パークディガー対談「高品質のパークづくりを求めて」〜 星野リゾート アルツ磐梯・猫魔スキー場 山田雄二 × OTK project代表 大竹延王

スノーボードが盛んになり、ジャンプ、ジブといったフリースタイルの遊びに欠かせない存在となったスノーボードパーク。パーク全盛期にはどこのスキー場でもなんとかパークをつくってお客さんを集めようと競い合うように増え続けたが、実際にパークを維持するには作業の大変さはもとより、スキー場として負担しなければならない人件費などのコストの問題から、現在ではしっかりとパークを運営出来ているスノーリゾートはそれほど多いとは言えない。我々がシーズン中たっぷり楽しませてもらうパークが、どんな思いでつくられ、どのように管理されているのか、そして将来は?そんな話をパークづくりで高い評価を受けている2人のパークディガーに聞いてみた。

山田雄二(右)
YUJI YAMADA
福島県会津若松市出身 47歳
パークづくり25年のキャリアを持ち、日本オープンなど国際大会用の巨大アイテムを海外のパークビルダーとともに作り上げるなど国際級アイテム造成経験も豊富。星野リゾート アルツ磐梯、猫魔スキー場の全パークを統括管理する
大竹延王(左)
NOBUO OTAKE
福島県いわき市出身 37歳
現プロライダーでありながら、OTK project代表として黒姫高原のBCパーク、今シーズンは軽井沢プリンスホテルスキー場のパークのサポートも手がける。アマチュア時代から山田氏のつくるパークで技術を磨いた経験があり、そこから受けたパッションが現在の彼の仕事に大きな影響を与えている

たくさんの経験を積み重ねてここまで来ました
始めた頃はお客様に罵声を浴びせられたこともありました

まずは、パークづくりに関わり始めたきっかけについて教えてください
山田 最初は僕もプロライダーを目指していたんですよ。当時は20歳。お金を稼ぎながら、うまくなる方法はないかなって探しているときにディガーの仕事を知ったんです。でも、当時はまだディガーという仕事は確立されていなくて。22歳の頃アルツ磐梯に入りました。実は僕が入ったときに、アルツにはそういうスタッフは自分ひとりだけで、前任者も辞めた状況でポツンと入ったんです。だから大変。当時はパイプしかなかったんですが、重機のオペレーターの方の横に座ってここをこう削ってとかアドバイスする感じでした。そこから周辺のリゾートも渡り歩いたりして、徐々に経験を積み重ねた感じです。
大竹 僕はちょうど山田さんがつくったパークで練習してライダーになったという関係なんですよ。学生の頃、猫魔でリフト係として働いていて、猫魔スキー場やアルツ磐梯で滑ってました。当時からやはり山田さんがつくるパークは地元で有名でしたし、品質が安定していたから人も集まっていた。福島県内では当時でも一番人気でしたね。ただ、選手はずっと続けられるものではないから、もともと手に職をつけてウインター業界で仕事をしていきたいという考えを持っていました。そんな中、自分がプロになった年にとあるスキー場からパークづくりに携わってみないかと言われて、そこからがスタートですね。

パークづくりにどんどんはまっていく中で、どんなことが影響を与えましたか?
山田 最初の頃は重機を扱えなかったからオペレーターの人が忙しいとパイプのいい状況を保てなくなり、そこにお客様から罵声を浴びせられるわけです。なんだこれ?みたいな。それが悔しくて。そこから自分で重機に乗るようになって、いい評価をもらうともっと良くしてやろうみたいな気持ちが湧いてきて。それでハマっていきました。自分でつくって、飛んで試して、直して、その繰り返しで自分が納得できるまで作り直す。後は日本オープンなどアルツ磐梯で国際大会が開催され、海外のパークビルダーが日本に来て共同作業した時、大きなアイテムを作る現場を目の前にして、作業の効率の良さや重機の使い方など非常に学ぶことが多かったです。
大竹 自分で飛んでいるだけの時は、自分だったらこうするのになという思いもありました。でも、そうそう簡単なことじゃないんですよ。まずは重機を巧みに扱えないとダメなんです。つくるカタチ、作業のイメージはあっても、重機を自分の手のように動かすことができないといけない。重機の動かし方はスキー場の人に教えてもらえても、パークづくりでのコントロールは自分でつかむしかない。そこが本当に難しい。僕も始めて3年くらいは本当にお客様から厳しいことを言われ続けた感じですね。当時はSNSはなかったんですが、整備が終わって帰ってくると、公開掲示板(BBS)にそういう書き込みがあって心が折れて、また整備して。でも、それを励みにして頑張った。山田さんのおっしゃってたことと同じですね。それで経験を積んでいった。

お客さんの声はシビアですものね、でもそれは励みにもなってきたということですね。
山田 そうですね。厳しい意見はめちゃめちゃありますよ(笑)。でも、それを受け入れて頑張るしかないですから。
大竹 シーズン終わりにやっぱりこのパークに通って良かったって声をもらったりするととても嬉しいですし、励みになりますね。

アルツ磐梯でパークを初体験する人はとても多い。恐怖心を感じることなく、ちょっと挑戦してみようと思える優しいサイズからステップアップしていけるところが魅力

 

流せるパークは、普通にフラットな面を滑るだけでは体験できない楽しさ、止まらず流せるというスマートな遊び方を体験できる

パークづくりの舞台裏と品質管理の難しさ

アルツ磐梯は初級~グローバルパークまで、全ジャンル、全レベル対応、パークづくりは大変じゃないですか?
山田 現在、パークづくりのアイディアはみんなで意見を出し合ってつくります。前のシーズンの反省点を踏まえて、考えます。そしてシーズン中は重機のオペレーターが7人、ハンドワークが12人がスタンバイしているんですが、やはり問題は品質管理です。そこをスムーズに行うにはいかに機械を使って作業を効率良く進めるかっていうところが重要なんです。手作業が入ると時間もかかり、スタッフの体力にも影響しますし。オペレーターの技術が作業の効率に大きく影響します。

BCパーク(黒姫高原)はどのような体制ですか?
大竹 アルツ磐梯のようにそれだけスタッフがいるのは羨ましい。そうじゃないとこれだけのパーク、アイテム数をつくれないし、管理できないと思いますよ。僕らはオペレーターが2人、ハンドワークが5人体制ですが、それでBCパーク(黒姫高原)の規模を管理しています。いくらディガーの数がたくさんいても結局、重機で9割ぐらいやり終える勢いでいかないとダメなんですよ。

YONEXのライダーとしても活躍しつつ、キャンプでコーチを務めたり。常にポジティブにスノーボードに向き合い、アクティブに動き回る大竹延王。猫魔スキー場のパークにて

常設パークの難しさはどんなところにありますか?
山田 猫魔は雪がサラサラで寒い、その場所の気象状況によって作業自体も変わったりしますね。特にコースの斜度はいちばんパークづくりに影響します。アルツ磐梯はパークの位置もいろいろ変更したりするんですが、位置決めも難しいですし、斜度に合わせてどう作るかも重要。広くて、雪がいっぱいあれば、それに越したことはないですけどね(笑)。そういうわけにもなかなかいかない。
大竹 ホントそうですよ。雪が足りなければどこからか持ってこなくてはいけない。その場にある雪じゃ大きな土台は盛れないなら、それをどこから運んでくるか? その導線もありますし、シーズンの長さによってスキー場の営業期間とも兼ね合わせてどのくらい雪が使えるのか、という問題も出てきます。春もどこまで持たせるか、雪の残量まで考えて作業しますよ。降雪機が使える場合はどう使うか?あとは地形。ボコボコしていたらそこを埋めたり、片斜面だったらバランスを整えたり。いろんなことを考えながら、常にベストの品質を提供するのは難しいことなんです。

アルツ磐梯のグローバルパーク制作の難しさはどんなところですか?
山田 まずは雪集めですよね。クローズしているコースがあるんですが、そこの1km上から雪を下ろしてきたり、それでも雪が足りなくて人工降雪をかけたり。人工降雪だけだと非常にお金がかかっちゃうんで。特に平昌オリンピック前につくった時は、鬼塚 雅選手の練習日程に合わせるというタイミングの問題もあったんで大変でしたね。ランディングはウインチ付きの圧雪車でないと作業できないですし、実際につくってからもアプローチの感じ、飛び出し口の感じなど、ライダーからの要望があればそれに応えて調整も入りますからね。これまでもイベントや撮影とかでこのサイズをつくるってことはありましたが、グローバルパークを常設しておくっていうのは大変さのレベルが違う。整備もだいぶ手がかかりますから。でも、小さなアイテムでも雪が降ればすぐ埋まっちゃうとかもありますし。パークはオープンしている限り品質を保たなくてはならないってことですからね。

RIDER VOICE:
鬼塚 雅 MIYABI ONITSUKA
スノーボードを始めた5歳の時からアルツ磐梯のパークで練習していますが、どのレベルのアイテムも安全面がしっかりしている点が気に入っています。平昌五輪の直前には特設パークをつくっていただき、2週間ほどみっちりとトレーニングさせてもらいまいた。アルツ磐梯のディガーの方たちが最高のアイテムを作ってくれて、高難度のトリックを完成させることができました。昨年からはこのパークがグローバルパークとして一般の方が滑れるようになって、さらに盛り上がっていたので今年もとても楽しみにしています。
RIDERS VOICE:
稲村奎太 KEITA INAMURA
日本でこれだけ土台がしっかりしたジャンプ台はそうそうないんで、昨シーズンは1ケ月近くアルツ磐梯にいてグローバルパークで練習していました。土台が大きいから着地の衝撃も少ないし、整備も完璧なので安全に気持ちよく飛べましたね。これだけのものを国内で常設していて飛べるのはとても嬉しいです。


これから先、やっていくべきこと

この10年くらいの間にパークづくりにどんな変化があったのでしょう?
山田 いま、いろんなカテゴリーのものが求められてきているんで、昔とは変わってきてますね。アイテムもどんな風につくったら楽しいのか、新しいアイディアもどんどん入ってきた。ただ自分たちが自信がないものはつくらないですね。エンターテイメント性のあるアイテムもスタッフといろいろ話し合ってつくってみたり。もっと楽しくなるように考えていきたいですね
大竹 パークをライディングするのでも、普通に飛ぶんじゃなくて、ジャンプ台の側面を使って遊べるようにとか、いろんな遊び方に対応できるようにつくるようにもなりましたね。特にアルツ磐梯、猫魔スキー場ののパークはどこを使って遊んでもいけちゃう。作りに隙がないというか、いろんなことに対応できるように作られてたりして、シーズン中に何回か行きますけど、いつも感心させられますよ。

春になると猫魔スキー場のパークがシーズンラストまでオープン。アルツ磐梯と同じく高品質だ(昨年のインディーパークジャムの模様)

まだまだ進化していくと考えられますが、ここから先にやっていこうと思うことってどんなことですか?
山田 新しいものの提案、それは僕にとって永遠の課題ですかね(笑)。自分が今までずっと作ってきたジャンプ、レールみたいな基本的なものからもっと変わったもの、この先をもっと考えていきたいと思います。それがなんだか、今はまだちょっと明確にはなっていないんですが、滑り手側の気分が上がって楽しいって思えるようなものを提案できるようにしたいです。
大竹 海外ではもすごいクリエイティブなパークとかも出来てきていますが、日本のパークはまだそこまで追いつけていけてない部分もある。規模的にも、クオリティもですかね。だからまずは常設のクオリティをもっと上げることが最優先、その次にクリエイティブなところなのかと。あとは後輩の人材を育てたい。最近はようやくまた若い選手の中から、ウインター業界でライダーの次に仕事としてパークづくりをやっていきたいという気持ちの子も出てきた。そういう子たちがちゃんと育っていける環境にしていきたいですね。

国内最大級を誇るアルツ磐梯のパークラインナップ

全レベルOK
流せるパーク
飛んだり、回ったり、技を決めなくてもだれもが自由に遊べるパークで遊び方も無限大。パークに入る恐怖心を感じることなく楽しさを味わえる。地形を使ったバンクなどのアイテムやハーフパイプに加え、オリジナルアイテムも登場予定。

初級者
ステップアップパーク for ビギナー

1m、2m、3mとメーター刻みのミニキッカーでステップアップ。初めてのジブには手すり付きBOX、などパーク未経験者も大歓迎のアイテムを揃えたパーク。

初中級
ステップアップパーク
3mのミニキッカーからメーター刻みでサイズをアップしていける8mまでのキッカーがラインナップ。いろいろな練習にトライできるBOX、レールがレベル別に並び、繰り返し練習出来るので少しずつ上のレベルに挑戦できる。
中上級
ステップアップパーク for エキスパート
ステップアップパークの上級編は国内スロープスタイルの大会レベルの練習に最適なサイズのキッカーやジブアイテムが集結。今シーズンはさらにアイテム増加でレベルの幅も拡大。
最上級
グローバルパーク
世界レベルのビッグジャンプ、ジブで練習可能なパークが今年もOPEN 。キッカーはクォーターパイプのオプションが付いた形に進化予定。ジブもトランスファーレールなど超上級を設置。

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