SMITH QUALITYを探る ~ゴーグルブランドがヘルメットを手がける理由~

その目的は、エアフローと安全性の両立だ。
SMITHも早くからヘルメットは重要性だと考えていた。しかし市販のヘルメットでは狙い通りの空気の流れを確保できず、ゴーグルの性能をフルに発揮できないことがある。ヘルメットの安全性と、SMITHならではのゴーグルの性能をバランスよく両立させるには、お互いの機能を高め合うチューニングが不可欠なのだ。
こうして2006年、SMITHはスノーヘルメットをスタートさせた。酷い吹雪の日でも曇らずクリアな視界を確保する。創業者のボブ・スミスが取り組んだこの問題に、ヘルメットというギアからもアプローチすることになったのだ。

 

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ハイエンドモデル「VANTAGE(バンテージ)」に採用されている「AIREVEC2(エアーエバック 2)」のエアフローモデル。ヘルメット後部にあるベンチレーターから吸い出される空気の流れが、そのままゴーグルの換気をアシストする。ゴーグルとヘルメットの形状のマッチング、ゴーグルレンズとヘルメットの湾曲具合のスムースさにも注目だ


空気の流れをトータルでデザイン

たった一例でも、その不幸を避けることができるならヘルメットはかぶるべきだ。SMITHはそう考えている。それを前提にした上で、どんなヘルメットをどうかぶるか、を追求し続けているのだ。

SMITHが取り組んでいるのは、ゴーグルとヘルメットのマッチングだ。
順を追って話そう。まず、SMITHのゴーグルは雪の日でも曇りにくく、クリアな視界を得ることを目的にデザインされている。その詳細はこちら

具体的には暖かい空気が上昇することに合わせて、ゴーグル下部から外の冷たい空気を取り入れ、上部ベンチレーターから湿気と暖気を抜いている。こうして、空気の流れまでもデザインされているのだ。ところがある種のヘルメットでは、先頭部で受けた風をゴーグル内に下向きに吹き込んでしまう。これはSMITHの発想とは逆だ。SMITHは上に抜く方が理にかなっていると考えているのだ。せっかくのSMITHゴーグルの性能を完璧に発揮するためには、空気を上に抜いてやりたい。

SMITHのヘルメットが、ゴーグルのフレームカーブまで考慮してデザインされているのはこのためだ。ヘルメットとゴーグルのシェイプをピタリとあわせることで、ゴーグルのベンチレーターとヘルメットのエアホールを連動。ヘルメット後部に生まれる気圧差を利用して、ゴーグル内の暖気をより積極的に吸い出すことに成功したのだ。つまり、ヘルメットがゴーグルのエアフローを加速させるという発想だ。「AIREVAC(エアーエバック)」と呼ばれるこの考え方こそ、ヘルメットとゴーグルの両方を手がけているブランドにしか実現することのできないトータルシステムだ。そしてこの、製品を総合的にデザインすることでゴーグルも、ひいてはヘルメットもその性能を100%発揮して存在価値を高めることができる。このことこそ、SMITHがヘルメットを作る最大の理由なのだ。

 

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「VANTAGE(バンテージ)」に使用されている素材「Koroyd(コロイド)」。ストローを何本も束ねたような構造をしており、通気性は抜群。ある程度までの力には耐えるが、大きな衝撃が加わると写真のように変形・破損することで力を吸収する
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「AEROCORE(エアロコア)」と呼ばれる、通気性と衝撃吸収性を両立させた構造。EPSライナーとKoroyd(コロイド)とをバランス良くレイアウトすることで、抜群の通気性を備えた。「VANTAGE(バンテージ)」ではKoroyd部分をスライド式のシャッターで閉じることができるため、厳冬期や降雪時も快適さを損なわない
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プロライダーが練習中、転倒して生じたクラック。こうしてヘルメットが割れることで、脳への衝撃を和らげている。もちろん、当のライダーはまったくの無事。むしろヘルメットが割れていることにより、本人はそこまでの転倒という意識はなかったようだ

それ自体が、犠牲となって脳を守る

もちろんヘルメットには高いプロテクション能力が求められる。SMITHではアクシデント時の衝撃を低速でのゆっくり加わる衝撃、高速での速い衝撃、頭がぐるりとねじられるような回転方向の衝撃、そして複数方向からの同時衝撃の4つに分類して解析。タイプの異なる衝撃を、1つのヘルメットで受け止めるよう、ライナー(ヘルメット内部の衝撃吸収材)とシェル(ヘルメットの外側にあたる硬い部分)とのバランスを考えながら設計している。

具体的には、衝撃吸収力の高いABSのシェルにはEPSと呼ばれる厚みのあるライナーを組み合わせる一方、軽さが求められる場合にはシェルをポリカーボネイト製としてEPSライナーに塗装のように吹き付ける、といった手法がとられているのだ。その他、場合によっては両者を組み合わせて使うこともあるくらいだ。

こうした複雑な構造を採用する目的はただひとつ。脳への衝撃を緩和することだ。
「我々はケガを防止しよう、とは言いません。ヘルメットをかぶる目的がハッキリしているからです。ヘルメットをかぶることで防げるケガはたくさんありますが、最も重きを置いているのは脳に重い障害を残すような事態なんです。ですから、脳を守ろうと言います」

脳こそ、ヘルメットが守るべき最優先課題だ。そのため、アクシデント時のシェルやライナーは車のバンパーのように壊れ・変形することで衝撃を分散・吸収し、脳へのダメージを軽減している。故に出番は一度だけだ。1度でも大きな衝撃を受けたヘルメットは外観に異常が見当たらなくても信頼してはいけない。新しいものに交換すべきなのだ。またヘルメットの素材自体も経年劣化する。その寿命は3~5年。SMITHはハッキリと公言している。
「ヘルメットは使用期限のある消耗品です。形が保たれていても、脳を守ることはできないかもしれません」
と。

 

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苗場スキー場のパトロール。危険だからではない。他の人の安全を確保するため、最後まで無事でいなければならない。そんな役割だからこそヘルメットをかぶっている
SMITHの中には日本人の骨格に合わせた「ジャパンフィット」モデルもラインナップ。ヘルメットが似合わないと思っている人の概念を変えるはずだ。左からハイエンドの「VANTAGE(バンテージ)」、軽量モデルの「MAZE(メイズ)」、高耐久の「GAGE(ゲイジ)」
SMITHの中には日本人の骨格に合わせた「ジャパンフィット」モデルもラインナップ。ヘルメットが似合わないと思っている人の概念を変えるはずだ。左からハイエンドの「VANTAGE(バンテージ)」、軽量モデルの「MAZE(メイズ)」、高耐久の「GAGE(ゲイジ)」


ポジティブに滑るために

ヘルメットの重要性を知ってはいても、かぶることに戸惑いを感じる人がいるのは確かだ。曰く、大げさ、似合わない、何を買っていいのか分からない。

大げさかどうかは遊び方次第だ。パークで新しいトリックに挑戦したい、レールにチャレンジしたい等々。最初のトライでケガをして恐怖心を持っては上達には繋がらない。転んでも、次のトライにつなぐ。ヘルメットは自分の可能性を広げ、遊び続けるための装備だ。

似合わないと言う人には、アジアンフィットを勧めたい。装着感が良いだけでなく、深くかぶれるので頭が大きく見えないなどメリットは多い。また店頭での試着の際にはウェアを着てから。Tシャツ一枚でヘルメットをかぶれば、どんな人でも頭は大きく見える。ウェアを着ればそれなりにおさまるものだ。

何を買えばいいのか、という人には目的別に3種類のモデルを挙げておきたい。
とにかく軽く、どんなトリックで大暴れしてもフィット感を失わない。そんなアグレッシブなライダーには「MAZE(メイズ)」だ。世界最軽量の350gという軽さは、ヘルメットに対する認識を変えてしまうだろう。
ファッション性と買いやすさを求めるなら「GAGE(ゲイジ)」を勧めたい。高耐久と低重心を備えながら、最高クラスのベンチレーション機能を備えている。春先のパークでもムレがなく快適さは抜群だ。
最高クラスの心地よさを求めるなら「VANTAGE(バンテージ)」だろう。「Koroyd(コロイド)」と呼ばれるハニカム構造に似た素材を採用。高い通気性と驚異的な軽さを誇り、最高クラスの衝撃吸収性を備えることとなった。

SMITHのヘルメットはどれもコンセプトが明快だ。何を求めて、どんな使い方をしたいのか。それさえ明らかになれば、選ぶべきモデルは自動的に絞り込まれる。
「先ほども挙げたように、ヘルメットは定期的な買い換えが必要です。だからこそ我々は価格を抑える努力もしています。製品のコンセプトを明らかにすることは、必要な機能に重点をおいてムダにコストをかけない良い方法だと思っています」

あとはその安全性に包まれながら自分の限界を高めていくだけだ。これまで無意識のうちにかけていたブレーキが少しだけ緩み、これまで以上にポジティブな気持ちで滑ることができる。その爽快感も、ヘルメットが与えてくれる喜びのひとつなのだ。

 

SMITHカタログ

SMITH OPTICS Official web

 

TEXT:TAKURO HAYASHI