「暖冬と向き合いながらも、より良いサービスを目指して」<2020年: スキー場の舞台裏_岐阜県めいほうスキー場>

「暖冬と向き合いながらも、より良いサービスを目指して」
<2020年: スキー場の舞台裏_岐阜県めいほうスキー場>

今シーズンの冬は近年稀にみる暖冬という状況にシーズン当初から全国各地のスキー場は大変な悩みを抱えることになった。地球温暖化が進む中、いよいよここまで来るのかという雪の少なさ。スキー場のオープンは当然自然雪に頼っているところが数多い。この状況の中でどのスキー場も少しでも長く営業しようと頑張ろうという姿勢は同じだと思うが、特に自然雪が多い地域は暖冬の影響を真っ向から受けたということは間違いない。一方、もともと雪があまり多くない地域ではこの状況の中でもなんとか踏ん張り続けているところもある。そんな一例として岐阜県めいほうスキー場の伊藤社長に話を伺った。

2月末に撮影しためいほうスキー場。周辺には雪はないが、コースにはしっかりと雪がつけられている

雪が少ないめいほうスキー場の暖冬への対策

Q)今シーズン、全国的な雪不足でどこのスキー場さんも大変苦労されていると思うのですが、めいほうスキー場さんの状況はどのような感じだったのでしょう?
そうですね。今年は気温が下がらないという状況が顕著でした。しかし、実はシーズン初めは1,000~1,100mあたりの標高が高いエリアは気温が少し高めながらも人工降雪が出来たんです。そこでオープン日は前年が12月15日だったのに対して、今年は昨年より6日早い12月9日に出来ました。ただ、昨年との違いは前年はオープンと同時にベースまで滑って降りれたんですが、今年は中腹までしか滑れない状況。しかもその後も下部エリアになかなか雪がつけられず、ベースまで降りれるようになったのは12月29日のことでした。

Q)上部エリアが前年よりも少し気温が高くオープン出来たのは、なぜですか?
今年は気温が人工降雪ができるギリギリの条件でも、とにかく雪がつくれる日には最大限に雪をつくろうと取り組んできたからなんです。ギリギリで降雪機を稼働させるのは、電気や燃料などの面でやはり効率が悪いんですが、今年は暖冬予報がありましたし、それでも降雪機を稼働させないとオープンが出来ないだろうということで、あえて効率が悪いながらも稼働させました。そして降雪機はこのシーズンに入っても稼働させられる条件ならできるだけ稼働させています。

Q)めいほうスキー場に人工造設機はあるのですか?
『人工造雪機』はありません。周辺のスキー場さんは持っていらっしゃったりするところも多いんですが、結局、造雪機は安定して雪はつくれるものの、それほど多量の雪をつくることができないんです。例えば1,000mのコースをつくるのに造雪機では1ケ月近くかかりますが、降雪機ではマシンの性能にもよりますが、24時間稼働させられる環境が続けば1週間以内で作ることができます。十分なコースをつくるのには、いかに上手く人工降雪機を稼働させるかという部分が重要になってきます。
また、今年の冬は古い降雪機を7~8台減らして、その代わりに最新の降雪機を18機増やしました。気温が低い時と雪が作れるギリギリの温度の時とでは1台あたりで作れる雪の量が4〜5倍も違います。ですから気温が高い環境では降雪機の数が作れる雪の量にも直結します。降雪機の数が増えたことも、早くオープン出来た(うまくいった)要因のひとつだと思います。降雪機を増やすにも予算が必要ですから、もちろん一気に降雪機を増やすことは出来ません。毎年少しずつ新しいものと入れ替えるなど徐々に増やしていったことが今年の暖冬への対応に結びつきました。山頂にも降雪機を設置していて、現在オープンしている8,850mのコース全てを降雪機でカバーしていますし、今年はオープンできていない天然雪が降るコースでも、標高の低いエリアには降雪機を入れています。

めいほうスキー場の特徴とも言える5,000mを一気に滑り降りられるα5000はには上から下まで人工降雪機が配備され、実際はほとんどが人工降雪によってつくられるコースだ

Q)全国的な暖冬で豪雪地と言われるエリアでも雪不足に苦労してる状況の中、めいほうスキー場さんがこれだけの雪のコンディションを保っていることに驚いています。このエリア特有の気候が取り組み方に影響しているのでしょうか。
この辺りはエリア全体的に気温は下がっても自然雪が降らないという特徴があります。特にめいほうスキー場は郡上(ぐじょう)の中でも昔から雪が少ないため、人工降雪機にずっと力を入れてきました。また、近年は温暖化による雪不足が続いているので、リフトの下り線に乗車できるように改造するなど、少雪に対応できるように備えをしています。昨シーズンはベースまで結構早くオープンできていたのでリフトの下り線は使っていませんが、今年はベースをオープンできなかった12月5日から12月29日までの20日間は、リフトで上がって上部を滑ってもらい、リフトの下り線で降りていただきました。こういった取り組みの成果として、元々定めていた4月上旬までの営業目標は現在も変わっていません。今後の状況にもよりますが、そこまで営業出来るようにとにかく雪を作ることを考えています。

チャンスがあれば人工降雪機を稼働させ、雪をつくる。コース脇に雪をつくって貯蔵し、後に足りないところをこの雪を使って整備することをひたすらやり続けてコースを維持する

Q)人工降雪による安定したコース作りで営業期間もある程度安定すると、お客さまにとっても予定をたてやすいなどのメリットになりますね。
実は、昔は4月はほとんど営業をしていませんでした。スキー場がスタートして今年で31年目になりますが、25年目くらいまでは雪が残っていても大体3月の終わりには閉めていたので、めいほうスキー場は雪が少ないというイメージが強かったと思います。誰も雪があるのに閉めるとは思わないですよね。クローズするのは雪がないからなんだろうなと。でも、これだけ人工降雪機に投資をして来たので、雪が安定してあるというイメージに変えていきたいんです。最近はなるべく早くオープンして、4月中旬あたりまでを目標になるべく長く営業するように方針を変えています。その成果もあり、ようやく、めいほうスキー場には雪がある、というイメージがお客様に浸透して来た気がしています。特に今年は全国的に雪が少ない状況なので、これで4月の頭まで営業できれば、雪のあるスキー場という印象を強く持っていただけると思います。今は全体の65%の滑走面積しか滑れませんが、おかげさまで営業ができていて、2月はほぼ去年並みのお客様に来ていただいています。そういう意味でも降雪機の能力を上げたことが実っているというか。ただ、20年前から少しずつ少しずつ降雪機を増やしてきた結果、今こういう状況になっているだけで、決してここ4~5年でこういうことになったというわけではないんです。

災害や新型コロナウィルスの影響

Q)近年、大雨や台風など様々なトラブルがあり、スキー場にも少なからず影響があると思います。その度に修復したり大変だと思いますが、それは自然災害として受け止めて対応しているのでしょうか。
そうですね。一昨年の大雨で、コースとコースをつないでいる道が崩れて修復できず、去年はワンシーズン使えませんでした。去年の夏に直して今年は万全の体制だったんですが、逆に今年は雪不足でそのコースは結局一度も使うことができなかったのですが。

Q)シーズン終盤戦に新型コロナウィルスの影響があって、スキー場さんとしても色々と心配される部分があると思いますが、いかがですか?
新型コロナウィルスの影響で学校も休みになっていますよね。じゃあ、皆さん家にずっといるのか?というと、そうではないと思うんですね。インドアよりはアウトドアの方が安全という情報もありますし、逆に来ていただけるんじゃないかなという期待もあります。会社としてもいち早く、1月終わりくらいから対策をしてきました。その頃はまだマスクも買えたので1ヶ月分ほどは準備をして。その後、シーズン終わりまで長引きそうという状況になり、シーズン中に必要な分は親会社経由で手配して確保できています。お客様からはネガティブな問い合わせはなく、「オープンしていますか?」という問い合わせをいただきます。滑りに行きたいけど、ひょっとして営業していないんじゃないか?と心配されているようです。

Q)新型コロナウィルスの影響でSBJ ON SNOW FESTIVAL(国内最大規模の試乗会)が中止になってしまいましたが、スキー場さんとして試乗会をやっていて一番続けたいと思うポイントはどこですか?
今年のSBJ ON SNOW FESTIVALの中止はとても残念でした。これまでの3回の開催を経て感じていることは、めいほうスキー場に今まで来たことがない方が、この試乗会で来てくださることが一番大きいです。当然メーカーの方もそうです。イベントで初めて来たメーカーの方の多くが、実際に滑ってめいほうは壁が面白いとおっしゃってくれました。メーカーの方も発信力があるので色々な場所でお話をしてくださると思いますし、お客様もどんどん周りに広めていただけるという期待もあります。今はSNSの時代ですが、今でも口コミというのは大きいと思っています。こちらからSNSで発信しても、お客様は見てはくれても信用してくださるかどうか。やっぱり口コミで「良かった」というのが伝われば一番いいと思います。コロナウイルスではいろいろ心配なこともありますが、しっかりと対策を講じてお客さんには残りのシーズンを楽しんでいただきたいと思っています。

SBJ ON SNOW FESTIVALに向けて、通常ならば人工降雪をする必要のないエリアにも、会場設置のために雪面を整備。イベントの開催に向けて準備を整えて望んだが、政府からのコロナウイルスによるイベント自粛要請を受けて中止せざるをえない状況に。本来であればこのエリアいっぱいのメーカーテントと2000人規模の試乗会参加者を迎え入れる予定だった

来てくれた方が「また来たい」と思ってくれるように

Q)めいほうスキー場と言えば山頂から続くコースの中に点在する地形パークも印象的ですが、パークのコンセプトを教えてください。
うちの1番の売りである5,000mの滑走距離とコース幅を満喫していだけるように、小さなパークをあちこちに配置して「流しながら遊べる」設計にしました。アイテムも上級者向けではなく、初級者の方にも入っていただけるように大きなものは作っていません。今一番大きいのが5mのキッカーで、雪が十分あっても5m以上にする予定はありません。あとは小さなミニキッカーをいくつか作って、5,000mを滑っている流れの中で連続で飛べる、そんなイメージです。それまでは決まった場所にパークエリアを作っていたのですが、あえてうちは他のスキー場と差別化しました。お客様からも良い反応をいただいています。

α5000もところどころで壁を使って遊べる。特に上部エリアは雪質も良いので楽しい

実はお客様が壁で遊ぶのをみて「壁を作ろう、壁に雪をつけよう」ということで出来上がったのが今の地形パークなんです。ちょうど4年前のSBJ ON SNOW FESTIVALが始まった年にスタートしました。余裕があれば人工降雪機を使って雪を壁に吹き付けます。めいほうスキー場にはゲレンデの雪を削ってバーっと飛ばして壁に雪をつけるマシンもあります。今年は雪が少ないのでまだ動いていませんが、そういう工夫もしています。
もともと降雪量が少なくてパーク作りが後回しになってしまうので、土を盛ってキッカーの土台を作っておけば30cm雪が降れば飛べるだろういう発想で、若手の意見を取り入れて、危なくないように壁も作って。初年度は高井隆二くんにプロデュースしていただきました。土台でバンクも作っています。今年はまだ1、2箇所ぐらいしか使えていないですが、準備をしておくことで少しでも早い時期からバンクでも遊べるようにと考えています。スキー場はゲレンデが一番の売りなので、ゲレンデが楽しいと思っていただける工夫を続けています。当然雪があるっていうのも必要ですけれど。

コース半ばにはこんな人工降雪機を見かける。先端が回転し、壁に向けて雪を吹き付けられるように配備されている

Q)スキー場さんによっては平日はDJがお休みだったりリフトが動くエリアが限られたり、ゲレ食のメニューが絞られることもありますが、めいほうさんではDJブースやリフトが平日でも休日と同じように稼働していますよね。
2シーズン前からDJブースを作って、シーズン中はオープンからクローズまで休まずに動いています。運営は委託していますが評判はいいですよ。一方コースの方は、すごく効率良くリフトがかかっているので、どれか一つを止めると滑れないコースが出来ちゃうんですよね。逆に言えば全てのコースを滑るためにはリフトが止められないんです。同じところに何本もかかっていれば止めることも可能なんですが。平日に来たお客様に色々なコースを楽しんでいただきたいので、全てのリフトを動かしています。営業体制も休日も平日も変わりません。スタッフの数が多少増えるくらいです。食事のメニューも今のところ減らしていません。当然コスト削減についても考えますが、今それをやってしまうと平日しか休めないお客様にめいほうの魅力を十分に感じてもらえないのではないかという考えの方が大きいです。
ただ、シーズン初めと終わりはどちらかというとコアな方も多く、食事よりもとにかく滑りたいという部分が大きいので、そのあたりの時期は少し絞ることもありますが、ハイシーズンの間は休日と変わらず平日も営業しています。

効率良くリフトが配置されているので、平日でもリフトを止めての縮小営業が行いづらいという。逆にそれは我々にとっては平日空いている時に行ければ、さらに楽しさ倍増になるという期待感にもつながる

Q)キッズパークに非常に力を入れていますが、何かビジョンがありますか?
現在、日本の人口が減っている中で、スキー・スノーボード人口が減って欲しくないという思いがあります。小さな子供のうちから雪に親しんでもらえれば、大きくなってからまたスキーやスノーボードをやっていただけるのでは、ということでキッズパークに力を入れ始めて4年。最初はスポンジボブを導入して、アイテムを増やし、チュービングコースを賑やかな色にしたりと、雰囲気を良くすることに注力した結果、急激にお客様が増えました。楽しいと思わせる工夫をするのも大事なことだと思います。スポンジボブは色使いだけで決めました。去年からひつじのショーンに変わりましたが、ひつじのショーンはお母さん方に比較的人気があります。子供受けするという要素も大事ですが、最終的に決めるのはお母さんの判断が大きいので、お母さんに受けるようにピンク色に変えました。去年は2月の真ん中の3連休に1,800人くらい来場していただき、今シーズンはエリアを広げるために夏にキッズパークの工事もしたんですが、残念ながら雪不足のため人工降雪の部分しか開いていないという状況です。

Q)今日ゲレンデをみて感じたのは、ゲレンデ全体がしっかり管理されているということです。ポールの立て方ひとつとっても丁寧で、ゴミも落ちていないし。雪が足りない部分もコースの中はしっかり埋められている。どのように管理しているのでしょうか。
うちはパトロールの意見を重視していてパトロールが良いと言わなければゲレンデオープンをしません。私たちとしてはもちろん開けたいですが、パトロールが「これは危険です」と言えばそれはその意見に従います。そして、どうすれば開けられるのかという対策につなげていきます。朝も全コースをパトロールが滑って確認しています。「ここは危ないからネットを張り直そう」と意見があれば、その作業のためにオープンが遅れることもありますが、必要なことだと思っています。
また、人工降雪の部隊と圧雪の部隊がパトロールとしっかり連携を取って作業が出来ています。例えば、パトロールは夕方に最後のお客様の後ろにつきながらゲレンデを細かくチェックします。そこで雪が薄くなっている部分があれば圧雪部隊に指示を出し、その指示に従って雪を作ったり圧雪車で雪の調整する。圧雪からはパトロールに対して「圧雪が汚い時は遠慮せずに言ってくれ」と要望を出します。自分の担当エリアの状況を素直に言ってもらえるので、より責任感をもって作業が出来、「圧雪が良くてすごく滑りやすい」と言われればモチベーションが上がる。昔からお互いの信頼と連携しっかりしているので気持ちのよい丁寧なゲレンデ作りにつながっているのだと思います。

Q)夏シーズンの営業にも力を入れていらっしゃるというお話ですよね
今はキャンプがメインですが、今年はキャンプ以外にもジップラインや栂池の「WOW!」のようなネットを使った遊具の導入などアクティビティを更に充実させて、シーズンを問わずに楽しんでいただきたいと思っています。それぞれのシーズンを充実させることで、夏から冬に、またその逆に、というように、遊びの流れが出来て来ているように感じています。以前はキャンプ場のSNSを独立させていたんですが、冬と夏の情報発信をひつとつのSNSに集約して、スキー場を利用するお客様にも夏の情報を、スキーをやらないお客様にも冬の情報を届けられるように工夫しています。

コロナウイルスの影響もあり、さらに難しい問題を抱えることになった今シーズン。我々にとってスキー場はプレイグラウンド、欠かせない場所であることは間違いない。多くのスキー場が暖冬に悩まされながらも、スノーボーダー、ウインタースポーツ愛好者の期待に応えるべく最善の努力を尽くしている。せっかくここまで増えてきたスノースポーツの環境がひとつ、またひとつと失われていくことのないように、こうしたスキー場の舞台裏の努力が成果となって繋がっていくように。残されたシーズン、少しでもスキー場に足を運ぶことができればと思う。

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