ayumu_top1平野歩夢

AYUMU HIRANO

WAY TO THE TOP

あの頂点を目指して

平野歩夢。言わずと知れたソチ五輪スノーボード・男子ハーフパイプのシルバーメダリストである。現在、歩夢はオリンピックに照準を定め、国内外を飛び回るハードなトレーニングを続けている。すべては前回五輪での忘れ物を手にするために……。平昌五輪まで3ヶ月をきり、マスメディアも冬季オリンピックの話題に触れることが多くなってきた。今後もメダル有力候補として、歩夢の名前をテレビで目にする機会はさらに増えるだろう。そんな彼に過密スケジュールの合間を縫ってインタビュー取材を敢行させてもらった。

(本記事はFREERUN本誌12月号に掲載したものです)
今回の平昌オリンピックでもハーフパイプ銀メダルを獲得、ショーン・ホワイトとの最高難度の競い合いに挑んだ歩夢。そこに至るまでの思いと道のりが語られたインタビューです。

Text: HaruAki

大学生、平野歩夢
今年の4月、テレビのニュース番組でも報道されていたが、歩夢は東京の大学に入学し、新生活をスタートさせた。オリンピックのメダリストは、どんなキャンパスライフを送っているのだろうか? その気になる最近の生活について聞いてみた。

スノーボードに専念する道もあったと思うけど、なぜ大学に進学することに?
確かにスノーボードだけに集中しようと考えたこともあります。だけど、これまでの自分はスノーボードしかしてこなかった。ボードをしていない人を決して避けてきたわけじゃないけど、自然とボードをしてる人とばかり関わってきたと思うんです。その分、偏った世界しか知らないというか、自分が狭い世界にいるような感じがして……。

それで世界を広げたくなった?
そうですね。陸上だったり、バスケだったり……競技は何でもいいんですけど、大学で目標に向かって突き進んでいる人たち、また大学で試行錯誤しながら何かに取り組んでいる人たちと交流してみたくなったし、自分は海外に行く機会が多いから、日本に戻ってきたときの生活がダラダラしないようにもしたくて。それで大学っていう空間に身を置きたくなったんです。これから先に繋がる何かを発見できればいいなとも思って。世界を広げてくれる何かが大学にあるって自分が期待しているだけかもしれないけど、まずは行ってみないとわからないじゃないですか? だから、進学することにしたんです。

どんな大学生活を送っているの?
日本大学のスポーツ科学部に在籍していて、キャンパスは東京にあります。入学した直後から少しの間は通っていましたが、徐々にスノーボードのほうが忙しくなってしまって……。ただ、休みをもらって遠征に行くときでも、与えられた課題は期限までに提出しないといけない。だから、電話で相談したり、メールやスカイプを使ったり、資料のDVDを送ってもらって、練習の合間に時間を作って必死でやってます。自分のことを理解してくれている大学には本当に感謝しています。

ちなみに、どんな勉強を?
スポーツ科学部だからスポーツ運動学や観察演習、いろんな実習などの講義があって、興味深いものが多いんですよね。これまでの自分の実体験と照らし合わせながら考えられるし、けっこう楽しく勉強してますよ。

大学でトレーニングをすることは?
立派なジムがあるし、トレーニングに適した環境は揃っていると思います。ただ、今はスノーボードに乗っている時間が大切だから、東京にいる時間が少なくて……。なので、今は大学ではあまりできていません。そうそう、大学内に世界基準のスケートボードのバーチカルがあるんですよ。今シーズンが終わってからになってしまうと思いますが、大学でスケートボードをしながら勉強できる環境はいいなって思います。

東京ではひとり暮らし?
大学では寮に入ってます。寮生活が合わなかったら、ひとりで住むところを借りればいいかなと思っていたので。それに、今は東京にほとんどいないから、それで家を借りるのももったいないじゃないですか?

どんな寮なの?
陸上部とスキー部の人たちが一緒に入っている男子寮ですね。2人1部屋で、食事も共同、風呂も共同なんです。かなり体育会系な感じで、けっこう上下関係もしっかりしてて(笑)。でも、そういった人たちと関わることができて、いい経験をさせてもらっているなと思ってます。あと、みんな、めちゃくちゃストイックなんですよね。

刺激的な人との出会いはあった?
今のところは、まだ……。でも、大学にはしっかりしている人が多くて、みんな目標を持って生活しています。自分はまだ大学生活が浅いので、いろんな人を少し距離を置いた状態で眺めているのが現状ですね。

この大会で負傷したケガもすでに癒え、現在は完成度のアップと、さらなる安定度の向上を求めて、毎日のように宙を舞い続けている Location: Burton US Open, Vail, Colorado, USA Photo: Gabe L’Heureux
この大会で負傷したケガもすでに癒え、現在は完成度のアップと、さらなる安定度の向上を求めて、毎日のように宙を舞い続けている
Location: Burton US Open, Vail, Colorado, USA Photo: Gabe L’Heureux

平野歩夢のプロ活動
さる7月15日にナショナルチームに合流することが決定したが、ソチ五輪後はプロ活動に専念するべく、全日本スキー連盟(SAJ)の強化指定選手を辞退していた歩夢。当時を振り返ってもらった。

SAJから強化選手に指定されるまでは、プロ活動に専念していたんだよね?
プロ活動と言っても大会がメインだから、海外の大きなコンテストを転戦していました。「X GAMES」や「DEW TOUR」なども、きっとトップレベルで戦える年数っていうのは、あと6~7年くらいだと思うんです。だからこそ、そのコンテストの世界で、今まで日本人が成し遂げていないようなことを実現したいと思っていて。

プロ活動をしているときは専属コーチがいると聞いているけど?
ソチ五輪のあとからエライジャ(・テーター)にコーチになってもらいました。もともとエライジャはカズくん(國母和宏)のコーチをしていて、そのカズくんからの紹介で会って、コーチの話もしてもらったんです。今はナショナルチームに所属しているから、個人で専属コーチをつけることはできないんですけど、これまで「X GAMES」や「DEW TOUR」だったり、「US OPEN」などは彼と一緒に回ってましたね。

そもそも、なぜパイプに集中するようになったの?
昔は自分が憧れていたライダーや目指しているライダーがたくさんいて、さらに見本となるライダーも目の前にいました。そういった人たちに追いつくために、必死にパイプを滑っていたという感覚があったと思います。それにパイプの大会で勝つことも、自分が上手くなっているのを実感できることも面白かったから。あと、スノーボードで人に越されたくないっていう気持ちも強かったんじゃないですかね? 特にパイプでは誰にも負けたくないと思っていたので。

今後もコンテストがプロ活動の中心に?
いきなり自分がバックカントリーの世界に飛び込んで、現在トップで活躍しているライダーたちに勝つ自信があるんだったら、そっちに転向するっていう選択肢もあると思うんですけど、ゼロから始めて何年ものスパンをかけて、バックカントリーの世界でトップになる自信のほうが今はないです。だから、今やってるパイプのコンテストに集中しているのかもしれない。コンテストで活躍できる年齢も、さっき言ったように、おそらく20代後半までだろうし……。逆に、コンテストの世界にしかない可能性やチャンスもあるって、今はすごい感じているんです。だからこそ、世界から認められるトップコンペティターであり続けたいという想いもあって。そういった日本人ライダーは数少ないですしね。

パイプ以外のフィールドに興味は?
パウダーやジャンプも好きだから、めっちゃやりたいんですけど、今はその時間がなくて……。仲間と一緒にFUNライディングしたり撮影したりもしたい。でも、それは今じゃなくてもいいかなとも思っていて。自分が思い描いていることを実現するために、今はコンテストに集中している感じです。オリンピックが落ち着いたら、いろんな滑りを楽しみながら、オフにはガッツリとスケートボードをしたり、ちょっと面白いカタチでスノーボードを表現できたらいいなとは思ってます。

ナショナルチームの一員として訪れたニュージーランドでの練習風景。この遠征中に開催されたW杯初戦は強風が吹き荒れる悪天候に見舞われた。歩夢はやや抑え気味のルーティンだったが2位に入賞した Location: Cardrona, New Zealand Photos: Tsutomu Nakata
ナショナルチームの一員として訪れたニュージーランドでの練習風景。この遠征中に開催されたW杯初戦は強風が吹き荒れる悪天候に見舞われた。歩夢はやや抑え気味のルーティンだったが2位に入賞した
Location: Cardrona, New Zealand Photos: Tsutomu Nakata

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平野歩夢の現在地
すでに回転数などは限界に近づきつつある……と言われてきたパイプシーンだが、トップライダーたちの想像を絶するような努力によって、今もトリックは進化を続けている。そんな現在のパイプシーンについて、歩夢はどのように考えているのだろうか?

以前、國母和宏が「ハーフパイプの大会で勝つには、パイプに集中する期間が必要だ」と言っていたけど、それは現在のシーンでも当てはまる?
そうですね。いや、多分、そのときよりも、今のほうがもっとそうかもしれません。現在進行形でコンテストのレベルが上がっているから、そこで勝つためには、できればやりたくないって思うトリックも繰り出さないとダメで……。メンタル的にもキツイことが多いです。今は自分の気持ちに無理をしてでも高難度なトリックに挑まないと勝てない時代。それこそ楽しんでいたら置いていかれる……みたいな(苦笑)。きっと他のコンテストライダーも、もっとパイプを楽しみたいはず。もちろん、多少は時間を作って楽しんでいるとは思いますけど、どこかで練習に集中しなきゃって割り切っていると思う。ある意味、今までにない時代になっちゃっているかもしれないですね。これまで自分たちが見てきたスノーボード、憧れてきたスノーボードをやりたいっていう気持ちはあるけど、現在のコンテストシーンの流れに負けないように、ノリで楽しんだり仲間でワイワイするよりも、今はしんどい思いをしないきゃいけないなって感じで練習を続けています。

けっこうツライね。
今が一番しんどい時期かも(苦笑)? でも、それは自分以外のオリンピックを目指している人たちも同じように苦労していると思うんで……。

オンスノーだと1日にどれくらい練習しているの?
この前のニュージーランド遠征だと、自分のタイミングで可能なかぎり早く起きて、朝メシを食べたりストレッチしたりっていう準備をして山に向かい、雪上では2時間ほど練習してましたね。下山したら少し身体を休めて、夜に軽くジムに行ってフィジカルを鍛えて……あとはリフレッシュのためにスケートボードをしていました。雪上で4~5時間も集中できないし、そもそも今のレベルのトリックを練習すると長時間は身体がもちません。集中力を欠いてしまったときにケガすると思うから。それに1日に詰め込んでもダメだと思うんです。その次の日も滑るだろうし、身体のコンディションを考えながら、集中するところは集中して取り組むようにしています。

高難度トリックはどうやって覚えているの?
昔のようにノリでトライすることはないし、他の人がやっているから自分もっていう考えは完全になくなりましたね(苦笑)。もう、そんな難易度じゃないから……。ひとつひとつのトリックを覚えるのに時間がかかるし、かなり気合いを入れないといけない。だからこそ、人よりも先に難易度の高いトリックに取り組み始めたり、練習できる環境に身を置くようにしているんです。自分の場合は、まずバグジャンプで何十回、いや何百回って練習します。そこで自信をつけてから雪上でトライするという流れですね。どこから落ちるかわからない状態では絶対に雪の上では飛べません。

恐怖心を感じることは?
もう常に恐怖心との戦いですよ。

どうやって克服しているの?
練習している時間は人一倍長いと思うんです。それしか恐怖心を克服する方法はないのかなって。バグジャンプもそうですけど、自分はスケートボードも練習に取り入れていて。スケートボードのバーチカルってハーフパイプと本当に似ていて、パイプの斜度がなければ、ほぼ同じ形状だと思うんです。ドロップインにしても、テイクオフまでのラインひとつにしても、スケートボードって誤魔化しがききません。でも、スノーボードのパイプは斜度があるから、スピードをつけようと思えばラインどりを変えればいいわけで……。大会に出ている人でも誤魔化しながら飛ぶ人もいますからね。そういった意味で、スケートボードとスノーボードはいくらでも共有できると思って練習に取り入れているんです。雪がないときでも新潟の日本海スケートパークなら、バグジャンプもあるし、スケートボードのバーチカルもある。それらを併用しながら練習して身につけたことを、海外の調子がいいって言われるパイプを探し出して、そこに行って試す。そうすると、次にやることが見えてきて、また日本に戻って新潟で練習する……この永遠ループみたいな感じでやってます(苦笑)。

角野友基が「最先端のトリックを練習するキッカーって世界中を探しても少なくて、コンテストの公開練習でトライしてる」と言っていたけど、パイプはどうなの?
確かにスロープスタイルは、そのように感じるときもあります。でも、パイプも、それに近いかもしれません。ビッグコンテストのときはシェイプがすごくキレイだったりするので。プライベートで海外に行っても、そこまでクオリティが高くないときもある。ただ、そんな環境でもやらなきゃ……って追い詰められるんですよね(苦笑)。

そういったパイプを滑ることも、きっと対応力のアップに繋がっているのでは?
ソチ五輪もガタガタだったし……。 それはあるかも? いいパイプばかりを滑っていたら、少しコンディションが悪いパイプで大会が開催されるときに対応できないかもしれないですね。ずっと国内のゲレンデや御坂などのインドアでパイプを滑り込んできた日本人ライダーが、海外の調子のいいパイプを滑ったら、今まで以上に力を発揮することもある。改めて振り返ると、自分も含めてそうだったのかなって(笑)。コンディションが悪いところを滑ったり、与えられた環境で自分のできることを考えてやっていたら、いいパイプを滑ったときに、「コレもできるし、アレもできるんじゃないか」って思いましたから。

高難度トリックにトライするときは、毎回、事前にトリックの一連の流れをイメージするの?
毎回のようにイメージしなきゃっていう不安を抱いている時点で、逆にドンドン追い込まれていくんです。1、2回じゃモノにはできないトリックばかりだし……。もちろん、どうやって動くのかって考えますけど、考えすぎても変な方向に陥ることもあります。だからこそ、安全な環境で何度もトライして、頭じゃなくて身体に覚えさせないといけない。今の高難度トリックって、空中に飛び出してから着地の直前まで常に回ってるから。

そういった高難度トリックにスタイルは入れられるもの?
うーん、入れられないですね。飛び出し口から着地まで常に回ってるから、スタイルを入れるスキがないと思うんです。そこでジャパングラブとかは無理かなぁ……と。むしろ、トリックはトリック、スタイルはスタイルって分けて考えるようにしてます。

YOLOフリップなどの大技をルーティンの最後ではなく、途中に入れ込むのはこだわり?
最後の最後で大技を披露したほうが、ひょっとしたら見栄えがいいかもしれないし、観客も盛り上がるかもしれない。ジャッジからの印象もいいかもしれない。でも、自分が高難度トリックをルーティンの中に入れ込むのは、そっちのほうが絶対に難しいと思うし、コンビネーションで魅せたいっていう考えがあるからなんです。難度の高いトリックを連発でできるライダーって、世界中を見渡してもなかなかいないと思うんです。身体も疲れちゃうし、どっかで低回転などのトリックを入れないと呼吸がもたないから。そのなかで自分は「周囲から本当に行けるの?」って思われるようなことをやりたいんですよね。そもそもパイプって、スピードが落ちるとダメじゃないですか? リップから少し外にハミ出しても、少し内側に戻ってきてもダメで……リップ・トゥ・リップができないと、スピードをロスして次のヒットが飛べないか、そこでコケるしかないんで。

スタイルに関しては、どう考えているの?
もちろんスタイルは大事。ただ、スタイルで魅せられるカッコいいライダーってけっこういると思うんです。そんなライダーと自分が同じ技でスタイルを競い合うのは少し難しいと思っていて……。だったらオリジナルのトリックを考えて、それで自分らしいスタイルを表現できたらいいなと思って、2年前くらいかな? クリップラーのジャパングラブをするようになったんです。でも、技もできるし、スタイルでも魅せられるっていうバランスが大切。「コイツ、回転だけだ」って評価されるのはイヤだし、スタイルを追求しすぎた結果、難易度のほうの点数が出ないのも意味がありませんから。目指しているのは、どっちもトップレベルで魅せられるってところです。

大会中、どうしても調子が悪いときもあると思うんだけど、そういったときの対処法は?
それでも今はやらなきゃ目指しているところには辿り着けないし、辿り着かないといけないって思っているから、何とか気持ちを盛り上げるようにしてます。雑音が聞こえないくらい聴いている音楽のボリュームを上げたり(苦笑)。でも、その状態でも過去には勝ったこともあるんですよね。聴いている音楽ですか? レゲエとかヒップホップが多いです。最近はロックも聴いてますね。そのときのノリで決めるんですけど、たまにスローテンポな曲を選んでしまうと、あまり気持ちが上がらないときもあったりします(苦笑)。

大会で披露するルーティンっていつ決めているの?
ある程度は前もってルーティンを組み立てています。ただ、いつまでに決定しないといけないっていうルールもないんで……ソチ五輪の最後の1本はスタート地点に立ったときに決めました。あのCABダブルコーク1080は公開練習でもやってなかったし、あまり決めたことがなかったのに、あの舞台では決められたんです。なので、今後もある程度は事前に決めますが、きっと本番直前になると思いますね。コーチからも最終的には自分がやりたいことをやりきったほうが後悔もしないし、絶対に納得のいく滑りができるからって言われてます。

 スタイルでもギャラリーを沸かせるほど魅力ある滑りをするのが歩夢の真骨頂だ Location: Copper Mountain, Colorado, USA Photo: Rob Mathis

スタイルでもギャラリーを沸かせるほど魅力ある滑りをするのが歩夢の真骨頂だ
Location: Copper Mountain, Colorado, USA Photo: Rob Mathis

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新潟・村上市にある日本海スケートパークに設置されたバグジャンプでは、父・英功さんがiPadで撮影し、すぐに映像をチェックしながら練習している Location: Nihonkai Skate Park, Niigata Photos: ONOZUKA AKIRA
新潟・村上市にある日本海スケートパークに設置されたバグジャンプでは、父・英功さんがiPadで撮影し、すぐに映像をチェックしながら練習している
Location: Nihonkai Skate Park, Niigata Photos: ONOZUKA AKIRA

#2へ続く

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