Expedition TATEYAMA vol.2 reported by Daisuke Mizuma

立山でスノーボードを楽しむために
Expedition TATEYAMA vol.2 reported by Daisuke Mizuma

Vol.1は準備や山行の背景について書いたが、今回はいよいよ実際の山行の様子を書いていこうと思う。ただ、20日間の記録を丸々書いていくと、膨大な量の文章になるため、かなり駆け足でご紹介させて頂くことをお許し願いたい。
そして今回は、滑ることよりも滞在期間中の雰囲気や移動をメインにレポートする

4月16日。いよいよ全線開通の日を迎えた。立山駅は海外からの観光客を含め大勢で賑わっている。
そのなかでも明らかに異彩を放つ集団、それが僕らのパーティーだった。
ひときわデカい荷物、物々しい装備がこの山行の長さを物語っている。
外国人観光客はその様子をみな珍しげに眺め、遠目にシャッターを切っている。

天候は風もなく穏やかだ。とりあえず初日から大荒れじゃないことに全員がほっと胸を撫で下ろした。そうこうしているうちに出発時刻となり、全員でケーブルカーに乗り込む。汽笛が鳴り、発車と同時に20日間の始まりを告げた。

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美女平から高原バスに乗り換え室堂へ。初日だしまだまだ余裕。

入山後、ベースを雷鳥沢に造り、体馴らしも順調に進んでいった。途中わずかな降雪はあったものの、比較的穏やかな天気が続く。
奥大日岳方面や、雄山、一ノ越方面など簡単にハイクアップ出来るポイントを滑り、徐々に奥地へ向かうロングハイクへの準備を整えていく。

Photo Daisuke Mizauma3(1)
奥大日岳へと向かう途中、背後にはどっかりと雄山がそびえ立つ

夜、夕食を終えてテントに転がり込むと、ラジオが明日以降の天気も2、3日悪くないことを教えてくれた。予定通り明日は劔御前の稜線を超え、劔岳をぐるっと回り込み、裏劔と呼ばれる池の平まで移動することが出来そうだ。

裏劔には池の平山、仙人山など普段あまりお目にかかれない山々があり、その道の途中には、三の窓雪渓、小窓雪渓といった日本では数少ない現存氷河もある。
この先に一体どんな景色が待っているのか、そしてどんな斜面が待っているのか、そんなことを想像し胸を躍らせながら眠りにつく。不思議と、なにか良いことが起こるような。そう予感させるかのように、満点の星がキラキラと頭上で輝いていた。

Photo Masato Morikawa3(1)
星空のテントサイト。星降る夜空の下、奥大日岳がひっそりと佇む

深夜2:00、月が沈んだ後の空は、数時間前にも増して燦々と星が輝いている。
目覚めとともにテントを仕舞い、全ての荷物を黙々とザックに詰め込んでいく。まだ雪面が硬いうちに稜線を超え、行ける所まで行ってしまいたい。

なぜなら、陽が登り気温が上がると雪面が緩み、バシャバシャのザラメ状態になる。滑るのにはもってこいの状態なのだが・・・これが歩くとなると、一歩踏み込むごとに膝近くまで足が埋まり、重い荷物を持った状況ではスピードが上がらずとてつもなく厄介なのだ。

4:00、各々全ての準備が整い出発。徐々に空は青みがかっている。
テント場を出発すると、すぐに雷鳥坂の登り口に取り付く。ここから約2時間のハイクアップが始まる。ぎっちりと詰まった荷物が肩に食い込み、呼吸はすぐに早くなる。ものの数分で汗が噴き出した。気を抜くとよろけてしまいそうになるのをこらえ、歯を食いしばり、一歩一歩確実に登ってゆく。気が遠くなるような距離も時間も、辿り着くためには、すべてこの一歩の積み重ねだ。

出発から2時間10分、稜線のトップにある劔御前小屋に到着する。すでにベースレイヤーは汗だく。
一休みしたら、標高差約1000mある劔沢を滑り降りる。隣から続く真砂沢が合流する出合いから再びスノーシューに履き替え、約1時間。距離にして約1.6km、今度は劔沢の奥にある象徴的な大岩、近藤岩を目指して歩いた。

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近藤岩手前の難所を歩く。向かって右には勢い良く川が流れており、左にはデブリと土砂崩れが同時に流れる。どちらにせよ、気を抜けない状況だ9:30。ここまで5時間半。

近藤岩がある二股出合いに到着。ようやく行程の半分まで来た感じだ。
目指す先はまだ長い。まだもう一登りある。ただ、皆のテンションは悪くないのが安心材料だった。あまりの辛さに、途中テンション低くならなければいいなーと思っていたのだが、

ユータが「行っちゃうっしょ!」と言えば「行きましょー!!」とツバサとマサトがそれに続く。モッさんは相変わらず冷静だ。クエン酸ドリンクがやたら美味いと言いながら、それをグビリとやった後にボソッと

「行くでしょ」と。

地図とGPSで行程を再確認し、おおよその到着時間を予測する。ここから、あと6時間程度かかる。
二股から出発するとすぐに斜度が強くなり始める。早くなる呼吸と、重くなる足取り。6時間という、漠然としたイメージをかき消すように目の前の一歩だけに集中する。
ふと視線を上げると、そこに三の窓雪渓が目に飛び込んで来た。遠く伸びる広大な雪渓は、なんだか果てしなく続いているような錯覚に陥る。壮大な景色を眺めながら、いつか滑りたいと想いを馳せた。

Photo Daisuke Mizuma5(1)
綺麗な雪解け水が流れ落ちる。山奥で水の量を気にせず飲める幸せは、けして下界では味わえない

 

その後も足を進め、2時間半ほど歩く。ここで雪解け水が流れ落ちる滝を発見したのだ。喜びから、皆思わず声を上げて喜んだ。足早に滝に近づくと持参のプラティパスに水を汲み、ゴクゴクと喉を鳴らしながら冷たい水を流し込んだ。この雪解け水さえあれば、ここに滞在する間の水の心配は無くなる。

綺麗な水が惜しみなく飲める。それだけでこんなに感謝の気持ちを持てるなんて日常生活ではまずあり得ないだろう。街にいれば、蛇口をひねれば綺麗な水が出てくるのが当たり前。山に入るとそういった自然環境の一つ一つがどれだけありがたいことなのかを身をもって体感できる。
まさに、これこそが冒険の醍醐味だと思う。

水を確保しさらに登り続ける。そして、行動開始から約10時間。目的地である池の平に到着した。
着いたー!とそれぞれが拳をぶつけ合う。だが、喜ぶのはまだ早い。ここから暫くの間滞在するために、快適に生活出来るよう、風をかわせるテントサイトを造設しなければならない。

実はこの作業が一番億劫なのだ(笑)

1時間半・・・全てが終わってテントに入り込んだのが16:30。夕食をとった後の記憶が有るような、無いような・・・気付けば泥のように眠り込んでいた。

翌朝、目覚めとともにテントのファスナーを開ける。
眼前にはクライマー達の聖地、八ツ峰を擁した劔岳が堂々と鎮座している。

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目覚めとともに眼に飛び込む劔岳に言葉を失う

全てが報われたような気持ちになった。無事に辿りつけたこと、この景色を見ることが出来たこと、この景色や気持ちを一緒に味わえる仲間がいること。そんなことを考えると、思わず溜め息が漏れた。

滞在期間中は、当然過ごしやすい日ばかりではなく、自然の猛威に耐えなければならない日もあった。なかでも、「36時間」もの間ひたすらザーザー雨が降り続いた時はさすがに堪えた。テントの耐水圧は限界を超え裏側に水滴が沁みだし、テント中が水浸しになった。気付けば四隅には大きな湖ができていた・・・。
雨が止み1日半振りにみんなと顔を合わせると、さすがにみんなグッタリした顔つきだった。そして口々に

「修行でしたね」「精神と時の部屋入りました」「三国志に助けられました」
という言葉が(笑

ちなみに自分の行動日記には当時の気持ちをこう綴ってある。
「自然とは時に厳しい。抗おうにも全く歯が立たない。人が自然に合わせ、従うことが大切なのだと思う。」それほど考えさせられる時間だったのだろう。

Photo Masato Morikawa2(1)
池の平の稜線から望む劔岳。この景色をバックに滑るとしたら、どんなラインを描きたい?

 

秘境、池の平やその近辺には魅力的な地形が豊富にある。

テントサイトから見える一面にゲレンデのような斜面がたくさんあるのだ。
池の平山南方から伸びる斜面、仙人山ピークからの斜面、そして氷河認定された小窓雪渓など。どこを滑っても想像力を掻きたてられるし、どれもダイナミックだ。
ただ今回に限っては、長雨が降ったり、晴れても気温が上がらない日が多くて、残念ながら、なかなか気持ちよく滑れるコンディションには巡り会えなかった。
まあそれも自然の醍醐味だと、気にせず夢中でハイクしては滑り、ハイクしては滑りを繰り返し、気付くとあっという間に日にちが経っていた。

いくら時間があっても足りないくらい、ここは景色も雰囲気も素晴らしい。
夜には無数の流れ星を見ることができ、朝陽は神々しく劔を照らす。それと、まるで魔法のように、太陽が稜線を越えた瞬間、凍てついた青の世界は一瞬にして黄金の世界に変わってしまう。
それが当たり前の現象であり、繰り返し行われてきた自然の摂理なのだと思う。
きっと、百年前もここには今と同じ風景があったのだろう。
悠久の時を経て、今この景色に巡り会えたことにロマンを感じつつ、時間は過ぎる。

 

Photo Tubasa Hirose-2(1)
Mt.Ikenotaira  Rider Yuta Nishikawa

後ろ髪を引かれる思いと感謝の想い。そして次のポイントへの期待感をない交ぜに、9日目の朝、僕らはテントを片付け始めた。

日程は折り返し地点まできていた。既に十分すぎる程の経験と感動を蓄積したが、まだ終わりではない。このあとは、劔岳の登頂と滑走が待っている。風の影響を受け易い劔は、晴れたからといって簡単に滑れるコンディションになるとは限らない。上手く天候とコンディションが噛み合うか、事故を起こすこと無く登頂し滑走できるか、運命の女神は自分達に微笑んでくれるだろうか、様々なことを想像しながら気持ちを向けてゆく。

次に目指す幕営地は劔沢野営場。
二股まで滑り降りた僕らは、スノーシューに履き替えながら改めて登り返す方角を眺め、またも漠然とした距離と時間に苛まれていた。

「遠い・・・」

晴れ渡る青空のもと、強い日差しが容赦なく照りつける。
遥か遠く、劔沢がどこまでも続いている。

続く・・・。

 

Expedition TATEYAMA vol.1 reported by Daisuke Mizumaはこちらから

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水間大輔プロフィール

 

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1978/11/13
富山県出身

2007年HP種目でプロ資格取得。ハーフパイプ、ストレートジャンプの大会を転戦。
その後、バックカントリーの世界に魅せられフリーライドをメインに活動。昨年は念願の劔岳滑走に成功。
RAMPJACK掛尾店の店頭に立ちSNOWBOARDの楽しさを伝える傍ら、地元立山をメインに裏劔など未だ世に出ぬポイントを開拓中である。

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edit by

Credit  Kazu(12)

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