TOYOTA BIG AIR 9th

厳しい中で、確実に着地して立つ。それを実現できたものだけが、さらなる戦いの舞台へと勝ち上がっていくことができる。強風に雪が舞うコンディションの中で、自分の限界をプッシュしたエェロ。kaijyou

 

TOYOTA BIG AIR 2005 REPORT
2005.2.19 @makomanai
甘くはない。今年もそう思わせる大会だった。
TOYOTA BIG AIRのキッカーは人工的に造られるだけに、ある程度の調整がきく。イージーにしようと思えばいくらでもイージーにできる。けれど、それでは面白くない。観客が求めているのは、トッププロの真剣勝負。空中での果たし合いだ。微妙に難しくして、実力以上の戦いを演出する。キッカーの角度一つで、大会の流れは変わる。だからこそ、この舞台の出来不出来がすべてを決める。
今年はその舞台の難しさに加えて、天気が大きく影響した。金曜日の日本人予選では時折強い横風が吹き、選手の飛びの感覚を狂わせる。難しい台と厳しい天候。二つ揃えば試合が荒れるのもムリはない。60人以上のライダーが挑んで、勝ち上がれるのはたった4人。昨年日本人予選を一位で抜けた松井克師も、キッカーで腕に覚えのある小西コニタン隆文も、スピンの名手山口睦生も小さなミスで順位を落としてしまう。そんな中、オリジナルトリックの『マサカリ』で、ほぼ100%近いメイク率を誇ったのが尊人(たかと)だ。スイッチヒールロデオ720をベースにしたこのトリックは、ジャッジへのアピール力も十分だった。さらに、高橋成明、中川賢史、鈴木拓巳の3人ともが720をメイクして勝ちヌケを決めた。何よりもメイクすること。それがTOYOTA BIG AIRを勝ち上がる最低条件だった。
ライダーの知名度やスター性は文句なし。だが、何よりもトリック面での個性が豊かなこと。それが2005年TOYOTA BIG AIRの特徴だ。軽い身のこなしでスピンを繰り出すニコラス・ミューラーやJP ソルバーグ。若手のマシュー・クレペルの身体能力には目を見張るものがある。圧倒的な存在感を誇るダニエル・フランクと平岡暁史。DCPのスピンは教科書的な美しさを誇っているし、ステファン・ギンプル安定感は格別だ。昨年のチャンピオン、マーク・アンドレ・タルトも720を軽々と回してくる。マークと雑談をしながら「720で転んだことある?」って聞いたら、「ない」と即答された。そしてキッカーの名手、エェロ・エッタラはどんな状況からでもリカバリーしてくる。
これだけの個性が一堂に会する大会。その盛り上がりはどれほどになるのかと思われた。が、あいにく大会当日も風は強く、午後にはいると空には灰色の雲が広がり始めた。そして日が暮れる頃にはスタジアムに風が吹き付け、横殴りの雪が顔を叩く。これほど風が強ければ、空中でトリックを繰り出すのは至難の業だ。だがそれ以上に降り積もった雪が離陸のタイミングを狂わせ、着地で板のコントロールを奪う。前日までは面白いように決まっていたトリックが、狙い通りにおさまらない。さぁ、試合は荒れ始めた。

まずは本戦に進んだ16人が2本ずつ滑って、上位8人を決める予選ラウンドが行われた。しかし、ここでいきなりの大波乱。なんとJP ソルバーグやダニエル・フランクだけでなく、マ−ク・アンドレ・タルトまでもが予選で敗退。さらにわずか4ポイント差で平岡暁史もクォーターファイナルを逃すこととなってしまった。
今年のTOYOTA BIG AIRはここからが違う。この先、優勝者を決めるまでは一対一の果たし合い。グループの中で上位が勝ち上がるのではなく、トーナメント方式でライダーをふるい落としていく。ライダーはそれまでの成績によって二人で一組になり、2本滑ってベストスコアで勝者を決定。抜けるのは、自分か、相手か。
こうして夢の戦いが繰り広げられた。クォーターファイナルでは高橋成明×ロジャー・ヘルムスタッズストゥン、尊人×マシュー・クレペル、ステファン・ギンプル×エェロ・エッタラ、そしてDCP×ニコラス・ミューラーという4試合が行われた。各組とも接戦が繰り広げられたが、ここでは二つの試合に注目しておこう。一つは尊人×マシュー・クレペル。雪の降りしきるこの試合で、なんと尊人は特大の『マサカリ』を放って216ポイント。その前の試合で高橋を下したロジャーの得点が219ポイントだ。尊人の得点は、『マサカリ』が世界に通じるトリックであることを証明した。だが、マシューの方が一枚上手だった。1本目で240ポイントを叩き出して、尊人を突き放す。結局尊人はこの戦いを勝ち抜くことはできなかったものの、ダイナミックなトリックで一躍ヒーロの座に躍り出たことは間違いない。
もうひとつはステファン・ギンプル×エェロ・エッタラだ。実はこの試合、二人ともが転んだり手を着いたりしている。1本目では二人ともジャンプに失敗。しかし、その内容はまったく違っていた。ステファンは単純にスピンの着地をミスったが、エェロはスイッチダブルバックフリップにチャレンジしていたのだ。予選ラウンドではキャブ900を放っていたものの、新雪が抵抗になったのか、エェロはフラットスピンを捨てて縦回転で勝負に出ていた。おそらくエェロは負けてもいいから、自分のスタイルで勝負をかけたかったハズだ。誰もが2本目でステファンが立って、そのまま勝ち進むと考えていた。が、予想に反して精密機械並の着地能力を誇るステファンが転倒。こうしてエェロは勝ち進んでしまった。が、この勝ちこそがすべての流れを変えることになる。エェロに、もう一度チャンスがやってきたのだから。
セミファイナルではロジャー・ヘルムスタッズストゥン×マシュー・クレペル、エェロ・エッタラ×ニコラス・ミューラーという組み合わせになった。そして、エェロはメイクしてしまう。それまで何度もトライしていたスイッチダブルバックフリップを1本目でメイク。両手を握りしめて歓喜の声を上げたエェロだが、2本目ではすでに着地を見据えて板の角度を正確に合わせてきた。あれだけ苦労したワザを、2本目で完全に自分のものにしてしまう。そのチカラがあれば、あとは敵はいない。エェロは快進撃で優勝まで一直線に進み、見事に表彰台の真ん中を自分の席にした。
TOYOTA BIG AIRでは常に、メイクが最低条件だ。厳しい中で、確実に着地して立つ。それを実現できたものだけが、さらなる戦いの舞台へと勝ち上がっていくことができる。強風に雪が舞うコンディションの中で、自分の限界をプッシュしたエェロ。そこにラッキーがあったとは言え、そのラッキーは彼が自分の手で引き寄せたものだったに違いない。

 

Text: TAKURO HAYASHI.

 


優勝:E・エッタラ(FIN)
準優勝:M・クレペル(FRA)
3位:R・ヘルムスタッドセン(NOR)
3位:N・ミューラー(SUI)


 

 

▼TOYOTA BIG AIRの模様です。

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TOYOTA BIG AIR 2005 本戦結果2 3

 

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