
2001年、米国コロラド州の雪山から始まった、スノーボードブーツのために開発された最初のBOAシステムは、手袋をしたままでも素早く締められ、再調整も容易にできる画期的なクロージングシステムだった。
当初は「便利な締め具」として、初心者や女性ライダーを中心に支持を集めたが、その後の四半世紀で単なる「素早く締められる」「力がいらない」というクロージング機能から「フィットシステム」へと進化を遂げる。
足の動きを科学的に解析し、ライディング性能そのものを高める存在へ。その最新の成果こそが「PerformFit™ Wrap」である。
BOA PerformFit™ Wrap
= なぜ“包み込む”構造が必要なのか?
従来のBOAやシューレースは、足を上から押さえるように固定する仕組みが中心だった。シンプルで確実なホールド感が得られる一方で、どうしても力のかかる部分に強弱が生まれやすく、足の動きに制約が出る場面もあった。
PerformFit™ Wrapはその常識を覆す。
足を側面から包み込むように締めることで、締め上げる際に足をヒール方向へと自然に押し込み、かかとをしっかりとポケットに収める。前足部(つま先)は自由度を保ちながら、中足部(甲から土踏まず)を安定させる構造によって「足先は自由に動くのに、かかとは絶対にブレない」「痛くないのに動かない」という理想的な状態を実現する。その結果、操作の正確性が飛躍的に高まり、長時間のライディングでも疲労を抑えられる。

実証データでは、従来構造と比べて最大9%のパワー伝達向上、最大4.5%の安定性向上が確認されている。これは快適性向上を超え、ライディングパフォーマンスそのものを押し上げる革新である。
この仕組みのカギとなるのがレースの可動性だ。PerformFit™ Wrapでは、パーツとレースの摩擦を極限まで減らすことで、足の動きに合わせてレース全体が滑らかに稼働する。過度な圧力が1点にかからないよう設計されており、足のどこかが膨らめば、その反対側へ圧が逃げ、逆に別の箇所が膨らめば、今度はそちらに圧力が分散する――まるで呼吸するようにバランスを保ちながら足を包み込む。この「圧の逃げ場」を持たせた設計こそ、PerformFit™ Wrapの根幹にある考え方なのだ。
レースがどこかで固定されて動かないと、引っかかりやムラが生まれ、快適なフィットを妨げる。しかしPerformFit™ Wrapは、足の動きに追随してレースが常に微細に動く構造を持つため、甲の高い人、低い人、足首が太い人、細い人。どんな形状の足にも自然に沿い、均一でスムーズなフィットを実現する。
さらに足が靴の中で前後にズレないため、エネルギーのロスが起こらず、無駄な力を使わない。
BOAパフォーマンスフィットラボの研究では、PerformFit™ Wrap構造のブーツは従来構造に比べ、エネルギー効率が高く、疲労度が明確に少ないというデータも出ている。「パワーが逃げない=疲れにくい」という理屈が、科学的にも裏付けられているのだ。
BOAが提唱するラップ構造の哲学は明快だ。
「正しいフィットなくして、正しいパフォーマンスの向上なし」足を正しく、均一に包み込み、確実にヒールをホールドする。それでいて前足部の自由度を保つことで、足本来が持つしなやかさや反応性を損なわない。ブーツ本来の性能を最大限に引き出し、ひいてはライダー自身のパフォーマンスを引き上げる。
それがBOAがPerformFit™ Wrapに込めた目的であり、フィットという概念を再定義する新たな答えなのだ。
BOAのフィットの進化はコートスポーツから
PerformFit™ Wrapの基礎研究は、バドミントンやテニスといったコートスポーツからスタートしている。BOA独自の研究機関「パフォーマンスフィットラボ」ではジャンプや三角飛び、ストップ&ゴーといった動作を繰り返し足の動きを検証。その結果「素早い切り返しや足先の細かい操作が求められるスポーツで効果が顕著に現れる」ことが立証されたのだ。

実際にヨネックスのバドミントンシューズ、ミズノの卓球シューズ、HEADのテニスシューズなどにも採用されている。
これを皮切りに新たな検証が続けられ、PerformFit™ Wrapはコートスポーツ以外の分野でもパフォーマンス上の優位性が立証された。今ではゴルフ、トレイルランニング、スキーブーツ、安全靴といった分野でも応用されている。
Burtonが選んだ“トリプルBOA”という答え

BOAが登場して25周年を迎える2025/26シーズン、スノーボードブーツに初めてPerformFit™ Wrap構造が搭載された。いちはやくこの構造を取り入れるべく、BOAと協力体制を取ったのはBurton。Burtonが採用したのは 「Waverange X PRO」と「Highshot X PRO」 の2モデルである。両者に共通するのはPerformFit™ Wrapの搭載、そしてBOAダイヤルを3つ搭載する「トリプルBOA」という選択だ。
厳密に言えばPerformFit™ Wrapは「トリプルBOA」に限定された構造ではない。アッパーの構造次第では「デュアルBOA」でも搭載することは可能だ。しかしアッパーカフ(脛部)、インステップ(足首/かかと)、フォアフット(中足部/土踏まず)を独立して調整できるトリプルBOAは、フィット感を深く追求したいライダーにとって最も扱いやすい形なのだ。BurtonのWaverange X PROとHighshot X PROは、その利点を最大限に生かし「自在な調整」と「一体感あるホールド」を両立している。
さらに注目すべきは、このPerformFit™ WrapをSTEP ON®用ブーツに採用したこと。
国内では発売直後に完売するほどの人気を博し、フィット感に敏感なユーザーが一斉に注目した。アンクルからかかとにかけてのホールドが飛躍的に向上し、従来STEP ON®ブーツで重要だった「アンクルストラップのサポート機能」は、Burton独自のアンクルハンモックが担うようになった。

アンクルハンモックが足首からくるぶしを包み込み、PerformFit™ Wrapが中足部をホールドしつつ前足部の自由を確保する。この2つの構造が連動することで、トリプルBOAの潜在能力を最大限に引き出しているのである。
ライダーが語るリアルな声

Burton所属のプロスノーボーダーMark Sollors(マーク・ソラーズ) はX PROの開発段階から関わり、「足先は自由なのに、かかとは浮かない。ターンの切り返しが驚くほどスムーズで、着地でも足が暴れない」と語る。
さらに他のライダーからも「長時間滑っても甲が痛くならない」「最後まで集中力が続く」といった声が寄せられている。PerformFit™ Wrapの登場で、もはや“便利なBOA”ではなく「ライダーの信頼に応えるパフォーマンスを引き出すフィットシステム」へとさらなる進化を遂げたのだ。
フィットを革新する二つの軸 ― ラップ構造とダイヤルプラットフォーム
PerformFit™ Wrapという構造的な進化を支えているのは、BOAの「ダイヤルプラットフォーム」の世代進化でもある。BOAはスポーツや用途に合わせ、必要なトルクや耐久性を持つダイヤルを開発してきた。その代表が、スノーボード用に設計された Hシリーズ だ。この“H”は High Power(ハイパワー) を意味し、雪上で強いテンションと確実なホールドが必要な環境に対応するために開発されたものである。


現行モデルのひとつである H4(H4 Coiler)とM+2 は、耐久性を高めつつ、より精密で滑らかな締め上げを可能にしている。太いレースと大きな巻き取りトルクを備え、激しいライディングでも安定した操作感を提供する。
BOAの進化は「どう包み込むか(ラップ構造)」と「どう操作するか(ダイヤル)」の二軸で進み続けているのだ。
BOAテクノロジーの詳細は公式サイトでも詳しく解説されている >> BOA 公式サイト
BOAの未来像 ― 次は何を目指すのか?
BOAはいまや「フィットを科学するブランド」だ。デンバー大学をはじめとする研究機関と連携し、生体力学や神経学の知見を導入。ラボ実験を繰り返しながら、常にデータに基づいた改良を行っている。
将来的には、デュアルBOA構造でもPerformFit™ Wrapを実現できる設計が広がり、ユーザーは用途や好みに合わせて選択できるようになるだろう。
「痛みがなく、正確に反応する。足本来の機能を引き出す」それがBOAが描く未来である。
編集者フィット体験 ― 「ラップされる感覚」とは?
筆者自身も実際にブーツに足を入れてみた。雪上での滑走は行っていないが、それでも足を入れた瞬間に従来のBOAとは全く異なる感覚を味わった。
まず、かかとが自然にヒールポケットに収まる。足は内部で動かず、しかし甲への圧迫はない。ラップ構造によって足全体が柔らかく、しかし確実に包み込まれている。結果として、つま先には一切のストレスがかからず、指先を自由に動かせる。
足全体が包まれる感覚。それはまさに「ラップ」されているという表現がふさわしい。足を入れただけでこの構造の本質を体感できた。PerformFit™ Wrapがなぜ“次世代のフィットシステム”と呼ばれるのか、その答えはあなたも体感してみればすぐに理解できるはずだ。
新時代のスタンダードへ
PerformFit™ Wrapは、足を包み込み、かかとをロックし、指先の自由を残す。この一見シンプルな構造が、ライディングの質を根底から変える。
ラップ構造によって生まれるメリットは明快だ。
・パフォーマンスの進化:ターン時のエッジへの入力がより正確になり、ジャンプからの着地後の安定感も増す。
・疲労の軽減:足全体に圧力を分散させることで、長時間滑っても疲労が少なく、集中力を維持できる。
・快適性の向上:甲や前足部への不要なストレスが減り、痛みから解放される。
これらの要素が合わさることで、結果的に「もっと長く、もっと楽しく滑れる」という新たな体験が生まれる。PerformFit™ Wrapはスノーボードを単なるスポーツから、より快適で豊かな遊びへと進化させる存在なのだ。
すでにBurtonがWaverange X PROやHighshot X PROといったフラッグシップモデルに採用し、STEP ON®ブーツにも導入したことは象徴的である。今後、このラップ構造をスノーボードブーツに取り入れるメーカーが増えていくことは間違いないだろう。
PerformFit™ Wrapは、未来のスノーボードシーンにおける『新たなスタンダード』になるだろう。






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