X-TRAIL JAM IN TOKYO DOME

X-TRAIL JAM IN TOKYO DOME 『クォーターパイプ』

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■一日目。スノーボード・コンテストの最終日

今年で5回目を迎えたX-TRAIL JAM。スノーボーダーの間では、すでに冬のスタートを告げるイベントとして認知され、東京ドームに集まることがシーズン幕開けのサインとなっている。

X-TRAIL JAMはスノーボードのコンテストを今までになかった方法でショーアップし、雪山でしか開催されなかった雪のイベントを東京という大都市の真ん中で続けてきた。主催者が目指したものか、そうでなかったのか。あるいは観客がそれを望んでいたからか。東京ドームで積み重ねた5年という歳月は、X-TRAIL JAMを他のスノーボードイベントとはまったく違うものへと成長させた。
たしかにオーディエンスはライダーの洗練されたテクニックに酔い、ハイレベルなトリックに、身体じゅうの血液が逆流したかと思えるほどの興奮を味わい、歓喜の絶叫を繰り返す。けれど、X-TRAIL JAMの魅力はそういったス ポーツの興奮だけでは語りきれなくなってきている。4回目の昨年。それはライオという、一人のライダーの影に見え隠れしていた。

昨年、ライオは日本人としてただ一人、クォーターパイプの決勝に勝ち進んだ。決勝の競技形式はジャムセッション。ジャムセッションは一定の時間の中でなら何本飛んでもいい。どれだけ見せられるかは、どれだけ本数を飛べるかにもつながってくる。勢い、ライダーたちは駆け足に近い素早さでスタート地点まで登り、息を整えるまもなくスタートする。いったん滑り出せば、そこは集中力と瞬発力がものをいう世界だ。ギリギリまで息を詰めるようなライディングをこなした直後、再び地上25メートルの高みにまで駆け上がっていく。これを繰り返せばどうなるか。普通は足が動かなくなる。息が上がってくる。しかし、ライオは足を進め、肩で息をしながらも、滑ることを止めなかった。そのまま滑り続けたライオは、ついに酸欠状態に陥ってしまう。周囲の音が聞こえなくなり、話しかけられても内容が理解できない。そんな朦朧とした意識の中、ただ身体の中にため込んできたスノーボーダーとしての反射神経だけで飛び続けたライオは遂に誰よりも高く飛び、見事にハイエストエア賞を勝ち取った。つまり、他の誰も手の届かないところへと昇りつめたのだ。何の理由もなく、ただ純粋に飛びたい。しかも他の誰よりも高く。スノーボーダーなら誰もが理解できるシンプルな法則だけが、ライダーを限界ギリギリまで突き動かすことができる。X-TRAIL JAMは4回目を終えて、「シーズンスポーツのイベント」から「スノーボーダーという人間のドラマ」へと進化する、そのトビラを見つけることになった。

そして今年。ライオは再びクォーターパイプ決勝へと勝ち進んできた。春にはアゴを粉砕骨折し、夏前まではロクにものを噛めなかったという男は、昨年の成績からシード選手として日本人予選を免除。準決勝からの出場とされている。

さて、その日本人予選ではネット投票を通じて選ばれた14人のライダーの中から一人二本ずつのランを経て、上位6名が準決勝進出としてコマを進めていくことになる。例年のことながら、人工の壁に人工雪を貼り付けたクォーターパイプには独特のコツが求められる。今年は壁もやや開き気味とあって、ほとんどのライダーはバックサイドからエントリーして蹴りの強いトリックで勝負をかけてきた。なんと日本人予選を通過した6人のうち4人まではマックツイストやアッパーデッキという縦回りのワザが並んでいる。その中にあって布施 忠は離陸ポイントと着地 ポイントが30センチも変わらないという、精密機械のようなトゥーフェイキーを披露。一番高く飛べるワザを選んだといいながら、誰にもマネのできない鮮やかなトランジションさばきを見せつけることになった。また、6位で日本人予選を通過した大平 修は、ただ一人アーリーウープでフラットスピンに持ち込んだ。しかもヒール エッジをかけてアプローチしながらも、蹴りのラストはトゥエッジを利かせるという超テクニカルなきっかけ作り。これしかできないから、と言いながらも不思議なフラットスピンに、他のライダーからは賞賛の声が上がる。

ここで一つのアクシデントについて話しておこう。鈴木 伯はこれまでストレートジャンプで3年連続2位という成績に輝いている。ワールドクラスの選手が多数出場することを考えれば、この成績はじゅうぶんに評価されるべきものだ。が、上がある限り、そこを目指すのが本能だ。だからこそ、伯にとってX-TRAIL JAMは特別な大会だ。2位を指定席にしたくない。ストレートジャンプで上を目指す。それが、伯にとってのX-TRAIL JAMなのだ。

今年、その伯はクォーターパイプにも出場している。ネット投票で多くのファンに推された結果だが、伯にとってネット投票の結果は嬉しい以外にない。ストレートジャンプに狙いを定めながらも、クォーターパイプでできるだけのことをやってオーディエンスに喜んでもらう。それが今年の目標となった。そうして迎えた伯の予選一本目。珍しく離陸の踏み切りでエッジングをミスした伯は転倒。リップに落ちた際、左ヒザをひねってしまうことになる。前から痛めていた左ヒザだったが、この転倒ではヒザを強引に横に曲げられることになってしまった。何かがおかしいと感じながら二本目を飛び、最終的にはヒザに力が入らないままクォーターパイプの予選を終えた。そして、選手控え室に帰ってきた伯の左足は腫れ上がり、一人で歩くことさえできなくなっていた。

話を競技に戻そう。クォーターパイプ準決勝からは海外からのシード選手を交え、トータル16人のライダーがジャムセッション形式で競技を進めていく。ここから登場となった外国人選手は、さすがワールドクラスとうならせる完成度の高いトリックを次々と披露してくる。毎回、いろいろなワザを繰り広げてスノーボードの楽しさを全身で表現するジャン・シメンはダブルグラブやオールドスタイルなノーズグラブを繰り出したかと思えば、フロントの720を軽々とメイク。趣味がジャグリングというだけあって、観客を楽しませるコトにかけてはナンバーワンのヨナス・エメリーはスタートと同時にフロントフリップ。そのままクォーターパイプにアプローチして、バックサイド540をスローに決めてくる。トラビス・ライスは力強い飛びで迫力のトリックを繰り出してきた。どんなトリックでも必ず着地してくる強い足腰で、全方向720を着実にこなしていく。すでにX-TRAIL JAMの顔となり、伝説のライダーと称されるテリエ・ハーカンセンに期待するのは、あのワンフット・マックツイストだ。もちろんテリエもそのことは分かっている。が、今はまだそのタイミングじゃないと、伝家の宝刀を抜く時期を見計らいながら、ノーマルのマックツイストでハイエアを狙う。さらに、できないトリックはないと言われるほど数多くのワザを持つアンディー・フィンチが初参戦。スイッチバックサイドのスピントリックを次々に見せつけながら、要所要所でシンプルなグラブトリックを挟み込む。こういったワザと経験を身につけたライダーたちが、30分にも満たない時間の中で自分をアピールしていく。選手名をコールする会場のアナウンスが間に合わないほど、次々とライダーがアプローチし、見上げるような高さでトリックを繰り広げる。競技が終わるまで、誰がポイントをリードしているのかは発表されない。だからこそ、ライダーは常に全力で滑ることを求められる。こうして、ジャッジは決勝に進む7人のライダーを選び出した。ライオも、その中にただ一人の日本人として名前を連ねていた。

クォーターパイプ決勝。スーパーファイナルと呼ばれる、選ばれた7人のライダーが繰り広げるトリックの祭典。そこに立つすべてのライダーが、持てる力をフルに絞り出す25分間。去年の、自分をギリギリまで追い込んだライオの姿は、オーディエンスの記憶にも、出場しているライダーの心にも焼き付いている。だからこそ、今年の決勝は熱かった。いつものようにライオがリズムをリードしながら、得意のチェックフリップで軽々と5メートルに届く高さを出してくる。アンディー・フィンチはまだこんなワザを隠し持っていたのかと思うような、スイッチ900をメイク。そのアンディーのトリックを追いかけるように、トラビス・ライスは同じワザで追撃。ところがアンディーは狙いをトリックから高さに切り替えたのか、ライオの滞空時間を超える勢いで真上に弾け飛んでいく。さらにテリエは得意のメソッドでスピードを高さにフル変換。ムダのない動きで完全に空中の住人になった。そのテリエを、またもライオがチャックフリップで追いかける。

そうしてありとあらゆるトリックが繰り広げられ、これ以上は何もないと思えるほどすべてが絞りつくだれたラスト5分。ライオがスタートに立つと、会場の歓声はフルボリュームへとパンプアップした。今年は酸素ボンベも用意され、ドクターも待機している。その甲斐あって、酸欠に至るライダーは現れていない。が、ライダーはすでに体力も気力も限界ギリギリだ。そのライダーの背中を押しているのは、この会場の空気だ。気を抜けばその場に座り込んでしまいそうになる、その身体を動かしているのは、地面の奥から沸き上がってくるようなこの歓声だ。はっきりと質量を持って会場を包み込む、オーディエンスの熱気だ。あと2本、飛べるか飛べないか。時間との戦い。他のライダーとの戦い。自分との戦い。それらすべてを飲み込んで、ライオはスタートし、この日最高の5メートル20センチを叩き出した。惜しくもたった3ポイント差で表彰台は逃した。けれど、2年連続ハイエストエアを獲得し、今年もオーディエンスを一番興奮させた。

この日、X-TRAIL JAMは完全にトビラを開けた。本気になったアスリートが描き出すコンテストこそ、もっとも上質のドラマなのだ。5年目を迎えたX-TRAIL JAMは、初日にして次のレベルへと突き進んだ。

優勝:Andy Finch(USA)
準優勝:Travis Rice(USA)
3位:Terje Haakonsen(NOR)
ハイエスト・エアー:ライオ田原(JPN)/5m20cm

Text: TAKURO HAYASHI.

X-TRAIL JAM IN TOKYO DOME/SNOWBOARD-STRAIGHT JUMP&QUARTER PIPE-AND MUSIC SESSION
2004.12.11sat-12sun東京ドーム
▼X-TRAIL JAM IN TOKYO DOMEの模様です。下記画像をクリックすると拡大して観覧する事が出来ます。

Andy

David

Gian

Jonas

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Travis

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Terje

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Rio

 

 

 


X-TRAIL JAM IN TOKYO DOME 『ストレートジャンプ』

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■二日目。そして、新しいレベルの初日

ストレートジャンプはクォーターパイプに比べると競技の進行が分かりやすい。それは単純に「一人が二本ずつ飛んでいい方の得点を採用する」という「ツーランベスト」と呼ばれる採点方法がとられているからだ。オーディエンスはジャッジが採点している間にも今のランはどうだったのか、次は誰が飛び、何点とれば勝ち進めむことができる、といった計算ができる。ジャムのように選手名をコールするヒマもない、という忙しさはない。もっとも、ストレートジャンプもファイナルだけはジャムセッションだ。この日は10人の日本人ライダーから3人を選ぶ日本人予選を行い、シード選手と日本人予選勝ち上がりライダーを含めた16人から8人が抜けてくる予選へと続く。ここまでは「ツーランベスト」で競技を進め、ファイナルは8人のライダーでジャムセッション。そこから勝ち上がった3人がスーパーファイナルを「ツーランベスト」で争い、最終的な順位を決めていく。

今回のジャンプ台は着地の斜度が大きく、少し飛びすぎただけで落差は飛躍的に大きくなる。かといって小さくまとめたジャンプにしてしまえば点数は伸びない。落下系とも言えるジャンプ台で、いかにクリーンな着地を目指すか。点数を伸ばすことよりも、きちんと立つことが最優先。インターネットを使った投票で選ばれた日本人予選出場のライダーたちに混じって、そんな難しいジャンプ台を攻め込んでいったのは鈴木翔太。前日のクォーターパイプでは日本人予選通過を逃したものの、雪辱戦とも言えるストレートジャンプで気を吐いた。フロントサイド720で268点を叩き出し、予選一本目が終わった時点では暫定トップに立ったほど。その翔太の独走に待ったをかけたのがコニタン(小西隆文)。得意のスイッチバックサイド720をきれいにメイクして272点で予選一位。予選3位にはフロントサイド540でフォームをロックしたままのスタイリッシュなフラットスピンを見せた鎌田 潤が食い込み、上位3人が予選へと進んでいく。

予選では昨年の成績でシード選手とされた平岡暁史、布施 忠、山口睦生、鈴木 伯らが名前を連ねてくる。ここからは気の抜けないワザの掛け合いだ。まずはJJ トーマスがヒールロデオ540メランコリーで空 中に飛び出していく。続くジャン・シメンは昨年のチャンピオン。連覇を狙いながらも相変わらずのスタイルぶりを発揮。バックサイド720インディーは、ガッチリ前足を伸ばしたポークスタイルだ。さらにヘイキ・ソーサはフロントサイド720テイルグラブで滞空時間をフルに使って回転し、14歳のルーク・ミトラーニは果敢にもフロントサイド720にトライ。残念ながら着地で立てなかったものの、小さな身体でのプッシュぶりにオーディエンスの声援もヒートアップ。トラビス・ライスは得意のフロントサイド720メランコリーをコンパクトなフォームのままツーローテーションで展開。日本人予選から勝ち上がった鈴木翔太はフロントサイド720のテイルグラブ。鎌田 潤はここに来てバックサイド720インディーという、玄人ウケする渋いトリックをチョイス。エンターテイナーの血が騒ぐのか、ヨナス・エメリーのバックサイド720はノーズとテイルのツーグラブ。遠いところ二カ所をグラブするという難易度の高いトリックを笑顔でこなしてしまった。日本人きってのスピンマスター・山口睦生には高回転の期待がかかる。その期待通り、一発目からフロントサイド900をステイルフィッシュでアピールしてきた。この後は平岡暁史がスイッチバックサイド720メランコリーを放ち、布施 忠はスローなキャブ720メランコリーで仕掛けてくる。

そして、鈴木 伯の名前がコールされた。前日のクォーターパイプで左ヒザを痛め、一時は一人で歩くこともできなかった。ストレートジャンプ欠場も考えたが、伯はテーピングでヒザを固めてスタート台に立った。この日の朝、伯は小さな声でこう言った。
「無理はしないようにする。でも、何もしないで帰るのはイヤだ」
そう言い放っての出陣だった。

ストレートジャンプでは着地の時、後ろ足に負担がかかる。伯のスタンスはグーフィーだ。そして、伯の得意技はキャブ900。スイッチでアプローチしていくため、エントリーでは左足が前になって体重が乗る。さらに着地では左足が後ろになる。左ヒザを痛めている伯にとって、キャブ900はもっとも避けたいトリックのハズだった。事実、この一本目に得意のキャブ900を放ったものの、伯は着地で踏ん張りきれなかった。何とか立ったものの、その後のブレーキングで板を踏み込むことができない。一本飛んだんだからもういい。これ以上無理をしてヒザを壊すことはない。周囲の何人かはそう思っていたはずだ。さまざまな不安や心配、勝ち上がりの希望や前しか見えない一直線な気迫を包み込んだまま、競技は進行していく。

伯に続くコニタンはスイッチバックサイド720。そして伝説の男、テリエ・ハーカンセンはバックフリップメランコリーからバックサイド180へとつないでいく。トリックの百科事典のようなアンディー・フィンチはバックサイド720をメランコリーとインディーのツーグラブで仕上げ、一本目ラストのライダーとなったデビット・ベネディックはキャブ540をミュートでグラブ。ただし、そのスタイルはスイッチインディーといった方がいいほどスタイリッシュ。デビッドのスタンスを知らなければ、あれはフロントサイド540インディーに見えたはずだ。

一本目を終えて、上位8位までに入っている日本人は布施 忠と鈴木翔太のみ。伯は12位につけていた。誰もがミスをしない最高のジャンプを祈る予選二本目。逆転の一発が出れば、順位は大きくアップする。しかし、たとえ自分が8位以内にいたとしても、後に続く誰かが自分よりいい成績を出せば、自分の順位は下がっていく。全員が滑り終わった時点で自分が何位になるのかは分からない。だからこそ、後悔しなくてもいいように、全力で飛ぶ。そうして本気の誰かが一本飛ぶごとに、会場は喜びや落胆の声に満たされていくことになる。

二本目もロデオで攻め込んだJJ トーマスだったが、一本目の点数を超えることができず、上位8位以内には入れないでいる。ジャン・シメンは暫定11位につけていたが、二本目のバックサイド720インディーでまたもスーパーポークを披露。このジャンプをクリーンに着地して、一気に312点をマーク。一躍2位に躍り出た。暫定3位のヘイキ・ソーサは無理をする必要など全くないのにもかかわらず、バックサイド900メランコリーという超ハイレベルなトリックを仕掛けてくる。これで322点を勝ち取って、暫定1位へジャンプアップ。ちなみにこの322点は、今大会中での最高得点。いかにヘイキのテンションが高かったかが伺えようと言うものだ。

一本目で15位とふるわなかったルーク・ミトラーニだったが、ここ一番の集中力を発揮。なんと二本目は一本目と同じフロントサイド720ながらテイルグラブ。さらに落差のあったランディングをガッチリ耐えて296点という高得点を獲得。暫定7位に食い込み、この時点で暫定8位だった布施 忠を暫定9位に叩き落とした。

ルークに続いてはトラビス・ライスがスイッチバックサイド540を繰り出すものの、思い通りに着地できない。とは言え、すでにトラビスは一本目のジャンプで暫定二位を獲得している。何も焦る必要はない。さて、当確ライン上の鈴木翔太が二本目で持ち出してきたのはバックサイド900のノーズグラブ。ところが、この900が着地に結びつかず、翔太の得点は288点のまま。順位は8位でかろうじて決勝進出へと望みをつないでいる。

この後は鎌田 潤がバックサイド720インディーを見せるも261点。暫定5位のヨナス・エメリーは余裕のチンパンジーエアをノーズグラブでメイク。スピンマスター山口睦生は一本目と同様にフロントサイド900ステイルフィッシュを繰り出してきた。鮮やかに回り、クリーンに立ったかに見えたが、着地の衝撃には耐えきれなかった。結果、219点。翔太は未だ、8位にいる。

平岡暁史は起死回生のスイッチバックサイド720メランコリーで勝負に出たが、239点と予選通過ラインには手が届かなかった。布施 忠はスタイルを見せることに方針を転換。言われなければ 絶対にスイッチだとは気づかないほど完成度の高いトゥイークを見せた。このスタイルぶりには拍手と足踏みが地鳴りのように響き、多くのオーディエンスがそのスタイルに酔いしれた。しかし得点は251点と、一本目のキャブ720をしのぐことはできなかった。

この時点で、伯のヒザは限界に近かったはずだ。ここで出場を取りやめても、誰も文句は言わない。それは伯も分かっていただろう。が、伯は飛ぶことにした。もう一本くらいは何とかなる。そう踏んでのキャブ900メランコリーだった。おそらく、伯は一本目のジャンプで感触をつかんでいた。どれくらいまでなら無理できるのか。どれくらいの衝撃なら、筋力で吸収しきれるのか。だから、着地した後の伯は今までにないくらい全身で踏ん張り、ソールを踏みつけ、エッジを立てないようにしながら、歯を食いしばって身体を支えた。そして、291点。翔太との得点差はわずか3点。伯のポジションは暫定8位へ変更される。まだ滑っていないライダーで、暫定順位が9位以下なのはコニタンとデビット・ベネディックだけだった。二人のうちどちらかが291点以上を出せば、伯の決勝進出はない。今日のジャッジングなら、720以上できれいに立てば280点はかたい。グラブが決まれば290点か。コニタンもデビッドも、290点を叩き出すことはじゅうぶんに考えられるライダーだ。しかし、コニタンはフロントサイド900インディーを放ったものの着地をミスし、デビッドもキャブ900ミュートの着地を決めることはできなかった。

決定だ。伯は、日本人としてただ一人、ファイナルに進むことになった。ヒザを痛めて欠場まで考えた大会で、指定席の2位を超えるチャンスがやってきた。予選を滑り終わった伯は、半分泣きべそをかいたような顔でこう言った。
「怖かったよ。すげぇ怖かった。大丈夫かなって思ったけど、滑りはじめたら何も考えられなかった。あと、もうちょっともってくれたらいいな……」

こうして、限界ギリギリでの伯のファイナルが始まった。25分間のジャムセッションで、できるだけ飛ぶ。それが勝ち上がりの条件だ。去年の大会でライオが酸欠になった。あのリズムで、すべてが進んでいく。ヘイキは全方向の720を次々に撃ちだし、ジャンがそれを追撃するように同じワザでトレースする。アンディーはスイッチスタンスからバックサイドの720、900と徐々に回転数をシフトアップ。トラビスはスイッチでバックサイドスピンをしたかと思えば、レギュラーでコークスクリューを展開。ヨナスは不思議な回転軸で飛び、さまざまな場所でフロントフリップをしながらオーディエンスをヒートアップさせていく。そして、テリエは一つ一つの完成度をアピールするかのように、回転数を抑えながらも正確に動作を刻むようなトリックを見せていく。こうした空気におされて、伯はキャブ900をメイクし、バックサイド720で着地に耐えていた。見ていると、一本ごとにその着地は安定し、板に乗れているようだ。この白熱したセッションの中で、伯は一本ごとにスキルを上げている。そして、今年の夏に完成させたヒールサイドロデオ720メランコリーを気合いでメイクすると、伯のテンションはマックスまで上がった。何度も両手を中に突き上げながら、人さし指を立ててみせる。いける。順位よりも、自分がやりたいトリックを出していける。いつも通りに身体は動く。伯はその手応えを感じていた。オーディエンスはいつもの伯が見れることに喜び、手を叩き、伯が飛ぶごとに東京ドーム全体を歓声の重低音で揺り動かす。その影で伯はハイクアップをしながら2度ももどしていた。ジャムセッションの25分間。短時間の中での急激な運動と、それによる酸欠や脱水症状。そして痛みと緊張感。それらすべてがライダーに襲いかかる。オーディエンスには届いていなかった。が、この日の伯は誰よりも自分をプッシュして、誰よりも自分の限界に恐れながら、誰よりもそれを追求した。闇の中を這うように、手探りで自分の限界を探っていたのだ。間違って、そこを超えないようにしながら。

スーパーファイナルにはヘイキ、アンディー、トラビスの3人が勝ち進み、ヘイキがバックサイド720で見事X-TRAIL JAM ストレートジャンプ初優勝を遂げた。その様子を見ながら、伯は 語った。
「うん、満足した。スーパーファイナルにいけなかったから、暫定4位なんですか? でも今までの2位よりも、今日の4位の方が嬉しい。だってオレ、がんばったもん。すげぇ痛かったけどがんばったよ。だから、今日の方が嬉しい」

本気で限界を超えようとした時、そこにあるのは何だろう? 自分がフルに力を出し切ったと言える事が、日常生活の中にどれほどあるだろう? 本気になるという事がどれだけエキサイトさせてくれるか。本気になるということが、どれだけ気持ちをピュアにしてくれるか。そして、どれだけ人を感動させてくれるか。

二日間を通して、X-TRAIL JAMは本気になったライダーが、自分を壊すかもしれないギリギリの状態を見せてくれた。それはライオや伯だけでなく、参加したすべてのライダーがそうだったハズだ。勝つ気で来た。だからこそ、負けないようにギリギリまでがんばった。
X-TRAIL JAMは、トビラを開けたのだ。そこではスノーボードのコンテストを超えた、新しいドラマが展開されていた。本気になった一人のアスリートを何万人ものオーディエンスが後押しし、声援だけでさらなる高みに押し上げる。そしてアスリートは一枚の板に乗るだけで、何万人もの人を感動させることができる。そんな夢のようなドラマがここでは繰り広げられている。

優勝:Heikki Sorse(FIN)
準優勝:Andy Finch(USA)
3位:Travis Rice(USA)
Text: TAKURO HAYASHI.
X-TRAIL JAM IN TOKYO DOME/SNOWBOARD-STRAIGHT JUMP&QUARTER PIPE-AND MUSIC SESSION
2004.12.11sat-12sun東京ドーム
▼X-TRAIL JAM IN TOKYO DOMEの模様です。下記画像をクリックすると拡大して観覧する事が出来ます。Andy-1

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Haku

Heikki

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Luke

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