Go My Way. – 山根俊樹インタビュー <後編> -「オレらのライディングも自己主張も、すべて世界基準で表現していきたい」

なぜだろう。山根がパウダーを滑るだけでフリースタイルマインドをビンビンに感じてしまうのは……。それは雪上で魅せる男は、カメラを向けられると指の先まで気を抜かないからだ
Photo: kentaRAWmatsuda

インタビュー前編ではトシキのスノーボード人生におけるターニングポイントや、自身が掲げるFIGHT FOR LIBERTYという言葉に込めた想いを聞いた。後編ではシーズンの動きや、自分が目指すスノーボーダー像などこれからのスノーボードとの向き合い方を話してもらった。

Edit+Text: HaruAki

*こちらの記事は、「STAY HOME」スペシャルコンテンツとして、FREERUN本誌 2020年2月号(1月27発売)掲載インタビュー記事を特別公開しています。

INSPIRATION AND CREATION

上手くなり続けるっていうのがやっぱり永遠のテーマなのかな

-スノーボード以外の横乗りって何かやってる?
スケートボードとサーフィンは、時間があって身体の調子がよければ絶対にやるようにしてますね。

-それらがスノーボードに影響を与えたりした?
サーフィンはマジで影響してると思うっすね。調子いいときにフェイスをとらえて何回かターンできるくらいで、実際はできないほうが多いレベル……なのにスノーボードの感覚が変わったから。おそらく多くの人に当てはまると思うんですけど、スノーボードって一定の感覚をとらえ続けたまま滑るのって難しいんですよ。だいたいの場合は意識がツギハギ。ここでバックサイドターンを開始したら、次は乗り替えの瞬間、その次はトゥエッジを踏んでいく……みたいに分岐点だけを意識しているから。でも、本当に上手い人って意識がずっと入りっぱなしなんです。踏んで、踏んで、切り替えて、踏んで、踏んで……って。その連続する意識が1本の線になる。だから、ダウンチルやGENTEMSTICKの人たちが「1本の筆で描いたようなライン」みたいなことを言ってると思うんですけど、その意味がようやく理解できたというか……。ツギハギじゃなくて、意識を途切れさせない状態で滑ってるから1本のラインになるんだって。

-そうやって滑るのって、かなりしんどそうだね。
めっちゃしんどいっす。でも、意識していると、それができる瞬間、それが気持ちいいって思える瞬間があるんですよね。最初は違和感しかないから身体の位置を作るのがしんどかったりするけど、カタチさえ決まれば、ずーっと1本のラインを描き続けられるんです。そのままジャンプだって行けちゃう。で、思ったんです。これがひとつ上の次元で滑ってるプロの世界なんだって。しかも、それは滑りだけじゃない。スピンも同じで、最初にここを見て、次にここを見て、着地する……みたいな意識を置くヤツと、ずっと意識を連続させてるヤツがいるんです。見ると感覚的にわかるんですよね。「アイツ、できる」っていうのが伝わってくるから。

-それは最近になって気づいたの?
サーフィンしてからっすね。だから5年くらい前かな? サーフィンのターンでボードを踏む感覚って体重を傾けるっていうか……スノーボードで言うとエッジに乗るんじゃなくて、足の裏でボードを踏んでいく、重心を乗せていくっていう感覚なんですけど、それまではボードを踏むだけだったのに、そこからさらに踏み込めるようになって。それ以降は滑りの深みがすごい出てきたなって思いました。

-深みが増したと自分でも感じたわけだ。
なぁなぁの滑りが一瞬もなくなったっす。やり続けるっていうのが重要なことなんだなって。でも、キツイんですよね(笑)。ただ、それが一番上手くなる秘訣でもあるから。

ハイスピードで新雪をかっ飛ばしたあとに魅せたパウダージブ
Photo: Tom Gan-or

-今でも上手くなりたい想いは強い?
もちろん。上手くなり続けるっていうのが、やっぱり永遠のテーマなのかなって。

-確かにスノーボードって終わりがないよね。
それに飽きないじゃないですか。上手くなることに対しては! 飽きないからこそ、どんどん開発したくなる。オレ、自分でトリックを考えたいときとか、SNSを見ない時期があるんですよね。すでに答えがあると、それを見てマネしようってなるから。その時点で一番じゃなくなってしまう。だから、自分でとにかく考えようって。でもウケるのが、自分で考え抜いて完成させたトリックを、「よし、これはオリジナルだ。SNSにアップしよう」と思ってインスタとかを開くと、すでに誰かやってる……。そのときは「あぁ、同じことを考えてたんだ」みたいになるっすね(笑)。

-スノーボーダー以外の人からも何か影響を受けてきた?
オレ、スノーボードをやってると、スノーボーダー以外の人を基本的にリスペクトできないんですよね。ただ、たまにその壁をブチ破ってくる、絶望や逆境を乗り越えてきた人たちがいるんです。例えば、DJ YASAとDJ Hi-Cの2人組ユニット、DJ Kireek 。ケンタロウくんが繋がってて知ったんですけど、めちゃくちゃカッコいいアンダーグラウンドのDJなんですよね。今は解散しちゃって、それぞれソロでやってるんですけど、そこまで音楽に詳しくないオレでも、「この人たち、スゲェ。カッケー」って感じたし、「これがプロだわ」と思ったから。そのあたりから音楽にもすごい入り込んでいったっすね。

-スノーボードの映像と音楽は切り離せないものだよね。
すごい縁があると思う。あと、アートも切り離せないものだと思ってて。スノーボーダーって絵を描くヤツ、多くないですか? 脳みそのデトックスができてないヤツが多いのかな?(笑)。ま、オレも描くんですけどね(苦笑)。オレが描きたいってなるのは、すごい不満やモヤモヤを発散したくなるときなんです。

-どんな絵を描くの?
感情的な絵ですね。めっちゃダークなのを描き上げて「最高」って言うときもあれば、すごくピースな絵を描いて「今のオレはこんな感じだったんだ」って言うときもある。占いみたいな感じですね。でも、「目の前のコーヒーカップを描いてください」って言われても描けないんですよ。めっちゃ下手で(苦笑)。自分の感情表現のツールというか、発散として描いているだけだから。

-その絵はいずれシグネチャーボードのデザインに?
いや、めちゃくちゃイカれてるから、それはちょっと(苦笑)。オレの絵ってサイケデリックっていうのかな? 四角と丸を規則的に組み合わせたり、あえて不規則に繋げたり……。人がパッと見たときに「怒ってる顔に見えない?」っていう作りにしたりとか、そのときの感情が出てる絵なんですよね。最近はあまり描かなくなったけど、3年くらい前かな? ヨウスケとダイスケとウィスラーに行ったときに、オレだけ滑らないで絵をずっと描いてましたから(笑)。

-すごい極端なんだね。
0か100っすね。

-以前、ヨウスケくんが「トシちゃんは、0か100しかない」って言ってた気がする。
オレ、50がないんですよね。今は0じゃないと思ったら朝イチでも100でバーンって攻めるから。100のときはめっちゃポジティブで、やったことがないことにも意欲的だし、新しいものが入ってくるのにウェルカム状態で何でもプラスな感じになれるんです。でも、0のときは無気力状態だし、全部をシャットダウンしてるから無みたいな感じなんですよね。

-ところで今シーズンはどんな動きをする予定?
昨シーズンの映像をまとめたオレのフルパートを出したじゃないですか。あれを超える自分のパートを作る予定です。

-FIGHT FOR LIBERTYのクルーで映像制作はしないの?
昨シーズン、みんなで撮影したんですけど映像が少なくて……。それに個人の動きが多くなってきたんですよね。だから無理に出すんじゃなくて、オレらの意思は消滅しないから、まずは焦らず自分たちのやりたいことをやろうって。一昨年かな?『CONTINEW』っていうムービーを作って試写会もやったんですけど、オレらのなかで全力全開だったし、ある程度の人たちは黙らせることができると思ってたのに、映像を観た人たちの反応を見たら、「まだ足りねーな」って感じたんです。じゃ、一度、クルーで動くのを止めて、個人それぞれがバーンって突き抜けてから、もう一回、FIGHT FOR LIBERTYっていうのを言ってやろうって。そのほうが人への伝わり方も違うだろうし、そのときの感性も変わってるから自分たちを上手く表現できるんじゃないかな、と。という意味で、今シーズンは活動休止って思わせようかなって。

-それぞれの個の力を伸ばすときなんだね。
そうっす。FIGHT FOR LIBERTYでは来シーズンあたりに映像を出す予定です。実は、昨シーズンの映像も重要なカットは世に出さないようにしてて。それらを来シーズンに持ち越して、とにかくGO BIGで、オレらの映像を観て、心が震えて感情的になるような作品を作ってやるつもりです。

パキっとしたグラブで空中遊泳したのは、北海道の大自然を眼下に眺めたかったから……かどうかは不明だが、雄大な自然に負けないスタイルは画になる
Photo: Tsutomu Nakata

CONNECT TO THE NEXT GENERATION

絶対に変わらないカッコよさを次の世代に繋げていきたい

-今までスノーボードをしてきて、よかったと思う瞬間はあった?
オレ、けっこうネガティブでバッドマインドになるときがあるんですよ。そのときはネガティブな感情を取り込みまくって、一度、歯を食いしばるんですよね。で、「ヤバい、やっぱり負けてられねー」と思ってから、今度はポジティブな感じになっていくんですけど、スノーボードをやってなかったら、そうやって気持ちを切り替えられてないんじゃないかなって。オレがもっと上の世界に行くのを待ってる人がいるとか、まだオレのスノーボードには先があるから希望を持って生きようとか……。そんなときは本当にスノーボードをしててよかったと思うっすね。

-将来的には、どんなスノーボーダーになりたい?
キッズがいい意味で夢見るような存在。もっとオレたちみたいなライダーが増えていってほしいと思いますね。

-それは頭が凝り固まっていないキッズが増えてほしいということ?
そうですね。でも、コンペでやっていくっていうのもひとつの道だし、わかりやすいじゃないですか。だからこそ、オレがもっと違う道もあるんだよっていうのを表現したい。もっと自由でいいんだっていう……。ただ、人よりも難しいけどねって。でも、自由にやり続けたら、絶対にあとから何かついてくるはずなんですよね。

-そういったモデルケースになりたいわけだ。
オレもそうだったし、みんな、それぞれのスーパーヒーロー、憧れの存在っているわけじゃないですか。そんな憧れの人のようになりたいと思って努力するわけで、その立場に自分が立ったら、今度は下の世代から憧れを抱かれる存在にならないと次に繋げられないと思うんですよね。

-上から下の世代に繋ぐって想いが強いんだね。
オールドスクールの人たちから受け継いだものって変わらないカッコよさがあると思うんです。だから、昔の映像やライダーを観ても今でもカッコいいって感じるはずで……。ただ、それってスゲェ意識して本気で作り上げたものだから消えないんだと思うんですよね。そのときの流行りとかに流されて物事を作っちゃうと、何かあればすぐになくなっちゃうから。それだと未来に繋がらない。でも、オレは絶対に折れない部分を次の世代には繋げていきたいんです。

-ムービーを毎年出さなきゃっていう作業的な動きを多くのプロダクションがしちゃったから、日本のムービーシーンは少し寂しい感じになったのかな?
そうかもしれないですね。マンネリ化っていうか……やってんですけど、いつも一定なことばかりだったじゃないですか。だから、「どこに向かえばいいんだ?」っていう感じになったのかな?とは思います。でも、オレらは終わりに向かっているんじゃなくて、未来に繋げるっていうのが目的だから。やり続ければ、どんどん広がっていくと思うんです。たとえオレらが仮にいなくなっても、繋げた下の世代がいれば大丈夫。連鎖反応が起きていくと思うから。

-スノーボードは何歳まで続けるの?
最前線のライダーはやめるときがくるだろうけど、上手くなり続ける、進化し続ける、変わり続けるっていう部分では、ずっとやっていきたいなって。ひとりの人間として取り組んでいきたいし、スノーボードは絶対にやめないと思う。

-では、最後の質問。山根俊樹にとってスノーボードとは?
唯一の解放の場であり、生きる意味を教えてくれたもの……ですかね。

-あれ? 以前のインタビューでは究極の遊びって言ってなかった?
もちろん、究極の遊びでもあるっす。ただ、もう少しシビアにとらえるようになったのかもしれない。「スノーボーダーとして何を表現できるの?」って考えると、停滞しない、進化し続ける、カッコよくあり続けるっていうのが、オレのできることなんじゃないかなって。だから今は究極の遊びっていうよりも、スノーボードをもっと突き詰めていくっていう想いのほうが強いんですよね。

フリーライディング=自由に滑ること。これがその答えだと言わんばかりに想像力をフル活用して駆け抜ける
Photo: Tom Gan-or

MY MESSAGE

何の見返りも求めずにただメッセージを伝えたい
-さっき最後の質問って言ったけど、まだ伝えきれていないことはある?
このインタビューの前日に言おうか言わないか迷っていることがあって。今、オレはBATALEONでインターナショナルのライダーをやってて、ダイスケもK2でどんどん上がって来てると思うんです。ダイスケとは本当に縁なのか、今回のFREERUNもオレのインタビューが掲載される号にダイスケも登場するじゃないですか。そこにヨウスケなんですよ。アイツ、LOBSTERに移籍したんですよね。だから、これからヤバくなるし、絶対に来ると思います。いや、来ます!LOBSTERのインターナショナルライダーってヤバいヤツらばかりで、そんな最強のメンツのなかにヨウスケがいずれ入るんですよ。

-いい感じで個がパワーアップしてるんだね。
ちょっと前までは「何だ、コイツら?」って存在だったかもしれない。でも、日本のトップまで上り詰めてきたら「コイツらが言ってるならアツいよな」ってなってきた。それでも、まだ足りない。今、オレらは個人で動いていて、今度は全員が世界に出た状態で再びFIGHT FOR LIBERTYって言ってやろうと思ってるんです。そしたら説得力が高まるなって。それにインターナショナルのステージでFIGHT FOR LIBERTYを表現できたら一気に変わると思うんです。実は、FIGHT FOR LIBERTYのメンツ全員を世界に連れて行こうって2年前に目標を立てたんですよね。オレが最初に行けば、みんなついて来るだろうと思って動いてました。オレらはここまで気持ちで来て、ここまで上手くなって、ここまで露出されるようになってきた。絶対に負けない、絶対に諦めないっていう気持ちは人間にとって大事なことだと思うんです。プロライダーになりたいと思ってるチビッコたち、これから衰退していくのかなって思ってる人たちに対しても、オレらは諦めなかったから、ここまで来られたんだっていうのを証明するから、「一緒にやって行こーぜ」って言いたい。そうしたら生きるパワー、生命力って上がると思うんですよね。

-いつ実現する予定の目標なの?
早くて3年後に完成っすね。オレ、2年後に完全体になるんですよ。山根俊樹・完全体に。そして、オレらのライディングも自己主張も、すべて世界基準で表現したい。それが夢だなと今は思ってます。

-2年前に壮大な5年計画を立てていたんだ。
根拠のない自信なんですけど、オレの感覚が言ってたんです。自分の未来を作っていくうえで、どれだけ上手くなって、どれだけ結果を残せば、どれだけ後からついてくるものがあるのかって。それが見えたからやってやろうと思ったんですよね。

-その感覚を信じてやり続けてきたから今に至ってるわけだよね。
そうっすね。ただ、ちょっとでも妥協したら、それは絶対に実現しなくなると思ってて。その分、キツイんですけど、ヤル気があればキツイことも楽しいし、目標を達成したときの「やってよかった」っていう景色を見たいんです。そのための努力や意識は忘れずに、貪欲にやり続けるっていうスタンスも怠れないですね。

-その成長の過程も見せていくのかな?
プロライダーって成長し続けるのを表現することも証なのかなと思っていて。「オレはプロ」って言ってもずっと一定だと飽きるじゃないですか。それってオレが一番キライなことなんですよね。だから、プロライダーは観ている人が飽きないように刺激を渡していくわけで……。それが停滞しちゃうっていうのは、オレのなかでライダーとして終わりなんですよね。

-これからのFIGHT FOR LIBERTYを楽しみにしてるよ。
はい。ただ、オレらは別に評価を求めているわけじゃないんです。YouTuberって再生回数やコメントを気にしながらやっていくわけじゃないですか。でも、オレらはそれを無視していくんですよ。なぜかと言ったら心の商売をしたいから。自分が儲かるっていうよりも、自分が相手に心の底から何を与えられるか、自分にしか与えられないものは何かっていうのを考えていて。邪心を持たずにFIGHT FOR LIBERTYっていうメッセージを人に伝えて、それをカッコいいと思ってもらいたい。だから、ビジネスは一切しないし、評価も気にしないでいようって。

-FIGHT FOR LIBERTYって、あくまでメッセージなわけだね。
じゃないと成り立たないっす。このメッセージは自分から勝手に与えているものだから、何かの見返りを求めて与えるもんじゃないんですよね。

今シーズン、今日もどこかで山根は気持ちよく、そしてスタイル全開で攻めている。いいフッテージを残すために!
Photo: Tsutomu Nakata
Photo: Tsutomu Nakata

山根俊樹 TOSHIKI YAMANE
1993年7月10生まれ。福岡県飯塚市出身。小学6年でスノーボードを初めて知り、中学生になるタイミングで長く取り組んでいた極真空手をやめてスノーボードに専念。その後、BIGAIR福岡(現在廃業)を滑り込みスキルを伸ばす。そこでスノーボード人生に大きな影響を与えるライダーの新原雄蔵、ショップのACHARMと繋がる。人並み外れた身体能力と集中力で、2年目のシーズンにはスポンサーを獲得。2013年にはTOYOTA BIG AIR史上、日本人最高位となる準優勝を果たす。現在はFIGHT FOR LIBERTYというメッセージを掲げて撮影活動に集中している。2016年からはBATALEONのインターナショナルライダーとしても活躍。2019年にはフルパート「TOSHIKI DEATH」を発表して話題を集めた。
スポンサー: BATALEON、SWITCHBACK、DAKINE、SALOMON、REVOLT、DVS 、ACHARM

Go My Way.
– T O S H I K I Y A M A N E  I N T E R V I E W – END.

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次回のインタビューは、ストリートシーンを活躍の場に選び、独特のスタイルで存在感を放つ。アーティストとしても活動の幅を広げつつある「34-MIYON」です。お楽しみに!