たちで進めるにはまだ経験が浅かった。
「あいつらのいい経験になったならそれでいい」
彼らが失敗をするたび、カズはそう言った。そして私に
「面倒かけてすいません」と。
あのカズから初めてそんな言葉を聞いた。
きっと彼もまた、この若手たちへ何かを受け継ぐ過程で、新しい何かを発見しているのではないかと思えた。
「あいつら、いつかそのうち花咲くんで。どうかよろしくお願いします」
今回この若手4人の面倒を見ることになったキッカケは、そんなカズからのメッセージだった。
そんな彼の言葉を最終日の夜に4人に話すと、みんな一瞬黙ってそして歓喜の声が漏れた。
「それ、最初の日に聞きたかったっす…」
いや、きっとその言葉を聞いていたとしても、この4人が緊張感を持って全力を尽くしたことには変わりはない。いつでもふざけあって大笑いし、気が抜けていてハプニングに見舞われまくり、「ユキエさん、俺らやっちゃいましたー!どうしたらいいっすかね」。そのセリフを何度聞いたことか。だからこの子たち本当に緊張感を持ってるのだろうか?と疑問に思うほどだったのだ。だけどそんなはずはないことは、最終日の彼らの滑りを見て感じていた。
タイムリミットが来てリフトが止まったが、それでも降りて来ない彼ら。パトロールに促されるまでなんどもハイクアップして撮影を続けていた。その彼らをプッシュしながら撮影を続けてくれたウィーバーの姿もあった。
最後の撮影を終え、荷造りしている彼らに問いかけてみた。
どうだったマンモスは?
「めちゃくちゃ楽しくて、帰りたくねーーーー!」
「あと2週間くらい居たくね~?」
「2週間居るんだったら、2ヶ月でも良くねえ?」
相変わらずふざけた会話をしている。これから荷造りをしてLAへ出発し、日本行きの飛行機に乗り込む彼らからは達成感に満ちた表情と共に、もっとここで撮影したいという雰囲気が溢れていた。
ねえ、プレッシャーや緊張感もあった?
その私の問いに、全員が同じ表情をして、「…ありました」。そう頷いたのだった。
カズは遠く離れた日本から、毎日マンモスの天気と風をチェックしていた。多くの言葉はなくとも、どれだけ気にかけていたのか。彼の考えや想いはその滑りを魅せつけると共に、この若いライダーたちの心にがっつり響いたのだと思う。
彼らの想い
「朝6時台に最高のライディングをがっつり目の前で決められて、おまえらもやれって見せつけられているようで…」
今シーズン郁海と寛介はバックカントリーを含むフリーライディングでカズと一緒に北海道の山を滑り込んで来たそうだ。
彼らは先輩たちの滑りを目の当たりにし、ビビらされプレッシャーを感じ、刺激を受け続けてきたという。
次の世代へ残したいもの
2019年。
スノーボードムービーの絶頂期だった2000年から20年が経とうとしている。あの頃生まれた子供たちが今の時代を代表とする年代になった。やって来たことを残し、引き継ぎたい。そしてそれを超えてほしいと思う彼らがいて、その姿に憧れ育ち、想いを受けて全力で滑る彼らがいる。
どんな作品が出来上がるのか、楽しみで仕方がない。
スノーボードムービー。
今やSNSを通して映像は溢れ、見たいものだけを見ることの方が難しい時代となった。その中で、本当に見たいと思い、楽しみに焦がれる作品はいくつあるだろうか。
そこに、この作品を作る意義があるのだろうと思う。
▼このムービーが、マンモストリップの模様をGOPROを使って自分たちで撮りあったINK MOVIEの特別クリップ!
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★この記事のライター
上田ユキエ
1973年1月22日生まれ。東京出身。カナダウィスラーでスノーボードを始め26年、ハーフパイプやビッグエアーなどの競技を経て、ガーズルムービープロダクション “LIL” を立ち上げ日本のガールズシーンを牽引。結婚を機にアメリカへ移住し8歳の息子(トラノスケ)を育てながらプロ活動を続け、現在はバックカントリーの魅力にはまり国内外の様々なフィールドを開拓中。2017年4月マンモスマウンテンに拠点を移し、よりナチュラルに山の近くで家族と新たな生活をスタートさせている。
Sponsor: K2 SNOWBOARDING, Billabong, UNfudge, Ronin Eyewear, NEFF, HAYASHI WAX, MORISPO SPAZIO
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