SBN × 藤田一茂 : Whistler to East – EP2 “Chatter Creek”

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Whistler to East  EP2 “Chatter Creek”

Whistlerを出発し2週間が過ぎた。出発した3月末と比べるとだいぶ温かくなり、撮影を終え帰って来たキャンプ地には気持ちの良い日差しが差し込む。

慣れて来た頃に別れはくるもので、次の目的地へ出発が迫っていた。

最初は手こずっていた車への荷積みや片付けも難なく仕上げ、残りの2週間を過ごすChatter Creekへ向かう。

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片道約100km、その7割がオフロード。

そんな事を言われても日本人の僕には想像が難しいが、いざ向かうとボコボコの道に泥と砂利、そして雪、なんともオフロードらしい道が続き、ご丁寧に1kmごとに標識があり、標識は70からスタートする。

なかなか減らない数字と後ろに引っ張っているモービルを気にしながら、奥へ奥へと進んで行く。始まって1kmで車もモービルも既に泥だらけだ。

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3時間の移動の末、見晴らしの良いキャンプ地に辿り着いた。

みんなで家のレイアウトを考え、スコップ、チェンソー、ロープ、木材、タープ、使えるものを全て駆使し家を作り上げていく。

野外キッチンのタープを張り、暖炉の煙突を上手く通し、寝室となるテントを張り、暖炉の燃料となる木材を集めに出て行く。

集めて来た木をチェンソーで切り、斧で割り、綺麗に並べ、やっと生活の準備が整った。

普段なら埃や泥だらけだと思うような格好も、ここでは何も気にならない。どうせすぐに汚くなるのは目にみえている。

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レイク沿いに張ったテントから目覚めると、対岸には薄暗く見える大きな山、ヘッドライトを付けテントから出て行く。

外で朝ご飯とランチを作り、朝ご飯の後には体が暖まると思って買ってみたチャイを飲みながら少しゆっくりする。

フツフツとやる気を沸き立たせ、煙突脇に置いたウェアを煙突で焦げないよう注意しながら取り、着替えて車に乗り込む。

なんかブーツ湿っぽな。仕方ないか。というのが毎日の朝の日課になった。

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車を少し走らせモービルに乗り換え15kmほど走ると、山の中に突如大きな建物が現れる。Chatter Creekのベースだ。

ここは冬はGoldenからヘリでお客さんを招き、キャットツアーを行なっているが、春の2週間だけスノーモービラーに場所が解放され、各地から多くのスノーモービラーがやってくる場所だ。

中には宿泊施設にレストラン、綺麗なラウンジに、インターネット、ガソリンを買う場所やキャットやモービルを直すための場所まである。クレジットカードも使える。ここは山奥にある楽園のような場所だ。

ここに宿泊している人もいれば、自分たちをと同じようにキャンプしている人もいて、僕たちのキャンプ地はどうやら有名らしく、良い家だね!と良く言われる。

もちろん自分たちのキャンプ地には電波はないので、山に上がってくると天気を調べたり、少し休憩に立ち寄らせてもらい、毎日撮影を終えるとここでガソリンを補給した。

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またGoldenにいた時のように山の状態と地形を調べる為にマップを見ながらモービルで走りまわる。

あそこいけそう。あれやりたい。あれいけたらヤバいな~なんて山を見ながらみんなで話すのは面白い。

トリックではなくライン中心の撮影は、そのラインによりその人らしさが表れる。滑った後に自分のラインを振り返ると、これまでの全ての経験がそこに表現されているようなで、自分らしいなと良く思わされる。

そして、大きな山に自分が描いたラインを振り返る気分は、体験した人でないと分からないなんとも言えない感覚で、本当に最高だ。

自分がどうあがいても敵いようもない自然は多くの事を教えてくれる。自然が少しの力を発揮すれば、自分たちはひとたまりもない。

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この2週間の生活で困るのはご飯とお風呂だ。ご飯は買いだめし、毎日リゾットかパスタか同じようなものを食べるが、この旅では飽きずに過ごせた。

水はもちろん水道もないので買った分しかなく、毎日ペットボトル1本、2本、決められた数で生活する。食料も一緒だ。

お風呂も入らないのにも慣れてくるが、やはり4,、5日すると水を浴びたくなる。曇り空で撮影のない日に川で水浴びしてみる事にした。

川に着くと水はいかにも冷たそうだが、水への欲求からか、なぜか入れそうな気がしてくる。早速着替えて一人目がドロップイン。うん。めちゃくちゃ寒そうだ。よし。やめておこう(笑)。

木を集めて燃やし水を沸かして浴びる。現代からかけ離れた生活の中では、本当にいつもの生活の便利さを見せつけられる。

お湯を作る為には火が必要で、火を作る為には木(燃えるもの)と空気が必要。要するに木と空気がお湯に変わり、何かを消費して何かを得ている訳だけど、蛇口をひねるとお湯が出る生活からは中々考えない事だ。

そんな大自然の中で浴びる久しぶりのお湯はこれこそまさに最高!といえるものだが、気付けばお風呂に2時間以上使い、見物客まで現れ、変なアジア人いるなと思われていた事は間違いない。

普段は10分で終わる事もここでは2時間以上。しかし、帰りの車のみんなの顔はスッキリした表情で、いや~お風呂良かったよー!なんて言ってしまうくらいだ。

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撮影の方はというと、序盤にチェックしたポイントを天気と雪の合間を狙いながらやっつけていく。雪崩に流される事もありながらも挑戦する毎日。少し旅の疲れから思考停止状態になりながらもさぐりさぐりトライし、日々新しい経験を踏んでいく。

ドロップから下の斜面が見えない場所。見えるのはかなり遠くにいるカメラマンのみ。

滑りだしてからやっと自分が飛ぶであろうポイントが見え、ターンの最中に記憶にある下から見た景色とリンクさせながら飛ぶポイントへ向かう。

予想外の事が起きながらも滑りきったあの斜面は自分の中でもかなり想い出深い。

滑り終えて一息ついてラインを眺めると、数分前まで真っ白だった場所に自分のラインが刻まれている。あそこ滑ってきたんだなーなんて思いながら自分の滑りをもう一度思い出すのが好きだ。

そして仲間と心地いいハイタッチを交わし、次のポイントへ向かう。

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ライダー2、3人とカメラマンで行動し、誰かが滑る時は他のライダーは何かあった時にヘルプ出来るように待機し、応援する。時に緊張させられる瞬間もあるが、ライダーのカッコいいところをライブで見れるのは面白い。

本当に大きな山にポツンと人が立っていてラインを残しながら滑り降りてくる。岩の間をくぐり抜け、岩を飛び越し、綺麗なスプレーが上がる。

滑りも景色も映像や写真ではなかなか収まりきらない部分が目の前にあり、数秒の映像、1枚の写真の裏にあるドラマを見る事が出来る。

カメラマンたちはそこを伝えたいと思い撮影し、ライダーたちは自分の挑戦と共にスノーボードの魅力を表現している。自分もライダー(撮られる側)でありながらも同じ表現者として同じ気持ちでカメラを背負い、この記事も書いている。

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トリップも終盤。

カナダでSUSHIは良くある食べ物だが、ここではかなり珍しい。街に降りたメンツが魚を買ってきて寿司を作ってくれた。こんな山奥で寿司を食べれるとは。大量の寿司を盛る皿はないので雪板をプレート代わりにおいしく頂いた。

雲一つない夜、満月が影を作り出す程に輝いていた。

気がつけば3週間ほどたち、旅も残り数日。3月末にウィスラーを出発した頃は旅の全体像が想像も出来ず、終わりが見えなかった。

キャンプ生活にも慣れず、寒さと格闘する日々。普段との生活とかけ離れていて中々疲れが取れない中、撮影へ向かわなければならない。

初めての場所では地形も雪もわからず、順調に行く事の方が少なく、みんなで一つ一つクリアし撮影に挑んでいた。シャワーのお湯に、壁がある場所で寝転がれる事に感動し、時には無言な日もあった。

だが、少しづつ温かくなっていくにつれて自分たちもこの生活にも慣れ始め、始めの頃には終わりが見えず不安だった気持ちも、この旅が終わる事が寂しく感じるようになっていた。

朝起きると綺麗な山と湖が見え、撮影に行くと大きな雪山、帰ってくると綺麗な夕日に星空。

毎日、常に大自然に包まれて、現代的な物がほとんどない生活。脳裏に焼き付いた自然の景色はいつもの生活では確実に味わえない。

1ヶ月、24時間移り変わる自然、壁がないからこそ思う存分に体験でき、ここから離れる事が想像できない自分も少しいる。

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撮影最終日。
山の上でゆっくりと過ごし、最後の別れを惜しんでいた。この日がカナダで最後のスノーモービル。次乗れるのは最低でも半年以上先だ。

カナダでスノーモービルを使った撮影をしたいと思って動きだして1年半。

Heart Filmsで撮影している小西隆文に出会い、Heart Filmsのカメラマンの田島継二を紹介され、1年前に2週間カナダに来て、平岡暁史に洗礼を受けた。シーズンが終わり、布施忠やたくさんの先人たちの話を聞き、今、その時は想像出来なかった場所でスノーモービルに座り山を見ている。

この冬に見た景色は全てが新鮮だった。スノーボードを初めて10年余り、パーク、コンテストから始まり、次第に自分の気持ちはその後ろに見える山に向かった。人の手で作られた人工物から、自然が作り上げた物の中での自由なスノーボードに憧れた。

その自由を得る事と引き換えに、多くの不自由を強いられたが、そのおかげで今はこうしてこの場所に来る事が出来ている。

何事もいきなり出来るものではない。一歩一歩の積み重ねでしか物事は成り立たない。

日本から出るか迷った時期も、自分がどうスノーボードと向き合っていくか悩んだ時もあったが、目の前に広がる山を見ながら、今は本当にここに来れて良かったと感じている。

またここに帰って来たい。そしてまだ見ぬ新しい世界へ足を踏み入れてみたい。

ゆっくりと流れる自然の時間は、せかせかと過ぎていく人間の時間では到底歩みきれない。だからこそ自然の魅力に取り憑かれるのだろう。

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出発の準備はキャンプ地の準備とは比べ程にならないほどあっと言う間に終わり、出発はもうすぐそこだ。

帰りたくない。そんな気持ちがみんなの顔からも見て取れるが、あと3日もすれば日本にいる。

帰りの運転はどこか放心状態のようで、来る時にはなかった緑色の景色を眺めながら春を感じていた。

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長旅を終えウィスラーに帰ると雪はすっかりなくなり過し易い気候だ。

そして久しぶりのベッドに、布団、壁のある家、温かい部屋、温かいシャワー、水に電気、ガス、インターネット、今まで幸せに感じてなかった全ての事に幸せを感じた。

リビングのソファーに感動し、ゲレンデのリフトに乗れば座っているだけで山の上までいける。ハイクもモービルもいらない。なんて便利な物なのだろうか。

トリップから持って帰ってきた荷物を片付け、余っていた食材を食べようと箱から調味料を取り出した。キャンプ中は一度も気になる事はなかったが、家に帰ってそれを見ると、砂だらけでかなり汚かった。

キャンプ中は何も気にせず使っていたものを、今はその汚れを落としている自分がいる。

キャンプの事を思い出しなんだか少し寂しくも感じながらキッチンに向かっていた。

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今まで写真や映像、話しで聞いていたカナダ。想像していた事を体験し、それが経験になった。

数ヶ月前には想像も出来なかった事が今、頭の中にちらちらと見え隠れしている。

それがはっきりと見えた時、体験となり経験に変わるのだろうか。

昔はよく、やっとスタート地点に立った。と思ったものだ。

だが実際には始まりも終わりもない事に気付く。未来は過去から作られ、今という瞬間は経験の積み重ねだ。

自分の挑戦の意味は、人は変化し続ける事が出来るという事だ。

生活をするという点においては、自分が良い選択をしているかはわからないが、生きるという点においては自分は良い選択をしているかもしれない。

その答えは今は僕にはわからないが、いつか分かるときが来るのだろう。

変わり続ける世の中で、僕は変化を求めながら生きていきたい。

この経験が誰かの為になるように。

レールに乗るのか、レールを敷くのか。選択は自由だ。

そして挑戦する事を楽しむか、楽しまないかも自分次第だ。

日本に帰ると白馬に向かう予定だ。いつも見ていた山がどんな風に見えるのだろうか。

僕は2ヶ月の旅の成長をすぐに感じる事になった。

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Text & Photo : Kazushige Fujita
Location : Canada BC (Chatter Creek, Golden, Whistler)


※この模様は2014年10月発売の「HEART FILMS “The Doors”」にてご覧頂けます。※DVDとダウンロード販売を予定しています。
カナダの壮大で綺麗な景色の中でのスノーボード、スキーのライディング、そしてこのロードトリップやそれぞれの想いが伝わる作品になっています。
ぜひ手に取りご覧ください。

Heart Films “The Doors” 予告編はこちら

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