止まった時間を動かす2人 – 241 x SBN Vol.5 –

「時が止まる」という表現はよく使われるが、この場所ではまさにそんな感覚に陥ってしまう。2006年からスキー場営業を休業中の旧アライリゾートに一歩足を踏み入れると時は止まったまま。その止まった時間を再び目覚めさせるかのような2つのラインが刻まれた。マイクバシッチと美谷島慎、国籍もバックグラウンドも違う2人はスノーボーディングという共通言語で会話をする。(もちろん、普段の会話は英語だが。)。大毛無山から広がるこのパウダーヘヴンで2人のセッションは終止全開だった。

マイクバシッチが数々のトリップを共にしてきたスノーボーダーの1人が美谷島慎だ。10代の頃ボーダークロスの世界に突然現れた長野のフリースタイラーは“コンペティション”という枠から抜け出し、フリーライディングの可能性を探求するライフスタイルを続けてきた。彼にとってのパウダーフィールドは日本を含め、アラスカ、ジャクソンホール、ニュージーランドと国境なんてまるで無いように見える。毎年シーズン始めになると「今シーズンはどこ行くの?」なんて質問をするのが楽しみになる、それどころか普通の会話の中で彼の口から出る言葉ですら楽しみだ。そんな美谷島をマイクは「特別な存在」と話す。「彼はオレにとっては特別な存在だよ。始めて会ったのはいつだったかな?それすらも忘れるぐらい自然な仲間。彼の冒険心ににはいつも感心するよ。その昔英語もロクに話せない頃、ステイしていた家にブーツを忘れたからってスキー場のパーキングから1人でヒッチハイクして取りに戻ったりね。」スノーボードを片手に世界へ飛び回る美谷島にとって、ちょっとしたヒッチハイクなんて朝飯前なのだろう、そしてその冒険心は自分の満足するスタイルを追い求める原動力になっているに違いない。自分の可能性を追い求めるスタイルがどこかマイクに似ている様にも感じた。

ベースからは昨日の夜に計画していた撮影スポットが遠くに見える。予想以上の雪の深さにテンションを上げつつも、セーフティーかつアグレッシブなラインを探す。リフトオペレーションの無いここではスノーモービルが頼りの馬であり、一台のスノーモービルをシェアする2人の息もバッチリだ。「今年の北アメリカは雪が少ないからスノーモービルに乗るのは本当に久々だな。」と言うわりにはスロットル全開で消えて行ったマイクを見て、撮影サポートで来ていたローカル達もそのテクニックには唖然としていた。天気は快晴、ここ数日間降っていた雪も落ち着きを見せていたフェイスに2人のラインが刻まれて行く。お互いの好きなラインが判っているのだろう、それぞれの個性で描かれたラインの中にもシンクロするリズムが感じ 取れる。朝から夕暮れまで全開で滑り倒した2人がどれだけ楽しんだか、それは駐車場で見た笑顔とHigh Fiveから判る。限られた時間をフルに使い、途絶える事を知らない2人のアイデアと開拓心が撮影をよりスムーズにし、最高の一日は幕を閉じた。

Edit by Kato Kenji