2017年、小学6年生。BSダブルコーク1080をストンプした映像が、世界中のスノーボーダーをザワつかせた。翌2018年、ノルウェーで開催されたX GAMES。その少女は、BSダブルコーク1260をメイクし、世界の頂点に立った。―――村瀬心椛。
しかし、その歓喜の直後に待っていたのは大怪我だった。それでも、彼女はメンタルもフィジカルもさらに強くなって戻ってきた。そして2022 年、北京五輪。ビッグエアで銅メダルを獲得。冬季五輪における日本人女子最年少メダリストとなった。あの感動から、もうすぐ4年。21歳になった彼女は、今どんな景色を見ているのか。競技者と表現者のあいだを軽やかに行き来する村瀬心椛に迫る。

大会に出場し続ける理由
北京五輪後に取材したとき、彼女は「次はビッグエアとスロープスタイルのダブルで金メダルを獲りたい」と語っていた。そう、まだ彼女には夢の舞台に残してきた忘れ物がある。いよいよ、それを取り 返すシーズンがやってくる。
オリンピックって、どういう存在?
スノーボードをやらない人や、これまで興味がなかった人にも観てもらえる機会が多いですし、特に日本では圧倒的に注目されている大会。そこがすごく価値のあるところかなと思ってます。
コンペティターにとって、オリンピックと並ぶビッグコンテスト、X GAMES。どんなイメージを持ってる?
アクションスポーツのお祭りみたいなところもあるし、世界的な注目度がとても高くて、規模もすごく大きい。だから、オリンピック同様に昔から憧れてたし、ずっと目標にしてきた大会ですね。
コンテストに対する考え方は昔と何か変わった?
昔は「とにかく大会で活躍する選手になりたい」という気持ちが強かったけど、今は結果だけがすべてじゃないっていうか……。大会でもカッコよさを追求したいし、もっと自分らしさを表現したい。その想いは強くなってますね。
何かキッカケが?
「ボードに乗れてきた」「滑りが安定してきた」と感じ始めた頃から、他に誰もやってないトリックやグラブ、スタイルをすごく意識し始めるようになりました。ただ大会でグルグル回るだけの選手じゃなくて、スタイル面でも人の目を惹くライダーになりたい。そう思い始めたのが、前回のオリンピックが終わった頃だったかなと思います。
今、大会で表現したいことは?
スノーボーダーはもちろん、スノーボードをしてない方にも、「このライダー、カッコいい」と思ってもらえるようなトリックやスタイルを意識してます。
X GAMESのナックルハック、カッコよかったよ。
スノーボードって“ 魅せる” ことを大切にする競技だし、これが絶対に正解っていうのもないじゃないですか。だから、あの場では、誰もがやってないこと、自分らしさ、それらを表現したかった。私はスノーボードってアートだと思っているので、トリックをするにしても何をするにしても、見た人の心を動かせたらいいなと思っています。
“ 魅せる” に特化するのであれば、映像の世界に行く道もあるはず。だけど、今も大会にこだわっている理由は?
私、すごく負けず嫌いなんですよ。それも人と競うっていう意味じゃなくて、自分との戦いに負けたくない。だから、きっと自分を成長させるために、今は大会に出てるのかなと思ってて。大会でしか得られないものってたくさんありますしね。それに選手を続けるのが難しい年齢って、いつか絶対にやってくるじゃないですか。だから、今しかできないことを全力でやりたいんです。
いよいよオリンピックシーズン。準備は順調?
最近は(富山)立山や中国にある練習施設に行ってますね。
そこで覚えたニュートリックは?
それは、まだ秘密ってことで(笑)。
スノーボード以外に普段は何をしているの?
うーん……最近はずっと練習してます(苦笑)

“カッコいい” を伝える
大舞台を前にトリックの精度を高めながら、スノーボーディングの本質であるカッコよさへの意識もますます強くなっている。競技者としての覚悟と、表現者としての想い。彼女の本音とは?
この冬に向けて猛練習に励んでいるけど、編集部には大会以外のイケてる写真が届いていた。撮影活動にも注力している理由は?
私が目指してるのは、競技だけの選手で終わらないこと。スノーボードって、いろんな遊び方があるじゃないですか。パークやバックカントリー、たとえ水の上でも、想像力を活かせばカッコいい表現ができる。それを多くの方に見てもらいたいんです。何がカッコいいかは人それぞれだからこそ、いろんなスノーボードを知ってもらったうえで、誰が見てもカッコいいと思ってもらえるスノーボーダーになりたいんです。
じゃあ、「私をコンペティターってくくりで呼ぶのはやめてもらってもいいですか?」って感じだよね。ゴメン、さっき使っちゃった(苦笑)。
(笑)。でも、そういう感じかもしれないです。
NOMADIKの『GYPSY2』に出演して、何か思ったことはある?
今までムービーを観る側だった自分が、出る側の立場になったのは嬉しかったです。ただ、今はまだ競技活動が忙しいので少し厳しいかもしれませんが、もっともっとすごい映像を残してムービーでも魅せていきたいっていう想いが、さらに強くなりました。
さらにNOMADIKから村瀬心椛モデルも出る よね?
そうなんです。ジャケットとパーカを出させてもらうことになりました。(工藤)コウヘイくんと一緒に作らせてもらったんですが、すごく勉強になりました。
ファッションへの興味は昔から?
自分の滑りに余裕が出てきたくらいから、ライディング中のファッションにもこだわりが強くなっていきました。「自分だったらこうするのにな……」みたいな。なので、実はけっこう最近なんです(苦笑)。
最近のX GAMESでも着こなしがカッコいいって思った。
滑りはもちろんですが、身につけている物、その着こなしなど、トータルでカッコいいと憧れられる女性でありたいと思ってます。
話はガラリと変わるけど、YouTubeで動画の配信を始めた理由は?
まだまだスノーボードをやってる人自体が少ないし、さらにカッコよさや楽しさまで知ってる人となれば本当に少ないと感じてて。それに、競技の世界で活躍しながら、大会の舞台裏、滑りながら考えていること、普段着の“ 素”の部分などを発信しているライダーもほとんどいないのが現状で。最初は「YouTubeって自分っぽくないな」と思ってたんですけど、そういったところも知ってもらえるキッカケになるかもしれない。そんな想いで始めました。それが世界選手権のときだったんで、急遽、予選の公開練習を撮影してアップしたんです。それが初回動画ですね。
なるほどね。舞台裏や素の表情を観られて、すごく面白かった。あとは……もう少し更新されると嬉しいかな(笑)。

未来を見据えて
競技の枠を越え、スノーボードの新しい魅せ方を彼女は模索している。そんな彼女の目は常に真っ直ぐで、ずっと先の未来をも見据えている。
ライダーとして今もっともフォーカスしているのは?
今だと……やっぱりオリンピックになりますね。でも、そこにフォーカスしすぎないように、自分らしく、楽しく、挑もうかなと思っています。いつもどおり大会でもカッコよくを目指して。あと、オリンピックが終わったら撮影も今シーズンは増やしていきたい。私は本当に周りの方たちにすごく恵まれていると思います。(國母)カズくんは、人との繋がりやスノーボードの世界をどんどん広げてくれたし、コウヘイくんは、ムービーへの出演や自分のモデルを出させてもらうチャンスをくれた……。本当にいろんな方のおかげで、やりたいことが今どんどん実現しているのを感じています。感謝しかありません。
いろいろ話を聞いてきたけど、もっとも出てきたワード――カッコいい。では、村瀬心椛にとってカッコいいとは?
スノーボーダーでもそうでなくても、誰が見ても輝いているような存在ですかね。難度の高いトリックをメイクしたり、オリジナルスタイルで魅せるのはもちろんだけど、気持ちよく滑っているだけなのに思わず見入っちゃう。アプローチしてるだけでもカッコいい。そういう人っているじゃないですか。そんなオーラを出せるライダーになりたい。以前、ある記者さんに聞いたことがあるんです。「スノーボードの取材をされているとスタイルって言葉が多く出てくると思うんです。でも、スタイルってわかります?」って。じゃあ、「わからない」と言われて。そのとき、スノーボードのことをあまり知らない人の心にも、もっと響くような滑りをやらなきゃって思ったんです。まだ自分には足りないが多いけど、そのぶん、まだまだ伸びしろもあると思っているので!
「トリックの難度とスタイルを両立させたい。とにかくカッコいい滑りがしたいから」。前回のオリンピックのあと、彼女が語った言葉だ。あの頃も、今も、ブレていない。コンテストでも、ムービーでも。村瀬心椛の滑りは、観る者の心を揺さぶる何かがある。これから彼女は、その何かを大会でも伝えようとしている。きっと、そんな彼女の滑りや生き様に憧れて、新時代のスノーボーダーがまた生まれていくのだろう。
Profile /
2004年11月7日生まれ、岐阜県岐阜市出身。 スポンサー: TOKIO INKARAMI、SALOMON、NOMADIK、OAKLEY、ムラサキスポーツ、MONSTER ENERGY、SLAB OUTDOOR PARK TATEYAMA、GALLIUM、PAP
Edit + Text: HaruAki

(本記事は2025年11月27日発売・FREERUN 12月号に掲載されたものです)
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