いろいろな人たちのサポートを力に準備を整え、北京オリンピックへ挑む「鬼塚 雅」インタビュー

幼少の頃からコンテストシーンで名を馳せ、2018年、自身の念願でもあったオリンピックに出場。しかし、スロープスタイルで19位、ビッグエアで8位と満足のいく成績を残すことはできなかった……。鬼塚 雅、23歳。ようやく4年前のリベンジを果たせるときが訪れようとしている。今、彼女は淡々と準備を進めている。すべては来たる2月に最高の笑顔を日本中に届けるために……。

Text: HaruAki


スノーボードの競技レベルが現在進行形で劇的に進化しているなかで、以前よりも好成績を残しているのは何か理由がある?

自分でターニングポイントを作った感じなんですよね。平昌五輪の直後、いろんなリスクが少ないタイミングだと思ってトレーニング方法を変えたり、足回りのギアを一新したんです。私、足のサイズが22.5cmしかないから、もっとウエストの細いボードに乗りたいと前から思っていて……。ただ、長年慣れ親しんでいたブランドから乗り替えるのはリスクでもあったけど、自分が前に進むためには必要だと思って自分が求めるスペックのボードがあるNITROに移籍を決意したんです。

星野リゾート アルツ磐梯につくられる「Miyabi Park」と名付けられた鬼塚選手のための特設アイテムで、集中的に練習をおこない、テクニックを磨き、シーズン中のコンディションを整えてきた

昨シーズン、X GAMES アスペン大会のビッグエアで女性ライダー初のCAB1260ダブルコークをメイクしたけど、まだ披露しなくてもよかったのでは?

CAB1260ダブルコークの回転はBS1260ダブルコークと違ってランディングでボードを返すのが難しいんですね。だから、他のライダーは追いつけないだろうと思ったし、そのトリックの完成度を高めたかったから繰り出したんです。

そもそもトリックはどうやって覚えてきたの?

今のレベルで新しい回転を覚えるには1~2ヶ月じゃ厳しくて……半年ほど練習して1つの技が身につくっていう感じなんです。それに、いきなり雪上っていうのはリスクが高すぎるし、半回転増えるだけでめちゃくちゃ怖いから、私の場合、まずは埼玉クエストで練習するようにしています。怖い落ち方もいっぱいするけど、それを安全な場所で経験できるのは大きいから。「これはヤバい視界だ」「こうなったときのリカバリーはこう」といった判断もできるようになりますしね。そうやって夏場に練習したことを秋にヨーロッパに行って雪の上で確かめ、またクエストに戻って調整して、再び雪山で完成度を高めていくっていう流れが多いです。

オフシーズンは埼玉クエストでCAB1260ダブルコークなど高難易度の技の完成度を高めるために練習を重ねてきた

ちなみに、新たに練習している技はある?

すでに覚えている技で次の五輪では金メダルを獲れると思うので、今は完成度を上げることと、グラブの位置を変えるなどの細かなブラッシュアップが中心です。新しい技をやってもキレイなランディングじゃないとポイントは上がらないですからね。

練習していて苦労はある?

どうやったら勝てるのか、自分に何が足りないのかって分析することかな?でも、それは同時に楽しみでもあるんですけどね。うーん……やっぱり苦労と言えば大きなジャンプを飛ぶだけで怖いってことかなぁ(苦笑)。

どうやって恐怖を克服しているの?

結局はケガをするのが怖いわけで……。でも、「これはケガする」「これは大丈夫」って判断できるようになると自信がでてくると思うんです。その積み重ねが怖さを取り除く方法なのかなって。だから、大会のときに怖いって思わないように、事前にクエストやアルツ磐梯のパークなどを利用して不安をひとつずつツブしていくんです。

練習には国内トップレベルの選手たちもパートナーとして参加。他のライダーたちから受ける刺激も自身のモチベーションを上げるためには重要な要素だ

確か……2年前のUS OPEN の直前には猫魔スキー場でトランジションジャンプを練習していたよね?

私はパイプをやってきてないからR系が苦手で……。そこで猫魔スキー場にトランジションジャンプを造っていただき、(戸塚)ユウトに来てもらってアドバイスを受けながらめっちゃ練習したんです。おかげで、その年のUS OPENで3位になれました。あと、ジブも最近はアップレールでの縦回転アウトが流行ってますが、やっぱりトライするまでが怖い……。それも造っていただいて練習できました。自分に足りないものを用意してもらえる環境は幸せです。

日本には滅多にないアイテムを求めて、最近はライダーも数多くアルツ磐梯に集まってきてるよね?

いつも一緒に遠征してるメンバーがいるってことで、大会により近い状態で練習できるし、背中も押してもらえるし、安心感もあります。それに昨シーズンは海外に行くと自粛で2週間、帰ってきても2週間は動けなかったじゃないですか。それを考えたら日本にいて効率的な練習ができるのは最高です。たとえ海外に行っても、自分が求めているアイテムがあるとはかぎらないですしね。

すでに、次の北京五輪に向けてアイテムをリクエスト済み?

前回は1年前にアイテムなどが発表されていて、アルツ磐梯に同じアイテムを造ってもらえました。だけど、今回はまだ発表されていなくて……。ただ、今はキッカーの飛び出し口の角度は36度と決まっているからビッグエアに関しては問題ないと思いますし、スロープスタイルもある程度は予想できるから現時点でのざっくりイメージはリクエストしました。ただ、今回は12月末の完成を目指してもらってて。例年だと12月下旬にアルツ磐梯がオープンするから、雪が降るまでに土盛りをするなど頑張って間に合うように動いていただいています。

前回の平昌五輪で夢のオリンピックの舞台に立ったわけだけど、出場する前と後で自分の中で何か変化はあった?

オリンピックの翌日から変わったわけじゃないけど、段々と責任感を持つようになったと思います。あと、いい意味で幅広い方々に観てもらえることを実感したので、カルチャーだけじゃなくて競技の面白さっていうのも伝えられればと思いました。

最後に北京五輪での目標を!

もちろん、スロープスタイルとビッグエアの両種目での金メダルです。ただ、確率が高いのは環境に左右されないビッグエアかなと。スロープスタイルはアイテムの好き嫌い、得手不得手、その日の天候などにもよりますからね。でも、そういったことも含めて総合滑走力が問われるのがスロープスタイル。どう転んでも対応できるように、そちらも準備していきたいと思います。

アルツ磐梯に滞在中には星野リゾート代表・星野佳路氏と一緒に滑ることも。「本当に自分自身が納得できる当日を迎えて欲しいと思っている」と鬼塚選手の準備を整える上で、欠かせない力を与えてくれている

<世界に向けて挑む鬼塚 雅選手と、オーダーメイドパークが作られるまでの物語>

【第1話】Get Over ー鬼塚雅×星野リゾートー

【第2話】Get Over ー鬼塚雅×星野リゾートー

【第3話】Get Over ー鬼塚雅×星野リゾートー

鬼塚雅選手×星野リゾートの特設ページ


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