3月7~9日、福島・星野リゾート ネコマ マウンテンにて「MURASAKI AIRMIX STYLE BATTLES 2025」が開催された。従来のAIRMIXと言えば「誰がもっともぶっ飛ぶのか」に焦点が当てられていたが、今大会から工藤洸平が企画・運営の中心となり、よりスタイルを重視する方向にシフトチェンジされることとなった。そのため大会名称には「STYLE BATTLES」というワードが加えられたのだ。そして結論から言えば、まるで敏腕脚本家が描いたドラマのような劇的な結末に、その場にいた誰もが熱狂し、酔いしれた。すでにSNS等でリザルトやライディング映像をチェックしたという方も多いだろう。なので、ここではプロデューサーの重責を見事に果たし、今大会を成功へと導いたコウヘイのインタビューを中心に振り返る。
コウヘイのインタビューに入る前に、大会内容について簡単に触れておきたい。
3月7日に公開練習、8日に予選、そして9日にメンズのファイナルジャム、メンズ&ウィメンズのスーパーファイナルがおこなわれた。そのバトルフィールドとして用意されたのは、トランジションジャンプも可能なキッカーから、レギュラーバックサイドのヒップへと続き、ボウルとしても正面クォーターとしても使えるセクションの3アイテム。これまでは特大スパインの存在感が大きかったが、今大会では総合滑走力とスタイルが求められるレイアウトとなっていた。

数々の熱戦が繰り広げられるなか、ウィメンズで優勝したのは、キッカーでキャブ540をクリーンにメイクし、ヒップでステイルを決めた河野柑奈。

メンズの優勝候補だった片山來夢がスーパーファイナルの初戦でキッカーでバックサイド720を、ヒップで特大のメソッドを、そしてエンドセクションでは高さのあるチャックフリップを完璧に繋ぐなど安定感はピカイチだったが、3回戦でミスが出てしまい敗退。それでも全体的な完成度の高さは圧巻で、見事ベストトリック賞を獲得した。

そして、オリンピアンやムービーで活躍する若手ライダーを差し置いてメンズで優勝を果たしたのは、ワイルドカード枠で出場していたフィルマーの極楽坊主こと大村優生。対戦相手のミスもあったが、ヒップで魅せたテールを天に向かってぶっ刺すフロントフリップはコマを進めるごとにデカくなり、最終決戦では海パン一丁の装いでヒップを全越え。直前に完璧なランを終えていた先攻の西塚然生をはじめ、ヘッドジャッジを務めた國母カズや普段は大村に撮られる側のライダーたちが、パーフェクトストンプした直後に彼のもとへと駆け寄るほどの盛り上がりで終幕したのだった。


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このようなドラマチックな展開となった今回のAIRMIX。新プロデューサーとして舵を取ったコウヘイに今大会を振り返ってもらった。

6年ぶりのAIRMIXは大成功で幕を閉じたように思うけど?
ありがとうございます。いろんな方の反応を見るかぎり大満足してくれたと思います。スーパーファイナルでは素晴らしいバトルがたくさん観られましたしね。
特に印象に残ってるバトルは?
初戦だと大久保 勇利と久保田 空也のグーフィー対決ですかね。スタイルもちょい似てる2人のバトルだったので、めちゃくちゃ面白かったです。その後も熱戦が続きましたが、その全部をかき消すくらい優勝決定戦がやっぱりヤバすぎました。


フィルマーの大村優生をワイルドカード枠に入れた決断は間違ってなかったね。
打ち合わせの段階でスーパーインビテーションの枠に「大村優生を入れます」って言ったとき、「え? 誰?」っていう雰囲気もありました。でも、「彼なら大丈夫です。絶対に盛り上げてくれるので」と説得したんです。結果的にやってくれましたしね! ライダーにフィルマーが勝つ大会なんて最高じゃないすか!!

そもそも、コウヘイがAIRMIXの新プロデューサーに就任した経緯を教えて。
2年くらい前にAIRMIXを復活させようって話が挙がって、そのときに吉野(満彦)さんから連絡があったんです。「自分は現場から離れてから時間が経ってるから、今のシーンをよく知ってるコウヘイが中心となって動いてほしい」と。実は一昨年も去年も開催しようとはしていたんですが、雪不足などが原因で実現できませんでした。やっとカタチにできたのが今年だったんです。
プロデューサーとして具体的にどんな動きをしていたの?
基本的なPRの方向性を考えたり、インビのライダーやジャッジを誰にするか、また大会の流れやルールをどうするかなどを決めました。例えば、今まではスーパーインビテーションを受けたライダーでも予選から参加しないといけませんでしたが、今回はスーパーファイナルから登場させたり、予選以外はビブをつけなくてもOKにしたり……。あと、ただデカいジャンプをすればいいってわけじゃなく、いろんな個性やスタイルを出せるような舞台になるようにコースレイアウトのディレクションもさせてもらいました。

スタイルを重視してたからこそ、大会名も変更したんだよね?
そうです。そこは特に意識しましたね。ヒップでぶっ飛ぶのもスタイルだし、あえて飛ばずにスラッシュで魅せるのもスタイル。キッカーも普通に飛んでもいいし、横のトランジションを使ってもいい。そういった様々な魅せ方を融合して、いかに自分のスタイルとして表現するか。それが個性になるし、そこで魅せてこそカッコいいと思うんですよ。これまでのAIRMIXのイメージをちょっと崩したかったのもあって、インビでは飛んでも飛ばなくても魅せられるライダーたちに声をかけさせてもらいました。
確かに、トリックのバリエーションが出しやすく、スタイルも表現しやすいコースレイアウトになってた。
キッカーは正面で飛んでも14mくらい、サイドのトランジションを使えば8mくらいのアイテムとして使える仕様にしました。ヒップも今までよりキックの角度を少し寝かせて、ちゃんとオーリーがハマれば高さも出せるし、トリックもしやすいようにしたんです。エンドボウルもスラッシュを上げるだけじゃなくて、部分的にエクステンションをつけて高く飛べるようにもしました。ヒップのジャンプで終わらない感じにしたかったので。結果、いろんな遊び方をしてくれたし、いろんなラインで攻めてくれて、ライダーたちの多様なスタイルが観られて面白かったです。
そういった舞台を実現できたのは、ネコマ マウンテンのオペレーターやディガークルーの尽力もあった?
1月に視察にネコマ マウンテンに行ったときにオペレーターの方たちと会って、そこからオンラインミーティングで何度か打ち合わせをしたんですが、何よりもライダーファーストで考えてくれていたのが良かったです。20年くらい圧雪車に乗ってアイテム造成をしてきた方だったので技術もすごかったです。けっこう無理難題を言ったけど、かなり叶えてくれましたね。
ジャッジングもよかった。
1対1のバトルって後攻が有利だったりするじゃないですか。でも、AIRMIXには細かなポイントがあるわけじゃないし、先行・後攻に関わらず平等に採点してもらうようにしました。後攻がコンパクトにまとめて勝ちに行くってスタンスは嫌だったし、ライダーたちには常に「攻める」「魅せる」という姿勢を貫いてほしかったから。あと、今まではスパインに8割くらいの重点を置いていたけど、今回は全体を通してバランスよく採点してもらうようにしました。だから、コース全体を自分のモノにした(片山)ライブがベストトリック賞に選ばれたわけです。

今大会を改めて振り返って思うところはある?
自分が若い頃、先輩たちに見せてもらった「大会で魅せるって何?」っていうことを、今の若いライダーたちに伝えられたんじゃないかって思うんです。自分たちも先輩たちと勝負して、ここで勝ったら知名度を上げられるっていうのを肌で感じて挑んでいたし、そういった大会も世の中にはあるんだよっていうのを感じてもらえた場にもなったのかな、と。今の時代ってコンペ活動に区切りをつけた若いライダーが、次は映像で活躍したいからってシフトチェンジしても、いきなりムービースターになれるかって言ったら、けっこう難しいじゃないですか。だけど、若くてカッコいいライダーはたくさんいる。昔は「魅せる」ってことに重点を置いた大会はたくさんあって、コンテスト活動を終えても映像以外に自分を表現する場、選択肢がいろいろありました。今はそういったチャンスが少ないと思うんですよ。でも、それだとつまらないというか……ライダーからしても夢がないなっていう想いがありました。だから、こういった「魅せる」ことにフォーカスした大会をキッカケに知名度を上げられる、もっと上を目指せるっていう場に、AIRMIXをしていきたい。そんな未来を感じられる大会に、今回はまとまったのかなって思います。

来シーズンも開催するんだよね?
その方向で動いてますが、そこはスポンサーさんの集まり次第って感じです。せっかく開催するのであれば、やっぱりライダーたちにとっては夢を持てるような大会にしたいし、それに見合った賞金を出したいので! スノーボーダーの未来にベットしてくれるスポンサーさん、お待ちしております!!
6年ぶりに復活した「AIRMIX」は、プロデューサーに就任したコウヘイの新たなビジョンのもと開催され、現場ではオーディエンスを熱狂の渦に巻き込むなど、大きな話題を集めた。次世代スノーボーダーに新たな夢を与えられる大会として、今後どのように進化していくのか、来シーズンの開催にも期待が高まるばかりだ。