ネコマで示された新たなる“世界基準”。 第32回全日本スキー選手権 ネコマ マウンテン大会 ビッグエア

ミラノ五輪の熱狂がまだ冷めきらない2月末。
福島県・ネコマ マウンテン南エリア「グローバルパーク」に、日本のトップライダーたちが集結した。
開催されたのは 第32回全日本スキー選手権大会 スノーボード競技 ビッグエア。
男子22名、女子9名、計31名が出場。五輪メダリスト、ワールドカップ常連、そして次世代の挑戦者が同じ舞台に並ぶ、日本国内最高峰の一戦だ。

かつては若手の登竜門として語られることも多かった全日本ビッグエア。しかし近年、その意味は大きく変わってきている。
世界を転戦するライダーたちが本気でぶつかり合う舞台となり、いまやそのレベルは完全に“世界基準”。
2026年大会は、その事実を改めて証明する大会となった。

ミラノ五輪ビッグエア金メダリストの兄を僅差で破って優勝を決めた木村ブラザーズの弟・悠斗

五輪直後の緊張感
前日記者会見が映し出した日本ビッグエアの現在地

決勝前日の2月25日、会場では公式記者会見が行われた。
登壇したのは長谷川帝勝、木俣椋真、木村葵来、荻原大翔、村瀬心椛、深田茉莉、鈴木萌々、岩渕麗楽といった日本のトップライダーたち。さらに全日本スキー連盟競技本部長・河野孝典氏、競技副本部長・上島しのぶ氏も出席し、日本代表強化の現状と大会の意義について語った。

ミラノ五輪スロープスタイル、ビッグエア日本代表メンバー8名が勢揃い

ミラノ五輪直後というタイミングもあり、会場にはテレビ局や新聞各社が集まり、国内大会としては異例の注目度となった。
それは単なる全日本ではなく、“五輪後の日本ビッグエアの現在地”を示す舞台として見られていたからだ。
選手たちの表情は穏やかだが、その奥には明確な緊張感が漂う。
世界を経験してきたライダー、これから世界へ挑むライダー、それぞれがこの大会を単なる国内戦ではなく、次のシーズンへの重要な証明の場として捉えていた。

オリンピック直後とあって多くのメディアがネコマ マウンテンに取材に駆けつけた

記者からは五輪の経験、国内大会の意味、ネコマのジャンプについての質問が続く。
選手たちの言葉には共通したニュアンスがあった。
「ここで勝つことがゴールではない」しかし同時に、「日本一というタイトルは軽くない」
その受け答えには、若さと同時に確かな成熟が感じられた。

ネコマが示した
日本ビッグエアの未来

会場となったネコマ マウンテン南エリアの「グローバルパーク」は、国内でも屈指の観戦環境を持つビッグエア会場だ。
徒歩アクセスが可能な観戦導線、視界を遮るもののないランディングバーン、そして背景に広がる磐梯山の景色。
観戦無料という環境もあり、多くのスノーボードファンが世界レベルの滑りを間近で体感できる。
ビッグエアは単にジャンプの高さを競う競技ではない。
アプローチスピード・キッカー形状への合わせ方・踏み切りの精度・空中での“スタイル”・そしてパーフェクトな着地。
同じキッカーでも、ライダーの技術と判断によってジャンプの質は大きく変わる。

十分な降雪とは言えない今シーズン、雪の融雪も進む中、南エリアに世界レベルの技を繰り出せるビッグキッカーがつくられた

ネコマのキッカーは、スピードを乗せたまま自然に踏み切れる設計。そのぶん、中途半端な準備では成立しない。
完成度の高いライディングだけがスコアにつながる、まさにトップレベルの舞台だった。

男子決勝・0.67ポイント差で決着した兄弟対決

男子決勝は、まさに世界レベルの戦いだった。
長谷川帝勝、木俣椋真、荻原大翔そしてビッグエア五輪金メダリストの木村葵来。
五輪代表クラスのライダーが揃い、ワールドカップさながらの緊張感が会場を包む。
その中で強烈な存在感を放ったのが、木村悠斗だった。
兄・葵来も「弟は確実に成長している」と語っていたが、その言葉通り、悠斗はすでに世界の舞台で結果を残している。今季はスイス・LAAXのワールドカップスロープスタイルで2位に入り、その実力を証明していた。
決勝では兄弟がともに1800回転を武器に勝負。
弟・悠斗はフロントサイド1800、スイッチバックサイド1800を完璧に決め、この2本で174.00ポイントを叩き出す。
一方、兄の葵来は1本目を決めきれず、2本目のフロント1800で90.33ポイントを記録。3本目で逆転を狙うが、最終スコアは173.33。その差は、わずか0.67ポイントだった。
兄弟対決というドラマを超え、勝敗を分けたのは純粋な完成度。
空中での軸の安定、回転のキレ、グラブの明確さ、そしてパーフェクトなランディング。木村悠斗が、日本一のタイトルを手にした。

あらためて弟の木村悠斗もすでに世界トップクラスであること多くのメディアを前に証明。五輪直後の新たなる展開に驚かされるばかり

男子リザルト上位
1位 木村悠斗 174.00
2位 木村葵来 173.33
3位 木俣椋真 169.00

兄弟ともに同じ技でのねじ伏せ合いとなる熱い勝負が繰り広げられた

木俣椋真は3本目でBS1980を成功させ95ポイントを獲得。世界トップクラスの回転数で観客を沸かせた。

決勝3本目ではBS1980を決めて95ポイントの今大会最高得点を叩き出した木俣椋真

上位3名が170点前後というハイスコアレンジ。もちろんこれはワールドカップでも十分に優勝争いができるレベルだ。
国内大会でありながら、完全に世界基準のビッグエアが繰り広げられていた。

五輪のスロープは惜しくも怪我で欠場となった荻原大翔。ホームであるネコマで、新たなるスタートに向けて元気な姿を見せた

女子決勝・185.33が示した“完成度時代”

女子ビッグエアもまた、世界レベルの戦いだった。
ここ数年で女子ビッグエアの回転数は急激に上昇している。その中心にいるのが村瀬姉妹だ。
今回優勝したのは妹の村瀬由徠。決勝では、BSダブルコーク1080、キャブ1080

ミラノ五輪を大いにわかせた村瀬心椛は大会ではプレゼンター役を務め、そのぶん妹の由徠が女子最高レベルのトリックを披露

この2本を高い完成度で成功させ、185.33ポイントという圧倒的スコアを叩き出した。
女子リザルト上位
1位 村瀬由徠 185.33
2位 鈴木萌々 179.33
3位 森井姫彩 163.00

女子でも1080がスタンダードになりつつある現在。求められるのは回転数だけではなく、技の完成度だ。
高さ、グラブ、回転の安定、そしてランディング、それらを高いレベルで揃えた村瀬由徠のジャンプは、女子ビッグエアの新しい基準を示していた。

地域とつながる全日本

大会当日は、一般社団法人F-WORLDの協力により、地元小学生たちが会場へ招待された。
コースサイドでトップライダーを見上げる子どもたち。ジャンプを終えた選手が手を振り返すと、歓声が上がる。
世界レベルの競技の緊張感と、地域の温かな空気が同居する時間だった。

本松市立安達太良小学校の 生徒15名及び福島市内の子供達12名を招待され、コースサイドで選手との交流が実施された

世界基準になった全日本

ネコマで行われた2026年の全日本ビッグエア。
そこにあったのは、もはや国内大会という枠を超えたレベルの戦いだった。
高得点を僅差で競い合う国内トップレベルの実力。そして五輪世代と次世代がぶつかる構図。
日本のビッグエアは、確実に次のステージへ進んでいる。

今回のネコマでSAJ全日本ビッグエアは、またひとつ先の日本のスノーボードの未来を実感する大きな意味を持つ大会となった。

左より3位・木俣椋真、2位・木村葵来、男子優勝・木村悠斗、女子優勝・村瀬由徠、2位・鈴木萌々、3位・森井姫彩

Photo:ZIZO