「ライダー」と「母」どう両立する?/太田有紀

NERiNE Snowboard Academyを立ち上げ、親子スノーボード教室、雪ママサークル、バックカントリーツアーを主催するなど精力的に活動している太田有紀。ライダーでありながら、二児の母でもある彼女はどのようにスノーボードと育児を両立させているのだろう。


—子供が生まれる前と生まれた後、ライダーとしての活動はどう変わった?
太田:「なかなか思うように時間も取れず、滑れない」と言うのが正直な感想です。現役の時は毎日滑って大会も出て、メディア活動もして。そこから考えれば、もう180度変わりました。活動も、表というよりは裏方へ。楽しむから楽しんで貰うに変わり、自分の滑走スキルの低下も正直半端ないです。子供が滑れる年齢になって、やっと自分の滑走回数も増えました。

—産む前と産んだ後で、気持ちにも変化はあった?
太田:産むまでは「預けてでも滑り行こう!」と意気込んでいましたが、実際に産まれてきたら、可愛すぎて、預けるどころか毎日一緒に児童館のイベントへ行くようになり、預けて滑りに行くというよりは「子供の成長を側で見ていたい。離れたくない」という気持ちのほうが大きくなりました。子供が小さい時からゲレンデも一緒に連れて行き、滑らず雪遊びだけで帰る事も多々。なので、子供が産まれてからは「自分だけが楽しむスノーボード」というよりも「子供と楽しむスノーボード」「子供からかっこいいって言われたいスノーボード」に大幅に変わりました。子供のスノーボードが上達するにつれて、私もまたスキルアップを目指すようになり、最近は子供がジャンプをやり始めたので、負けじとスピンに取り組んでいます(笑)

—現在2児の母ですが、ライダーと母、両方を続けることは体力面、精神面の両方の面ですごく大変なことだと思います。一番大変なことはどんなことですか?
太田:子供がいてくれるおかげで、活動の幅や考え方の幅が広くなった事もあったり、自分が好きな事を続けられているので、あまり大変と思う事はないんですが……強いて言うなら、バランスかな? 子供に寂しい思いをさせない事、家の事をきちんとこなす事は、ライダーとしての立場の前にまず母親として、大前提だと思っています。なので、環境作りは常に考えて、バランスが崩れないようにしています。疲れ過ぎている時はそのバランスが崩れそうになるので、そこを保つのが大変な時もあります(笑) 今の環境がある事、活動に理解して協力してくれるメーカー・ゲレンデ様や家族がいる事に感謝しています。

—「子供がいることでできる新しいチャレンジ」もたくさんあると思います。キッズキャンプなどもそのひとつだと思いますが、お母さんになってから始めた取り組みなどを教えてください。
太田:まさしく「親子スノーボード教室」がそれですね! 続いて「雪ママサークル」! 心理学、食育、医療。現在の子供達の不登校等の現状等、子供が産まれたおかげでそういった分野に興味を持ち、自分で勉強したり、教育セミナー等にも参加させて貰ったりしました。子供が産まれた事で、考え方が大幅に変わり、親としての社会に対する責任感も感じるようになったので、社会貢献という部分の取り組は、かなり意識する様になりました。私にできる事は小さいですが、具体的には「子供達の冬の外遊びの提案」「親子の関わり」「ママのストレス解消」そういう環境を「親子スノーボード教室」や「雪ママサークル」など、スノーボードを通してで作れたら……というのが、新しい取り組み&目標のひとつです。

—「子供が小さいからスノーボードに行くのを諦めている」という人もいると思います。そんな人に「こうすれば楽しめるよ!」というようなアドバイスはある?
太田:周りに滑りに行く人がいないと、滑りに行くのは自然とハードルが高くなってしまいますよね。まずは一緒に楽しめる仲間探しをするのがお勧めです。最近では、ファミリー向けやママ向けのサークル、イベント等も豊富なので、まずはそういう所に思い切って参加してみて下さい。1人参加の方も多く、話題や環境も似ているので、親しくなりやすく、スノーボードを通じて、育児・家事等、様々な事を共有できるのは、楽しめるポイントのひとつだと思います。サークルやイベントのように決められた日程があれば「行こうと思っていたけど、気がついたらシーズン終わっていた」なんて事を回避できるはず。また「なかなかスケジュールが合わなかったり、そういったコミュニティに参加するのは苦手」という方は、ファミリー向けのサービスが充実しているスキー場へ行くのもおすすめ。各スキー場で、子供達と楽しむ為の、様々な工夫がされていて、キッズパーク、無料休憩所、レンタルルーム、託児所等。遊園地レベルで楽しめる施設もたくさんあります。行ってみると子連れでも、実はそんなにハードルが高くなかったりするので。最初は「お子さんとキッズパークで遊ぶ」ぐらいの感じで、久しぶりのゲレンデの空気を味わう事から始めるのも、楽しめるきっかけ作りのひとつになると思います。

—小さな子供と一緒にスノーボード、雪山を楽しむコツは?
太田:自分も子供になる事!(笑) 「こうあるべき」とかそういうの全部払拭して下さい。そしてお家で準備を入念にするのがポイント。スキー場、キッズパーク、スノーボードの動画や写真を見せ、ウエアやブーツを家で着用してその気になって貰う。それだけ準備しても、現地にいざ到着したら「ウエアを着たがらない」「雪面に降りたがらない」なんて子もいます。そこで「せっかく来たのに!」と怒ってしまうと、嫌なイメージが付いてしまうので「今日は散歩をしに来た」「下見に来た」という感じで、臨機応変に気持ちを切り替えてみて下さい。うちの子も、今となってはスノーボード大好きですが、最初はまさに上記そのままの子で、「せっかく来たのに」って思う事もありましたが、嫌がるって事は「自分の強い意思があり、それを伝えられる」という、立派な個性。それって凄い事だって喜んでもいい! 私はそれくらいに構えて、何度もめげずにスキー場へ連れていきました。そして最終手段は、スキー場には特別がある!という事にしちゃう。たとえば普段はあげないお菓子やアイスをあげて特別感を出す(笑) 「癖になるんじゃ?」って思うかもしれませんが、大きくなれば、行く事自体が楽しくなるので、大丈夫です。もちろん「特別だよ」の魅惑のキーワードも付けて下さいね♫ 親の好きな事や、楽しそうにしている姿を見る事は、子供も嬉しいし、真似したくなるはず。まずは『自分自身が思いっきり楽しむ!』という事を忘れないでいて下さい。「いつかは必ずできるだろう」と焦らず、どんと身構えて、そして子供が遊ぶ気になってくれたら、自分も思いっきり子供と一緒に遊ぶ。普段は絶対的な親の存在も、ゲレンデに来たら友達! そんな最高な場所、子供達は好きにならない訳ないですよ。

—今後はどのようなことを目標に活動していきたいですか?
太田:子供達から尊敬されるママでいられるような活動をしていく事、そして活動全てを楽しむ事! 「全部楽しい!」なんて無理かもしれないけど、楽しいか楽しくないかでは、楽しい方がいいと思うので、
どんな状況でも楽しみながらやり切る事が目標です。子供達から見たら、辛そうな顔してるママよりいつも楽しそうにしているママの方が良いに決まってますからね。それに、楽しそうにしてる人の近くって自然と人が集まってくるんですよ。それって楽しいが伝染してるって事かなって思っていて、だから、自身が主催している全てのイベントは、まず私が率先して楽しむ様にしています。

【使用ギア】
■ボード/【HEAD】SHINE LYT
■ブーツ/【HEAD】FOUR BOA FOCUS
■バインディング/【HEAD】NX SIX

【Profile】
太田有紀(おおた・ゆき)/ 1981年7月24日生まれ、三重県出身。
■身長/153cm■スタンス/38cm ■アングル/ 前18度、後ろ3度■ホームマウンテン/ふじてんスノーリゾート