國母和宏のマンモス滞在記。Yukie HouseのSnowboarder’s Diary Vol.3

IMG_016412月上旬、國母和宏がマンモスにやってきたのは、撮影でも仕事でもなくプライベートでの滑り込みが目的だった。周囲のイメージとは裏腹に、滑る以外はとても穏やかでゆっくりした表情を見せてくれた。しかしスノーボードに対しては非常にストイックで貪欲だ。滑るべき時、場所、タイミングを敏感に捉え、行動する。これから始まる長いシーズンに向け、今自分が何をすべきかを見据えているのだと思う。この記事では、マンモスの我が家(Yukie House)に滞在する間に見せた、カズの素顔について書きたいと思う。
Text: Yukie Ueda


20代最後のシーズンを迎えたカズが放つドキドキした緊張感

今シーズンが20代最後となるカズ。勝負の年であり計り知れないプレッシャーもあるだろう。周囲からは既に揺るぎない地位を確立していると思われているが、本人はまだまだ納得も満足もしていないというところだろうか。彼はもう若手ではなく、かといってレジェンドでもない。今もなお、「國母和宏」という伝説を築き上げている真最中なのだ。シーズンをスタートしたばかりの彼を見ているとその緊張感が伝わって来るような気がした。それは決して逃げ出したくなるような緊張感ではなく、何か新しい世界への道を切り開けるのではないかというドキドキした緊張感だ。
カズは常に雪と天気とパークなど現地の状況にアンテナを張り、「ここだ!」と思うタイミングにあっという間に狙った場所へ飛んで行き、あっという間に飛び去ってしまう。その辺りの貪欲さと身動きの早さも流石世界のトッププロスノーボーダーだなと思える。

シーズン初めのマンモスはもってこいの場所

ワシントン州マウントベーカーのパウダーでシーズンのスタートを切り、バフバフのパウダーと急斜面をローカルライダーたちと滑り込んだカズの次なる目的地は、カリフォルニア州・マンモスマウンテン。ここは、晴天率がよく既に広い範囲が滑走可能となっており、グルーミングされた長い距離を滑るにも、手軽なパークで体を慣らすにも、シーズン初めのマンモスはもってこいの場所。カズがマンモスに滞在する数日間は、我が家で宿泊することになった。
初日からガッツリ滑ったカズは「標高に体が慣れていない」とヘトヘトになって帰って来た。ここマンモスは標高が高く、我が家が位置するビレッジでも2,400m、山の頂上は3,400m以上にもなる。この標高に慣れることで、他の地へ行っても動ける体を作れるのだ。
それにしてもカズはよく眠る。「寝るのが大好きなんだ」。動物のように雪山を物凄いスピードで駆け回って来たと思ったら、お腹をいっぱいにしてベッドに入る。その繰り返しだった。そしてとにかくカズは滑るのが早い。(加えれば滑る準備も早い)。一緒に滑っていると彼のスピードに驚かされる。最初の数本は慎重に滑っているのか付いていくことが出来ても、一旦彼のスイッチが入りスピードアップするとあっという間に見えなくなる。絶対に追いつけないどころか見失うしかない。平日のマンモスは空いていて遠くまで広い範囲を見渡せるようなオープンバーンも多いので、スピード感覚をアップさせるにも最高なロケーションでもあるのだ。

シーズンはじめなのにこのスピード感
平日の空いてるマウンモスを物凄いスピードで駆け抜けるカズのフリーラン

自然体で子供と接するカズの素顔

家にいる間は、我が息子ともよく遊んでいた。「遊んでくれていた」という表現より「遊んでいた」という方がしっくりくる。カズは子供に対してもフレンドリーに接してくれるが、それは決して子供目線で無理矢理合わせているというのではなく、至って自然なのだ。そこがまた子供たちを惹きつけるのだろう、我が息子も「カズ、カズ!」と、世界一のスノーボーダー様に対して同年代の仲間のように図々しくまとわりついていた。カズが子供に対して見せる優しい笑顔や、面白そうに見つめる姿を見ていると、ふと彼の子供たちのこと思い出すだろうなと思った。

息子トラノスケとマンモスでスノーボードを楽しむカズ
息子トラノスケとマンモスでスノーボードを楽しむカズ
我が家ではとてもリラックスした笑顔で息子と遊んでいた
我が家ではとてもリラックスした笑顔で息子と遊んでいた

「こうして遠征先に子供がいたりすると、余計に自分の子供のこと思い出しちゃうよね」。私にも同じ経験がある。

そうだねと言いながらも、男だし子供たちが恋しい素振りは見せないけれど、3歳と4歳という可愛い時期真っ盛りな子供たちのことをこれから始まる長いシーズンの中でどれほど思い出すのだろうかと思うと、少し切なくなった。彼は世界のトッププロスノーボーダーであり、一家の主人でもある。

自分の子供を思い出すかのうように
自分の子供を思い出すかのうように息子と触れ合う


國母和宏も私たちと同じくひとりのスノーボーダー

スノーボードを履けば肉食野獣の王のように闘争心と野心が溢れ出るような姿を見せ、巣(家)に戻るとまるで草食動物のようにゆったりと甘いものを食べてお茶を飲んで過ごす。「これも彼の素の姿なのかもな~」と、なんだか微笑ましく思えた。

家族同然
家族同然の時間が流れたこの数日間は、カズの自然体な素顔を見ることができた

『俺も俺の仲間たちも、みんなただ子供の頃から一緒にスノーボードして遊んで来てこうなって。誰ひとりエリートなんて居ないし俺も特別じゃないし、本当普通の人間なんだ』

最近またテレビなどでスノーボーダー以外にも顔が知れ渡っている彼は戸惑うように呟いた。今に始まったことではないが、「國母和宏」のイメージはインパクトが強く、世間の話題となっている。良くも悪くも世間での評価が大きくなるにつれ、彼自身は本来の自分の姿を冷静に捉え、無理せず自分のペースを保ち続けているような気がする。「國母和宏」とは、スノーボードが好きな青年で、家族想いの旦那様で、仲間とふざけて悪さしてるヤンチャくんで、彼が言う通り私たちと同じくひとりのスノーボーダーである。そして若い頃から海外のトップシーンで揉まれ、自分の意思を強く持ち、伝えるべきことを伝える術を身につけ、ストイックに戦い続けてきている。やっぱり彼は特別な人なんだと私は思う。

小学生の頃、初めて訪れた海外がマンモスだったと言った。その頃からもう20年以上海外のトップの場で戦い続けている。彼の築き上げている伝説はもう既に彼だけのものだし、周囲が認めていても、國母和宏自身の挑戦はまだ続いているのだ。
國母和宏の今シーズンが、楽しみでたまらない。


★この記事のライター
上田ユキエ
1973年1月22日生まれ。東京出身。カナダウィスラーでスノーボードを始め24年、ハーフパイプやビッグエアーなどの競技を経て、ガーズルムービープロダクション “LIL” を立ち上げ日本のガールズシーンを牽引。結婚を機にアメリカへ移住し6歳の息子(トラノスケ)を育てながらプロ活動を続け、現在はバックカントリーの魅力にはまり国内外の様々なフィールドを開拓中。2017年4月マンモスマウンテンに拠点を移し、よりナチュラルに山の近くで家族と新たな生活をスタートさせている。
Sponsor: K2 SNOWBOARDING, Billabong, MORISPO SPAZIO, NEFF, RONIN, ZOOT, CORAZON SHIBUYA, LALALATV
オフィシャルブログ

★Yukie Houseとは?
スノーボードライフをより充実させるため、家族とアメリカ・カリフォルニア州・マンモスマウンテンに生活の拠点を移し、新生活をスタートさせた上田ユキエ。マンモスには日本からも多くのスノーボーダーが訪れ、彼女の家に宿泊するという “マンモス民宿のユキエ女将” 化が定着している。
この連載企画は、上田ユキエの自宅「Yukie House」に訪れたスノーボーダーに、自らがフォーカスを当てインタビューや取材を実施。自身も現役ライダーというゲストたちとの良い距離感の中で、お互い密にコミュニケーションをとりながら、普段あまり知ることのないスノーボーダーたちのライフスタイルや素直な気持ちを上田ユキエの言葉に載せてお伝えしている。
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