今もなお現役ライダーとして活躍する傍ら、近年注目を集める “KM4K” ブランドをハンドリングする小嶋大輔氏。このブランドは、自身が描いた “カモシカ” のイラストロゴをデザインしたステッカーから始まり、Tシャツ、パーカー、ウエアへと発展していく。SNSでそれらのアイテムが広まると、ライダー時代の繋がりから全国的な展開へと広がっていく。創世記のスノーボードブランドのように自分とお客さんが必要なもの、欲しいものを少しずつ造りながら成長していくオルタナティブガレージブランド “KM4K” について、小嶋大輔にそのコンセプトを語ってもらった。

KM4Kをハンドリングする小嶋大輔氏

やりたいことリストに一つ残っていたのがブランドの立ち上げ

頭の上から2本の電波のようなものを出す三つ目の奇妙な動物。胴体に書かれた「KM4K」は「カモシカ」と読む。現在もROME SDS、DICEと契約を結ぶプロライダー小嶋大輔が手がけるブランドだ。ブランドを立ち上げるきっかけになったのは28歳の時。結婚を機に、夏はバイトで冬は篭るというライダー軸の生活から、地元京都に戻り正社員として就職する “普通” の生活に切り替えることを決心した。
「僕の中ではライダーとしてやり切れたんです。雑誌にもだしてもらって、ヘリも乗れたし。やりたいことは結構できたんだけど、『やりたいことリスト』の中で1つだけ残ってたのがブランドを立ち上げることでした」
白馬に篭っていた頃、同じくライダーの南浦高志とともに一年を通してバックカントリーを滑っていた。当時主流ではなかったバックカントリーばかりを滑る小嶋は、いつしか周りの人たちに「あの人カモシカなんじゃない?」と言われていたという。自身のライディングスタイルから浮かぶイメージとして呼ばれたカモシカをブランド名にし、自分で描いた冒頭の不思議な魅力のあるロゴを看板にブランドをスタートさせた。

ひとつの行動が次のプロダクト製作への道につながった

最初に作ったステッカーがある程度人気となり、それ以上の大きな展開を最初は考えていなかったという。契機になったのは小嶋の弟が特技のラテアートの大会で上位入賞したことだ。ニューヨークでの本戦への切符を獲得した弟の現地までの飛行機代を稼ぐためにクラウドファウンディングでTシャツを製作・販売。無事に飛行機代を売り上げてブランドの活動に一区切りつけようと思っていた矢先に、スノーボードショップからのオーダーが舞い込んだ。
「本当は弟にチケットを買ってあげて、そこで終わる予定だったんです。弟もニューヨークに行けたし、これで僕は普通の世界に戻ろうと思ったら、お店から電話がかかって来て『もう一回作って欲しい、パーカーにしてほしい』と言われて。版もあるし『いいですよ、作りますよ』とパーカーを作って納品して、そこで終わるかなと思っていたら、別のお店からも連絡を頂いたんです」
プロスノーボーダーとして認知度があり、ライダーとしていろいろな場所とも繋がりを持ち、さらに、まだ流行り出す前のインスタグラムをいち早く使って情報を発信するなど、小嶋のとった行動が感度の高いスノーボーダーを惹きつけ、ショップを通じて注文が増えていった。「最後になにかできればいい」と、最初はTシャツ一枚でも作れば納得できると思ってスタートしたKM4Kは、じわじわと人気を獲得し確実に成長していった。
パーカーも順調に売れ、次はジャケットを作って欲しいという要望が届くとシームテープを使わないシンプルなナイロンジャケットを企画した。京都のある関西エリアではそこまでハイエンドなウエアは必須ではないし値段も抑えられると考えたのだ。だが上がってきたサンプルには、なぜかフルシームテープが施されていた。
「あれ?全然ちゃうやん、と焦りつつも、それがインタースタイル(日本最大のスノーボードトレードショー)の3日前くらいのタイミングだったから、そのまま展示してお客さんに意見を聞きました。そうしたら『シームはあったほうがいいよ』って。それで今のパラダイスジャケットができちゃったんです(笑)」
これが、KM4Kウエアの誕生ストーリーだ。意図せずに、しかし向かうべき方向に仕向けられているような展開に小嶋はこう語る。
「失敗することが僕の中では結構ラッキーなんですよね。今までもそうだったけど、自分があんまりちゃんとできないことが良い方に転がるタイプだったので。ライダーの時も着地が上手くなかったらから逆に活躍できたっていうのもあるし(笑)。そこが僕の中ではラッキーポイントでしたね」。

ステッカー、パーカーからスタートしたKM4Kは、じわじわと人気を獲得しウエアブランドへと確実に成長していった。 PHOTO: HOLY

お客さんの声を聞きながら成長させていく参加型のブランド

ステッカーから始まりTシャツ、パーカー、ナイロンジャケット、ウエア、今では細かいアクセサリーやハンモックまで展開してるKM4Kは自由な発想で既存の概念にとらわれていないように思える。ブランドコンセプトについてどのように考えているのだろう。
「僕自身が『抜けてる』っていうのがすごい重要だと思っています。かっこいいものって世の中にたくさん存在するじゃないですか。BURTONも綺麗にできてるし、VOLCOMもコンセプトがあって綺麗なプロダクトがある。でも未完成なブランドってあんまりなくて。僕はこの未完成さにすごく魅力を感じていて、そこがすごく重要だと思っています。だからKM4Kは未完成で『お客さんが作ってくれてるブランド』というイメージです。みんなが買うことでどんどん構築されていくようなブランドにしたいなと思っています。いわゆる参加型のブランドです。僕自身がこういうのがやりたい、というよりは、お客さんの声やお客さんのサポートがあって、それに対して僕が返しながらやっていくのを皆んなが見てるっていうイメージが一番大きいかな(笑)」

オルタナティブガレージブランドをコンセプトに抱え、自由な発想でユーザーとともにブランドを発展させる。 PHOTO: Bomber

これまで築いてきた経験が今の活動にも活かされている

28歳でブランド設立という新たな道にシフトした小嶋の活動は、これまで培ってきた人との繋がりに支えられている。
「スノーボードをしているときは周りに支えてくれる人がいっぱいいました。ブランドをやるといったらその人達がまたサポートしてくれています」
もう一つ小嶋を支えたのはカナダ留学で習得した英語力だ。
「仕事をするにあたって中国にしてもどこに行ってもみんな英語を喋ります。海外に商品を売る時も英語ができるのとできないじゃ全然違うだろうし。あとは世界で流行っているものの情報を早く得られるのも英語ができることのメリットだと思います。海外のインスタグラムを見ても『こういうスタイルが流行るよ』という情報をちょっと先に知れるので」
実際、KM4Kキャップという名前のつば付き帽子は時代を先取りしたと言えるアイテムだ。今でこそ多くのブランドからこの形のキャップがリリースされているが、KM4Kでは7年も前から作られているのだ。

7年前からリリースしているKM4Kキャップという名前のつば付き帽子。 PHOTO: Bomber
絶妙なシルエットが人気のPARADISEパンツ。 PHOTO: Bomber

それぞれ自分にとってのPARADICEを見つけて欲しい

順調に成長を続けるKM4Kに今後ブランドとしてどのような展開をイメージしているのかを聞くと、ブランド設立当時の原動力となるエピソードを教えてくれた。10年前、「ブランドをやりたい」という小嶋の決意に対して周りには「できるわけがない」という空気が流れていたそうだ。それに反しブランドは少しずつ大きくなりながら続けられている。「みんなができないと思っていたところにせっかく来れたんだから、もっと上を目指したいです」
当時苦笑された「VOLCOMみたいなブランドにしたい」という気持ちも持ち続けながら今後もブランドを成長させていく。
一方で、当時から変わったこともある。KM4Kには「PARADICE IS HERE」というサブタイトルがあり、これは白馬47の景色のいいポイントをイメージしていたのだが、京都に戻ってからその意味が変わったそうだ。
「白馬にいるわけじゃないからいい日にも行けないし、みんなのパラダイスはどこにあるんだろう?と思った時に、別にどこにでもあるなと。子供が生まれた時もそうだし、パラダイスなんて全国各地、自分の足元にあるものだということに気づきました。その場所だけがパラダイスじゃない。今は、小さなパラダイスもたくさんあるから、それをみんなで見つけて欲しいという意味になってます。

みんな自分自身のパラダイスを見つけて欲しいと願い、「PARADICE IS HERE」というサブタイトルを掲げている。
今シーズン、ベストタイミングの北海道・ニセコでのワンショット。 RIDER: Daisuke Ojima PHOTO: Kage

KM4Kライダー陣

そんなオルタナティブな雰囲気に惹かれ、個性豊かなライダーがKM4Kのプロダクトを身につけている。まずは本誌12月号にも登場した平良 光。水上をベースに動く平良はSNSを通じてコンタクトを取りライダーとなった。ライディング仲間からの流れでライダーになっているのは中西 圭と小林優太。どちらも人となりと滑り方を知り尽くしているファミリー的存在だ。そして高校生ライダー小畑魁士。KINGS育ちのフリースタイラーで成長を期待しながらサポートしている。

 

KM4K RIDER’S VOICE

ライダーがいるのかもスノーブランドなのかもわからない。噂では『ブランドではなくムーブメント』らしいとか…。けれどおもいっきり自分好みな謎の存在。そんなKM4Kが更に『SALMON ARMSというカナダのグローブブランドとコラボして、そのグローブをハメてインスタに投稿してたら、突然カナダ人からグローブがもらえることになり…ライダーへ。その翌シーズン、会ったこともなかった京都の人(KM4Kの社長)から電話で「ウェアを出そうと思ってるけど着てみる?」と連絡があり、1着しかないサンプルを1週間だけ貸してもらい、凍った滝を飛び降りてコケたシークエンスを送ったら、KM4Kカタログの表紙に使ってもらえて、その時正式にライダーって言われたと記憶してます(笑)。KM4Kの魅力は、まずあの絵のタッチと意味がわからない存在と名前がツボですね。そして作り手もアイテムもアクションも本当に “丁度イイ” ところが好きなんです。板にしろウエアにしろ、どの状況でもイケる。中途半端な物ではなくて、本当の意味での丁度良さ。チャレンジ精神と実用性の共存が絶妙なんだと思います。飽くなき遊び心と外さないメインストリートって感じが、自分のベースにある『チャンプルーカルチャー』と合ってるんかもしれませんね」平良 光-

RIDER: Hikaru Taira

「KM4Kの(小嶋)大輔とは、白馬なんかでフォトグラファーの遠ちゃん(遠藤 励)絡みで一緒に撮影をしてたりして、もともと知り合いでした。僕は出身が京都なんですけど、彼も京都で年に1回くらい地元へ帰った時に彼のもとへ遊びに行ったりしながら、同じ世代同士仲良くなっていったんです。そして数年前、僕がウエアのスポンサーを探しているタイミングで、ちょうど彼から『KM4Kというブランドを始めた』みたいな感じでライダーとして誘ってもらいました。彼のファッション性が好きで、何より彼自身も滑り手のライダーで、ライダーズブランドっていうのが共感でき一緒にやってみようと思って。大輔自身も実際にプロダクトテストをやっているし、自分たちライダーのフィードバックもそのまま聞いてくれたりするからプロダクトもいい。それに、KM4Kはもともとアパレルからやりだして、そのセンスもいいですよね。まさにオルタナティブ・ガレージブランドだと思います」。中西 圭-

RIDER: Kei Nakanishi

「もともと社長の小嶋(大輔)くんとは同世代の白馬で一緒に滑っていた仲間なんです。そんな彼がスノーボードを続けながら行き着いたのが、KM4Kというブランドだった。現役の滑り手がスノーボードを続けながら業界でブランドをハンドリングしているのがいいですよね。ライダーも個性的だし、俺だけ少し浮いてるかもですけど(笑)。でも、自分のことをリスペクトしてくれて、サポートしてくれていることは本当に感謝しています。だから、自分のできることで一緒に成長していきたいですね。ウエアはもちろん調子いいですし、特にビブパンは最高です」。小林優太-

RIDER: Yuta Kobayashi PHOTO: Tsutomu Endo

 

PHOTO: Bomber

Profile
小嶋大輔
14歳からスノーボードを始める。スノーボードを始めた日から「これで生きていく」と決め、高校卒業後に2年間カナダへと留学。その後マンモスやビッグベアに篭り、帰国してからは白馬に篭るスノーボードを軸にしたライフスタイルを送り、プロライダーとして活躍。28歳の時に自身のブランドKM4Kをスタートする。

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