INK MOVIEストリート撮影の舞台裏。

國母和宏が、ムービーシーンにおける自身の経験や繋がりを日本の次世代を担う若手ライダー達へと繋げるために自ら動き出し、1シーズンをかけて若手とともに撮影に挑み続けたINKプロジェクト。前回まではマンモス撮影の舞台裏を紹介してきたが、今回はストリート部隊のビハインドストーリーを紹介。
彼らと同じ世代のカメラマンAtwoseeが、実際の現場で感じたストリート撮影の空気感や参加したライダーたちの個性を伝える。
Photo+Text: Atwosee


ストリート撮影に携わった経緯

普段は群馬・片品の(石山)トオルさんやPUT(島方啓輔)君とストリートやゲレンデで撮影しているけど、DIRTYPIMPの試写会やJSLVのイベントで(戸田)マサキや(高尾)ショウマをはじめ、DPクルーとも仲良くなったり……そんな流れで以前からINK MOVIEに出演するストリートをメインフィールドとするライダーたちとも自然と親交はあったんだ。それに秋になると(東京)代々木で開催される「SNOWBANK」や、2シーズン前に北海道のNOVELで行われた「ZETSURIN」にも撮影で訪れていて、そこで(國母)カズさんとも知り合いになっていた。で、昨シーズンが始まる前にカズさんから直接「今シーズンは時間のあるかぎり、INKと絡んでくれ」って誘われたんだ。

INKプロジェクトが大事にしていること

オレがINKの撮影に初めて参加したのは、1月下旬の北海道。すでにカズさんから声の掛かっていた高橋龍生、佐藤正和、玉村 隆、五十嵐 顕司の4人のストリートチームが動いてた。

1枚の画、1カットを求めて自分自身と戦うライダーたち

INKは、映像にはカッコよさと個性が重要という概念のもと、どのチームにも属していないが、これからのムービーシーンで活躍してほしい若手ライダーが集められている。撮影する側からしても、いい作品が残るだろうという期待と確信しかないメンバーばかりだ。

ストリートチームが北海道でベースにしていたのは琴似。ライダーたちの感覚と嗅覚で、札幌や小樽などにあるスポットを次々とハントしていく。4人は映像がかぶらないように、そして、より効率よく撮影するために、リュウセイ(高橋龍生)とタマちゃん(玉村 隆)、マッサン(佐藤正和)とケンジ(五十嵐 顕司)という2チームに分かれて完全に別行動をしていた。

北海道での拠点から撮影した一枚

ちょうどオレが琴似に到着して待機していると、ロケハンからマッサンとケンジの2人が帰ってきた。疲れた様子だったけど、やっぱりお互い仲がいいからテンションはアガるもの。その後、チルして、ピザを食って、音楽を流して、超パーティーって流れに。リュウセイとタマちゃんは、その日に5スポットやって夜中に帰ってきてグッタリ。ピザを食べ散らかしたゴミを見てガックリしてたのを覚えてるよ。

オレが北海道にいたのは1週間ほどだけど、その期間中もライダーたちは常に無駄な時間がないように行動していた。朝、寝袋から出たら即準備してコンビニへ。それからスポットへ移動して撮影し、昼飯を食べたら次のスポットへ移動。空いた時間はロケハンって感じ。夜にセッティングして早朝から撮影開始、1日に2スポット以上やることも、しばしば。晩飯はみんなで食べることもあったけど、そんなときも明日は何時に起きてどのスポットをどう回るかを決めたりする。仮眠して夜中にやることもある。オフの日も基本はロケハンだ。撮影期間中は生活リズムも狂うし、休んでも休んだ気がしない。毎回思うけど、けっこう修行だなって。

ストリートの魅力

ストリートでのスノーボードはアンダーグラウンドな要素が多く、社会的によくないことなのかもしれない。だけど、そんなことは百も承知でやってる。ケガのリスクだって高いし、いつキックアウトを食らうかもわからない。そんな環境だからこそメイクした瞬間の衝撃だったり、感動だったり、心の奥底から湧き出る安心感や高揚感は何にも代えがたい。それに何と言っても、とにかくカッコいい。ヤバいくらいに。だから、ストリートはやめられないんだ。

この瞬間があるからこそ、自分たちの魂と全精力を注げるんだ

ここで今回のINKの撮影で絡んだストリートチームのライダーたちにフォーカスしてみたいと思う。

まずはリュウセイ。彼は経験値がかなり高いライダーだ。だから自分のカットも残しつつ、一緒に動いていたタマちゃんにいろいろと教えていかなきゃいけない立場だった。

ストリートチームを牽引し続けたリュウセイ Photo: Photography樹

自分が北海道に滞在する最終日に1スポットだけ撮影を共にしたんだけど、とにかく動きがスピーディ。セッティングするのも速いし、バッフバフのリップでも水で固めないでも問題ないタイプ。これまで数々のアテンドをしてきただけあってロケーションもよく知ってた。撮影は足跡にも気を遣ったり、実際にトライして気に入らなかったらすぐにトリックを変えてくる。1スポットでいろいろできる能力は本当にすごいと感じた。そして、いい声(笑)。

次はタマちゃん。口数は少ないけど礼儀はしっかりしてるし、笑った顔がかわいくて愛嬌があるライダー。

様々な初挑戦があったけれど、いつも果敢に攻め続けていたタマちゃん

背丈はそこまで大きくないのに、スノーボードになるとバチバチに板を踏んでるから目立つんだ。これまでストリートの経験はそんなになくて、すごく苦戦してた。やっぱり整備されたゲレンデと、ありのままのストリートではあらゆる勝手が違うみたい。でも、人の意見をちゃんと聞いて考えるし、何でも吸収しようとする姿が印象的だった。何よりもベテランのリュウセイと動いてたのがよかったと思う。そうそう、あと多分、いや絶対に赤が好きなんだと思う(笑)。

納得する映像が残せるまで撮影を続けた

続いて、ケンジ。彼は、とにかくガッツのあるライダーだ。絶対にカットを残してやるって想いが強いから。あと、めちゃくちゃ食べる。

激しく動けば腹も減るだろうけど、食う量がヤバかったケンジ

それに喋ると少しおっとりしてる感じがするかな? オレが風邪でダウンしてるときは、「撮影が始まるまで車で休んでていいよ」って言ってくれる心優しいヤツだったりもする。北海道では撮影中に60代くらいのオジさんに絡まれてたんだけど、なぜかケンジが「國母選手にヨロシク」って言われてた(笑)。また別の撮影中にも中年オジさんに話しかけられていた。「曲芸ですね!」って(笑)。不思議とオジさんから絡まれる率が高め。

オジさんたちから話しかけられやすいキャラであることが判明(笑)

最後はマッサン。ストリートをやってるライダーでオレがもっとも仲のいい一人。過去にマッサンの頭蓋骨を見ことあるしね。ただ、北海道での撮影はロケーションも知らないし、いろいろ悩むこともあって、うまく撮影ができなかったみたい。でも、本州に戻ってきてからがヤバかった。2月、マッサンが住んでる新潟で撮影したんだけど、彼自身、今までプロのクルーと動けることがあまりなくて、やりたくてもやれないスポットがさくさんあった。ある日、デカいダブルダウンのレッジを攻めることになったんだけど、近くに公共施設がたくさんあったから撮影は夜中に決行することに。

獲物であるレッジを見つめるマッサン

それでも周囲には明かりもついていて、いつ通報されてもおかしくない状況だった。真ん中のフラットの部分もないし、レッジも三角……「ホントにコレをやんの?」って感じだった。だけど、長期間イメージし続けてきたのか、撮影自体はスピーディに終わったんだ。溜め込んできたフラストレーションが一気に爆発した感じだったね。

フィルマーとハイタッチで喜びを分かち合う


INK MOVIEのビジョン

INKのストリートチームのライダーたちが何を目指していたのかって? ぶっちゃけると、そんなことを考えてる時間はなかったと思う。カズさんたちのバックカントリーで撮影してるクルーがヤバいカットをたくさん残しているって聞いたから。ストリート部隊も、とにかく動いて、とにかく探して、とにかくやる。それだけだった。

ただ、ライダーたちはINKの撮影に参加しても、彼ら本来のスタイルは変わらなかったように思う。それぞれに信念を持ってるライダーばかりだから。違ったのはそれぞれのモチベーションの高さ。胸の内に秘めた炎がさらに激しく燃え盛っていたのは感じ取れたかな。

高い志とモチベーションを胸に、ライダーたちはアグレッシブかつクリエイティブにスポットと向き合った

あと、共に行動してわかったのは、ライダーひとり一人に葛藤があって、いろいろ悩みながらストリートで撮影してるってこと。年々、いろいろな理由でやれないスポットが増えてきてる気がするけど、それでもライダーたちには表現したいスノーボードがあって、ひたすらスポットを探して、そして考えて成長しているんだなって思った。やりにくい社会だけど、彼らがやってることはヤバいことばかり。それらをINKの本編を見て感じてもらいたい。

▼この秋ドロップする「INK MOVIE」のティーザー

▼INKにまつわるその他のストーリーは以下をチェック。

INK MOVIE マンモス・シューティングの舞台裏 <前編> 若手4人で撮影に挑んだマンモス滞在記。

INK MOVIE マンモス・シューティングの舞台裏 <後編> 撮影最終日をむかえた4人とINKのボスであるカズからのメッセージ

INK MOVIEの撮影を経験したコンペティター片山来夢が目指すべきもの