今年も「TENJIN BANKED SLALOM 2024」が3月2日~3日にかけて、群馬・谷川岳天神平スキー場で行われた。暖冬によって厳しい条件下での開催となったが、今年はどんなストーリーが生まれたのか?大会プロデューサーとともに振り返る。
苦戦を強いられた今大会のコース造成と、開催への想い
本来トップシーズン真っ只中という2月、日本各地はまさかの長期間暖気に包まれるという異常気象によって急激な雪解けが進んでしまった。もちろん、毎年「TENJIN BANKED SLALOM」が開催される群馬・谷川岳天神平スキー場も予想外の残雪に悩まされたのだが、直前に降った降雪やディガーたちの頑張りによって、なんとか14回目の開催にこぎ着けることができた。今大会のコース造成について大会プロデューサーの福島大造氏はこう振り返る。
「2月は雪がほとんど降らなくて、天神の積雪も1mちょいとかなり少ない中、さらに雪解けが進んでしまった。コース造成初日の火曜日は天気が悪くて何もできない状態から始まり、水曜日に山へ上がってみると、いつものコース上部の急斜面のところは青氷(硬い氷)がすごかったんだよね。直前の寒波による降雪で場所によって新雪が20~30㎝吹き溜まってるとこもあれば、氷の場所があったりっていう状況で…。例年とは全く違うコンディションだった。だから、今回のコースはどうしようか本当に悩まされたよね。ディガーのみんなで色々なラインを滑って『どこがいいかな?』って多数決をして最後まで悩んだあげく、スタート位置を少し下げて今回のコースになった。決め手はやっぱり上部の急斜面はその青氷によって滑り手のリスクが高すぎるっていうのが 1番大きいかな…。正直今回のコースは、いつもより斜度も緩かったり距離も短くなったり、天神としては比較的イージーなコースになった反面、よりラインを決めるのが重要なところをノリ(勝山尚徳)を筆頭に気持良いラインを描いてくれました」
毎年参加している選手たちからも『今年は開催されるのだろうか?』と、不安な声も多かった。それほどの雪不足というバッドコンディションの中でも、なんとかコースを作り上げた今大会。その開催への想いにはこんなエピソードがあった。
「2月にプローブを持って雪の量をチェックしに行った時も少なかったし、その後も雪がどんどん減っていくのが目に見えてたから、正直ヤバイなって…。でもそんな状況でも絶対に開催したかった。天神バンクドを開催した当初、マット・カミンズから、『この先雪の問題でコース造成が難しいシーズンがあるかもしれないけど、何よりも大会を継続することがシーンにとって大事なんだ』って言われてたことでもあって。俺と西田(洋介)くん的にも継続がテーマでもあったから、何とかしてでも俺は絶対開催するっていう気持ちでいた」
大会2連覇のテリエを差し置き、ニューカマーが優勝!
大会初日は天候が悪かったためコースインスペクションのみ行われ、参加選手たちはコースのフィーリングを確かめる。従来のコースでは斜度のある上部のバンクが難関で、DQ(コースアウト)する選手たちが多かったが、今年はそのセクションがない分、比較的トップトゥボトムまで全てのバンクを気持ち良く流せる印象だった。1人2本、明日の本番へのイメージを膨らませながらひとつ1つのバンクの状態と自分の板のラインどりを確かめていった。
快晴に恵まれた翌日。いよいよ本番というワクワクから、選手たちは程よい緊張感を持ちながらも自然と笑みがこぼれる。ボードをワクシングして準備する人や、仲間同士でバンクの癖やコース状況を話し合う人もいたり、自分の出走までそれぞれの時間が流れる。バンクドスラロームは、スタートからゴールまでのタイムを測定し、そのタイムを競うもの。もちろん順位を争うのだか、戦う相手が自分自身だからこそ面白いのだろう。そのシーズンどれだけ滑り込んだのかがその1本でわからされる。特に今大会のコースは前述したように『滑りやすい』からこそ、結果がわかりやすい。どれだけバンクを踏み自分をプッシュして攻められるか。また、1つ2つの小さいミスがもろ結果に左右された。
今大会、各クラスの表彰者は毎回上位に名を連ねる常連の顔ぶれが並んだ。中でもオープン女子クラスで優勝したのは中村陽子。彼女はなんと今回で4度目となる優勝を見事成し遂げた。そして表彰の最後、オープン男子の優勝は一体誰の手に…? 今年もテリエ(・ハーコンセン)が3連覇を果たすのか!? と、誰もが頭をよぎっていた矢先…。MCから優勝は『桜井虹太』と発表された!誰も予想しなかった選手の発表だったが、会場は新たなヒーローの誕生に大盛り上がり。見事全国の名だたるライダーを差し置いて、第14回目の天神バンクドの王者が決定した。彼のことをよく知るという大造氏はこう話してくれた。
「コウタ(桜井虹太)は群馬の子で、小学生の頃からうちのかぐらのスクールの寮に泊まり込んで滑っていたんだ。今大学1年の19歳で、フィジカルもすごくいい選手。今はクロスのナショナルチームに在籍していて、天神バンクドの後もワールドカップに出場してきたんだけど、クロス選手の中でもトップクラスの実力はある。実は中学の時もオープンクラスで結構いい成績を残してたりしたから俺は彼の優勝にびっくりはしなかったんだ」
バンクドはみんなが一喜一憂できる草大会
今大会で14回目となる「TENJIN BANKED SLALOM」。日本のスノーボードカルチャーのひとつとして定着したバンクドスラロームだが、最後、大造氏にこのバンクドカルチャーがどう変化してきているのかを聞いてこの記事を締めたいと思う。
「今年、戸狩で開催されたバンクドのコースもすごく良くて。それから、ヨネがやっているナイトバンクド(Mountain wave)や、夏油、SBMにも行ったりしたんだけど、それぞれ味があるコースなんだよね。各地域のスタイルで、気持ち良いコースもあれば、激しいコースもあったり、バンクだけじゃなくウェーブがあったりするところもある。それはコースだけでなく、参加する人たちの色もあったりして。そういうのが各地で定着してきてるのがすごく印象的。やっぱりバンクドはいろんなタイプの人が出て、みんなが一喜一憂できるのが魅力だからね。競技だけど競技じゃないっていうのかな。だから俺の中では公式種目っていうんじゃなく、やっぱ全国にある草大会なんだよね。バンクドは今後もそのままであってほしいなっていう。年寄りも若者もみんなでワイワイやって楽しんでほしいなって」
こうして今年も無事開催された天神バンクドスラローム。記録的な暖冬の中でもコース造成を諦めずできることをやる。この彼らの姿勢は暖冬によって雪が少ないシーズンでも、大好きなスノーボードを楽しみ続けるという、ひとつのメッセージになったに違いない。
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