藤森由香インタビュー「私のやりたいスノーボード」:平昌オリンピック直前 特別公開コンテンツ #03

IOG_076-083P_fujimori-0藤森由香

YUKA FUJIMORI

JUST FOLLOW YOUR DREAMS

私のやりたいスノーボード(前編)

藤森由香。世界を飛び回り目まぐるしい毎日を送る彼女だが、いつ、どんなときに会ってもその疲れは一切見せず、キラキラとしたオーラを纏いながら明るく話しかけてくる姿に毎回のことながら力強さを感じている。スノーボードクロスで3度のオリンピック出場を経て、スロープスタイルへの競技転向からいよいよオリンピックシーズンとなる今シーズン。何を思い、どんなことを感じているのか。今だからこそ聞きたい彼女のこれまでのこと、現在のこと、これからのこと……。

(本記事はFREERUN本誌11月号に掲載したものです。インタビューは平昌オリンピック、スロープスタイル、ビッグエア代表選手の内定発表前におこなっております)

Text: Rie Watanabe

リップから勢いよく飛び出した自信と楽しさに溢れた一枚。大会とは違うジャンプセッションという環境で、自分らしいスノーボードを余すことなく表現する Location: Canada,AB,Sunshine Village VIEWS FROM THE VILLAGE Photo: Erin Hogue
リップから勢いよく飛び出した自信と楽しさに溢れた一枚。大会とは違うジャンプセッションという環境で、自分らしいスノーボードを余すことなく表現する
Location: Canada,AB,Sunshine Village
VIEWS FROM THE VILLAGE
Photo: Erin Hogue

やりたいことに対して決断して行動する

スノーボードクロスで出場したソチ五輪後にオーストリアで開催されたFIS世界選手権のスノーボードクロス出場を最後に、スロープスタイルへ転向し、現在、ナショナルチームの一員として平昌五輪を目指している藤森。スノーボードクロスで3度のオリンピック出場を経験している彼女にとっても、スロープスタイルでオリンピックを目指せる環境になるまでたやすいことではなかった。
「スノーボードクロスではじめて世界の舞台に挑戦したのが17歳、18歳でワールドカップを回りはじめたのですが、当時は国内の大会しか出たことがなかった私にとって、世界に出るということ自体が馴染みのないことでした。そんななか、トリノ五輪への出場はすぐにやってきた出来事で、振り返るとドキドキして自分のペースもないような状態……。コースにも慣れていなかったんですよね。その経験があって臨んだバンクーバー五輪では、アクシデントもあり結果に繋がらなかった。スノーボードクロス人生の集大成として臨んだソチ五輪は、予選で6位につけ、ファイナルへ。結果的には出場しただけになってしまったけど、それまでのシーズンを振り返ってもやりたいことをやり切れて終わったので、清々しい気持ちでした。その後、スロープスタイルへ競技を変更しBURTONのサポートも受けることが決まったのですが、初シーズンはナショナルチームに入れなくて、スロープスタイルの世界で名前を知ってもらうために、TTRの大会はどうやったら出場できるのかなどを自分で調べ自費で遠征し、経験を積んで今ナショナルチームに入ってオリンピックを目指すことができています」
容易な道ではないと知りながらも、競技変更への決断のキッカケとなったのはソチ五輪でスロープスタイル、ハーフパイプ、スノーボードクロスの3種目出場を果たしたトーラ・ブライトの存在が大きかったという。
「スノーボードクロスをやりながらも、ずっとスロープスタイルがやりたかった。だけど、本当にできるかもわからなかったんですよね。やりたいけどやれていない自分がいて……。でも、それを叶えている選手が同じ舞台に立っていることにすごく刺激を受けました。自分も悩んでないで、一歩踏み出せばいいのに!って思うことができたんです。やりたいことに対して決断をして、行動をする、ということを教えてもらったような気がしました」

悪天候が続きわずかな晴れ間を狙いながら行われたジャンプセッション。貴重な撮影時間に極限の集中力で確実にフッテージを残す Location: Canada,AB,Sunshine Village VIEWS FROM THE VILLAGE Photo: Erin Hogue
悪天候が続きわずかな晴れ間を狙いながら行われたジャンプセッション。貴重な撮影時間に極限の集中力で確実にフッテージを残す
Location: Canada,AB,Sunshine Village
VIEWS FROM THE VILLAGE
Photo: Erin Hogue

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すべてにおいて影響が大きかった映像撮影への参加

スロープスタイルへの競技転向を表明後、すぐに平昌五輪へ向けて舵を切った藤森。彼女が2015年8月にオーストラリアで開催されたスロープスタイルのビッグコンペ「The Mile High」で3位という好成績をおさめたのは、転向後わずか半年での出来事だった。以降、着実に力をつけコンペへの出場を重ねてきた。今年、カナダのケベックにて開催されたW杯では、スロープスタイルで7位、ビッグエアで5位となるなど、国際大会でも安定的に入賞争いをする選手に。コンテストへの遠征が続くなか、転向後は映像撮影にも積極的に参加してきた。
「全体的に振り返ってみてソチ五輪後の3年間は、すごく充実していたなと思うんです。なかでもBURTONのサポートが大きくて、US OPENなどの世界トップクラスの大会に回ることもできるようになりました。BURTONの活動のなかでも大きく影響があったのが、BURTON GIRLSの映像撮影に呼んでもらい、パートを獲得できたこと。BURTON GIRLSのウェブムービー『STAND UP.STAND OUT.』が世界中でシェアされたことで、当時は誰も知らなかった私の滑りを見てもらえる機会が増え、名前も覚えてもらえました。それをキッカケに『VEWS FROM THE VILLAGE』などの世界的に注目されているガールズセッションにも招待されるようになったんです。だから、積極的に参加してきてよかったなと思っています」
今年の夏に公開された、カナダのアルバータ州にあるサンシャイン・ビレッジに造成されたビッグキッカーでおこなわれたスペンサー・オブライエンが主催する「VEWS FROM THE VILLAGE」の映像でトリを飾っている藤森。主催のスペンサーはもちろん、ジェイミー・アンダーソン、エンニ・ルカヤルビ、シェリル・マース、ジェス・リッチなどの錚々たるライダーたちが宙を舞うなか、BS900やスタイル全開のFS360、スイッチ着地となるFSダブルアンダーフリップ900をメイクし存在感を放っていた。
「VEWS FROM THE VILLAGEは、今年で2回目の開催だったんですが、ウィスラーで開催された去年のセッションにも参加したんです。BURTON GIRLSの撮影でウィスラーにいたときに私の滑りをスペンサーが見ていて、『あの子誘いたい!』と言ってくれたのがキッカケでした。スペンサー自身が足を痛めていて撮影に参加できるか微妙なラインだったというのもあったんですが、去年の撮影でパートをもらい、今年も呼んでもらうことができました。今回の撮影、実は全然天気に恵まれなくて……。レストランで待機して晴れ間に急いでモービルで上がって撮影などをおこなっていたんです。私のパートの映像は、明るくみえるけど、19時くらいなんですよ。本当に撮影チャンスが少なかったので、すごく集中力が必要で……。そのなかで、しっかり自分の滑りができたことはよかったな、と思っています! FSダブルアンダーフリップ900は、世界でもあんまりやっている子がいないので、自分の武器にもしたかったから、映像に残せたのはすごく嬉しいです。あと、毎回コメントさせてもらっているかもしれませんが、英語がまだまだで……。撮影のときにグループトークをしているときに気を抜くと、何について話しているのかわからなくなってしまったり(笑)。 今回の撮影に呼んでもらった理由のひとつして、私がある程度英語で意思疎通ができるという部分もあったようなので、これからももっと勉強しなきゃと感じています」

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浅めの回転軸がスタイリッシュで得意なトリックのひとつでもあるアンダー540。高さと優雅さのあるスタイルは世界のトップライダーたちとのセッションで抜群な存在感を放つ Location: Canada,AB,Sunshine Village VIEWS FROM THE VILLAGE Photo: Erin Hogue
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Photo: Erin Hogue


勝たなきゃいけない中でも私らしさを忘れない

今回の映像で放ったFSダブルアンダーフリップ900を含め、大会遠征中の中でも、難易度を上げながらトリックの習得にも余念がない。スケジュールのルーティンで本企画の取材タイミング(9月下旬)は毎年富山のキングスで練習に励んでいる。
「この時期はいつも富山キングスで練習しています!NZでケガをしてしまい、いつものシーズンよりは満足に練習できなかった部分もありますが、この後、ヨーロッパへ行くので、富山キングスでやってきたことを雪上で試したいと思っています。FSダブルアンダーフリップ900は、ゆくゆくは1080に繋げたいと思っているので練習もしてきました。どちらもメイク率を上げて、大会で安定的に出せるように頑張りたいなと思っています」
クロス時代を含めると、大会を重ねてきた数は世界のライダーたちと比べてもトップクラスに入る多さだが、どれだけトレーニングをしても緊張感に慣れることはないという。その極限状態のなかでも、いかに自分らしいスノーボードで楽しむか、という部分を大切にしている。
「大会だと “勝たなきゃ” という思いも強くなるので、楽しめないことも多いですが、どんなときも“楽しんで滑っている” “私らしい” っていうのを大事にしています。もちろん勝つために新技や難易度の高いトリックをメイクすることも大切なんですが、グラブとかもすごく練習しています。 大会で自分のやりたいカッコいいグラブを出したいですからね! そういう部分にはこだわりたいです」
まもなくはじまるオリンピックシーズンの冬。あと7戦ほどある大会に参加する彼女は、今後ヨーロッパへ行きサースフェーを滑った後、イタリアでワールドカップ、次の週は中国のAIR&STYLE、さらに次の週にはドイツ、アメリカ……、といった怒涛のスケジュールをこなしオリンピックを迎える。
「オリンピックへ出場の日本基準はクリアしているのですが、出場がまだ決まっていないし、大会が7戦もあって、正直なところ怪我などの不安もあります。まず技を決めなきゃっていう思いや楽しみな気持ちももちろんあるけど、出れるか出れないかにこだわってしまうと、プレッシャーのように感じてしまうので、疲れたときはスノーボードから離れてみたり、大会に出られることや自分の好きなことができている幸せを思い出してみて、小さなことに感謝する気持ちを大切にするようにしています」

ステイルフィッシュで魅せるBS720はまさに男顔負け。これまで磨いてきた “滑り”の技術の高さと指先までこだわったスタイルは彼女の魅力そのもの Location: Canada,AB,Sunshine Village “VIEWS FROM THE VILLAGE” Photo: Sani Alibabic
ステイルフィッシュで魅せるBS720はまさに男顔負け。これまで磨いてきた “滑り”の技術の高さと指先までこだわったスタイルは彼女の魅力そのもの
Location: Canada,AB,Sunshine Village
“VIEWS FROM THE VILLAGE”
Photo: Sani Alibabic


自分のやりたいスノーボードをやる

執筆者が彼女のこれまでの取材で一貫して感じているのが “カッコいいスノーボードをしたい”“カッコいいって言ってもらえるのが一番うれしい” といった、カッコよさを追求している姿だ。その言葉どおり、「VEWS FROM THE VILLAGE」でもFS360をタイペンとテールのダブルグラブで魅せるなど、グラブやスタイルへのこだわりを強く感じる滑りは印象的だ。そんな藤森に改めて、スノーボードとの向き合い方を訊ねた。「本当にたくさんの大会に関わってきて、”やらなきゃいけない” ”勝たなきゃいけない” という場面がほとんど。そんななかで印象に残る人って、自分のやりたいスノーボードができているライダーなんですよね。世界で活躍する選手たちのなかに入って切磋琢磨していると、自分はやりたいスノーボードができていないと思う瞬間もあります。やりたい技より勝つ技をやることだってある。撮影のときはアイテムにもよるけど、何回かやり直しがきくこともありますが、大会は2本しかないから……。そのなかでどうやって自分のやりたいスノーボードをやって勝つか、というのが今の自分の目標だし常に課題なんです。でも私はそれがしたいんです! 映像でも大会でも、”この環境のなかで、この技出してる!” って私自身が見ていて感動するんです。だから、そういう選手でありライダーになりたいんです」
長年世界中を舞台に戦ってきた藤森。競技者としてコンペに集中してきた彼女は日本と世界のガールズシーンを俯瞰で見ることはしていないが、自分が今置かれている環境を通して感じることもあるという。
「日本ではキングスなどの施設の普及で高回転で魅せられる選手が増えてきたと思うんですが、海外でもそういう施設が増え、今後は本当にどうなるかわからないと思っています。海外のライダーたちの爆発的な成長ってすごくて、16歳のヘイリー・ラングランドはコンテストで女性初となるCABダブル1080をX-GAMESでいきなりキメたりしてくる。表彰台常連のアンナ・ガッサーは、コンテストでも映像でも飛び抜けていて、コンテストが多すぎて新しい技の練習をするのが困難な環境のなか、彼女だけがバツグンに成長していると感じています。本当に高い志を持って練習していると思うので、私自身もすごく刺激になっています」
スノーボードクロスの世界での長年の活躍からスロープスタイルというもう一つの世界の舞台へ飛び込み、積み重ねた経験と洗練された “滑り”で名実ともに世界を代表するライダーのひとりとなった藤森。自分らしい “やりたいスノーボード”を映像や大会のシーンで表現するためにひたむきに努力し続けている。今後このスノーボードシーンがどんな方向へ動いても、彼女にとってそれだけは絶対に譲れないことなのだ。
「自分のスノーボードで、これからのスノーボードシーンにいい影響を与えられたらうれしいです。だから、ひとつひとつの技に魂を込めて人の心を動かせるような滑りをしたい。その滑りを見ている多くの人たちにスノーボードの楽しさやカッコよさ、魅力を伝えていきたい…… 」
2015年、スロープスタイルの世界に新たな風を吹き込んだ藤森。ずっとやりたかったフリースタイルでの自己表現に対して、彼女のモチベーションは留まることを知らない。スノーボードクロスでの活躍、豊富な経験値、磨き続けているスキル、こだわりのスタイル……、彼女の持ち味が幾重にも重なり発揮される可能性は未知数だ。そんな彼女の活躍がこれからも楽しみでならない。

P076-083_fujimori.indd藤森由香
Yuka Fujimori
1986年6月11日生まれ。長野県小県郡長和町出身。スノーボードクロスでトリノ、バンクーバー、ソチと3度のオリンピックに出場。2015年オーストリアで開催されたFIS世界選手権のスノーボードクロス出場を最後に、スロープスタイルへの転向を表明。転向後はコンペシーンでの活躍のほかにBURTON GIRLSなどの映像撮影にも積極的に参加。現在ナショナルチームの一員として平昌五輪を目指している。
SPONSOR: BURTON, OAKLEY, GALLIUM WAX, スマイルフィールド無農薬野菜, スノーボードショップSCHIHEIL

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