2018年2月22日(木)いよいよ平昌オリンピックのスノーボード女子・ビッグエアの決勝がおこなわれる。2月19日におこなわれた予選で2位の藤森由香、3位の岩淵麗楽、そして鬼塚 雅は7位で決勝へ。強風の下でおこなわれたスロープスタイルではいい結果を残すことができなかったか、その悔しさをリベンジすべく活躍が期待される3人の日本人ガールズライダー。決勝直前ではあありますが、今回 FREERUN 2月号に掲載されている鬼塚選手の記事を特別公開します。みんなで彼女たちの活躍を応援しましょう。
鬼塚 雅
MIYABI ONITSUKA
平昌オリンピックで金メダルを狙う
先日、 SAJより発表された平昌オリンピック出場内定者の発表に名前を連ねた鬼塚 雅(以下 雅)。ここ数年はトップアスリートとして取り上げられ、メディア関係のイベントなどでも顔を合わせていたのだが、私が彼女をはじめて見かけたのは、大会でレールを果敢に攻めてひときわ目立っていた小学生の女の子だった。 幼い頃から頭角を現し、コンテストシーンを中心に着実に実績を残し、世界のトップクラスで戦うアスリートに成長した雅。同時にスノーボードを離れれば、キャンパスライフを謳歌する女子大生でもある彼女の魅力に迫る。
text:Rie Watanabe
(本記事はFREERUN 2月号に掲載されたものです)
毎年繰り返す大会でアップデートされていく
平昌オリンピックが間近に迫り、各メディアにも引っ張りだこの雅。5歳からスノーボードを始め、幼い頃から家族のサポートのもと大会を中心に活躍し、結果を残してきた。難易度と完成度の高いジャンプと、小さい頃から親しんできたジブを活かし、現在スロープスタイルとビッグエアの2種目に照準を置き実績を積む彼女が、スロープスタイルの大会に出るようになったのは、小学6年生のときだった。
「スノーボードは小さい頃からやっていて、小5までジブだけの大会に出たり、練習をしていたんです。 小6のときにはじめてスロープスタイルの大会に挑戦したのを機に、BURTONのチームマネージャーに声をかけられて本格的にスロープスタイルを中心とした活動に。それは私にとってひとつのターニングポイントでもあって、それからは毎年国際大会を遠征するようなライフスタイルに変わっていきました」
長年コンペを中心に活躍し、成績も残してきた雅。そんな彼女が日本で脚光を浴びたのが、2015年の世界選手権スロープスタイルでの最年少、日本人女子初の金メダルという快挙だった。
「あのときは、帰ってきたら日本が大騒ぎになっていたんですごく驚きましたね! 現地でも電話でいいから取材を受けてほしい、と言われたりして、え!? そんなに? って思っていました(笑)」
その後も活躍著しく、昨年の世界選手権でも3位となり2大会連続の表彰台、 さらにビッグエアでは、11月に開催されたW杯北京大会、12月に開催されたメンヘングラッドバッハ(ドイツ)大会で2位となったことも記憶に新しい。
「北京大会は飛びやすいキッカーだったんですが、公開練習では合わせられなくて、本番で何とかキメられて良かったです! エリートレベルという最高峰の大会だったので、そのなかで準優勝できたことは自信にもなりました。メンヘングラッドバッハ大会では、予選2本目の転倒でヒジと手首を痛めたので出場しようか迷ったんですが、飛べて良かったです! ただ、キッカー自体は飛びにくくてあまり好きではなかったですね……。2位になれたのは良かったけど、自分の思うような滑りはできなかったので、まだまだ基礎的な練習も必要と感じました」
メンヘングラッドバッハ大会後に綴ったブログでは、CAB900を含む雅の技と比較すると、難易度はやや低いFS720で高ポイントを叩き出して優勝したカーラ・ソマイニ(スイス)に対して、負けてはいけないところだったと悔しさを語りながらも、同大会で男子で2位となった年下の大久保 勇利の活躍に刺激を受けたことも語っている。小学生の頃からの海外遠征生活、数え切れないほどの大会に出場してきた彼女が印象に残っている大会とは!?
「全部印象的だし、忘れないです(笑)。本当に長い間、同じルーティンを繰り返していて、毎年大会で行く場所や時期も同じ。イメージでいうと毎年アップデートされていく感覚なんですよね。ただ、ふと思ったのが、昨年スロープスタイルで準優勝したニュージーランドで開催されたワールドカップの開幕戦を終えたとき、2011年に初めて出場して8位に入賞したことを振り返ってみて……。同じ大会に参加して、練習中に同じ場所で滑ることで、昔の感情とかを思い出して、私は今、あのときと同じくらい頑張れているかな、なんて考えたんですよね。そしたら少し余裕があることに気づけたんです。だからBSダブルコーク1080をトライしてキメたり、攻めたジブもできた。毎年繰り返される大会のなかで、たくさんの発見もあって背中を押されています」
やるしかないからやる
小学生からの海外遠征、大会成績への重圧、家族と離れることも多く、同世代の子たちが中学、高校生活を謳歌する時間をスノーボードに費やしてきた彼女がメンタル面で壁に当たることはなかったのだろうか?
「メンタルのために何か実践していることって特に何もないんです! 中学生の頃に小説をたくさん読んでいて、それに飽きたから自己啓発本を読んだこともあったけど(笑)。 小さい頃からずっとそういう生活だから、もうやるしかないんですよね。それはカラダで覚えてきた。こなさないとダメだったし、海外のライダーたちだってみんなそうしてきていると思う。何て言えばいいんだろう……、もう歯磨きと一緒なんですよ。それが日常だから」
やるしかないからやる 。カラダに染みついたその精神で、現状のキープではなく、常にトライして前進してきた結果、難易度の高い新たなトリックを習得し、自分のものにしてきた。昨年の夏はSNSで富山キングスでのFS1080を公開したり、BSダブルコーク1080をニュージーランドで放ち、キメて、その後の大会でもBSダブルコーク1080メイクへの調整をしてきている。彼女の実力から考えてみると、今出せる引き出しを最大限に使う調整をしても勝算はあると思えるのだが、新しいトリックへの挑戦に余念がない。そして確実に自分の中へ取り込んで進化している。世界のトップクラスで戦う位置に身を置き、高いレベルで他のライダーたちも調整しているが、世界的にみても、彼女ほど目でわかる進化を遂げている選手はいないだろう。
「もう勝つためにはやらないとダメですからね! 当時出せる技を全部出して、表彰台に手が届かなかった昨年のUS OPENの結果が悔しくて、さらにそう強く思い、追い込んでやっています。もうBSダブルコーク1080はイメージがついているし出していく調整をしています」
雅の宝刀CAB900とBSダブルコーク1080を操ることができれば、平昌五輪スロープスタイル、ビッグエアの2種目で金メダル争いとなることは間違いないだろう。優勝争いが予想されるアンナ・ガッサーも大技を完璧にメイクできるとは限らない。そんなことも見据えて、今は平昌オリンピックに向けて最大のカギとなる BSダブルコーク1080のを “やるしかないからやる” 精神でさらに完成度を上げている。
平昌オリンピックは高いレベルで見応えもたっぷり!
ここ数年、メダルに期待がかかるアスリートとして、メディアへの露出も多くなった雅。自分を取り巻く環境の変化も活かして、スノーボードへのイメージも変えていきたいと語る。 「これまでオリンピックでメダルを獲っても、スポンサーがあまりつかなかったりなど、スノーボードに対して少し悪いイメージがあるのは昔から感じていました。だから、メディアに取り上げられ、認知度が上がることで、そんなイメージを変えたいっていうのはずっと思っていることですね! オリンピックで滑りを見てもらって、楽しさも伝えられたらいいなと思っています」
雅にとって、これまでの努力や調整はすべて平昌オリンピックに照準を合わせてきたといっても過言ではない。そして、今回のオリンピックは見る側も見応えたっぷりだという。
「スロープスタイルやビッグエアは、私がはじめた頃はまだオリンピックの競技になっていなくて、オリンピック競技になってから、女子も男子もレベルがむちゃくちゃ上がったんです! オリンピック種目になったことはそういう点で全体のレベルの底上げになってすごく良い状況に。それによって見る側も見応えがあって、楽しめる競技内容になっているはずだし、私も頑張らなきゃって思っています」
そんな平昌オリンピックを目前に控えた今の心境を訊ねると!? 「私はオリンピックに出場したことがないので、ちょっとわからないんですよね……。いつもと同じシーズンを迎えているのと同じ気持ちなんだけど、少しワクワクしている感じはありますかね(笑)。スポンサーさんや友達が一番観てくれる大会だと思うので、そこで頑張らなきゃいけない! っていう特別な大会ではあります」
幼い頃、小さなカラダでレールを攻めていた可愛いらしい女の子が、世界を舞台に戦い続け、今年2月、平昌オリンピックの金メダル争いへ乗り込む。これまでも表彰台に上るたびに笑顔と歓喜の瞬間をたくさん届けてくれた雅。平昌オリンピックでは、いつもの彼女らしいパフォーマンスと最高の笑顔で世界中を沸かせてほしい。
最後にオリンピックを終えたら何がしたい? と聞いてみた。「車の免許をとりたいんです! でもみんなに怖いって今から言われています(笑)」
鬼塚 雅
Miyabi Onitsuka
1998年10月12日熊本県熊本市生まれ。5歳でスノーボードをはじめ、小学6年生の頃からスロープスタイル、ビッグエアの種目でコンペを中心に活躍。2015年の世界選手権で日本人女子初、最年少で金メダルを獲得し脚光を浴びる。2017年の世界選手権は3位、W杯北京大会、メンヘングラッドバッハ大会のビッグエアで2位となり、来月開催される平昌オリンピック出場内定。 現在は早稲田大学スポーツ科学部に在籍する女子大生でもある。スポンサーは星野リゾート、RED BULL、BURTON、日本航空、F.JANCK、大阪王将、SAMANTHA THAVASA
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