【ライダーインタビュー】ウィスラーで磨くスノーボードの本質|headライダー中村一樹インタビュー


スノーボードにハマったのは22歳。遅咲きからの情熱がすべての始まり

Q1. インタビューがお久しぶりなので、まずは簡単に自己紹介をお願いします。いつ頃からスノーボードを始めて、どんな経緯でカナダに移住したんですか?

中村:はい!中村一樹と言います。現在はカナダのウィスラーという田舎町に、スノーボードのために移住しました。 僕がスノーボードを始めたのは少し遅く、22歳のとき。大学の後輩たちと滑ったことがきっかけで、そこからどっぷりハマりました。カナダに来たきっかけの前に、少し過去の話をさせてください。 22歳の頃からスノーボードが大好きになりすぎて、夏は奈良と大阪の間にある練習施設「O-air」でほぼ毎日練習し、大阪キングスができてからはそちらにも通って、仲間たちと切磋琢磨していました。 本当に週6〜7日は施設にいました(笑)。 夏にはニュージーランドへスノーボード修行に行き、帰国してはまたキングスで練習という日々。 その積み重ねの結果、PSA ASIAのプロ資格を取得し、スロープスタイルの大会に出場していました。 大会を回っていた頃は「動ける限り現役でいたい」と思っていましたが、30歳に近づくにつれて考えが変わり、もっと“フリーランが上手くなりたい”と思うようになりました。 14歳からスケートボードもしていて、自分ではけっこう上手いと思っています(笑)。でもスノーボードにスケートの動きや感覚があまり活かせていないことに気づいたんです。そんなモヤモヤを抱えていたとき、春のスプリングシーズンに訪れたウィスラーで衝撃を受けました。パークを滑って帰る途中、前を滑るライダーが高い岩壁を使ってFS360で木にタップしてメイクしていったんです。 「……衝撃。」 その瞬間、「自分の理想のスノーボードはここ(ウィスラー)にある」と確信しました。帰国後すぐにheadの会社に行って、「ワーホリビザを取ってカナダに行きます!」と宣言。最初は驚かれましたが、最終的にはみんなが背中を押してくれました。……いや、たぶんサラッとOKって言ってた気もします(笑)。そうして全員の許可を得て、カナダへ渡りました。 それがウィスラー移住のきっかけです。

不便だけど、心が豊かになる。ウィスラーの暮らし

Q2. カナダ・ウィスラーでの暮らしはどんな魅力がありますか?

中村:ウィスラーでの暮らしは正直、不便です(笑)。 小さな村なので便利なお店は少なく、日本のようなホームセンターは車で40分ほど走らないとありません。 24時間営業なのはマクドナルドくらいですね。英語環境の中で言いたいことが伝わらない“ポイズン状態”ですが、不便の中にも良いことがあります。自然が豊かで、住民はみんな優しく、英語が拙い僕たちにも寛容な人が多い。何度も助けられました。 もしウィスラーじゃなかったら、心が折れていたかもしれません。 ……あと、温泉がないのはしんどいです(笑)。 それでも、この環境に身を置き続けることが大事だと感じ、移住を決めました。

コーチとして、スノーボードの“あらゆる楽しさ”を伝えたい

Q3. 現在はCSBA(Canadian Sports Business Academy)でコーチをされていますが、具体的にどんなことを教えていますか?

中村:ウィスラーにあるスポーツ専門学校「CSBA」でコーチをしています。 主にスノーボードで山の地形を滑る技術を教えていて、生徒の年齢は16歳〜40歳と幅広いです。ウィスラーは山全体がエリアになっていて、フリーラン、ツリーラン、クリフジャンプ、パウダーラン、そしてパークまで、あらゆる地形を使って指導しています。 山が大きい分、教えられることは本当にたくさんあります!

“世界最高の環境”が生徒を育て、自分を磨く

Q4. ゴルフ、マウンテンバイク、スキーなど多彩なスポーツがある中で、スノーボードコーチならではの面白さややりがいは?

中村:スノーボードが上達するには“環境”がとても大事だと思っています。ウィスラーはその環境が圧倒的です。ウィスラー山とブラッコム山の2つの山があり、同じシーズン券でどちらも滑ることができます。コースは200本以上あり、1シーズンで滑りきるのは不可能なほどのスケール。さらにスノーパークは、オリンピック選手たちが練習に訪れるレベルです。この環境で生徒たちが上達していく姿を見るのが本当に楽しいです。 初心者で入ってきた生徒が、3シーズン目にはFS900をメイクしたときは本当に驚きました。

Q5. 指導する際に大切にしていることや、自分の経験で活きているポイントはありますか?

中村:僕が指導で大切にしているのは、「固定概念に縛られないスノーボードをすること」です。スノーボードを始めたきっかけは、キッカーでジャンプしている人がカッコよくて憧れたから。日本にいた頃は、雨でも雪でも毎日パークに通っていました。大会に出るようになると、「順位=自分の上手さ」と思い込んでいた時期もあります。まさに“パークの悪魔”に取り憑かれていたのかもしれません。もちろんパークに打ち込むのも素晴らしいことです。でも僕は、そこで行き詰まったときに“スノーボードが支えにならない”ことが辛かった。 スノーボードは本来、滑るだけで楽しいはずなのに、自分が苦しくなっていました。「悩む」と「苦しむ」は違うと思っています。悩むスノーボードは成長につながるチャンス。でも苦しいときのスノーボードは何をしても楽しくない。だからこそ、自分を見失わず、常に新しいことにチャレンジして成長していきたいと思っています。

ウィスラーの自然がくれる自由とインスピレーション

Q6. 「撮影に本当はめっちゃ参加したい」とおっしゃっていましたが、コーチをしながらライダーとしての活動はどのように両立していますか?

中村:コーチ以外の日はフリーの時間もあるので、そのときに撮影をしています。やる気のある仲間たちと連絡を取り合い、一緒に撮影に出かけています。

Q7. 自然豊かなウィスラーでのライディングは、どんなインスピレーションや新しい滑りを生んでいますか?

中村:まず、発想が自由。世界トップレベルのスノーボーダーたちを間近で見られる環境があり、刺激が多いです。ゲレンデ内では(ルールはありますが)クリフを飛んだり、ツリーランしたりと、いろいろな挑戦ができます。インスピレーションを受けるには、世界でもトップクラスの場所だと思います。

Q8. カナダの雪質や地形が、トリックやライディングスタイルにどんな影響を与えていますか?

中村:ウィスラーは地形が本当に豊かで、ツリー、クリフ、バックカントリー、パークなど、同じ山でさまざまな滑りに挑戦できます。この山を滑りこなせるようになるだけで、トリックやライディングにも自信がつきます。

横ノリのある生活”が自分を整えてくれる

Q9. ウィスラーでの日常生活について教えてください。お気に入りのトレイルやオフの日の過ごし方は?

中村:冬は毎日スノーボード!コーチの仕事をしながら、プライベートでも週4〜5日は滑っています。 その合間に撮影も行います。夏はスケートボードをしているので、年間を通して“横ノリ”の生活です。

Q10. 自然と近く暮らすことで得られる気づきや、心身への影響はありますか?

中村:ウィスラーで自然と共に暮らすということは、“クマと共存している”ということでもあります。 日本なら大騒ぎになるような場面も、ここでは日常。これは自然を大切にする国民性や、野生動物保護の考え方が根づいている証拠です。また、ペットを家族の一員として大切にし、共に生きる文化もあります。 犬が大好きな僕にとって、そこら中に犬が歩いているこの環境は癒しそのものです。

次の挑戦はバックカントリー。

headのボードで、未知の雪山へ

Q11. コーチとして、また一人のスノーボーダーとして、これから挑戦してみたいことは?

中村:コーチとしてはまだまだ学ぶことが多いですが、生徒と共に成長しながらチャレンジを支えていきたいです。 そして自分自身の挑戦としては、もっとバックカントリーに挑みたい。 ウィスラーはバックカントリーでも有名なので、headのスプリットボードでその魅力を日本に届けられたらと思っています。

Q12. カナダで活動することで、日本のスノーボードシーンにどんな価値を届けたいですか?

中村:カナダの多様な雪質と地形を活かして、ウィスラーのような世界トップクラスの環境で、パウダーもパークも高いレベルで表現し、世界の“広さと美しさ”を伝えていきたいです。 これからも応援よろしくお願いします!!

スノーボードは“誰かに勝つため”ではなく、“自分の感覚を広げるため”のもの。 ウィスラーで生まれる中村一樹のライディングは、その哲学を体現している。 自然と一体になり、滑ることそのものを楽しむ―― それが、彼が追い続ける「headらしいスノーボード」だ。

【Profile】 中村一樹 Kazuki Nakamura 1987年 7月 6日生まれ ■身長/ 160cm ■スタンス/レギュラー 48cm ■アングル/前 9度、後ろ -12度 ■スノーボード歴/ 13年 ■ホームマウンテン/ウィスラー ■使用アイテム/ INCITE 150cm NX TEAM TEAM BOA ■Instagram/@kazuki_z3z